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予行演習

私は一色美影。18歳の、平凡な女子高生。
いつものように早起きをして、誰もいない教室へと足を運ぶ。
いつもは大好きなミステリー小説を読むのだけれど、今日は違う。
普段だったら絶対に買わないような少女向けの雑誌を鞄から取り出してページを捲る。
そして『気になるあの人を誘っちゃおう!春デート特集!』大きく書かれた文字を、ゆっくりと読み進める。
私には好きな人がいる、けれどそれは叶わない恋だ。
「美影、おはよう」
その時、凛とした声が聞こえてきて私の胸はどきりと高鳴った。
その声の持ち主はふわふわとした茶髪を、サイドで緩くみつあみにまとめている少女だった。
彼女は相澤友香。私の中学からの、一番の友達だ。
「お、おはよ…友香」
明るく元気そうで、人懐っこい。けれど時々とても大人っぽい顔を見せる。そんな不思議な子だ。
「珍しいね、美影がこういうの読むのって」
友香が私の手から雑誌を取り、パラパラとページを捲っていく。
こういう雑誌はきっと、私より友香の方が詳しい。
「ふーん、もしかして…大木くんと行くの?」
彼女はデート特集のコラムを指差した。
「ち、違うよ!大木くんは委員会が同じなだけだし……」
変な勘違いをしている友香に慌てて訂正をする。
「でも、見てたってことは…誰か誘いたいってことでしょ?誰なのか、この友香お姉さんに教えてみなさいー!」
私より誕生日が遅いくせに、何故かお姉さんぶる彼女に背を向けて答える。
「さ、誘いたい人はいるけど…友香には秘密」
私がデートに誘いたい人、私が好きな人。
そんなの、口が裂けても言える訳がない。
だって、それは目の前にいる友香なんだから。
私が心の中でため息を吐いていると、
「…じゃあ、私とデートの予行演習しない?」
友香がいつものように軽い口調で言った。
「え?デ、デートって…」
思わず赤くなる顔を抑える。
「美影は誰か、誘いたい人がいるんでしょ?
だったらその時、失敗しないように私と予行演習しようよ」
彼女にとっては、ただの冗談かもしれない。
本当に、友達の私のことを心配してくれているのかもしれない。
それでも、予行演習だとしても好きな人にデートに誘われれば嬉しくて。
「うん、ありがとう。友香ならモテそうだし、参考になるね」
高鳴る鼓動を静めて、小さく深呼吸をする。
私は友香のことが好きだ。けれど、それは叶わない恋だろう。それならば、デートの予行演習だなんて一時の夢くらい、見てもいいのではないだろうか。
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