きのみきのまま(仮)
春休み。
悠々自適な学生生活を送る私は、昼までぐっすり寝て、夜はゲームをしながら寝落ちというだらけた日常を送っていた。
今日もいつも通り、深夜に寝っ転がりながらゲームのイベントを走り、そのまま寝落ち…しそうだったのだが。
運の悪いことに緩んだ手から顔面にスマホが落ちたうえに、それに驚きベッドからも落下した。
これは草生える、もはやダイソウゲンでは?…と自虐しながら、ベッドへ戻ろうと重いまぶたを開いたら──
──大草原。
笑ってるわけではない。
上下左右、床も壁も天井も幻のようにかき消えてオープンワールドだった。
さっきまで天井あったし真夜中だったはずが、天井はかき消えて太陽南中してるし床はフローリングがフローラルな天然の絨毯(草むら)になっている。
わぁ、おひさまの香り〜〜!
…で、ここどこ?
自分の部屋いつからこんな見晴らしのいい大草原になったの?天井も吹き抜けどころか完全に取り払って陽光が燦々と降り注ぎ、爽快だ。
あれ、今って夜だったはずだよね。私は日光を浴びるより目覚ましも兼ねてシャワーを浴びたい。…おや、あんなところにどこかで見たようなアポロなチョコ色の熊や、人間並みにでかい黒色の怪鳥が。キリンみたいなのもいるぞ…我が家はサバンナだった?
あまりの眠気と立て続けに起こる理解不能な事態に、私の頭はフリーズし……
「いやフリーズしてる暇ないわ」
寝るどころじゃないよ!?
どでかい怪鳥やらキリン…?やらがわらわらいるし、頭だけピンクの謎の生物(着ぐるみ?)なんか地面を抉りながら物凄い速度でランニングしてるし。……お?着ぐるみさんなんでこっちを向いたのかな?コッチミンナ??
こちとらスウェットに靴下・スマホという軽装備だぞ。着ぐるみさんは重機機関車並みの風格じゃないか!!
さっきの爆走ぶりを見てた身としてはこっちを見られてもヘビに睨まれたカエル。クマに睨まれたシャケ。恐怖しかないんですけど?
あっ、ちょっ、こっち来た!!ものすごい速さで来てるよ!なんだこのアポロチョコみたいな色合いしやがって、某ハグで人を鯖折りするクマの着ぐるみか?!
「……着ぐるみ、だよね?」
だんだん近づいて鮮明になってきたらなんとなく姿形も似て、いやもはや同じに思えてきてなおさら恐怖…!!森の中でもないのに遭遇しないで熊さん、ここ草原やで。そんな勢いで手を広げられても、ハグで人間鯖折りしちゃう系ポケットの中のフレンズにしか見えない。
「もしかして、キテルグマさんですかァーーッ!?」
返事は雄叫びだった。
それって、違うって意味の返事だよね。そうだろハムたろ、アーーーッ!!来てるこわい!近い!!!てか砂埃を巻き上げる勢いでこっちに来るそこそこ重量がありそうな生物(?)に追いつかれたら、もしかして:死…では?
「ぴっ、ぴぴぴピッピ人形!!…うん、そこら辺に転がってる訳ないよねチクショウ!!!」
昔のエライ人は、三十六計逃げるに如かず、といった。
要約すると面倒ごとから逃げろ、逃げるべき時は逃げろ、とにかく逃げろという意味だが…逃げれるのかコレ。
人間の脚力で爆走するキテルグマから逃げれるのか!!?!
結論。
人間には限界がある…
…けど逃げれましたぁ〜〜!!!!!
最高。声高々に全人類の皆さんに伝えたい。私は帰ってきた!(帰ってない)
逃げ始めてすぐに縄張り?から外れたみたいで、引き返していった時は飛んで、ホントに飛んで喜んだ。着地した時に足が痺れて、生を実感したね…ワタシ、イキテル……。
キテルグマが引き返しがてら寂しいのか道端の木にハグして粉砕してる時はゾッとした。跡一歩遅ければああなっていたのは私だ。
「そ、それにしても、よくできた夢だなぁ」
明晰夢っていうのかな、こういうの。
たぶんこの前プレイした剣盾の影響で、ポケモンが出てくる夢を見てるんだろうけど…リアルだったなぁ。風をきって走ってる感じも、息切れして苦しい感じも、やけに現実味があって……。
頰をつねる。
「痛い…」
アッ私知ってる、これって、支部でよく見るトリップものだァ!
…いや嘘つけお前。
そんなひょいひょいトリップなんぞあってたまるか。どうせ誰かが誘拐してきたとか、実は痛いと思い込んでいるプラセボ効果的なサムシングでしょ?地べたを靴下で駆け回ったせいか、ジクジク足が痛むのも思い込みでしょ?
それなら、思い込みなら、逆に痛くないと思い込めば痛くないはず。
ほーら痛くな、あイタッ…痛くない!!痛くないんだこれは!!
「いっ…たくない!!よし!ヘイS○ri!ここはどこ?」
とりあえず現在地を把握せねばと、スマホの電源をつけ、問いかけるが……。
「ンン?反抗期か??現在地は?オッケーGo○gle?」
返事がない、ただの屍のようだ。
まさか、まだ買って半年も経ってないのにスマホお陀仏した?故障の原因は私の石頭にぶつかったからですなんて店の人に言わなきゃいけない感じ?そんなこと言うの照れちゃうんだけど。
恐る恐る画面を覗き込むと、《インターネットに接続されていません》との文字が。マップアプリを開いても、位置情報がないと…
「まあ山とか行けばWi-Fi繋がんないよね!位置情報もわかるはずがないよ仕方ないさ!…ところでどこなんだここは!!」
突然私が叫んだことで驚いたのか、近くの草むらからなんか妙に大きなリスが飛び出て、あ。
「んぐっ」
…うるせえよ、と言わんばかりにリス体当たりされて背中を地面に打ち付け、視界に星が飛ぶ。
仰向けに横たわる私を、リスがつぶらな瞳で覗き込んだ。
ああ、空が青い。そして背中が痛い。
「チクショー、背中の傷は剣士の恥なんだぞ…私は剣士じゃないけど……」
リスがつぶらな瞳で近づいてくる。
怪我の跡か、ちょっと尻尾に丸く禿げてる部分があるが…たぶん、ホシガリスだ。
ん?なんだ、仲直りの握手でもする?恐る恐る手を伸ばして見るとホシガリスは私の手を舐め…
「ワッカワイイ…可愛いからゆるしちゃう…
ア゙ーーーーッ!!?」
私の手を噛んだ。
この痛み、現実なんでしょうか。
宿無し金なし意気地なしの修羅の地生活が始まる。
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「ほ、ほぉら、こここっこわ、こわくない…」
噛みつかれた自分の指を見つめ、震える声でリスに話しかける。
あと少しというところで口を開き始めたホシガリスにイヤな予感がした。咄嗟に手を引き戻す。
ガヂンッッ!!!
勢いよく合わせられた歯に、背筋が冷えた。
「怖いよ!!!!!!」
ワニワニパニックじゃねぇんだぞこの10円ハゲリス?!!??
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