DB夢短編・ネタ
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《戦闘力5のおじさんの姪と記憶喪失ラディッツ》
夕暮れの牧場に、乾いた干し草の匂いと、薪を割るリズミカルな音が響く。
大きく割れた丸太を器用に積み上げていくのは、屈強な巨体にチェックのシャツを着込んだ男——ラディッツだった。
どんな巡り合わせか。カランの一計でこの男が地球に来た時は出会わずに済ませられたというのに……出張販売に出かけた叔父が、命の恩人なのだと記憶を失ったラディッツを拾ってきたのだ。
叔父を殺すはずだった男は、なぜか地球の畜産農家の生活に妙な適性を見せ、今ではすっかり働き手の中心として定着している。
「……そろそろ休憩にしたら?お茶淹れたからさ」
カランが縁側に腰掛け、マグカップを差し出す。
彼が地球に来た目的を知っているカランは、この厄介な記憶喪失の男を警戒していたはずだった。
——だが、生真面目に働き、叔父や自身に気遣いを見せる男との数ヶ月に及ぶ共同生活は、その防壁を完全に溶かしてしまっていた。
「ああ、すまん……ちょうどキリがいいところだ」
汗を拭いながら歩いてきたラディッツが、大柄な体をかがめて隣に座る。
間近で見るその顔立ちは、記憶を失っていようとも野生味を感じる鋭さだ。だが、今はどこか穏やかだった。
すっかり絆されてしまった……それどころか、ふと見せるその表情に余計な感情まで抱きつつある。カランはトントンと自分の胸を高鳴らせる鼓動を鎮めようと、そっと息を吐く。
(なんなの本当……記憶が戻ったら、ただの危険人物に戻っちゃうかもしれないのに)
「どうした?カラン。顔が赤いぞ。熱か?」
「なっ、なんでもない!日に当たりすぎただけ!」
慌ててそっぽを向いたカランだったが、立ち上がろうとした拍子に足を踏み外した。
「っ!」
「危ない!」
ガタッと縁側が揺れ、カランは反射的に隣にいたラディッツの腕にしがみついた。
どすっ、と筋肉の壁にぶつかる。その瞬間、カランの柔らかい胸の感触がラディッツの腕と胸板にダイレクトに押し付けられた。
「……!」
時間が止まったかのような静寂。
カランは自分の顔が急に熱を帯びるのを感じ、そして今、自分が何に触れているのかを遅れて理解した。
——あつい胸板。そして、自分を抱き留めるように回されたラディッツの太い腕。
(ちょっ、まっ、これ体勢が……!?)
一方のラディッツも、脳天をハンマーで殴られたような衝撃を受けていた。
(やわ……っ!?な、何を考えているんだオレは!!)
耳たぶまで真っ赤に染まったラディッツは、石像のように固まったまま、全身から湯気を出しそうになっていた。
「なっ……なにやってるんだ、足元くらいしっかりしろ!」
「そっちが急に動くからでしょうが!! 放してよ、馬鹿っ!」
カランはトマトのように顔を真っ赤に染め上げると、ラディッツを力任せに突き飛ばし、そのまま自分の部屋へとダッシュで逃げ込んだ。バタンと乱暴に閉まる扉。
自室のベッドに飛び込んだカランは、枕に顔を埋めてじたばたともがいた。
「――ばかばかばか私のバカァ!!何やってるのよ! 意識しすぎでしょ!!ああもう消えたい……!!」
一方、縁側に一人残されたラディッツも、手の中に残る柔らかい感触と甘い香りの余韻に気恥ずかしさを覚えながら、手で顔を覆って天を仰いでいた。
「……くそ。居候先の娘相手に何やってるんだ、まったく」
呟いた声には、自分でも気づいていない、小さくない焦りと執着が滲んでいた。
だが、その平穏が、遠からず終わりを告げることも、彼らはまだ知らなかった。
_____
数週間後。
数々の試練……というかラッキースケベ的ハプニングを乗り越えたカランは、自分の心に燻る思いを受け入れつつあった。
(……記憶を失っていようが、元宇宙の侵略者だろうが、今のこの人は毎日真面目に仕事を手伝ってくれるし危ない時は助けてくれる。こんなの好印象を持たない方が難しいのよ)
一度好きを認めてしまえば、カランの行動は早い。悩む時間は終わった。これからは攻めるのみだ。ラディッツの記憶がない今が落とすチャンスである。
その日、作業を終えて納屋の干し草の上に並んで座る二人。
カランは決意を込めると、思い切ってラディッツの肩に自分の頭をコテンと預けた。
「っ……な、なにか用か、カラン」
「その、ちょっと疲れただけ……ねえ」
「なんだ?」
「あなたさ、見た目は若いのに、時々妙に大人びてて年齢不詳だよね。実際のところ、いくつなの?」
ふと気になって尋ねたカランに、ラディッツは少しだけ目を泳がせ、気まずそうに視線を逸らした。
……ラディッツは、記憶はないものの以前カランの年を聞いた時(……若いな)と感じだことを思い出した。つまり、ラディッツが思うに彼自身の年齢は見てくれより年を重ねているはずだ。
「よく覚えていないが、おまえが思っているよりはずっと上、だと思う」
「そっか……それで、えっと、恋愛対象というか好きになるとしたらさ。何歳くらいから……?」
一瞬、ラディッツはなにを言われたかわからなかった。
れんあい、たいしょう?恋愛?それってつまり── カランの真っ赤に染まった頬を見て、その質問の意図に気付いたラディッツもつられて赤くなる。
少しの間の沈黙を経て、ハッと我に帰ったラディッツはごほんと咳払いをし、慌てて真面目な顔を作った。
「その、なんだ。おまえはまだ若い」
自分でもなにを言いたいのかまとまらないままラディッツは言葉を羅列する。
「身近に同世代の男がいないからそういうのが気になるんだよな。オレは、その……おまえくらいだと妹分か、あるいは姪を可愛がるようなものだと思ってるが……多分、オレの話を聞くよりお前なら街にいるような歳の頃が合うようないい相手に聞いた方が参考になるんじゃないか?」
「……は?」
カランは預けていた頭をガバッと持ち上げ、信じられないものを見る目でラディッツを見つめた。
今、この男は何と言った?
妹分?姪を可愛がるようなもの?
(ちょっと待ってよ!私が必死に覚悟を決めて、アプローチしてるっていうのに、この筋肉バカは私を妹枠に放り込もうとしてるわけ!?)
「は、はあ!?誰が妹よ、誰が姪よ!私だってもう大人だし、自分で自分のことは決める!」
「おい、そういう意味じゃない!オレはただ、おまえの人生をだな……」
「うるさいっ!」
カランはカッと顔を真っ赤に染め上げると、ラディッツの説教を遮るようにその腕を両手でギュッと掴んだ。自分でも耳がちぎれんばかりに熱いのが分かる。けれど、ここで引いたら妹で確定してしまう。そんなの絶対に嫌だった。
「年がなによ!今のあんたは私の隣で牧場の仕事を手伝ってるラディッツでしょ!だいたい、もう成人してるんだからそんなに私を子ども扱いしないでよっ……!」
上気した瞳で真っ直ぐに睨みつけてくるカランの迫力に、ラディッツは完全に気圧されていた。
心臓がうるさいほどに跳ねている。
(ちっ、違う、そうじゃない……!おまえが眩しすぎるから、これ以上踏み込まれたら、オレの中の抑えが効かなくなるからだと言っているんだ……!)
ラディッツは自分の胸元を掴み、必死に理性のタガを維持しようと顔を引き締めた。
しかし、その耳たぶまで真っ赤に染まっているのを、カランは見逃さなかった。
(……もしかしてこの人、余裕がないのは私だけじゃなくて……いや、まさか)
それぞれの胸の内で、ブレーキとアクセルが激しく衝突し、熱を持った沈黙が二人の間に重く、そして甘く垂れ込めるのだった。
_____
数日前。ついにラディッツは、記憶を取り戻してしまった。
思い出してからは毎日のように実の弟である孫悟空に会いに行っているラディッツに、カランは置いて行かれたような気持ちでどこか足取りが重い。
昨日、見たのだ。
ラディッツが彼の弟である悟空やその仲間たちと談笑しているのを。楽しそうなその様子に、自身と話している時とは違った表情に、ふと気づいてしまった。
最近、ラディッツの笑顔を見た記憶がない。
カランといる時はいつも小難しい顔で、何かを堪えているような様子だった。
迷惑、なのかもしれない。ラディッツはいつか、本当の仲間たちと宇宙へ帰る男だ。そもそも恋愛対象じゃないと前に振られてるし。
自分みたいな異星人の、しかもリスキーな前世の記憶持ちなだけの女がなにを言おうと、邪魔でしかない。
本当に相手を想うなら、自分はどうすべきなのか──。
「……潮時かなぁ」
その日から、カランは露骨にラディッツを避けるようになった。
目を合わさず、食事の席でもそそくさと自室へ引っ込み、気分転換に休日には地元の友達と楽しそうに街へ出かけたりする。
田舎で同世代が少ないこともあって、そこに性別の偏りはない。
当然、ラディッツの精神状態は崩壊寸前だった。
「なあ兄ちゃん。なんかあったんか?」
畑のあぜ道で、修行の合間に水を飲んでいた悟空が、兄の異変に気づいて首を傾げた。
ラディッツは手にした農具を握り締め、歯噛みする。
「……っるさい。おまえには関係ない」
「オラ知ってるぞ。チワ喧嘩っちゅーヤツだろ?あの、カランってのと」
「っ!そ、そんなもんじゃない!!そもそもオレたちは別に付き合ったりしてないからな……!?」
ラディッツは、慌てて声を荒げた。
「あ、そうなんか!じゃあ、なんで色々口出ししてるんだ?フーフとかコイビトっちゅーもんでもねぇのに他の奴のそういうのに口出すのは、馬に蹴られるって聞いたぞ」
「オレはただ、あいつに悪い虫がつかないよう、その……兄のような、あるいは父親のような気持ちで──」
「んー?」
悟空はきょとんと目を丸くし、不思議そうに頭を掻いた。
「さっきも見たけど別に悪ィヤツには見えなかったけどなあ。トモダチって言ってたし楽しそうに笑ってたし、いいじゃねぇか!」
「……さっき?」
「祭りに一緒に行ってたらしいぞ!お裾分けに悟飯たちとって食いもんもらっちまった」
悟空の無邪気な一言は、ラディッツのプライドと理性のタガを木端微塵に粉砕した。
(──他の男と笑っていた?あいつが、オレ以外の奴の隣で……っ!)
その顔を見て、悟空が口を開く。
「やっぱし、それは親っちゅーよりはフーフとかに近いと思うぞ」
「……そうか。オレは少し用ができた」
低く、掠れた声で呟くと、ラディッツは持っていた農具を放り出し、風を巻き起こして走り去った。
◇
「大丈夫、1人で帰れるよ……って、えっ!?」
祭りからの帰り道。1人で夜道をゆくカランを心配する友人からの通信に、安心してと返すカランの腕を、突如として熱い手が掴んだ。
振り返る間もなく、引き寄せられるように体ごと路地に引きずり込まれる。
「ちょっと、急になんなのよ!離し……え、ラディッツ?」
「──頼むから、これ以上オレを狂わせるな」
聞こえてきたのは、絞り出すような、震えた声だった。
見上げたラディッツの顔は、これまでのどんな強敵を前にしたときよりも切実に、そして圧倒的に切なさに満ちていた。
「……なに、今更。やっと家族と会えたんでしょ。私はもう必要ないし、いない方があなたは気楽で──」
「気楽なものか!!」
大声にびっくりしてラディッツを見れば、ラディッツの鋭い視線に射抜かれる。
怒っている。カランは、なぜラディッツがこうも激情に駆られているのかわからなかった。
気まずさに視線を落とすと、ラディッツが気を落ち着かせるように長く息を吐いた。
そしてガツン、と。
目の前の壁に、ラディッツは額を思い切り打ちつけた。鈍い音が響き、カランは思わず息を呑む。
「ちょっ、何やってるの?!おでこ赤くなってるじゃない……!」
「頭を冷やしてるんだ……クソッ」
ラディッツは荒い息を吐き出しながら、自身の頭を両手でガシガシと掻きむしった。普段の冷静で皮肉屋な戦士の面影は微塵もない。そこには、恋に溺れ、嫉妬に狂い、限界を迎えた一人の男がいただけだった。
「おまえが他の男と笑っているところを見ただけで、目の前が真っ赤になって……自分の手でそいつを叩き潰してしまいたくなるっ……!」
「え」
「どうかしてやがる。オレはサイヤ人の戦士で、この星を、おまえを滅ぼす側だってのに!!」
たった1人に狂わされるんだ。
ラディッツは震える大きな手でカランの頬を包み、突き刺すような熱い眼差しで覗き込む。
「…… カラン。お前が、欲しい」
絞り出すように吐かれたそれは、一時は肉親も切り捨てようとした男が、たった一人の地球人に堕とされた、不器用で、どうしようもない独占欲に塗れた告白だった。
1/1ページ