覚悟~告白の後で~
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はじめましての透さんの部屋は、話に聞くのと違って片付いていた。
……と、いっても。
雑誌は雑誌で積み上げれ、マンガ本はマンガ本で纏まって乱雑に置かれ、ベッドの上に置いてあったものは片隅に寄せ集められていた。服は畳まれることなく部屋の1ヵ所に山になっていることを除けば。
うん。
床はちゃんと見えてるし、足の踏み場はある。
逆にキレイに片付けられていたら意識しちゃって緊張していたかもしれない。
透さんの部屋のキッチンを借りて、出来立てのスンドゥブを口に運び、うーんと首を傾げる。そのままコチュジャンを足してお豆腐が崩れないように気を付けつつ優しくかき混ぜた。
「なに、辛くねーの?」
ヘッドホンで次の新曲のデモテープを聞いていた透さんが、いつの間にか隣に来ていて頭を寄せ手元を覗き混んできた。
「うーん……」
どうなんだろう?
少しピリッとしたかな?
それでもまだ辛味を足すべきなのか悩んでいると、
「ん」
口を開けて透さんが顔を近づけてくる。
その自然な仕草にわたしは蓮華にスンドゥブを掬って、ふーふー息を吹き掛け少し冷ましてから透さんの口に運んだ。
「どうかな?」
「辛味、足りねぇ」
即座に眉間を寄せた不満顔が返ってきた。
「やっぱり。でも、これお店で出すと辛いっていわれちゃうんだよね。最近どうも辛いものに強くなったというか……」
「それ、料理人としてヤバいんじゃね?」
痛いところを突かれてうっと呻く。
「辛いものばっかり食べてるからかな」
「ま、俺の彼女としては合格だけど?」
ゴールデンカラーの鋭い瞳がふわっと柔らかく笑いかけてくる。
ズルいなぁ。
その笑顔に心臓を鷲掴みにされたわたしはコチュジャンを更に足したのだった。
…………。
ご飯を食べ終わると、時計が気になりだして何度も見ずにはいられなかった。
誘われるままおうち訪問してしまっけれど、そろそろ帰ったほうがいいかな?
お腹が満たされた透さんは、ベッドを背もたれに足を伸ばしてリラックスした様子でテレビを見ている。
長居して透さんの邪魔になるのは嫌だ。
泊まる約束もしてないことだし。
泊まる……って!!
わたしいまなに考えた!?
確かに「俺のもんになれよ」って告白されたとき、身も心も捧げる覚悟で頷いた。
けれど、あれから透さんは積極的に触れてくることもなく、キスもなかった。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、近くて遠い存在。
部屋に呼ばれたときは、もしかして恋人としてもう一段階上がるようなことが!? ってドキドキしたものだけど、レストランにいるときみたいに、ご飯食べただけ……。
正直、もう少し一緒にいたい気持ちもあってどう声をかけるべきか、悩んでいた。
時折頭を上げては時計を気にしてソワソワしているレス子を、チラリと視線を投げ黙って神崎は見ていた。
ああ、こんなこと考えながらもどんどん時間は過ぎていく。
もう、時間も遅いしそろそろ……。
わたしは席を立った。
「それじゃ帰るね」
「は? 帰るの?」
ゴールデンカラーの瞳が見上げてくる。その表情からはなにも感情が読み取れなかった。
「えーっと、帰る、よ?」
すぐに返事が出来なくて、クエスチョンマークを付けてしまった。
「あっそ。じゃー気を付けてな」
後を追うようにゆっくりと立ち上がった透さんが、玄関先まで見送ってくれるのを振り返る。
「それじゃあまたお店で」
「おー」
薄い反応に突き放されたような寂しさを感じて視界がボヤける。きっといまのわたしは透さんが見たらがっかりする表情をしている。そして。感情に敏感な透さんに心のうちがバレてしまう。
慌てて頭を下げ、髪の毛のカーテンで顔を隠し沈んだ気分のまま、ドアへ進もうとした。が、体が動かなかった。
「…………?」
後ろに引っ張られるような感覚に、腕を見ると透さんの手が掴んでいた。突然のことにびっくりしてその腕の主を見上げるとゴールデンカラーの瞳が不機嫌そうに細められる。
「なんてこのまま帰すかよ」
「……透さん」
少し強引な仕草でぐい、と引き寄せられ透さんの胸にぶつかってしまう。
顔をあげると、透さんのアシンメトリーの髪がわたしの頬を撫で、顔が近づいてきた。
躊躇いのない唇が下りてきてキスで塞がれる。
体は側の壁に押し付けられ、足の間に脚を差し込まれのし掛かってくる体に身動きが取れない。
今までしたキスはなんだったんだろう?
触れ合うだけの柔らかなキスは数回交わしていたけれど、これはそんな優しいものではなかった。
圧迫感から抵抗しようとやっとの思いで二人の間に手を滑り込ませ、透さんの胸を押し戻す。
華奢な体つきなのに、やっぱり男性なんだ。全然敵わない。
噛みつくような濃厚なキスに息すらも奪われる。
体の内側から炎で照らされたみたいに熱くなっていく。
「とおるさ……んんっ! ちょっと、待……っ」
顔を背けるつもりで抵抗の声を上げた口に舌が入り込んできた。
ビクッと体が震え、塞がれた口の中から小さな声が漏れてしまう。
間近にある透さんの綺麗な顔。ゴールデンカラーの瞳がいまは綺麗に生え揃った睫毛に隠れ、自分のしていることに夢中になっている。
こんなに求められていたんだと思うと、鳩尾の辺りが熱くなった。抵抗するつもりで透さんの胸元に置いた手が、いまは離さないようにそのシャツを握りしめていた。
息も付かせず繰り返されるキスに、酸素が足りなくて次第に荒くなる息遣いと、ふたりの唇が奏でる音が玄関に響く。
やっと離れた頃には頭はクラクラして何も考えられなくなっていた。
ぐったりと、透さんの肩に頭を預ける。
「俺がレス子のことすんなり帰すと思った?」
最初は思った。
でも、あれだけのキスをされたいまは違う。
「最初は分からなかった」
「帰すわけねー」
体に力が入らないレス子が小さな声で呟くと即座に返答が返ってきた。
「で、でも明日も仕事でしょ?」
「残念でした。オフでーす」
体を預けるレス子を抱きしめ、体をくるりと反転させて自分が壁に寄りかかる。
腕のなかにすっぽりと収まるレス子のうなじに顔を埋め、その香りを目一杯吸い込んだ。
俺のレス子。
短時間だけ会うとかそんなんじゃダメなんだよ。邪魔が入らない二人だけの時間を作りたかった。告白からお互い忙しくてなかなか時間作れなくて、明日休みのお前に合わせてスケジュール調整してオフにしたんだ。
そんなん口に出していえるわけねぇーだろ。
張り切ってるって気づかれるに決まってんじゃん。
自分でも必死だって思ってるよ。
だけど、少しでも早くお前が欲しいんだよ。
体は熱くて冷める様子がない。
いつまでも玄関にいたってしょうがない。
神崎はレス子の手を引いて部屋にもどる。
「どこ行くの?」
「ベッド」
「で、でも、ふたりも寝られる場所ないと思う」
「じゃあレス子、俺の上に乗ればいーんじゃね?」
「えっ」
心底驚いた声に、思わず気が緩んでプッと吹き出す。
レス子の顔を見ると赤唐辛子みたいな表情してる。
「顔、スゲー赤いんだけど。なに考えた? やーらしー」
「もうっバカ!」
「はいはい、バカですよ」
その反論すらもムカつくくらい可愛いくて。
俺どーしようもないなって、呆れるくらいレス子のことが好きらしい。
俺がバカでいられるのはお前だけだからな。
今夜は寝かさねーけど、覚悟しろよ?
おしまい
……と、いっても。
雑誌は雑誌で積み上げれ、マンガ本はマンガ本で纏まって乱雑に置かれ、ベッドの上に置いてあったものは片隅に寄せ集められていた。服は畳まれることなく部屋の1ヵ所に山になっていることを除けば。
うん。
床はちゃんと見えてるし、足の踏み場はある。
逆にキレイに片付けられていたら意識しちゃって緊張していたかもしれない。
透さんの部屋のキッチンを借りて、出来立てのスンドゥブを口に運び、うーんと首を傾げる。そのままコチュジャンを足してお豆腐が崩れないように気を付けつつ優しくかき混ぜた。
「なに、辛くねーの?」
ヘッドホンで次の新曲のデモテープを聞いていた透さんが、いつの間にか隣に来ていて頭を寄せ手元を覗き混んできた。
「うーん……」
どうなんだろう?
少しピリッとしたかな?
それでもまだ辛味を足すべきなのか悩んでいると、
「ん」
口を開けて透さんが顔を近づけてくる。
その自然な仕草にわたしは蓮華にスンドゥブを掬って、ふーふー息を吹き掛け少し冷ましてから透さんの口に運んだ。
「どうかな?」
「辛味、足りねぇ」
即座に眉間を寄せた不満顔が返ってきた。
「やっぱり。でも、これお店で出すと辛いっていわれちゃうんだよね。最近どうも辛いものに強くなったというか……」
「それ、料理人としてヤバいんじゃね?」
痛いところを突かれてうっと呻く。
「辛いものばっかり食べてるからかな」
「ま、俺の彼女としては合格だけど?」
ゴールデンカラーの鋭い瞳がふわっと柔らかく笑いかけてくる。
ズルいなぁ。
その笑顔に心臓を鷲掴みにされたわたしはコチュジャンを更に足したのだった。
…………。
ご飯を食べ終わると、時計が気になりだして何度も見ずにはいられなかった。
誘われるままおうち訪問してしまっけれど、そろそろ帰ったほうがいいかな?
お腹が満たされた透さんは、ベッドを背もたれに足を伸ばしてリラックスした様子でテレビを見ている。
長居して透さんの邪魔になるのは嫌だ。
泊まる約束もしてないことだし。
泊まる……って!!
わたしいまなに考えた!?
確かに「俺のもんになれよ」って告白されたとき、身も心も捧げる覚悟で頷いた。
けれど、あれから透さんは積極的に触れてくることもなく、キスもなかった。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、近くて遠い存在。
部屋に呼ばれたときは、もしかして恋人としてもう一段階上がるようなことが!? ってドキドキしたものだけど、レストランにいるときみたいに、ご飯食べただけ……。
正直、もう少し一緒にいたい気持ちもあってどう声をかけるべきか、悩んでいた。
時折頭を上げては時計を気にしてソワソワしているレス子を、チラリと視線を投げ黙って神崎は見ていた。
ああ、こんなこと考えながらもどんどん時間は過ぎていく。
もう、時間も遅いしそろそろ……。
わたしは席を立った。
「それじゃ帰るね」
「は? 帰るの?」
ゴールデンカラーの瞳が見上げてくる。その表情からはなにも感情が読み取れなかった。
「えーっと、帰る、よ?」
すぐに返事が出来なくて、クエスチョンマークを付けてしまった。
「あっそ。じゃー気を付けてな」
後を追うようにゆっくりと立ち上がった透さんが、玄関先まで見送ってくれるのを振り返る。
「それじゃあまたお店で」
「おー」
薄い反応に突き放されたような寂しさを感じて視界がボヤける。きっといまのわたしは透さんが見たらがっかりする表情をしている。そして。感情に敏感な透さんに心のうちがバレてしまう。
慌てて頭を下げ、髪の毛のカーテンで顔を隠し沈んだ気分のまま、ドアへ進もうとした。が、体が動かなかった。
「…………?」
後ろに引っ張られるような感覚に、腕を見ると透さんの手が掴んでいた。突然のことにびっくりしてその腕の主を見上げるとゴールデンカラーの瞳が不機嫌そうに細められる。
「なんてこのまま帰すかよ」
「……透さん」
少し強引な仕草でぐい、と引き寄せられ透さんの胸にぶつかってしまう。
顔をあげると、透さんのアシンメトリーの髪がわたしの頬を撫で、顔が近づいてきた。
躊躇いのない唇が下りてきてキスで塞がれる。
体は側の壁に押し付けられ、足の間に脚を差し込まれのし掛かってくる体に身動きが取れない。
今までしたキスはなんだったんだろう?
触れ合うだけの柔らかなキスは数回交わしていたけれど、これはそんな優しいものではなかった。
圧迫感から抵抗しようとやっとの思いで二人の間に手を滑り込ませ、透さんの胸を押し戻す。
華奢な体つきなのに、やっぱり男性なんだ。全然敵わない。
噛みつくような濃厚なキスに息すらも奪われる。
体の内側から炎で照らされたみたいに熱くなっていく。
「とおるさ……んんっ! ちょっと、待……っ」
顔を背けるつもりで抵抗の声を上げた口に舌が入り込んできた。
ビクッと体が震え、塞がれた口の中から小さな声が漏れてしまう。
間近にある透さんの綺麗な顔。ゴールデンカラーの瞳がいまは綺麗に生え揃った睫毛に隠れ、自分のしていることに夢中になっている。
こんなに求められていたんだと思うと、鳩尾の辺りが熱くなった。抵抗するつもりで透さんの胸元に置いた手が、いまは離さないようにそのシャツを握りしめていた。
息も付かせず繰り返されるキスに、酸素が足りなくて次第に荒くなる息遣いと、ふたりの唇が奏でる音が玄関に響く。
やっと離れた頃には頭はクラクラして何も考えられなくなっていた。
ぐったりと、透さんの肩に頭を預ける。
「俺がレス子のことすんなり帰すと思った?」
最初は思った。
でも、あれだけのキスをされたいまは違う。
「最初は分からなかった」
「帰すわけねー」
体に力が入らないレス子が小さな声で呟くと即座に返答が返ってきた。
「で、でも明日も仕事でしょ?」
「残念でした。オフでーす」
体を預けるレス子を抱きしめ、体をくるりと反転させて自分が壁に寄りかかる。
腕のなかにすっぽりと収まるレス子のうなじに顔を埋め、その香りを目一杯吸い込んだ。
俺のレス子。
短時間だけ会うとかそんなんじゃダメなんだよ。邪魔が入らない二人だけの時間を作りたかった。告白からお互い忙しくてなかなか時間作れなくて、明日休みのお前に合わせてスケジュール調整してオフにしたんだ。
そんなん口に出していえるわけねぇーだろ。
張り切ってるって気づかれるに決まってんじゃん。
自分でも必死だって思ってるよ。
だけど、少しでも早くお前が欲しいんだよ。
体は熱くて冷める様子がない。
いつまでも玄関にいたってしょうがない。
神崎はレス子の手を引いて部屋にもどる。
「どこ行くの?」
「ベッド」
「で、でも、ふたりも寝られる場所ないと思う」
「じゃあレス子、俺の上に乗ればいーんじゃね?」
「えっ」
心底驚いた声に、思わず気が緩んでプッと吹き出す。
レス子の顔を見ると赤唐辛子みたいな表情してる。
「顔、スゲー赤いんだけど。なに考えた? やーらしー」
「もうっバカ!」
「はいはい、バカですよ」
その反論すらもムカつくくらい可愛いくて。
俺どーしようもないなって、呆れるくらいレス子のことが好きらしい。
俺がバカでいられるのはお前だけだからな。
今夜は寝かさねーけど、覚悟しろよ?
おしまい
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