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短編

 なにごとも最初というのは、酷く甘美な概念であって、だからこそ、酷く残酷だ。『最初』という特別な枠でがんじがらめにされる。
 別に、なにも恋人にしてくれって訳じゃないんだ。立場上それが難しいのはわかるし、第一僕だってそういった関係を求めているわけじゃない。じゃあどうしてほしいのか、と聞かれてもいまいちよくわからない。わからないんだ。ただ、特別だと言ってほしい。『最初だから』ではなくて、もっと別の理由で特別だと言ってほしい。『最初』というその概念は僕に与えられた特権だけれど、君にはもっとそれ以外で僕を見てほしい。でも、そう思うのは、そうやって欲しがるのはきっと贅沢なのだ。だって、他の誰も持っていない『最初』という特権を得ているし、その時点で既に特別視はされているから。いくつかの枠があって、僕はそのなかのひとつであって、なまじ『最初』という特別枠なものだから、自惚れないよう気を付けなくてはならないのだ。
 じゃあその特権はいらないのか、というとそういう話ではない。現金なことに、僕はその特権に優越感を感じているのだ。『最初』という特権が嫌なはずなのに、それに甘えている自分がいるし、そうやって甘えている自分も嫌だ。
 ねえ、例えば僕が最初じゃなかったら、君は今と同じ態度で僕に接していたのかい。そんなこと考えたってどうにもならないのはわかっている。わかっているのにやめられないんだよ。その特権を失った僕は果たして、君にどう写っているのか。特権を失うことはないのに、ぐずぐずと考えてしまう。ああ、一生失うことのない特権、というあたりも『最初』って残酷だよね。本当に酷いや。
 結局、それら全てを押し込んで今の僕がいるわけで、君にとっては今の僕との関係性が望ましいようだから、それを壊すような真似はしない。したくないんだ。
 
 僕の愛する日常は、今日もきっと、僕の苦しみと引き換えに続いていく。
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