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向日葵の花束

8月3日。いつもは朝寝坊な僕だけれど、今日はぴったり6時に起きた。 
きちんと髭も剃って、新調した紺のスーツを着てピカピカに磨いた靴を履く。
大切な人に会いにいくんだから、みっともない格好はできない。
途中、駅前の小さな花屋に寄る。
「これ、何本か纏めてもらっていいですか?」
小ぶりの向日葵を数本、ラッピングしてもらった。
店員さんがピンク色のリボンをかけながら
「プレゼント用ですか?」と微笑んだ。
「はい…。大切な人に、渡したいんです。」

花束を抱えて電車に揺られながら、初めて彼女に向日葵の花束を渡したときのことを思い出す。
5年前の8月3日、二人の記念日にキラキラと光るネックレスと、大きな向日葵の花束を渡した。すると、彼女は「向日葵の花言葉は、あなただけを見つめるって言うんだよ」と嬉しそうに笑った。
少し恥ずかしかったけれど、それだけでふたりは幸せだった。


目的の駅で改札を出て、彼女の元へと向かう。
「おい、久しぶりだなぁ!」
そこで、誰かに声をかけられた。
「あぁ…久しぶり。」振り向くと、中学時代の友人がいた。
「懐かしいな。こっちに戻ってきたのか?」
「まあ、ちょっと用事があってね。」
他愛ない世間話を続けて、花束を指差しながら彼が聞いた。
「その花束、誰かに渡すのか?もしかして、彼女へのプレゼント?」
ニヤニヤと笑う顔に、思わずため息をつく。
「まあ、そんなところだよ。」
適当な返事をして、別れる。
「また今度、ゆっくり話そう」





彼女に会うために、僕は墓地へと足を運んだ。
愛しいその名前を呼んでも、もう返事はない。
溢れる涙を拭い、声をかける。
「久しぶり、こっちは元気だよ。」
ロウソクに火をつけて線香をあげた後、小ぶりな向日葵を墓に供えた。
「いつか僕もそっちに行くから、それまで待っていてね」
亡くなった恋人をいつまでも忘れることの出来ない僕を、夏の眩しい日差しと黄色い向日葵だけが見守っていた。
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