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その日は朝からどしゃ降りの雨が降っていた。
大粒の雨が降り注ぐ中、僕はいつものように駅への道を歩いた。
交差点では、下校中の中学生が大勢で道を塞いで信号を待っている。
だから僕は人が溢れる大通りを抜けて、小さな抜け道へと入った。
あまり人混みは好きではないし、ここを通った方が駅への近道になるからだ。
しばらくの間狭い道を歩いていると、電柱の影でひっそりと佇んでいる少女を見つけた。
僕は彼女を見た瞬間、強い違和感を覚えた。
道行く人が皆傘を差すほど雨が降っているのに、彼女は傘を差していない。
その鮮やかなピンク色のワンピースを濡らして、ぼんやりと空を見上げる姿に僕は思わず声をかけていた。
「あの、もし良かったら…どうぞ。」
鞄に入ったまま放っておいた折り畳み傘を差し出すと、少女は驚いたように目を見開いた。
「わざわざありがとう。でも、私には必要ないの」
凛とした声と花が咲いたような微笑みに思わず心が高鳴ったが、きっぱりと断られてしまえばそれまでだ。
それじゃあ僕の傘に入りませんか?だなんて、恥ずかしくてとてもじゃないけど言えやしない。
バイバイ。と手を振る少女の名前も聞けないまま、僕は拒まれた折り畳み傘を持て余して駅へと向かった。



それから一週間が経ち、僕は雨が降る中で傘も差さずに濡れていた少女の事なんてすっかり忘れていた。
再び彼女の事を思い出したのは、何となくあの抜け道を通った時だった。
確かこの辺りに彼女は居たはずだ。と電柱の影を覗くと、そこには鮮やかなピンク色の花が一輪、揺れていた。
その花びらは、あの日雨に濡れていたワンピースによく似た色をしていた。
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