日日是好日
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日日是好日
「部屋が汚くて困ってる?」
「そうなんです!ぼく、汚い部屋を見ると止められなくて…。きり丸からほまれ先輩はハウスクリーニングのお仕事をしてたと聞いたので!あいつらの部屋、片付けるの手伝ってください!」
伊助ちゃんが下を向いて長屋の廊下で座っていた。なんだか思い悩んでいるようで放って置けず、声をかけたら先ほどの台詞だった。私は驚いたけど、真剣な伊助の顔を見たら頷かずにはいられなかった。
「うん、いいよ!一番誰の部屋がひどいの?」
「う…うーん…みんな…?あ、でも僕と庄ちゃんは掃除するから綺麗なんだけど、兵太夫と三治郎の部屋は汚いというか物が多くてカラクリばっかりで…。」
「そっか、他の部屋は?」
「乱太郎きり丸しんべヱの部屋はしんべヱのお菓子の食べカスで虫がいるし、きり丸の内職がめちゃくちゃいっぱいの時もあるし、団蔵と虎若は掃除しないし洗濯物も溜め込んでるし…喜三太と金吾の部屋はナメクジのエサがぐずぐずになってるし…!」
「あぁ、なわなわしてる…落ち着いて…」
「だってぇ!」
「いや気持ちはすごくわかる…。この前土井先生が、そろそろ長屋の点検しなきゃって言ってたし…。ちょうどいいから、綺麗にして先生に見てもらおうよ!ちゃんとやれます!って見せてあげたら喜ぶと思うよ?」
たしかに!と目をキラキラさせながら伊助は笑う。
「じゃあまず、庄左ヱ門に相談しにいきましょう!」
「そうだね!」
私と伊助は庄左ヱ門のいる二人の自室へ向かった。
「庄ちゃーん!」
「どうしたの?伊助。あ、ほまれ先輩も!
どうしたんですか?」
「それがね、かくかくしかじか」
「ほう、ほう、なるほど。」
伊助ちゃんが庄ちゃんに説明をしているのを横目に、お部屋を見る。ピカピカで整理整頓がよくされている。すごいなぁ、と感心しながら再び二人に視線を戻す。
「確かに、それはいいね!土井先生をびっくりさせよう!じゃあ早速、みんなを呼びに行こう!」
「おー!」
「伊助は喜三太のとこと兵太夫のとこ、ぼくは乱太郎たちと団蔵のところへ行くから。ほまれ先輩はちょっと待っていてください!」
「え、私も行こうか?」
「すぐですから!行こう、伊助!」
「うん!」
二人はそれぞれ呼び出しに向かう。私は一人、庄ちゃんと伊助ちゃんの部屋に残されなんだか居住いが悪くて早くみんなが来ないかなと待っていた。
「あれ、ほまれ先輩?」
「あら、彦ちゃん」
たまたま通りがかったのか、彦四郎に不意に声をかけられる。
「庄左ヱ門たちの部屋でどうしたんですか?」
「これから、は組のみんなでお掃除大会を開催するからそのお手伝い。綺麗にして、土井先生を驚かすんだ〜」
「あ〜…」
納得したように苦笑する彦四郎。
「彦ちゃんはお部屋、綺麗にしてる?」
「もちろんです!優秀ない組ですから!」
誇らしげに胸を張る。その姿が可愛らしくてくすくすと笑ってしまった。
「えらいね〜。」
「えへへ、それほどでも!じゃあ先輩、ぼく図書室でテスト勉強してきますね。失礼します。」
「いってらっしゃい、頑張ってね」
手を振ればぺこっと頭を下げる彦四郎を見送ってれば、次第には組のよいこたちが集まってきた。
「ほまれせんぱーい!」
「ねーちゃん!」
「こんにちはー!」
乱きりしんの三人がにこにこしながらやってきた。その後に団蔵、虎若、庄左ヱ門が続く。その後すぐに伊助が兵太夫、三治郎を連れてきて少し遅れて金吾と喜三太が来た。
みんな庄ちゃんのお部屋に入る。私も端っこでみんながお話している様を見守る。
「ぼく先輩のとなり〜」
そういうと三治郎が隣に陣取る。えへへ、とにっこり笑う三治郎と目が合い微笑み返す。反対側には既にきり丸が座っていた。
「いいなぁ、ぼくもほまれ先輩のおとなり座りたかったぁ。なめさんの紹介したかったなぁ」
「今なめさんの話するところじゃないだろ?もう!」
「でもぉ、ぼく委員会違うしなかなか会えないんだもん。なめさんたちも自己紹介したいって…。」
「じゃあまたあとでご挨拶させてもらってもいいかな?まずは庄ちゃんのお話聞こう?」
「ほんとうですか〜?えへへ、はーいっ!」
「ねーちゃん喜三太に甘い」
ぶすっとした顔をするきり丸を宥めるように頭を撫でる。少しは機嫌を取り戻したのか顔を綻ばすのを俯いて隠していた。うちの弟は本当にかわいい…。
「本題なんだけど、みんな最近……」
「庄左ヱ門が真剣な顔してる…!」
「なんかすごいことを言うんだ…!」
「ほまれ先輩が来てるくらいだし…!」
「掃除してる?」
あっけらかんと言う庄ちゃんと真剣な顔をする伊助ちゃん。どてーっと一斉に転ぶは組のよいこたち。私はこの一斉に転ぶのが苦手で間に合った試しがなかった。みんなころころ転がって可愛い。
「なんだよ、そうじかよ」
「なんだよじゃないだろ!」と伊助。庄ちゃんにまあまあと宥められている。
「土井先生がそろそろ長屋の点検をなさるということで、先に綺麗にして先生をびっくりさせよう!という作戦なんだけど」
「え〜おれたち掃除苦手〜」
「そうそう、なぜか片付かないんだよなぁ」
団蔵・虎若の若様コンビはそんなことを言っていると、鬼神の如くめっちゃ怖い顔した伊助ちゃんに睨まれて小さくなっていく。
「団蔵と虎若の部屋は僕がやるからな…」
「ひええ…」
「伊助ちゃん、抑えて抑えて…」
めらめらと炎が燃えるような幻が見える…。話を変えようと私も会話に参加する。
「じゃあ私はきりちゃんたちの部屋のお掃除しようかな?」
「じゃあ庄ちゃんは喜三太んとこね」
「伊助ちゃんたちのお部屋は見るからに平気だけど…三ちゃんたちはどう?お掃除できる?」
「え〜、先輩にお手伝いしてほしいなぁ。ねぇ、兵太夫?」
「うん、ぼくたちのカラクリも見てほしいし!」
「ねー!」
私欲は混じっているもののやってくれそうなので一安心する。
「じゃあ、三人の部屋片付けし終わったら、行こうかな。それまで、ちょっと二人で頑張っててね?」
「はーい!」
「え〜先輩、なめさんは?」
「片付け終わったらね?」
「はぁい」
喜三太は口を窄めてちょっと拗ねたように見せながらも返事をする。どうしても好きなものを見せてくれようとする喜三太に可愛らしさを感じいると庄左ヱ門がぱんぱんと手を打ち、それじゃあと声をかける。
「お掃除大作戦はじめー!」
「おー!」
*
乱きりしんの部屋は一見すると、綺麗だった。
「へえ〜綺麗にしてるねぇ!えらいね、三人とも!」
「いや〜実は…」
乱太郎が押入れを開けると中から大なり小なりいろいろなものが出てくる。内職の道具と製作物、お菓子、乱ちゃんが書き溜めた絵…。
「あら〜…いっぱいあるねぇ…。」
「えへへ」
「捨てられないし!」
「内職大事だし!」
「お菓子も大事!」
「そうだよねぇ…。大事なのはわかるけど…ちょっと押入れがはち切れんばかりに…。」
とにかく必要なものは押入れに、いらないものは廃棄用の箱に入れてもらう。
「…あ、なつかしい!これ、きり丸としんべヱを描いたんです!」
「わぁ、上手だね〜!」
「すごいよなぁ、乱太郎」
「本当上手だよねぇ〜」
他にも風景や人物画を描いていて、見せてもらう。すごく上手でどれも見入ってしまうほどだった。
「これがは組のみんなでー、あ!これは土井先生!」
「へぇ〜生き生きしてていい絵だね!」
「うんうん!」
「ほんと!そのまま書き写したみたい!」
「えへへ、それほどでも!」
ふと顔を上げると。
「乱太郎きり丸しんべヱ…ほまれ先輩まで…!真面目にやりなさーい!!!」
「やべ!伊助に見つかった!」
「あーん、ごめん伊助〜」
「ごめん〜」
「面目ないです…。ごめんね…」
「も〜早くしないと、日が暮れちゃいますよ!」
「はーい」
「じゃあ気を取り直して!がんばろー!」
「おー!」
今にもツノが生えそうな伊助ちゃんを背に、乱太郎の掛け声のもと気を取り直して片付けを再開する。伊助に怒られたことで暫く黙々と作業をする。
普段はチャンバラごっことかやるんだと楽しそうに話していたが、伊助の手前大人しく掃除をしていた。先程から団蔵と虎若の部屋から伊助ちゃんの声がこだまする。二人は大丈夫なのだろうか…。
「きり丸!」
「あれ、雷蔵先輩!」
ふと見ると出入り口には雷蔵先輩と鉢屋先輩がいた。鉢屋先輩はこちらにひらひらと手を振るのでしんべヱと乱太郎と共に振り返す。
「いつまで来ないから心配したよ。お前、今日図書委員の当番だよ」
「やべ!忘れてた!」
「部屋綺麗にして土井先生を驚かすんだって彦四郎から聞いたけど…本当に綺麗になってるね。一生懸命掃除してたみたいだし、今日のところは変わっておくから今度僕の当番の時はよろしくね」
雷蔵先輩は優しく笑いながら、きり丸の頭を撫でる。
「すんません、よろしくお願いします」
「ほまれは手伝いなの?」と、鉢屋先輩。
「はい、伊助ちゃんに頼まれて…。」
「そうか、私も手伝う?雷蔵が委員会に行くなら私もやることがないし、手が空く」
「あ、でももう終わるから大丈夫ですよ!ね、三人とも。……あ…いえ、やっぱり…申し訳ないんですけど団蔵と虎若の様子見てきてもらってもいいですか…?」
私が一瞬考えて動きを止めたことに何かを察したのか、先輩は眉間に皺を寄せる。
「なんか嫌な予感するんだけど…」
「あはは、大丈夫!です!私まだみんなのお部屋終わってないので…すみません…。」
「…わかったよ、自分で言い出したんだしな…行ってくる。」
はあ、とため息を吐きながらも団蔵たちの部屋へ行ってくれた。
*
「きれいになったー!」
わぁわぁ喜びの声をあげる、乱きりしん。
「ほんと!すっごく綺麗になったね!」
「はい!ほまれ先輩、お手伝いありがとうございます!」
「ありがとございますっ!」
「ねーちゃん、ありがと!」
「ちゃんとお礼が言えてえらいね!こちらこそ、お手伝いさせてくれてありがとうね。じゃあ私、三ちゃんと兵ちゃんのお部屋見に行って来るね!みんなも行く?」
ぶんぶん首を振る三人。
「じゃあ…団蔵たちの部屋は三郎先輩が行ってくれてるから、三人は喜三太たちのお部屋の片付けの様子見てお手伝いお願いね?」
「はーいっ!」
「わっかりましたー!」
「いこうぜー!」
三人は走って喜三太たちの部屋へ向かう。なんだかんだ、みんなでやってるからか楽しそうにしていてその笑顔に癒される。
「さ、私も三ちゃんと兵ちゃんとこ行かないと…」
二人の部屋まで移動する。部屋の戸は空いていて、中には誰もいなかった。
「三治郎、兵太夫ー?」
「ここでーす!」
「下です、下ー!」
ふと下を見るとぽっかりと落とし穴が開いてあり、二人はそこからこちらを見上げていた。
「先輩、そこの縄引いてください!」
「これ?っうわぁ?!」
部屋に一歩入り言われた通り縄を引くとスッと床が斜めになり滑り落ちる。
「あいたた…びっくりしたぁ…。」
「先輩大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫…」
あはは、と乾いた笑いを溢しながら顔をのぞいている兵太夫に言う。
「先輩!ぼくたちのカラクリ部屋へ」
「ようこそー!」
にこにこと嬉しそうな三治郎と得意げな顔をする兵太夫。その背後には大きな歯車やいろんな縄が垂れていたり、レバーがあったりと様々だった。
「わぁ、すごいね!二人で作ったの?」
「そうでーす!」
「その紐引いてみてください!」
たらりと垂れた赤い紐を指差される。それを素直に引けばくす玉が割れ、かわいい文字で「いらっしゃいませ」と書かれて紙吹雪が舞っていた。
「なになに、かわいいね!くす玉?」
「はいっ!」
「喜んでくれるかなぁって!」
「え、作ってくれたの?ありがとう!」
「「えへへ〜」」
「あの、因みにお掃除は…」
はたと動きを止める二人。
「あ、わすれてた」
「先輩が来るって言うから、カラクリでちょっとおもてなししようってくす玉作ってぇ…」
「お菓子が出てくる装置とかも作ってぇ…」
「あれぇ?」
「どうだっけ?」
「おもてなしはとっても嬉しいしそれに夢中になってしまうのはわかるけど、お掃除しようね?二人ともきれいにしてるから、すぐ終わるから今からやろう!」
「でもお菓子出てくるカラクリがぁ!」
「お掃除おわって落ち着いたら見せて?ほら、もうすぐランチの時間になっちゃうし!」
ね!と念を押せば、渋々お掃除をしてくれた。
本日は休みだから、午後はナメクジさんと自己紹介とからくり紹介で終わってしまいそうだなと思いながら、好きなものや得意なものを見せようとするいじらしさが可愛く思った。
*
カラクリ部屋の掃除が終わると虎若たちのところは伊助と先輩がいるから大丈夫かなと思い、よいこたちが中心になってる喜三太と金吾の部屋を見に行くことにした。
「わぁ〜ごめん、金吾〜!」
「も〜〜喜三太〜〜!!」
部屋の外まで響く喜三太の声と怒ってる金吾の声。庄左ヱ門は桶の水を変えに行っていていないようだった。入り口付近には乱太郎、きり丸、しんべヱがあわあわしながら見ている。
「どうしたの?金吾?」
「せんぱい!」
そこにはなめさんがお散歩したあととなめさんがくっついた刀があった。私の着物をギュッと握り訴えてくる。
「喜三太が僕の刀になめさんを!」
「あらら、これは…。喜三太、なめさん監督不行き届きだよ」
「はにゃ?」
「んーと、金吾の大事な刀はお散歩しちゃダメだよってなめさんたちに教えてあげないと。ね?刀は金吾の大切なものなんだから…。」
そう言いながら金吾の頭を撫で落ち着かせる。
「はぁい…ごめんね、金吾ぉ…」
「もう…気をつけてね…」
「仲直りできてえらいね!お掃除もあとは刀だけかな?」
二人の頭を撫でながら聞けば「そうです!」と返事が返ってきた。桶の水を変えてきたのか、庄ちゃんが戻ってきた。
「あれ?先輩?どうしたんです?」
「あ、庄ちゃん。今ね、喜三太と金吾が言い合いしててね…。でももうおさまったから大丈夫!」
「そうでしたか、お手数おかけしてすみません。」
「ううん!気にしないで。さぁ、あとは最後は虎若団蔵の部屋だね!」
「伊助、大丈夫かなぁ」
みんなが伊助の心配をしながら、一番問題の部屋を訪れる。
「伊助、団蔵、虎若〜?」
「あ!ほまれ先輩!見てください、部屋!」
「すっごくきれいになったんです!」
「俺たちやればできちゃうんだよなぁ」
「わ!?本当だ、すごい!三人ともさっすがだね〜!見違えたよ!」
三人は照れ照れしながら頭を掻く。和やかな雰囲気の中、廊下で寝転がっている三郎先輩はすっかり疲れ果てていた。
「あのぁ…先輩、お疲れ様です…」
「ほまれ…一番大変な部屋任せたろ…。やっぱ予感が当たった……。」
「いえ、滅相もございません」
「お前たちなんであんなに部屋が汚くなるんだ!」
「いやぁ…」
「えへへ…」
「褒めてねーよ」
「伊助ちゃん…お口が…」
「伊助があんなになるのもわかる…。伊助えらい…。」
「わかってくれますか、鉢屋先輩…!」
なんか通じ合ったみたいでひっしと抱擁を交わす二人。
「もうすっかりお昼の時間なっちゃったね…。土井先生に見せるのは午後にしようか?」
「そうですね…。お腹すいちゃいました…」
「伊助ちゃん張り切ってたもんね」
抱擁される伊助の頭を撫でると、照れたように笑う。すると、両方の手をぎゅっと掴まれる。団蔵と虎若だ。
「俺たちも頑張りました!」
「褒めてくださぁい!」
「ふふ、えらいえらい。二人ともやっぱりやればできるタイプだねぇ」
二人は嬉しそうに笑う。
そうこうしていると、みんなが団蔵たちの部屋へやってきた。
「すごい…」
「きれいになってる…!」
「あんなに鬱蒼としてたのに…!」
「部屋に入れる…!」
「部屋には入れただろ!」
「部屋に入るくらいはできただろ!」
「できてねえよ」
「あぁ、伊助…抑えて…」
伊助を抱きしめたままの三郎先輩がぽんぽん背中を撫でる。
「じゃあ、とりあえずごはん食べに行こうか!」
わぁっと声が上がり、みんなで食堂へ向かう。私は団蔵と虎若に手を繋がれたまま、三郎先輩は伊助ちゃんを解放して今はしんべヱに手を引かれている。オリエンテーリングで仲良くなったらしく、微笑ましくその後ろ姿を見ていた。
時間が少し遅くなってしまったからか、食堂はがらんとしていた。その風景を横目に、AランチとBランチのメニューを見ていた。ちょんちょんと肩に感触を感じる。
「なんですか、先輩」
「ほまれは私の隣な」
何を言い出すかと思えば。理由はよくわからないが、先日の忍務から鉢屋先輩的に距離が縮まったらしかった。何かと近くにいることが最近は増えていた。
「えー!」とよいこたちは声をあげる。
「先輩、ずるいです〜!」
「ぼくたちだってほまれ先輩にお話したい!」
「一緒にご飯食べたい!」
「みんな待って!鉢屋三郎先輩は時々僕らよりも子どもらしさを大切になさっている時があるから、今日は僕らが我慢しよう。さぁ、先輩どうぞ!」
びしぃっと手を綺麗に揃えて席を示す庄左ヱ門。
「庄ちゃん…そう言われるとちょっと座りにくい…」
「え?」
きょとんとする庄ちゃんが可愛らしくて少し笑ってしまう。
「ねーちゃん、こっち座ろ」
きり丸に手を引かれ端っこの端っこに私を座らせれば、隣にどっかり座る。若干不貞腐れているようにも見える。
「きり丸、やきもちだ…」
「やきもちだね…」
「え〜おもち?美味しそ〜っ」
「しんべヱ!しっ!」
「聞こえてるよ!」
は組のみんなは小さな声でいうも、おもちに反応してしまうしんべヱとそれを嗜める乱太郎。その会話をふんっと鼻を鳴らすきり丸。みんなはごめんごめんと口々にきり丸に謝って、仕方ねえなぁと言いながらため息をついていた。
「きりちゃん、ランチ取りに行こ?」
きり丸の頭を撫でると、こくりと頷く。手を握ってきり丸をランチのメニューを見る。
「お姉ちゃんは〜…お魚にしようかな」
「おれも」
「うん、おばちゃん、お魚のランチふたつー!」
食堂のおばちゃんに声をかけるとはーいと返事が返ってくる。しばらくすればランチを出してくれて、二人で再び席に着く。向かいには乱太郎としんべヱが座り、は組のみんなと先輩もランチを受け取ってそれぞれに席に着いた。誰が言ったか「いただきまーす!」という声とともに、みんながいただきまーす!と言って食べ始める。みんなで食べて、なんだかいつもより美味しく感じた。きり丸も次第に機嫌が直ったようで、乱太郎としんべヱとわいわいごはんを食べていた。
*
昼食のあと、土井先生を呼びに行く。みんなにはお部屋で待っていてもらっていた。土井先生と山田先生の前にくる。暇だというので、鉢屋先輩も一緒だ。
「失礼します。ほまれです。」
「入っていいぞー」
「失礼します。土井先生、今お時間大丈夫ですか?」
「ほまれ、…に三郎?珍しいな。どうした?」
「今日のお休みを使って、一年は組のみんながお部屋お掃除したから土井先生に褒めて欲しいって。」
「うそぉ?!すごいじゃないか!行く行く!」
土井先生は私の顔をびっくりした顔で見て、にこにこしながら立ち上がり率先して長屋に向かう。
長屋ではは組のみんながわいわいしながら先生の到着を待っていた。庄左ヱ門が先生に気づき、みんな!と声をかける。
「土井先生が来たぞ!」
「土井先生ー!見てください!綺麗にしたんですよ!」
「ほまれから聞いたよ、すごいじゃないか!お前たち!」
微笑ましい光景を少し離れて鉢屋先輩と見ていた。
「本当に今日ありがとうございました、先輩。みんな嬉しそうでよかった」
「どーいたしまして。お前も頑張ったな」
「ありがとうございます」
ぽんぽんと私の頭を鉢屋先輩が撫でる。は組のみんなは土井先生の手を引いて、その背中を押しながら自分の部屋へ順々に案内する。土井先生もそれを嬉しそうに受け入れて、褒めたり頭を撫でたりしていた。
暫くして全部の部屋を見回り終わったのか、ほくほく嬉しそうな、なんなら半泣きの土井先生がは組のよいこたちを引き連れこちらへ来た。
「二人とも、ありがとう。こんなに綺麗になってるなんて、入学して以来…うっ…」
「お前たち…先生泣かすなよ…」
えへへぇと苦笑いをするよいこたち。
「三郎、ありがとう…。休みなのに、よいこたちの部屋片付けで潰れちゃって悪かったね。」
そう言いながら私と鉢屋先輩の頭をぽんぽんと撫でる。私は度々頭を撫でてもらうことがあったから嬉しいなと笑っていたが、鉢屋先輩はすこし頬が赤くなっていた。照れてる。
「いえ、みんな喜んでくれてよかったです。ね、先輩?」
「あぁ…」
「あー!鉢屋先輩が照れてる!」
「うるさい!」
よいこたちも先生もみんなけらけら笑っていた。
*
「先輩真っ赤でしたね」
「真っ赤ではないだろ」
じとっとした目で私を見る。そうは言っているがまだちょっと頬に赤みが残っている。私と三郎先輩はは組のよいこ達と別れて廊下を歩いていた。
「土井先生あんな喜ぶなんてな」
「本当ですね。なんか片付けしながら、先生の家に初めて行った日を思い出しちゃいました。男性の一人暮らしだからか、もう部屋汚くて…」
「休みは土井先生のお宅にお世話になっているんだっけ?」
「はい、きりちゃんと二人でお世話になっていて…。」
初めて土井先生のお家に行ったのは、夏休みの時だった。面識はあるものの、くのいち教室の私は土井先生はきり丸の担任の先生だという認識くらいだった。
私たちに帰る場所はなかったから、さぁどうしようと悩みながら校門まで行くときり丸と土井先生、そして乱太郎としんべヱの二人がが待っていてくれた。
「あれ、えと、土井先生?」
「ほまれ、一緒に帰ろう」
「へ?」
帰り道、よいこの三人はいろいろ話しながら歩いていた。私は土井先生の隣に並んで土井先生を見上げた。
「土井先生…本当にいいんですか?私まで…。」
「いいんだよ。きり丸とお前は姉弟なんだから、一緒の方がいいだろうし。あ、でも…女の子だから私は男だし…抵抗あるよな…。嫌だったか?」
心配そうに顔を覗き込む土井先生。その姿に、きり丸から聞いていたけど私まで気にかけてくれるなんていい先生だなと思った。
「あ、いえ…。雨風凌げれば、くらいに考えていたから…。むしろ有難い限りです。本当にありがとうございます。」
先生は安心したように肩を楽にした。
「あの、生活費とかあとで請求してください。それに、なんでもやりますので…」
「え?いや、いいよ。気にするな。」
そう言って頭を何度か優しく撫でた。この頃、私は頭を撫でられることがほとんどなかったから、驚いてしまった。なんだか顔が熱い。
先生の家に着くと、まぁ荒れ放題だった。汚れた着物、食べてそのままの食器。本は積み重なって布団は万年床。帰る途中、片付けのアルバイトを、と言っていたのは多分本心からなんだろうと私もきり丸も思った。
きり丸が借りは作りたくないと炊事洗濯は私たちの仕事になった。役割があるのは良かった。迷わないし、動き方がわかるから。その日はまず、掃除をした。ゴミをまとめ洗濯物を桶にまとめる。学校に行って家に帰ったら、面倒になってしまうのかなぁと思いながら本と紙類をまとめて立ち上がる。足元がよく見えていなくて紙に足を取られよろけて私は転ぶと壁に当たってしまい、ガタンと音を立てて吊り棚に置いてあった巻物が落ちてきた。体が強張り動けず、ぎゅっと目を瞑った。
……?あれ、痛くない…?
「いたた…、ほまれ大丈夫か?」
「ねーちゃん、土井先生!大丈夫?!」
先生が覆い被さってくれていた。背中を摩りながら先生が起き上がると手を差し伸べてくれる。
「痛いところない?」
「は、はい…。先生、ごめんなさい…大丈夫ですか?」
「え?あぁ、どうってことないよ。元はと言えば部屋が汚い私のせいだし…。」
苦笑いをしながら頭を掻く先生。きり丸も心配そうに私を見ていた。安心させようと頭を撫でる。
「お前に怪我がなくてよかった」
今思えばあの時に土井先生に気を許すようになったと思う。あんな些細なことで咄嗟に動いてくれるなんて、信用に足る人だろうと。あたたかい人柄も広い背中も大きい手も、今までは疑うばかりだった。まだ忍術も覚えていないときはそれ以降だって、それらは安心材料ではなく単純に脅威的に思っていたから。子どもでは…女では敵わない力があり、対象に優しさで漬け込めば、それは金に変わる。でも、なんだか先生は違う気がしたのはあの時の出来事ときり丸が土井先生を信頼しているように見えたから。
「ほまれ?」
「あ、ごめんなさい。思い出に浸ってしまいました…。」
「そのようだね。にやけちゃって」
「にやけてないです!」
「またぁ」
くすくすと笑いながら、意地悪な顔をする。もう、と息を吐くと悪かったと先輩は笑った。
「…あ!私このあと喜三太のなめさんにあって、からくり見せてもらうんでした!戻らないと!」
「まだ予定あるのか、忙しいなお前は…。は組のお姉ちゃんだな、もう」
「あはは、あながち間違いではないですね…。それでは先輩!今日はありがとうございました!」
「おう、行ってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
ニッと笑いながら先輩に手を振り、私はまたあの子たちの元へ急いだ。
「部屋が汚くて困ってる?」
「そうなんです!ぼく、汚い部屋を見ると止められなくて…。きり丸からほまれ先輩はハウスクリーニングのお仕事をしてたと聞いたので!あいつらの部屋、片付けるの手伝ってください!」
伊助ちゃんが下を向いて長屋の廊下で座っていた。なんだか思い悩んでいるようで放って置けず、声をかけたら先ほどの台詞だった。私は驚いたけど、真剣な伊助の顔を見たら頷かずにはいられなかった。
「うん、いいよ!一番誰の部屋がひどいの?」
「う…うーん…みんな…?あ、でも僕と庄ちゃんは掃除するから綺麗なんだけど、兵太夫と三治郎の部屋は汚いというか物が多くてカラクリばっかりで…。」
「そっか、他の部屋は?」
「乱太郎きり丸しんべヱの部屋はしんべヱのお菓子の食べカスで虫がいるし、きり丸の内職がめちゃくちゃいっぱいの時もあるし、団蔵と虎若は掃除しないし洗濯物も溜め込んでるし…喜三太と金吾の部屋はナメクジのエサがぐずぐずになってるし…!」
「あぁ、なわなわしてる…落ち着いて…」
「だってぇ!」
「いや気持ちはすごくわかる…。この前土井先生が、そろそろ長屋の点検しなきゃって言ってたし…。ちょうどいいから、綺麗にして先生に見てもらおうよ!ちゃんとやれます!って見せてあげたら喜ぶと思うよ?」
たしかに!と目をキラキラさせながら伊助は笑う。
「じゃあまず、庄左ヱ門に相談しにいきましょう!」
「そうだね!」
私と伊助は庄左ヱ門のいる二人の自室へ向かった。
「庄ちゃーん!」
「どうしたの?伊助。あ、ほまれ先輩も!
どうしたんですか?」
「それがね、かくかくしかじか」
「ほう、ほう、なるほど。」
伊助ちゃんが庄ちゃんに説明をしているのを横目に、お部屋を見る。ピカピカで整理整頓がよくされている。すごいなぁ、と感心しながら再び二人に視線を戻す。
「確かに、それはいいね!土井先生をびっくりさせよう!じゃあ早速、みんなを呼びに行こう!」
「おー!」
「伊助は喜三太のとこと兵太夫のとこ、ぼくは乱太郎たちと団蔵のところへ行くから。ほまれ先輩はちょっと待っていてください!」
「え、私も行こうか?」
「すぐですから!行こう、伊助!」
「うん!」
二人はそれぞれ呼び出しに向かう。私は一人、庄ちゃんと伊助ちゃんの部屋に残されなんだか居住いが悪くて早くみんなが来ないかなと待っていた。
「あれ、ほまれ先輩?」
「あら、彦ちゃん」
たまたま通りがかったのか、彦四郎に不意に声をかけられる。
「庄左ヱ門たちの部屋でどうしたんですか?」
「これから、は組のみんなでお掃除大会を開催するからそのお手伝い。綺麗にして、土井先生を驚かすんだ〜」
「あ〜…」
納得したように苦笑する彦四郎。
「彦ちゃんはお部屋、綺麗にしてる?」
「もちろんです!優秀ない組ですから!」
誇らしげに胸を張る。その姿が可愛らしくてくすくすと笑ってしまった。
「えらいね〜。」
「えへへ、それほどでも!じゃあ先輩、ぼく図書室でテスト勉強してきますね。失礼します。」
「いってらっしゃい、頑張ってね」
手を振ればぺこっと頭を下げる彦四郎を見送ってれば、次第には組のよいこたちが集まってきた。
「ほまれせんぱーい!」
「ねーちゃん!」
「こんにちはー!」
乱きりしんの三人がにこにこしながらやってきた。その後に団蔵、虎若、庄左ヱ門が続く。その後すぐに伊助が兵太夫、三治郎を連れてきて少し遅れて金吾と喜三太が来た。
みんな庄ちゃんのお部屋に入る。私も端っこでみんながお話している様を見守る。
「ぼく先輩のとなり〜」
そういうと三治郎が隣に陣取る。えへへ、とにっこり笑う三治郎と目が合い微笑み返す。反対側には既にきり丸が座っていた。
「いいなぁ、ぼくもほまれ先輩のおとなり座りたかったぁ。なめさんの紹介したかったなぁ」
「今なめさんの話するところじゃないだろ?もう!」
「でもぉ、ぼく委員会違うしなかなか会えないんだもん。なめさんたちも自己紹介したいって…。」
「じゃあまたあとでご挨拶させてもらってもいいかな?まずは庄ちゃんのお話聞こう?」
「ほんとうですか〜?えへへ、はーいっ!」
「ねーちゃん喜三太に甘い」
ぶすっとした顔をするきり丸を宥めるように頭を撫でる。少しは機嫌を取り戻したのか顔を綻ばすのを俯いて隠していた。うちの弟は本当にかわいい…。
「本題なんだけど、みんな最近……」
「庄左ヱ門が真剣な顔してる…!」
「なんかすごいことを言うんだ…!」
「ほまれ先輩が来てるくらいだし…!」
「掃除してる?」
あっけらかんと言う庄ちゃんと真剣な顔をする伊助ちゃん。どてーっと一斉に転ぶは組のよいこたち。私はこの一斉に転ぶのが苦手で間に合った試しがなかった。みんなころころ転がって可愛い。
「なんだよ、そうじかよ」
「なんだよじゃないだろ!」と伊助。庄ちゃんにまあまあと宥められている。
「土井先生がそろそろ長屋の点検をなさるということで、先に綺麗にして先生をびっくりさせよう!という作戦なんだけど」
「え〜おれたち掃除苦手〜」
「そうそう、なぜか片付かないんだよなぁ」
団蔵・虎若の若様コンビはそんなことを言っていると、鬼神の如くめっちゃ怖い顔した伊助ちゃんに睨まれて小さくなっていく。
「団蔵と虎若の部屋は僕がやるからな…」
「ひええ…」
「伊助ちゃん、抑えて抑えて…」
めらめらと炎が燃えるような幻が見える…。話を変えようと私も会話に参加する。
「じゃあ私はきりちゃんたちの部屋のお掃除しようかな?」
「じゃあ庄ちゃんは喜三太んとこね」
「伊助ちゃんたちのお部屋は見るからに平気だけど…三ちゃんたちはどう?お掃除できる?」
「え〜、先輩にお手伝いしてほしいなぁ。ねぇ、兵太夫?」
「うん、ぼくたちのカラクリも見てほしいし!」
「ねー!」
私欲は混じっているもののやってくれそうなので一安心する。
「じゃあ、三人の部屋片付けし終わったら、行こうかな。それまで、ちょっと二人で頑張っててね?」
「はーい!」
「え〜先輩、なめさんは?」
「片付け終わったらね?」
「はぁい」
喜三太は口を窄めてちょっと拗ねたように見せながらも返事をする。どうしても好きなものを見せてくれようとする喜三太に可愛らしさを感じいると庄左ヱ門がぱんぱんと手を打ち、それじゃあと声をかける。
「お掃除大作戦はじめー!」
「おー!」
*
乱きりしんの部屋は一見すると、綺麗だった。
「へえ〜綺麗にしてるねぇ!えらいね、三人とも!」
「いや〜実は…」
乱太郎が押入れを開けると中から大なり小なりいろいろなものが出てくる。内職の道具と製作物、お菓子、乱ちゃんが書き溜めた絵…。
「あら〜…いっぱいあるねぇ…。」
「えへへ」
「捨てられないし!」
「内職大事だし!」
「お菓子も大事!」
「そうだよねぇ…。大事なのはわかるけど…ちょっと押入れがはち切れんばかりに…。」
とにかく必要なものは押入れに、いらないものは廃棄用の箱に入れてもらう。
「…あ、なつかしい!これ、きり丸としんべヱを描いたんです!」
「わぁ、上手だね〜!」
「すごいよなぁ、乱太郎」
「本当上手だよねぇ〜」
他にも風景や人物画を描いていて、見せてもらう。すごく上手でどれも見入ってしまうほどだった。
「これがは組のみんなでー、あ!これは土井先生!」
「へぇ〜生き生きしてていい絵だね!」
「うんうん!」
「ほんと!そのまま書き写したみたい!」
「えへへ、それほどでも!」
ふと顔を上げると。
「乱太郎きり丸しんべヱ…ほまれ先輩まで…!真面目にやりなさーい!!!」
「やべ!伊助に見つかった!」
「あーん、ごめん伊助〜」
「ごめん〜」
「面目ないです…。ごめんね…」
「も〜早くしないと、日が暮れちゃいますよ!」
「はーい」
「じゃあ気を取り直して!がんばろー!」
「おー!」
今にもツノが生えそうな伊助ちゃんを背に、乱太郎の掛け声のもと気を取り直して片付けを再開する。伊助に怒られたことで暫く黙々と作業をする。
普段はチャンバラごっことかやるんだと楽しそうに話していたが、伊助の手前大人しく掃除をしていた。先程から団蔵と虎若の部屋から伊助ちゃんの声がこだまする。二人は大丈夫なのだろうか…。
「きり丸!」
「あれ、雷蔵先輩!」
ふと見ると出入り口には雷蔵先輩と鉢屋先輩がいた。鉢屋先輩はこちらにひらひらと手を振るのでしんべヱと乱太郎と共に振り返す。
「いつまで来ないから心配したよ。お前、今日図書委員の当番だよ」
「やべ!忘れてた!」
「部屋綺麗にして土井先生を驚かすんだって彦四郎から聞いたけど…本当に綺麗になってるね。一生懸命掃除してたみたいだし、今日のところは変わっておくから今度僕の当番の時はよろしくね」
雷蔵先輩は優しく笑いながら、きり丸の頭を撫でる。
「すんません、よろしくお願いします」
「ほまれは手伝いなの?」と、鉢屋先輩。
「はい、伊助ちゃんに頼まれて…。」
「そうか、私も手伝う?雷蔵が委員会に行くなら私もやることがないし、手が空く」
「あ、でももう終わるから大丈夫ですよ!ね、三人とも。……あ…いえ、やっぱり…申し訳ないんですけど団蔵と虎若の様子見てきてもらってもいいですか…?」
私が一瞬考えて動きを止めたことに何かを察したのか、先輩は眉間に皺を寄せる。
「なんか嫌な予感するんだけど…」
「あはは、大丈夫!です!私まだみんなのお部屋終わってないので…すみません…。」
「…わかったよ、自分で言い出したんだしな…行ってくる。」
はあ、とため息を吐きながらも団蔵たちの部屋へ行ってくれた。
*
「きれいになったー!」
わぁわぁ喜びの声をあげる、乱きりしん。
「ほんと!すっごく綺麗になったね!」
「はい!ほまれ先輩、お手伝いありがとうございます!」
「ありがとございますっ!」
「ねーちゃん、ありがと!」
「ちゃんとお礼が言えてえらいね!こちらこそ、お手伝いさせてくれてありがとうね。じゃあ私、三ちゃんと兵ちゃんのお部屋見に行って来るね!みんなも行く?」
ぶんぶん首を振る三人。
「じゃあ…団蔵たちの部屋は三郎先輩が行ってくれてるから、三人は喜三太たちのお部屋の片付けの様子見てお手伝いお願いね?」
「はーいっ!」
「わっかりましたー!」
「いこうぜー!」
三人は走って喜三太たちの部屋へ向かう。なんだかんだ、みんなでやってるからか楽しそうにしていてその笑顔に癒される。
「さ、私も三ちゃんと兵ちゃんとこ行かないと…」
二人の部屋まで移動する。部屋の戸は空いていて、中には誰もいなかった。
「三治郎、兵太夫ー?」
「ここでーす!」
「下です、下ー!」
ふと下を見るとぽっかりと落とし穴が開いてあり、二人はそこからこちらを見上げていた。
「先輩、そこの縄引いてください!」
「これ?っうわぁ?!」
部屋に一歩入り言われた通り縄を引くとスッと床が斜めになり滑り落ちる。
「あいたた…びっくりしたぁ…。」
「先輩大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫…」
あはは、と乾いた笑いを溢しながら顔をのぞいている兵太夫に言う。
「先輩!ぼくたちのカラクリ部屋へ」
「ようこそー!」
にこにこと嬉しそうな三治郎と得意げな顔をする兵太夫。その背後には大きな歯車やいろんな縄が垂れていたり、レバーがあったりと様々だった。
「わぁ、すごいね!二人で作ったの?」
「そうでーす!」
「その紐引いてみてください!」
たらりと垂れた赤い紐を指差される。それを素直に引けばくす玉が割れ、かわいい文字で「いらっしゃいませ」と書かれて紙吹雪が舞っていた。
「なになに、かわいいね!くす玉?」
「はいっ!」
「喜んでくれるかなぁって!」
「え、作ってくれたの?ありがとう!」
「「えへへ〜」」
「あの、因みにお掃除は…」
はたと動きを止める二人。
「あ、わすれてた」
「先輩が来るって言うから、カラクリでちょっとおもてなししようってくす玉作ってぇ…」
「お菓子が出てくる装置とかも作ってぇ…」
「あれぇ?」
「どうだっけ?」
「おもてなしはとっても嬉しいしそれに夢中になってしまうのはわかるけど、お掃除しようね?二人ともきれいにしてるから、すぐ終わるから今からやろう!」
「でもお菓子出てくるカラクリがぁ!」
「お掃除おわって落ち着いたら見せて?ほら、もうすぐランチの時間になっちゃうし!」
ね!と念を押せば、渋々お掃除をしてくれた。
本日は休みだから、午後はナメクジさんと自己紹介とからくり紹介で終わってしまいそうだなと思いながら、好きなものや得意なものを見せようとするいじらしさが可愛く思った。
*
カラクリ部屋の掃除が終わると虎若たちのところは伊助と先輩がいるから大丈夫かなと思い、よいこたちが中心になってる喜三太と金吾の部屋を見に行くことにした。
「わぁ〜ごめん、金吾〜!」
「も〜〜喜三太〜〜!!」
部屋の外まで響く喜三太の声と怒ってる金吾の声。庄左ヱ門は桶の水を変えに行っていていないようだった。入り口付近には乱太郎、きり丸、しんべヱがあわあわしながら見ている。
「どうしたの?金吾?」
「せんぱい!」
そこにはなめさんがお散歩したあととなめさんがくっついた刀があった。私の着物をギュッと握り訴えてくる。
「喜三太が僕の刀になめさんを!」
「あらら、これは…。喜三太、なめさん監督不行き届きだよ」
「はにゃ?」
「んーと、金吾の大事な刀はお散歩しちゃダメだよってなめさんたちに教えてあげないと。ね?刀は金吾の大切なものなんだから…。」
そう言いながら金吾の頭を撫で落ち着かせる。
「はぁい…ごめんね、金吾ぉ…」
「もう…気をつけてね…」
「仲直りできてえらいね!お掃除もあとは刀だけかな?」
二人の頭を撫でながら聞けば「そうです!」と返事が返ってきた。桶の水を変えてきたのか、庄ちゃんが戻ってきた。
「あれ?先輩?どうしたんです?」
「あ、庄ちゃん。今ね、喜三太と金吾が言い合いしててね…。でももうおさまったから大丈夫!」
「そうでしたか、お手数おかけしてすみません。」
「ううん!気にしないで。さぁ、あとは最後は虎若団蔵の部屋だね!」
「伊助、大丈夫かなぁ」
みんなが伊助の心配をしながら、一番問題の部屋を訪れる。
「伊助、団蔵、虎若〜?」
「あ!ほまれ先輩!見てください、部屋!」
「すっごくきれいになったんです!」
「俺たちやればできちゃうんだよなぁ」
「わ!?本当だ、すごい!三人ともさっすがだね〜!見違えたよ!」
三人は照れ照れしながら頭を掻く。和やかな雰囲気の中、廊下で寝転がっている三郎先輩はすっかり疲れ果てていた。
「あのぁ…先輩、お疲れ様です…」
「ほまれ…一番大変な部屋任せたろ…。やっぱ予感が当たった……。」
「いえ、滅相もございません」
「お前たちなんであんなに部屋が汚くなるんだ!」
「いやぁ…」
「えへへ…」
「褒めてねーよ」
「伊助ちゃん…お口が…」
「伊助があんなになるのもわかる…。伊助えらい…。」
「わかってくれますか、鉢屋先輩…!」
なんか通じ合ったみたいでひっしと抱擁を交わす二人。
「もうすっかりお昼の時間なっちゃったね…。土井先生に見せるのは午後にしようか?」
「そうですね…。お腹すいちゃいました…」
「伊助ちゃん張り切ってたもんね」
抱擁される伊助の頭を撫でると、照れたように笑う。すると、両方の手をぎゅっと掴まれる。団蔵と虎若だ。
「俺たちも頑張りました!」
「褒めてくださぁい!」
「ふふ、えらいえらい。二人ともやっぱりやればできるタイプだねぇ」
二人は嬉しそうに笑う。
そうこうしていると、みんなが団蔵たちの部屋へやってきた。
「すごい…」
「きれいになってる…!」
「あんなに鬱蒼としてたのに…!」
「部屋に入れる…!」
「部屋には入れただろ!」
「部屋に入るくらいはできただろ!」
「できてねえよ」
「あぁ、伊助…抑えて…」
伊助を抱きしめたままの三郎先輩がぽんぽん背中を撫でる。
「じゃあ、とりあえずごはん食べに行こうか!」
わぁっと声が上がり、みんなで食堂へ向かう。私は団蔵と虎若に手を繋がれたまま、三郎先輩は伊助ちゃんを解放して今はしんべヱに手を引かれている。オリエンテーリングで仲良くなったらしく、微笑ましくその後ろ姿を見ていた。
時間が少し遅くなってしまったからか、食堂はがらんとしていた。その風景を横目に、AランチとBランチのメニューを見ていた。ちょんちょんと肩に感触を感じる。
「なんですか、先輩」
「ほまれは私の隣な」
何を言い出すかと思えば。理由はよくわからないが、先日の忍務から鉢屋先輩的に距離が縮まったらしかった。何かと近くにいることが最近は増えていた。
「えー!」とよいこたちは声をあげる。
「先輩、ずるいです〜!」
「ぼくたちだってほまれ先輩にお話したい!」
「一緒にご飯食べたい!」
「みんな待って!鉢屋三郎先輩は時々僕らよりも子どもらしさを大切になさっている時があるから、今日は僕らが我慢しよう。さぁ、先輩どうぞ!」
びしぃっと手を綺麗に揃えて席を示す庄左ヱ門。
「庄ちゃん…そう言われるとちょっと座りにくい…」
「え?」
きょとんとする庄ちゃんが可愛らしくて少し笑ってしまう。
「ねーちゃん、こっち座ろ」
きり丸に手を引かれ端っこの端っこに私を座らせれば、隣にどっかり座る。若干不貞腐れているようにも見える。
「きり丸、やきもちだ…」
「やきもちだね…」
「え〜おもち?美味しそ〜っ」
「しんべヱ!しっ!」
「聞こえてるよ!」
は組のみんなは小さな声でいうも、おもちに反応してしまうしんべヱとそれを嗜める乱太郎。その会話をふんっと鼻を鳴らすきり丸。みんなはごめんごめんと口々にきり丸に謝って、仕方ねえなぁと言いながらため息をついていた。
「きりちゃん、ランチ取りに行こ?」
きり丸の頭を撫でると、こくりと頷く。手を握ってきり丸をランチのメニューを見る。
「お姉ちゃんは〜…お魚にしようかな」
「おれも」
「うん、おばちゃん、お魚のランチふたつー!」
食堂のおばちゃんに声をかけるとはーいと返事が返ってくる。しばらくすればランチを出してくれて、二人で再び席に着く。向かいには乱太郎としんべヱが座り、は組のみんなと先輩もランチを受け取ってそれぞれに席に着いた。誰が言ったか「いただきまーす!」という声とともに、みんながいただきまーす!と言って食べ始める。みんなで食べて、なんだかいつもより美味しく感じた。きり丸も次第に機嫌が直ったようで、乱太郎としんべヱとわいわいごはんを食べていた。
*
昼食のあと、土井先生を呼びに行く。みんなにはお部屋で待っていてもらっていた。土井先生と山田先生の前にくる。暇だというので、鉢屋先輩も一緒だ。
「失礼します。ほまれです。」
「入っていいぞー」
「失礼します。土井先生、今お時間大丈夫ですか?」
「ほまれ、…に三郎?珍しいな。どうした?」
「今日のお休みを使って、一年は組のみんながお部屋お掃除したから土井先生に褒めて欲しいって。」
「うそぉ?!すごいじゃないか!行く行く!」
土井先生は私の顔をびっくりした顔で見て、にこにこしながら立ち上がり率先して長屋に向かう。
長屋ではは組のみんながわいわいしながら先生の到着を待っていた。庄左ヱ門が先生に気づき、みんな!と声をかける。
「土井先生が来たぞ!」
「土井先生ー!見てください!綺麗にしたんですよ!」
「ほまれから聞いたよ、すごいじゃないか!お前たち!」
微笑ましい光景を少し離れて鉢屋先輩と見ていた。
「本当に今日ありがとうございました、先輩。みんな嬉しそうでよかった」
「どーいたしまして。お前も頑張ったな」
「ありがとうございます」
ぽんぽんと私の頭を鉢屋先輩が撫でる。は組のみんなは土井先生の手を引いて、その背中を押しながら自分の部屋へ順々に案内する。土井先生もそれを嬉しそうに受け入れて、褒めたり頭を撫でたりしていた。
暫くして全部の部屋を見回り終わったのか、ほくほく嬉しそうな、なんなら半泣きの土井先生がは組のよいこたちを引き連れこちらへ来た。
「二人とも、ありがとう。こんなに綺麗になってるなんて、入学して以来…うっ…」
「お前たち…先生泣かすなよ…」
えへへぇと苦笑いをするよいこたち。
「三郎、ありがとう…。休みなのに、よいこたちの部屋片付けで潰れちゃって悪かったね。」
そう言いながら私と鉢屋先輩の頭をぽんぽんと撫でる。私は度々頭を撫でてもらうことがあったから嬉しいなと笑っていたが、鉢屋先輩はすこし頬が赤くなっていた。照れてる。
「いえ、みんな喜んでくれてよかったです。ね、先輩?」
「あぁ…」
「あー!鉢屋先輩が照れてる!」
「うるさい!」
よいこたちも先生もみんなけらけら笑っていた。
*
「先輩真っ赤でしたね」
「真っ赤ではないだろ」
じとっとした目で私を見る。そうは言っているがまだちょっと頬に赤みが残っている。私と三郎先輩はは組のよいこ達と別れて廊下を歩いていた。
「土井先生あんな喜ぶなんてな」
「本当ですね。なんか片付けしながら、先生の家に初めて行った日を思い出しちゃいました。男性の一人暮らしだからか、もう部屋汚くて…」
「休みは土井先生のお宅にお世話になっているんだっけ?」
「はい、きりちゃんと二人でお世話になっていて…。」
初めて土井先生のお家に行ったのは、夏休みの時だった。面識はあるものの、くのいち教室の私は土井先生はきり丸の担任の先生だという認識くらいだった。
私たちに帰る場所はなかったから、さぁどうしようと悩みながら校門まで行くときり丸と土井先生、そして乱太郎としんべヱの二人がが待っていてくれた。
「あれ、えと、土井先生?」
「ほまれ、一緒に帰ろう」
「へ?」
帰り道、よいこの三人はいろいろ話しながら歩いていた。私は土井先生の隣に並んで土井先生を見上げた。
「土井先生…本当にいいんですか?私まで…。」
「いいんだよ。きり丸とお前は姉弟なんだから、一緒の方がいいだろうし。あ、でも…女の子だから私は男だし…抵抗あるよな…。嫌だったか?」
心配そうに顔を覗き込む土井先生。その姿に、きり丸から聞いていたけど私まで気にかけてくれるなんていい先生だなと思った。
「あ、いえ…。雨風凌げれば、くらいに考えていたから…。むしろ有難い限りです。本当にありがとうございます。」
先生は安心したように肩を楽にした。
「あの、生活費とかあとで請求してください。それに、なんでもやりますので…」
「え?いや、いいよ。気にするな。」
そう言って頭を何度か優しく撫でた。この頃、私は頭を撫でられることがほとんどなかったから、驚いてしまった。なんだか顔が熱い。
先生の家に着くと、まぁ荒れ放題だった。汚れた着物、食べてそのままの食器。本は積み重なって布団は万年床。帰る途中、片付けのアルバイトを、と言っていたのは多分本心からなんだろうと私もきり丸も思った。
きり丸が借りは作りたくないと炊事洗濯は私たちの仕事になった。役割があるのは良かった。迷わないし、動き方がわかるから。その日はまず、掃除をした。ゴミをまとめ洗濯物を桶にまとめる。学校に行って家に帰ったら、面倒になってしまうのかなぁと思いながら本と紙類をまとめて立ち上がる。足元がよく見えていなくて紙に足を取られよろけて私は転ぶと壁に当たってしまい、ガタンと音を立てて吊り棚に置いてあった巻物が落ちてきた。体が強張り動けず、ぎゅっと目を瞑った。
……?あれ、痛くない…?
「いたた…、ほまれ大丈夫か?」
「ねーちゃん、土井先生!大丈夫?!」
先生が覆い被さってくれていた。背中を摩りながら先生が起き上がると手を差し伸べてくれる。
「痛いところない?」
「は、はい…。先生、ごめんなさい…大丈夫ですか?」
「え?あぁ、どうってことないよ。元はと言えば部屋が汚い私のせいだし…。」
苦笑いをしながら頭を掻く先生。きり丸も心配そうに私を見ていた。安心させようと頭を撫でる。
「お前に怪我がなくてよかった」
今思えばあの時に土井先生に気を許すようになったと思う。あんな些細なことで咄嗟に動いてくれるなんて、信用に足る人だろうと。あたたかい人柄も広い背中も大きい手も、今までは疑うばかりだった。まだ忍術も覚えていないときはそれ以降だって、それらは安心材料ではなく単純に脅威的に思っていたから。子どもでは…女では敵わない力があり、対象に優しさで漬け込めば、それは金に変わる。でも、なんだか先生は違う気がしたのはあの時の出来事ときり丸が土井先生を信頼しているように見えたから。
「ほまれ?」
「あ、ごめんなさい。思い出に浸ってしまいました…。」
「そのようだね。にやけちゃって」
「にやけてないです!」
「またぁ」
くすくすと笑いながら、意地悪な顔をする。もう、と息を吐くと悪かったと先輩は笑った。
「…あ!私このあと喜三太のなめさんにあって、からくり見せてもらうんでした!戻らないと!」
「まだ予定あるのか、忙しいなお前は…。は組のお姉ちゃんだな、もう」
「あはは、あながち間違いではないですね…。それでは先輩!今日はありがとうございました!」
「おう、行ってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
ニッと笑いながら先輩に手を振り、私はまたあの子たちの元へ急いだ。
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