一石二鳥
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閉店後のレストラン。
レジを締め、明かりは付けたまま今日の売り上げをノートに記している午後10時過ぎ。
電卓を叩いて出てきた金額に頷く。
よかった。売り上げは順調。
あとはそろそろ新作を考えてもいい時期……。
今年のバレンタインフェア、何をしよう。
テーブルに肘をついてそこに頬を預け、うーんとため息をつく。
チョコレートにこだわってみるのもいいかな。
ベルギーチョコ美味しいんだよね。
ワッフル、パンケーキ、チョコフォンデュ……。
去年好評だったメニューをアレンジしてみてもいいかも。
バレンタインフェアは毎年甘いものたくさんで、慎之介さんがとても喜んでくれるのだ。
司さんが目からビームでも出しそうな勢いで睨みを利かせてるけど、鬼(司さんごめんなさい)の目を盗んで食べているのをわたしは知っている。
慎之介さんはもちろん、他の皆さんにも喜んで貰えるようなメニュー考えないと。
「………」
アイディアを考えていると睡魔が襲ってきていつしか時は過ぎ、思考回路は完全に停止してしまった。
肌寒さを感じながらも、眠気には勝てずウトウトしていると次第に暖かさを感じるようになってくる。
「……?」
目を開け、ぼんやりとした視界の端で見慣れた上着が目に入った。
体を起こし、滑り落ちそうになったそれに急激に目が覚め慌てて手で掴む。
「京也さんの上着……」
「お前の寝顔、可愛かったぜ?」
ぼーっとしたまま肩に掛かるジャケットを握りしめたわたしに声がかかる。
いつもの軽い調子で、寝起きを迎えてくれたのはX.I.P.のリーダー、伊達京也さん。
カウンターの、向きを変えられるスツールに腰かけ、投げ出した長い足を足首のところで組んだ京也さんがいた。
「寝顔……! い、いつから見てたんですかっ」
恥ずかしさに頬が火照り、涎は出てなかっただろうか?
慌てて口元を拭う。
「なーに、ちょっと前からだ。店で寝るなんて珍しいな?」
「ここのところお店が混んでて……あ、嬉しいことなんですけど」
「ハードな仕事に体が先に悲鳴上げたわけか。その悲鳴をききつけて京也さん飛んできちゃいました」
「体の悲鳴、聞こえてました?」
「聞こえた聞こえた……なんてな。本音をいうと俺がお前に会いたくなったんです」
照れもせず、さらっと心の奥を擽るような台詞を口にする京也さんに、聞いてる方がなんだか照れ臭い。
「お、いい顔するね。もっといい表情させたくなる」
「京也さん!」
「ま、冗談はさておき、あんまり頑張りすぎるなよ。誰かが止めないとずーっと突っ走るところあるから京也さん心配です」
「うっ……」
見透かされてグゥの音も出ない。
「上着、ありがとうございました。お返しします」
椅子から立ち上がって京也さんに上着を渡すとき、手と手が触れる。 わずかに触れた京也さんの手は温かかった。
「おいおい、風邪引くなよ?」
わたしの手が冷たかったことに気付いた京也さんが気づかってくれると同時に、上着を返し、温もりが消えたせいなのか寒さに体が震えた。
「だ、大丈夫です」
「大丈夫じゃないだろ。ほら、おいで」
腕を取った京也さんが優しくわたしを引き寄せる。広い腕の中に閉じ込められて、伝わってくる彼の温もりに抵抗しようとした体の力が緩んでしまう。
「……レス子、お前は本当にがんばり屋さんだな」
大切なものを扱うように、背中から抱き締めた手のひらが頭を優しく撫でてくれる。京也さんらしいその行為に、疲れもどこかに飛んでいくようだ。
甘えるように身を擦り寄せ、わたしは目を閉じた。
「寒くない、だろ?」
優しい声音がシャツ越しの硬い胸を通して聞こえてくる。
「一石二鳥だな」
「一石二鳥?」
腕の中でそっと顔を上げると、穏やかに見つめてくる京也さんの琥珀色の瞳とぶつかる。
そして。
お前を温めることができるし、こうしてると俺も癒されるの、と彼は優しく微笑んだ。
おしまい
レジを締め、明かりは付けたまま今日の売り上げをノートに記している午後10時過ぎ。
電卓を叩いて出てきた金額に頷く。
よかった。売り上げは順調。
あとはそろそろ新作を考えてもいい時期……。
今年のバレンタインフェア、何をしよう。
テーブルに肘をついてそこに頬を預け、うーんとため息をつく。
チョコレートにこだわってみるのもいいかな。
ベルギーチョコ美味しいんだよね。
ワッフル、パンケーキ、チョコフォンデュ……。
去年好評だったメニューをアレンジしてみてもいいかも。
バレンタインフェアは毎年甘いものたくさんで、慎之介さんがとても喜んでくれるのだ。
司さんが目からビームでも出しそうな勢いで睨みを利かせてるけど、鬼(司さんごめんなさい)の目を盗んで食べているのをわたしは知っている。
慎之介さんはもちろん、他の皆さんにも喜んで貰えるようなメニュー考えないと。
「………」
アイディアを考えていると睡魔が襲ってきていつしか時は過ぎ、思考回路は完全に停止してしまった。
肌寒さを感じながらも、眠気には勝てずウトウトしていると次第に暖かさを感じるようになってくる。
「……?」
目を開け、ぼんやりとした視界の端で見慣れた上着が目に入った。
体を起こし、滑り落ちそうになったそれに急激に目が覚め慌てて手で掴む。
「京也さんの上着……」
「お前の寝顔、可愛かったぜ?」
ぼーっとしたまま肩に掛かるジャケットを握りしめたわたしに声がかかる。
いつもの軽い調子で、寝起きを迎えてくれたのはX.I.P.のリーダー、伊達京也さん。
カウンターの、向きを変えられるスツールに腰かけ、投げ出した長い足を足首のところで組んだ京也さんがいた。
「寝顔……! い、いつから見てたんですかっ」
恥ずかしさに頬が火照り、涎は出てなかっただろうか?
慌てて口元を拭う。
「なーに、ちょっと前からだ。店で寝るなんて珍しいな?」
「ここのところお店が混んでて……あ、嬉しいことなんですけど」
「ハードな仕事に体が先に悲鳴上げたわけか。その悲鳴をききつけて京也さん飛んできちゃいました」
「体の悲鳴、聞こえてました?」
「聞こえた聞こえた……なんてな。本音をいうと俺がお前に会いたくなったんです」
照れもせず、さらっと心の奥を擽るような台詞を口にする京也さんに、聞いてる方がなんだか照れ臭い。
「お、いい顔するね。もっといい表情させたくなる」
「京也さん!」
「ま、冗談はさておき、あんまり頑張りすぎるなよ。誰かが止めないとずーっと突っ走るところあるから京也さん心配です」
「うっ……」
見透かされてグゥの音も出ない。
「上着、ありがとうございました。お返しします」
椅子から立ち上がって京也さんに上着を渡すとき、手と手が触れる。 わずかに触れた京也さんの手は温かかった。
「おいおい、風邪引くなよ?」
わたしの手が冷たかったことに気付いた京也さんが気づかってくれると同時に、上着を返し、温もりが消えたせいなのか寒さに体が震えた。
「だ、大丈夫です」
「大丈夫じゃないだろ。ほら、おいで」
腕を取った京也さんが優しくわたしを引き寄せる。広い腕の中に閉じ込められて、伝わってくる彼の温もりに抵抗しようとした体の力が緩んでしまう。
「……レス子、お前は本当にがんばり屋さんだな」
大切なものを扱うように、背中から抱き締めた手のひらが頭を優しく撫でてくれる。京也さんらしいその行為に、疲れもどこかに飛んでいくようだ。
甘えるように身を擦り寄せ、わたしは目を閉じた。
「寒くない、だろ?」
優しい声音がシャツ越しの硬い胸を通して聞こえてくる。
「一石二鳥だな」
「一石二鳥?」
腕の中でそっと顔を上げると、穏やかに見つめてくる京也さんの琥珀色の瞳とぶつかる。
そして。
お前を温めることができるし、こうしてると俺も癒されるの、と彼は優しく微笑んだ。
おしまい
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