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予行演習

私は相澤友香、17歳。どこにでもいる普通の女子高生だ。今日もいつも通り早起きをして、学校へ向かう。
私が寝坊助なのに、いつも欠かさず早く登校をする理由は一つだけ。
「美影、おはよう」
教室の隅で雑誌を読んでいる、艶やかな黒髪を白いリボンでポニーテールに結んだ少女に声をかける。
「お、おはよ…友香」
彼女は一色美影、中学からの私の親友だ。
美影は毎日、誰よりも早く登校をして自分の席でミステリー小説を読んでいる。
沈着冷静でとても真面目に見えるのに、案外天然なところもある不思議で可愛い子。
そんな彼女がいつも読んでいる分厚いミステリー小説では無く、今日は少女向けのファッション雑誌を手にしているなんて。
「珍しいね、美影がこういうの読むのって」
そう言いながら、美影の読んでいた雑誌のコラムを見る。
そこには『気になるあの人を誘っちゃおう!春デート特集!』という見出しが書かれていた。
その瞬間、私は美影と最近仲の良い男子を思い浮かべて胸がちくりと痛んだ。
「ふーん、もしかして…大木くんと行くの?」
なるべく声が尖らないように、自然を心掛けて尋ねる。
すると、彼女は慌てた様子で首を振った。
「ち、違うよ!大木くんは…委員会が同じなだけだし……」
「でも、見てたってことは…誰か誘いたいってことでしょ?誰なのか、この友香お姉さんに教えてみなさいー!」
いつものように笑いながら、ふざけた調子で聞いてみる。
すると美影はぷい、とそっぽを向いて拗ねたように答えた。
「さ、誘いたい人はいるけど…友香には秘密」
心の中に、黒いもやもやが広がっていく。
知りたい、知りたくない。知りたくなんて、ない。彼女が誰を好きかなんて。
いずれ、美影は誰かと付き合うかもしれない。
それでも私は、きっと友人でしかいられない。
改めてそう実感すると、切なくて悲しくて。
だから、思わず口が滑った。
「…じゃあ、私とデートの予行演習しない?」
「え?デ、デートって…」
顔を赤く染める彼女に、冗談めかして提案する。
「美影は誰か、誘いたい人がいるんでしょ?
だったらその時、失敗しないように私と予行演習しようよ」
もし断られたら、本気にしたの?と冗談にしてしまえばいい。
こんな予防線を引かなければ私は、好きな人すらデートに誘うことすら出来ない。
美影は少し驚いたような表情を浮かべた後に、嬉しそうに微笑んだ。
「うん、ありがとう…友香はモテるし、参考になるね」
その笑顔を見て、少しだけ心がズキズキと痛んだ。
私はその痛みを隠して、雑誌に載っている水族館を指差して笑う。
「初めてのデートなら、こういうところがいいかもね」
私は彼女を傷つけたくない、親友という立場を失いたくないからこの想いを伝えられない。
だからせめて、あなたが他の人と行くデートの予行演習でいいから。少しだけ、夢をみさせて。
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