DB夢短編・ネタ
名前
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拾ったからには墓場まで
《side:ターレス》
「おいガキ〜、いつものよろしく」
間延びした声と共に投げつけられた貨幣は、オレまで届くことなく泥水へボチャンと落ちた。
路地裏の湿った空気の中、酒と煙草の安っぽい臭いを撒き散らしながら、あいつは壁に背を預けて欠伸を噛み殺している。
運良く惑星ベジータの滅亡から生き残ったサイヤ人の戦士。
名前すらろくに名乗らないそいつは、オレにとって『便利な利用対象』であり、同時に『目の上のたんこぶ』だった。
「ターレスだって言ってんだろ。また酒か?……あんた、少しは自分で動けよ」
「そう言うなって……こちとら飲まないとやってらんねぇの。売り切れちまう前にさっさと適当な食いモンと追加の瓶、買ってきな」
拾い上げたカネの泥を拭い、舌打ちをして走り出す。
今だけだ。成り上がるために、あいつを利用するんだ。
戦闘の身のこなし、他星の言語、効率的な立ち回り。
全部盗んで、すぐに追い抜いてやる。
──買い出しから戻り、買ってきた袋を渡す。
あいつは酒を煽りながら、紙袋の中の果物を一口だけ齧り、「けっ、ボケてやがる!食えたもんじゃない」と袋ごとオレの方へと投げ捨てた。
「……買ってこいって言ったのはあんただろ」
「はぁ?何言ってんだ。こんなもん買ってきたお前が悪いんだよ、もっと見る目を養え……お前が買ったんだから、お前が食えよ」
ボケてるってなんだよ。果物ってボケるのか?
腐っているような匂いはしない。毒でも入っているのかと疑いながら一口噛みしめると、口いっぱいに広がる芳醇な甘みと果汁。
思わず目が丸くなったオレを見て、あいつは鼻で笑った。
「はっ、なんだその顔。……ふふ、お前のしみったれた生活を考えれば、うまい部類か?」
「ウマ、イ……これが?」
「まあそんなんでも、ここじゃそこそこ値打ちもんだしな。エネルギー補給のための食事とは違う、舌で味わう贅沢ってやつさ。下級戦士じゃこの先味わえるとも思えないから、今のうちに楽しんどけ〜」
それからだ。
あいつの気まぐれなパシリをこなすたび、オレの頭に余計な知識が叩き込まれていったのは。
◇◇◇
「なあ、なんでオレに色々教えるんだ」
一度だけ聞いたことがある。あいつは酒瓶を弄びながら、心底どうでもよさそうに答えた。
「あぁ?教えてなんかねぇよ、勝手にお前が真似してるだけだろ。まあ、毎回指示すんのも面倒だし、勝手に覚えてくれるから便利だよなお前」
そのくせ、翌日には「見る目がねぇな、これも覚えとけ」と別の話を始める。教えているつもりはない、と言いながら、あいつは飽きもせずオレに星の話や人の使い方を話した。
一月、また一月。
買い出しの回数を数えるのをやめる頃には、オレはもう、あいつの説教くさい話を聞かされることに何の疑問も持たなくなっていた。
数ヶ月後……いや、半年ほど経った頃だったか。
図体ばかりでかい野盗に絡まれ、オレが叩きのめされていた日があった。
「……ったく、無様なもん見せんなよ」
あいつは片手間に相手の喉笛を潰し、興味なさげに相手を蹴飛ばして、ゆっくりと底冷えするような視線をこちらに向ける。
「いいか、ガキ。お前はターレスなんだろ?潰れてんじゃねぇ。負けたっていいが惨めに死ぬな、負けで終わらせるな。勝て」
せっかく楽しく遊んでんだから最後まで突き通せよ、とあいつは言った。無様に潰れているのなんか見てられねぇ、と。
その日を境に、オレの動きは目に見えて変わっていった。
あいつは前にも増して効率的な立ち回り方を、面倒ごとを避ける言い回しを、星々の生態をオレに詰め込んだからだ。
それを日に何度も、何度も吹き飛ばされ、反論も意見も丸切り無視して叩き込まれた。
それから、しばらく経って。
「見ろよあの星。昨日砕いた衛星が輪みたいに光ってる」
崩壊した衛星の残骸が、夜空に淡い緑と紫の環を描いていた夜のことだ。
あいつは感慨もなさそうにぼんやりと、それでいてどこか惹きつけられるものでもあるのか、静かにその光を見上げていた。
「うつくしい、な……クソくだらねぇ」
温度のない、すべてを軽蔑しているような瞳。
いつだってそうだ。あいつはこっちを見ていない。
ああ。いつかその瞳に自分という存在を刻み込んでやりたいと、強く思った。
——だが、その機会は唐突に奪われる。
「どこで知った……!?」
軍の追手が迫る崩壊した基地で、あいつは血を吐きながらオレの胸倉を掴み、壁に叩きつけた。
「オ、レは、銀河パトロールがあんたを探してるって噂を聞いただけだ……!ほんとうに、あんたがフリーザ軍の情報を流してたのか!?」
「チッ、パトロールの野郎ヘマしやがったな……そうさ。フリーザ一家の情報を丸投げして今頃リゾート星でバカンスだったんだ。それがッ!」
あいつは苛立ちを抑えきれず、くそっ!と壁を殴る。砕けた破片が頬を掠めた。
そして、こちらへ視線を向け……ふと、動きが止まった。
ニヤリと、あいつの顔に笑みが浮かぶ。嫌な予感しかしない。
「あーいや、待てよ。悪くない手があるな──おいガキ……いや、ターレス。ちょっと買い出し行ってこい」
「……は?なにをいって、」
「お前すばしっこいしどうせ今は死なないんだからさ、走り回れば囮くらいにはなるんじゃないか?ほら、いつもの調子でチョロチョロ走っときゃいい」
いみがわからない。
話終わるや否や、笑みを浮かべたままのあいつに「そら行け!」と通りの向こう側へ放り投げられる。
「ふざ、けんな!!誰が……!!」
死に物狂いで走った。
散々街を駆け回って、転がるように物陰へ隠れる。息を殺して。
数秒後、地を揺らし耳をつんざくような大爆発。
あとから人伝に聞いた。
あいつは追手を巻き込んで自爆した、と。
オレを巻き込まないために、一人で死んだ——周囲はそう噂した。
反吐が出る美談だ。あいつがオレを囮呼ばわりしたことなんぞ、誰も知りやしない。
「……一人で逃げやがって」
残されたオレは、憐れむ周囲も何もかもを利用して一人で生き延びた。
あいつから盗んだ言葉、あいつから盗んだ戦術を使って軍団を率い、神精樹の果実を喰らい、力をつけて。
腹立たしいことに、いつのまにか『うまい』も『うつくしい』も、あのサイヤ人の影が消えない棘の如くオレの中に刻み込まれていた。
──X年後。地球。
神精樹を植え、焦土と化した荒野。煙が燻る瓦礫の陰で、オレは『それ』を見つけた。
カカロットとやり合い満身創痍のオレの視界の隅で、我関せずと酒を煽りながら高みの見物を決め込んでいる一人のサイヤ人。
死んだはずの、あの顔。
「……ハッ、笑わせるぜ」
生き延びていたのか。
オレを庇ったという噂すら利用して自分だけ雲隠れし、地球で自堕落に生きてやがったのか。
救いようのないクズが。
オレは気配を極限まで殺し、その背後に滑り込んだ。あいつの首筋に冷たい爪を立て、耳元でささやく。
「おいおい……育児放棄か?」
あいつの手から酒瓶が滑り落ちる。
振り返った顔には、初めて見る動揺した表情が浮かんでいた。
「ゲッ……!?なっ、お前生きてたのか?!」
「お陰様でな。それにしても、自分で買ったものは責任を持って面倒を見ろと教えたのは、あんただろ?散々金と手間かけて育てといて無一文で放り出すなんて、酷いじゃねぇか……ふふふ」
「あー、あー……そんなこと、言ったか?」
あいつは白々しく肩をすくめ、へらっと誤魔化し笑いを浮かべた。だがその目だけは以前と同じ、温度のないまま。
オレはますます喉元に伸ばした指へ力を込める。
「なあ……サイヤ人は子が親を殺す、って話聞いたことあるよな?」
「あ?そういや、んなことほざいてるやつもいたな。それがなんだ?お前親なんかとっくにいないだろ」
「──オレが今あんたを殺したらさ、あんたとオレは親子になるとおもうか?」
そう囁いた後に見たあいつの顔は、大層見ものだった。