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恋わずらい

私、雪原小冬にはとある秘密がある。
学校の帰り、16時30分。
いつも駅前にあの人はいた。
毎日誰かを待っているのだろうか。
透き通るような金色の髪に、ぱっちりとしたアーモンド型の黒い瞳。それと長い睫毛に薄紅色の唇。
身長は結構高くて、金髪は襟足で短く揃えている。とても中性的で、不思議な雰囲気の人。
だけどその姿はどこか、寂しげで。
私は名前どころか、男の子か女の子なのかも分からないその人を、下校中にひそかに見る事が好きだった。今日も綺麗だな、と目の端で確認するだけで胸の奥がふわふわとした。
その日の朝は桜の花びらが舞い落ちて、あの人の肩に降り注いでいた。

恋い焦がれる、なんてほどに情熱的ではない。
ただ一度だけでも話せたらいいな、あわよくば友達にでも…と少し考えるだけだ。
だからよく晴れた日の放課後、いつものように16時30分。私は駅前をよく見渡す。
今日はあの人がいなくて残念だなと、落ち込みながら帰り道を歩いていく。
するとどこからか「これ、落としましたよ」と透明感のある声が聞こえた。
「ありがとうございます」
そう言って振り向くと、私がセーラー服のポケットに入れていた赤いハンカチをあの人が持っていた。
「かわいいハンカチだね」
微笑をたたえてそう言われれば、顔から全身にかけて一気に熱を帯びていく。
「じゃあ、さようなら」
もう、こんなチャンスはないかもしれない。
立ち去ろうとするその手を、思わず掴む。
「あの…お礼、させてください」
そして私は、咄嗟に近くにあった喫茶店を指差した。

「ボクは、ハルアキって言うんだ」
目の前に座ると人は、近くで見れば見るほど男性なの女性なのか分からないほど美しい。
細く長い指が、ボールペンで紙ナプキンに『春秋』と書いた。
「素敵な名前ですね。私は、雪原子冬…です。漢字はこう書きます。ええと、春秋さん…」
「ハルって呼んでほしいな。」
注文したモカマタリに口をつけ、春秋が笑った。
黒水晶のような瞳に見つめられて、辺りがとても眩い。
「これも何かの縁だし、友達になってくれる?」
夢のような展開に、私は思わず高鳴る鼓動を抑える。 
「もちろん、よろしくお願いします」
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