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「僕はね、人の出会いってすべて運命だと思うんだ」
 そう語る透谷先生を見て、なるほど、彼は優秀な詩人なのだろう、と思った。運命って、藤村先生とのことですか、と聞けば「勿論それもあるけどね」と笑う。
「僕と藤村の出会いが運命なのは当然だけど、君と出会えたことやこの図書館に来たこともすべて運命なんだって思う。前には出会えなかった文士たちや、果ては海外の文士にも出会えて、人生が充実しているって実感があるよ。これを運命と言わずに何と呼ぶの?」
 わかるようで若干わからない、でも多少わかる気もする理論を振りかざす透谷先生は、なんというか、文章から受ける印象通りの人だった。
「ロマンチストなんですね」
 やっぱりこの人は生まれる時代が早すぎたんじゃないかな、と思った。でもあの時代に生まれなければ、彼が藤村先生と出会うことは恐らくなくて、それは即ち「島崎藤村」の存在否定にも繋がってくる。彼の人生を、「運命」を否定したくない。
 考えていたことが顔に出てしまっていたのか、透谷先生は「ありがとう」と、まるで寂しさと嬉しさをごちゃまぜにした表情で笑った。
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