雷鳴が轟く夜に
夢主の名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ぎゃあ!」
一国の姫の声にしては、品のない間の抜けた叫び声がこだまする。布団を被り、障子を抜けて、雷がゴロゴロと唸っては轟音と共に光を放つ。その度に、姫はあの間の抜けた大声をあげるのだった。
「高坂! なんとかしろ!」
布団を被り震える姫に呼ばれた男は、はあと小さくため息をついた。黒の着物と袴、頭巾を巻いた男は、二人を仕切る屏風に背を向けたまま姫へと声をかける。
「なんとかしろとおっしゃられましても……。自然のなす事です。どうにも出来ません」
至極真っ当に、当然の事実を突きつける高坂は屏風を背にして振り返ることもせず、返答する。
高坂は普段から護衛を任されている忍だった。城内では侍女が付くものの、先日も姫の命を狙われたことと、本来ついている侍女たちが風邪を引いたこともあり、彼は今夜ここで姫をお守りする、という忍務が課せられた。普段は凛々しく毅然とした態度の姫がこうも慌てふためき、間抜けな声を上げるとは、と多少感心していた。
そんなことを思われているとも知らぬ姫は、釈然としない様子で再び声を上げた。
「これでは、私の心の臓がもたぬ!」
「もたせてください。遠いですから、そんなに怖がらずとも大丈夫です」
宥めるように再び答える。それでも、怖がったままの姫は、雷の音が少しでも小さくなるように布団を被って耳を塞ぐ。
「うう、こんなときに限って侍女たちが風邪を引くとは……!」
そう恨めしそうにぶつぶつと呟いて、前触れもなくまた雷が鳴れば、震え上がり、うわああ! という声を上げる。
「姫、お静かになさってください。あなたがそんな状態では、あなたの侍女たちもおちおち休んでいられませんよ」
「そんなことわかっておるわ!」
姫が大声で言い返した瞬間、今度は雷鳴と激しい稲光。姫は、驚いて飛び上がり、勢いよく口を一文字に結ぶ。と、同時に、ガリッ。
「いっ……! こ、こおはかっ……! ひた、ひた、はんだ……」
舌を噛んでしまったのだ。
高坂は再び、ため息を吐く。姫の様子を見ようと立ち上がり、屏風から呆れた顔を出した。
「驚き過ぎです。騒ぐからこのようなことになるのです。ほら、見せてください」
高坂の物言いに、言い返せない姫は涙目のまま、恨めしそうに高坂を見る。舌の痛みを耐えるように、口を押さえていた両手を解いて、小さな舌を出す。
高坂は固まった。それは、なんだか、この城に仕える者が、男の自分が見てはいけないもののような気がしたからだ。自分を見上げる目は潤み、噛んで赤い舌が見える。油皿の火が、揺れて姫の顔を照らすほど、それは、目にしてはいけない。隠してやらねばならないもののように見える。
「……こおはか?」
姫の呼びかけに、高坂はハッとして、みるみる顔を赤く染めていく。口布で覆う顔からでもわかるほど、赤く染まる顔を見て、姫は不思議に思いながら見つめた。
わかっていない様子の姫の頬を高坂は両手で包む。舌を、ジッと見て切れていないことを確認する。
「……大丈夫です」
「ひた、きっははとおもっはわ」
「切れませんよ。はやく舌、しまってください」
高坂は深く息を吐く。自分の早まる鼓動を抑えるために、密かに繰り返し。不思議そうな姫と目が合えば、思わず顔を背ける。
姫が何かを言う前に、高坂は布団をかぶったままの姫を抱き上げて、布団に寝かせられる。
「こ、こうさか……?」
「はい」
低い声、少し掠れて耳を掠める。姫は少し身構える。バサ! 高坂はいきなり被っていた布団を引っぺがしたのだ。
「!」
姫はぎゅ、と目を瞑る。少し間が空いてふわりと、柔らかいものがかかる。恐る恐る目を開けるとすぐ目の前に高坂の端正な顔が見える。
「あなたが舌噛んでる間に雷、止みました。さ、寝てください」
ぽんと頭に置かれた手は少し震えていて、とても熱かった。
一国の姫の声にしては、品のない間の抜けた叫び声がこだまする。布団を被り、障子を抜けて、雷がゴロゴロと唸っては轟音と共に光を放つ。その度に、姫はあの間の抜けた大声をあげるのだった。
「高坂! なんとかしろ!」
布団を被り震える姫に呼ばれた男は、はあと小さくため息をついた。黒の着物と袴、頭巾を巻いた男は、二人を仕切る屏風に背を向けたまま姫へと声をかける。
「なんとかしろとおっしゃられましても……。自然のなす事です。どうにも出来ません」
至極真っ当に、当然の事実を突きつける高坂は屏風を背にして振り返ることもせず、返答する。
高坂は普段から護衛を任されている忍だった。城内では侍女が付くものの、先日も姫の命を狙われたことと、本来ついている侍女たちが風邪を引いたこともあり、彼は今夜ここで姫をお守りする、という忍務が課せられた。普段は凛々しく毅然とした態度の姫がこうも慌てふためき、間抜けな声を上げるとは、と多少感心していた。
そんなことを思われているとも知らぬ姫は、釈然としない様子で再び声を上げた。
「これでは、私の心の臓がもたぬ!」
「もたせてください。遠いですから、そんなに怖がらずとも大丈夫です」
宥めるように再び答える。それでも、怖がったままの姫は、雷の音が少しでも小さくなるように布団を被って耳を塞ぐ。
「うう、こんなときに限って侍女たちが風邪を引くとは……!」
そう恨めしそうにぶつぶつと呟いて、前触れもなくまた雷が鳴れば、震え上がり、うわああ! という声を上げる。
「姫、お静かになさってください。あなたがそんな状態では、あなたの侍女たちもおちおち休んでいられませんよ」
「そんなことわかっておるわ!」
姫が大声で言い返した瞬間、今度は雷鳴と激しい稲光。姫は、驚いて飛び上がり、勢いよく口を一文字に結ぶ。と、同時に、ガリッ。
「いっ……! こ、こおはかっ……! ひた、ひた、はんだ……」
舌を噛んでしまったのだ。
高坂は再び、ため息を吐く。姫の様子を見ようと立ち上がり、屏風から呆れた顔を出した。
「驚き過ぎです。騒ぐからこのようなことになるのです。ほら、見せてください」
高坂の物言いに、言い返せない姫は涙目のまま、恨めしそうに高坂を見る。舌の痛みを耐えるように、口を押さえていた両手を解いて、小さな舌を出す。
高坂は固まった。それは、なんだか、この城に仕える者が、男の自分が見てはいけないもののような気がしたからだ。自分を見上げる目は潤み、噛んで赤い舌が見える。油皿の火が、揺れて姫の顔を照らすほど、それは、目にしてはいけない。隠してやらねばならないもののように見える。
「……こおはか?」
姫の呼びかけに、高坂はハッとして、みるみる顔を赤く染めていく。口布で覆う顔からでもわかるほど、赤く染まる顔を見て、姫は不思議に思いながら見つめた。
わかっていない様子の姫の頬を高坂は両手で包む。舌を、ジッと見て切れていないことを確認する。
「……大丈夫です」
「ひた、きっははとおもっはわ」
「切れませんよ。はやく舌、しまってください」
高坂は深く息を吐く。自分の早まる鼓動を抑えるために、密かに繰り返し。不思議そうな姫と目が合えば、思わず顔を背ける。
姫が何かを言う前に、高坂は布団をかぶったままの姫を抱き上げて、布団に寝かせられる。
「こ、こうさか……?」
「はい」
低い声、少し掠れて耳を掠める。姫は少し身構える。バサ! 高坂はいきなり被っていた布団を引っぺがしたのだ。
「!」
姫はぎゅ、と目を瞑る。少し間が空いてふわりと、柔らかいものがかかる。恐る恐る目を開けるとすぐ目の前に高坂の端正な顔が見える。
「あなたが舌噛んでる間に雷、止みました。さ、寝てください」
ぽんと頭に置かれた手は少し震えていて、とても熱かった。
1/1ページ
