恋わずらい
その日は心地よい風が吹いていて、公園のベンチにハルと二人で座り他愛もない会話をしていた。
「ねえ、子冬は好きな人いるの?」
会話の途中で突然そう問いかけられて、私は驚きながら咳き込む。
「な、なんでそんなことを聞くの?」
尋ねる声が震えていく。これはまさか…いや、こんな少女漫画のような出来事、あるはずがない。
私がぎゅっと目を瞑っていると、ハルは淡々とした声で呟く。
「ボクはね、性別がないんだよ」
唐突な告白をされて、言葉を失う。
「性別が、ないって…なに?どういうこと?」
「言葉の通りだよ、性別がないんだ。男でも女でもない…だって、ボクは宇宙人だからね」
ハルは笑うでもなく、 至極当然という様に言った。
「だから、人を好きになるとかよくわからないんだ。痛みや悲しみも感じないし」
淡々と、どこか寂しげに紡がれる言葉は冗談には聞こえない。
「人を好きになるって、どういう感じなのかなって思って子冬に聞いてみたんだ」
頭の中が螺旋のようにぐるぐると廻る。
「私も、わからないよ。そういうの苦手だから」
目の前の美しい人は性別が無くて、更に自分は宇宙人だなんて本気で言っている。どうすればいいんだろう。
「…やっぱり、ボクが宇宙人だって信じてない?」
不安げな声に、意識が現実へと引き戻される。
「ううん、ハルがそういうなら…信じるよ。」
「ありがとう、子冬は優しいね」
夕焼けを背景に微笑むハルは綺麗だった。
ふわり、と綺麗な金髪が風で少しだけ揺れて、不意に目の前を恋が襲った。
ああ神様、どうしよう。どうやら私は己を性別がない、しかも宇宙人だと言い張る人に恋をしてしまった。
公園から駅までの帰り道、ハルは小さな花屋で一輪の真っ赤な薔薇を買った。
「誰かにプレゼント?」
綺麗な真紅の薔薇がよく似合うな、と思いながら尋ねると、ハルは唐突に私の手を引っ張った。
「ちょっと、どこにいくの?」
秘密だよ。と言われるがままついていくと、狭い路地裏に連れ込まれる。
「ボクが宇宙人だっていう証拠、見せてあげる」
にっこりと笑いながら、ハルは薔薇の棘で自分の人差し指を刺した。ぷつり、と鮮血が一筋流れる。
「…血が流れても痛くないんだよ、だって宇宙人だから」
笑っているのに、何故かその顔はとても痛々しく見えて。
「痛くなくても、宇宙人だとしても手当てはしないと駄目だよ」
私は慌てて学校指定の鞄から絆創膏を取りだし、白い指に巻いた。
「それに、ハルが怪我をするのは私が嫌だよ」
じっと瞳を見つめながら本心を口にすると、ハルは「…ボクは、痛くないのに?」と不思議そうに首を傾げた。
「うん、ハルはとても綺麗だし…怪我をしてほしくない」
そう言うと、くすくすと笑い声が聞こえた。
「…子冬って、変なの」
「綺麗って言われるの、嫌だった?ごめんね」
嫌な気分にさせてしまったかな、と直ぐに謝る。
するとハルは白い頬を赤く染めてくすくすと笑った。
「ううん、そうじゃないよ……でもなんか、さっきの言い方だと告白みたいだったからさ」
「そういうつもりじゃないよ!」
顔が赤くなるのを隠し、ハルの肩を小突く。
そして、嬉しそうに笑う横顔を見つつ思う。
先ほどまでの寂しげな表情が消え去っていて、良かったと。
路地裏から大通りに出て、不意に薔薇を渡された。
「これ、子冬にあげる。じゃあね」
私はラッピングどころか、リボンすらかかっていない赤い薔薇を受け取り、緩む頬を抑えた。
ハルのことが好きだ。ハルが男の子でも女の子でも、電波系でも宇宙人だとしても構わない、そう思った。
けれど、現実は私が思っていたよりもずっと深淵を覗いていて、それに気が付くのはそれからずっと後のことだった。
「ねえ、子冬は好きな人いるの?」
会話の途中で突然そう問いかけられて、私は驚きながら咳き込む。
「な、なんでそんなことを聞くの?」
尋ねる声が震えていく。これはまさか…いや、こんな少女漫画のような出来事、あるはずがない。
私がぎゅっと目を瞑っていると、ハルは淡々とした声で呟く。
「ボクはね、性別がないんだよ」
唐突な告白をされて、言葉を失う。
「性別が、ないって…なに?どういうこと?」
「言葉の通りだよ、性別がないんだ。男でも女でもない…だって、ボクは宇宙人だからね」
ハルは笑うでもなく、 至極当然という様に言った。
「だから、人を好きになるとかよくわからないんだ。痛みや悲しみも感じないし」
淡々と、どこか寂しげに紡がれる言葉は冗談には聞こえない。
「人を好きになるって、どういう感じなのかなって思って子冬に聞いてみたんだ」
頭の中が螺旋のようにぐるぐると廻る。
「私も、わからないよ。そういうの苦手だから」
目の前の美しい人は性別が無くて、更に自分は宇宙人だなんて本気で言っている。どうすればいいんだろう。
「…やっぱり、ボクが宇宙人だって信じてない?」
不安げな声に、意識が現実へと引き戻される。
「ううん、ハルがそういうなら…信じるよ。」
「ありがとう、子冬は優しいね」
夕焼けを背景に微笑むハルは綺麗だった。
ふわり、と綺麗な金髪が風で少しだけ揺れて、不意に目の前を恋が襲った。
ああ神様、どうしよう。どうやら私は己を性別がない、しかも宇宙人だと言い張る人に恋をしてしまった。
公園から駅までの帰り道、ハルは小さな花屋で一輪の真っ赤な薔薇を買った。
「誰かにプレゼント?」
綺麗な真紅の薔薇がよく似合うな、と思いながら尋ねると、ハルは唐突に私の手を引っ張った。
「ちょっと、どこにいくの?」
秘密だよ。と言われるがままついていくと、狭い路地裏に連れ込まれる。
「ボクが宇宙人だっていう証拠、見せてあげる」
にっこりと笑いながら、ハルは薔薇の棘で自分の人差し指を刺した。ぷつり、と鮮血が一筋流れる。
「…血が流れても痛くないんだよ、だって宇宙人だから」
笑っているのに、何故かその顔はとても痛々しく見えて。
「痛くなくても、宇宙人だとしても手当てはしないと駄目だよ」
私は慌てて学校指定の鞄から絆創膏を取りだし、白い指に巻いた。
「それに、ハルが怪我をするのは私が嫌だよ」
じっと瞳を見つめながら本心を口にすると、ハルは「…ボクは、痛くないのに?」と不思議そうに首を傾げた。
「うん、ハルはとても綺麗だし…怪我をしてほしくない」
そう言うと、くすくすと笑い声が聞こえた。
「…子冬って、変なの」
「綺麗って言われるの、嫌だった?ごめんね」
嫌な気分にさせてしまったかな、と直ぐに謝る。
するとハルは白い頬を赤く染めてくすくすと笑った。
「ううん、そうじゃないよ……でもなんか、さっきの言い方だと告白みたいだったからさ」
「そういうつもりじゃないよ!」
顔が赤くなるのを隠し、ハルの肩を小突く。
そして、嬉しそうに笑う横顔を見つつ思う。
先ほどまでの寂しげな表情が消え去っていて、良かったと。
路地裏から大通りに出て、不意に薔薇を渡された。
「これ、子冬にあげる。じゃあね」
私はラッピングどころか、リボンすらかかっていない赤い薔薇を受け取り、緩む頬を抑えた。
ハルのことが好きだ。ハルが男の子でも女の子でも、電波系でも宇宙人だとしても構わない、そう思った。
けれど、現実は私が思っていたよりもずっと深淵を覗いていて、それに気が付くのはそれからずっと後のことだった。