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ニクい人

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REPドルたちに愛されてやまない貴女のお名前は?

 それはまるでーーー他のものを寄せ付けない獣のようだと思った。
 剣先のように鋭い瞳は、曇ひとつない夏の空のように深く澄んだ藍。
 研ぎ澄まされた鋭い眼光。鍛えられ、固い筋肉に覆われた体は、その長身に似合わないほどの敏捷さを備えていた。
 初めて見た不破剣人は野生に生きる猛獣のように、どこか近づき難い雰囲気を纏っていた。

「よう」

 挨拶は最高級の深みのあるウイスキーのような低音ボイスの短い一言。
 それは口数の少ない剣人さんらしかった。

 レストランに足を運んでくれるアイドルの中でも、剣人さんは肉好きだった。

「ニクが喰いてぇ」

「はい、ただいま!」


「ニク、頼む」

「かしこまりました!」


「ニク、大盛りで」

「ニク大盛りオーダー入りました!」

 そう。
 只のニク好きではない。
 大のニク好きだったのだ。
 可愛いとはほど遠い人だけど、わたしが出した料理(ニク)をとても美味しそうに頬張る姿は……どこか可愛くて。
 気付いたらニクを食べる剣人さんを見つめる時間が至福のときになっていた。

「うまみがスゲェな」

「それはもう、粗挽きの挽き肉をこれでもかというほどもみもみともみこんだので」


「お。スゲェ柔けぇ」

「それはもう、筋という筋をめった切りにして………………食べやすいように」


「なんだ。ニクに恨みでもあんのか?」

「ニクが憎らしい……なんてことは全然」

 そう。
 気付いたらニクに妬くくらいに、剣人さんを想っていた。
 はじめの硬い印象から交流を重ねて雰囲気が解れていくのが分かったとき、口数が少なく不器用な印象を与えるけれど、根は誠実で少し天然なところもまた魅力的で、とても優しい人なんだと気付いて嬉しくなった。
 わたしが作った料理を食べるときの姿はとても寛いでしているように見えて、美味しそうに口いっぱいに頬張る彼を側に感じることが幸せになっていた。
 どうしよう。
 剣人さんのことが好き。

 いつものように仲良く透さんと来店してきた剣人さんがニクを喰らう姿を、キッキンの袖からそっと盗み見てうっとりする。
 切れ長の瞳がニクを射る。
 豪快に大きく口を開けて、容赦なく咀嚼……。


「剣人がニク食ってる姿見て楽しーの?」

「わあっ」

 背中から声がかかり、びっくりして飛び上がる。振り返ると席にいたはずの透さんだ。

「透さん……急に後ろから声かけないでくださいよ。心臓に悪いです」

 ドキドキする胸に手を当てて非難する。

「何度か声かけたけど、お前ずーっと剣人のこと見て気付かなかったじゃん」

「え? そうなの? ていうか、透さんどこから湧いて出てきたんです?」

「湧いてなんかねーよ! 手洗い借りてた」

「あー、あ、そうですか」

 わたしは透さんに興味をなくし、元のポジションに戻って再び剣人さんを見つめる。

「お前さ、もしかしてケントのこと好きなのか?」

「ん?」

 透さんにかけられた言葉がすぐには把握出来ず、もう一度頭のなかでリピートする。

『ケントのこと好きなのか?』

 次の瞬間、カッと顔が熱くなった。
 慌てて透さんに向き直って目の前で大きく手を振る。

「な、ななななななんで! だいたい透さんには関係ないですっ」

「うっわ、スゲー動揺してっし」

 ゴールデンカラーの瞳がつまらなそうに細められる。

「だって急に変なこと聞くから! は、はい、お席に戻ってお食事の続きをどうぞ!」

 透さんの後ろに回ってぐいぐいと背中を押す。

「なんで追い返そうとすんだよ! 俺にも関係あるんだけど」

 身を翻した透さんがわたしの手首を掴んで、ぐっと身を寄せてきた。そのまま壁に追い詰められる。

「関係って……」

「おい」

「‼」

 胸の奥に響いてくるような低音ボイスに、わたしも透さんも動きが止まる。

「二人でこそこそ何してんだ」

 見上げると剣人さんが藍色の瞳でこちらの様子を窺っていた。

「なんでもねー」

 透さんは答える気がないという意思表示なのか、ぷいっと横を向く。
 剣人さんの視線が、わたしの手を掴む透さんの手の辺りに落ちた。

「トオル、離せ」

「……分かったよ」

 ハァと大袈裟に息をついて、やがて諦めたように手が離れていった。

「わりぃな。こいつは譲れないんだ」

 剣人さんの大きな手がのびてきて、わたしの頭の上に置かれる。突然の接触に心臓が跳び跳ねているのに、そのまま頭をポンポンされた。
 剣人さんがわたしに触れた……!
 しかも頭を優しくポンポン‼
 彼の手は温かいぬくもりに溢れていて、やり方もとても優しかった。
 な、なんて幸せなのー‼‼
 いっそのこと猫みたいに、このまま身を寄せて喉をぐるぐると鳴らして甘えたい。
 飛びたがりたいくらいの喜びに胸が満たされたまま、幸せへの階段を上るために聞いておきたいことを口にした。

「譲れないって……わ、わたしのこと……?」

「ああ、ニク、追加。よろしく頼む」

 ん?

 えええ?
 ちょっと待って。
『ああ、ニク』って。
 譲れないのはわたし……じゃなくてニクの追加注文?

 それいいに探しに来たの!?

 目をぱちくりしているわたしの側で、透さんはさも可笑しそうに、ペロッと舌を出して喜んでいる。
 これは絶体、ザマーミロ! とか、へっへーん! って人を小バカにしてるときの顔だな。
 悔しさが込み上げてきて握った拳がプルプル震えた。
 これは面白くない。
 見てなさい!
 いつかきっと、ニクよりわたしが必要だっていってみせるから……!

 彼女はそう心に強く誓うのであった。


 果してニクに勝てる日は来るのだろうか!?
 彼女の想いは前途多難……?


 おしまい
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