打ち上げの夜に
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「シン、そこまでだ」
3Majestyのリーダー、霧島司の鋭い視線が走る。
その視線を真っ向から受け止めた音羽が静かに口を開いた。
「霧島くん……僕だって諦めるつもりはないよ」
「………」
二人に挟まれる形で様子を見ていた辻は、目の前に火花が散るのが見えるようだった。
夜の7時過ぎ。事務所の、住み慣れた自分の部屋。
テーブルの上には、いつものレストランで用意してもらった料理の数々が所狭しと並べられている。
ライブ後のスケジュール調整で誰かしらに単独での仕事が入ってなかなか3人集まれず、今日の打ち上げでやっと久しぶりに3Majestyが揃った。
反省会でもあり、お疲れ様会でもある、夏のライブ後の集まり。
お互いの主張を譲るつもりのない二人の戦いを見るのもなんか久しぶりな気がする。
「それ以上先へ進もうと考えているのならば、覚悟は出来ているだろうな」
「覚悟……」
霧島の言葉を繰り返し呟き、その場に僅かな沈黙が生まれる。
鋭い視線を受ける音羽の表情も、普段の柔らかなものと違い至って真剣。
テーブルを挟み緊迫した空気が部屋に流れる。
霧島くんは本気だ。
眼鏡のレンズの向こうから深いブルーの瞳が鋼のような意志をもって僕を見ている。
でも僕だって、蛇に睨まれたカエルじゃいられない。
気持ちを簡単に変えるつもりはないんだ。
あ。
待って。
いま、カエルと変えるって……上手く駄洒落になっちゃった。
ふふふ。
自分の考えに目の前の霧島から思いが削がれ、口角が持ち上がりそうになるのを口元を引き締めて堪える。
そう。
僕だって譲れない。
ーーー本気なんだ。
「随分余裕だな」
音羽の一挙一動を静かに見ていた霧島の瞳が細められ、フッと小さく笑った。
つかの間、気を抜いたな。
シン、お前のことなどお見通しだ。
何年共に過ごしたと思っている?
余裕さえ窺わせる様子で眼鏡のフレームをかけ直し、
「分かった。レッスン量を増やそう」
「ええー」
肩を落とし、口を大きく開け全力で音羽が否定を表す。口に運ぼうとしていたドーナツを持つ手が止まった。
「ま、まぁまぁ、霧島くんもさ今日くらいは多めにみよーぜ」
目の前で繰り広げられる攻防に我慢出来なくなった辻が口を開いた。
毎度のことながら、ドーナツにどれだけ真剣になれるんだと呆れ半分感心半分で音羽を思いながら、真剣にそれを阻止しようとする霧島に苦笑いを浮かべる。
「カイト、それじゃダメなんだ」
「えっ」
いつもと違う霧島の反応に、辻が驚きの声をあげる。
今度は自分が眼鏡越しの静かな瞳に射ぬかれていた。
いつもなら穏やかに笑みを浮かべ、ブラックホール(シンくんの胃袋)に吸い込まれていくスイーツを容認するはずなのに。
「俺たちはシンに甘すぎる」
「そう、かな……?」
チラリと音羽を見て、戸惑いの視線を霧島に投げ掛ける。
「カイト、思い返してみろ。打ち上げだから、祝賀会だからと、大きな集まりやイベントがあるごとに今回は特別だと、俺たちはその度に何度も何回もシンの犯す犯行を容認していた」
「いや、犯行って。でも、ああ……そういえばそうかも」
「俺たちは甘やかしすぎなんだ」
「えー甘くていいのに 」
音羽がとぼくれる。
「甘い物の取りすぎでいつか体調崩したら困るのは自分だぞ」
「隊長、僕の体調は至って良好です! 心配ありがとうございまーす」
音羽が伸ばした指を勢いよく額に当てて敬礼してみせる。
「いまは、だろう。これからもずっと、というわけじゃない。3Majestyの問題にもなる。どうするんだ、いつか透がいっていたようにドスコイ王子になってしまったら」
「ドスコイアイドルとはいってたけど、ドスコイ王子とはいってなかったよ」
「どっちも同じようなものだ」
「もういーだろ。ライブ終わってせっかく3人での打ち上げなんだからさ」
苦笑いを浮かべた辻が仲裁にはいる。
このやり取りも本人たちは真剣だし、とばっちりを受けなければちょっとホッとする光景でもあるんだよな。
他人が見たらヒヤヒヤするのかもだけど。
なんとかいまの会話から話を逸らそうと辻が席を立つ。
「雨の振りが激しくなってきた」
カーテンの隙間から窓の外を覗く。
「ライブのときに嵐じゃなくてよかったよな」窓の外を見ながら呟いたとき、ピカッ!! 暗い空が鈍色に光った。部屋のなかに入り込む銀色の眩しい光。
間髪入れずにバリバリと空を引き裂くような地響きを伴う爆音と共にフッと電気が消える。
雨の降りしきるザーザーという音だけが耳に届く、闇。
「え、停電?」
声だけが暗闇の中に浮かび上がる。
「この近くに落ちたか。動かずに様子を見よう」
霧島がいつもと変わらない落ち着いた口調で声をかける。
「少し待っていればすぐに復旧する」
沈黙の中、ガタン!
突然の物音。
「えっ、あっ」
暗闇の中、驚きの声が上がり、争うような物音が聞こえてきた。
「カイト……?」
霧島が問いかけた。
「ちょっ、ま……んんっ」
息を荒げ、口を塞がれるような苦しげな声。
「カイト!? 大丈夫か? 一体何が起きているんだ」
流石に不振に思った霧島が声をあげる。
再び大きな物音。
「う、んっ……ああっ」
続いて呻く音羽。
「シン? シンもなのか!? 二人共どうしたんだ!?」
状況が分からず、焦る霧島。
苦しげな二人に、それまで座っていた霧島も立ち上がった。
それと同時に部屋が明るくなる。
短い停電から復旧したようだ。
眩しい電気の光が照らされ、目を細めた。
カイトとシンは無事なのか!?
視線をさ迷わせ、ふたりを見つけ、
「…………」
ため息がでた。
ふたりとも口に入りきらないドーナツを咥えている。
「どういうことだ」
「シンくんが無理やり口にドーナツ突っ込んできたんだって!」
口からはみ出ているドーナツをもぎ取って辻が訴える。
あ。
これ、チーズドーナツだ。
口の中に残ったドーナツを咀嚼して気付く。
美味しい。
あの暗闇でチーズ系をチョイス出来るところがシンくんらしいな。
違う!
そうじゃなくて。
いま感心するとこじゃねぇ。
「だって僕1人だと霧島くん怒るでしょ」
当の音羽は反省の欠片もない態度で、もぐもぐと口を動かしている。
「なぜ、カイトに?」
「霧島くん相手は僕には無理だよ」
「なぜ?」
「霧島くんだったら暗闇で襲いかかったら空手技で返り討ちに遭うでしょ。カイトなら大丈夫かなって」
「シン……お前は……」
いいかけて、暗闇での出来事をもう一度脳内再生して疑問が生まれる。
抵抗するカイトの後で、シンまで苦しそうにしていた。
何者かに襲われたのかと、体に緊張が走ってーーー。
「じゃあ、なぜシンの悲鳴が聞こえたんだ?」
「それはね……霧島くんを撹乱させるためだよ。だってカイトだけだとすぐばれちゃうじゃない? ふふ、迫真の演技だったでしょ?」
「演技」
繰り返す霧島の声音が鋼のように硬い。レンズの向こうの瞳が細くなり、霧島の周りの温度が下がっていく。
心なしか肩が震えているように見えなくもない。
「ちょ、シンくん」
怒りのボルテージが上がっていく霧島をこれ以上刺激してはいけないと、辻が止めに入る。
「なるほど。流石アイドルだ」
霧島の開いた口を目掛け、テーブルの上に身を乗り出した音羽が動いた。
「それだけ完璧な演技が出来るなら、普段ももっと真面目にレッスンに取り組むことも出来ーーーんふっ!?」」
その口にドーナツを突っ込み、長くなりそうな話を遮った。
「シンくん……」
「やっぱり隊長にもあげないと不公平かなって思って」
「霧島くん固まってる」
「じゃあ、霧島くんが固まってる間に僕ももっと食べようっと」
「ふぉらひん……!!」
「ぷっ」
口にドーナツを咥えたまま唸る霧島、今のうちと音符マークを飛ばしながら幸せそうにドーナツを頬張る音羽。その真逆の光景に吹き出す辻。
事務所の寮に、意味不明の叫び声が響き渡った嵐の夜であった。
おしまい。
3Majestyのリーダー、霧島司の鋭い視線が走る。
その視線を真っ向から受け止めた音羽が静かに口を開いた。
「霧島くん……僕だって諦めるつもりはないよ」
「………」
二人に挟まれる形で様子を見ていた辻は、目の前に火花が散るのが見えるようだった。
夜の7時過ぎ。事務所の、住み慣れた自分の部屋。
テーブルの上には、いつものレストランで用意してもらった料理の数々が所狭しと並べられている。
ライブ後のスケジュール調整で誰かしらに単独での仕事が入ってなかなか3人集まれず、今日の打ち上げでやっと久しぶりに3Majestyが揃った。
反省会でもあり、お疲れ様会でもある、夏のライブ後の集まり。
お互いの主張を譲るつもりのない二人の戦いを見るのもなんか久しぶりな気がする。
「それ以上先へ進もうと考えているのならば、覚悟は出来ているだろうな」
「覚悟……」
霧島の言葉を繰り返し呟き、その場に僅かな沈黙が生まれる。
鋭い視線を受ける音羽の表情も、普段の柔らかなものと違い至って真剣。
テーブルを挟み緊迫した空気が部屋に流れる。
霧島くんは本気だ。
眼鏡のレンズの向こうから深いブルーの瞳が鋼のような意志をもって僕を見ている。
でも僕だって、蛇に睨まれたカエルじゃいられない。
気持ちを簡単に変えるつもりはないんだ。
あ。
待って。
いま、カエルと変えるって……上手く駄洒落になっちゃった。
ふふふ。
自分の考えに目の前の霧島から思いが削がれ、口角が持ち上がりそうになるのを口元を引き締めて堪える。
そう。
僕だって譲れない。
ーーー本気なんだ。
「随分余裕だな」
音羽の一挙一動を静かに見ていた霧島の瞳が細められ、フッと小さく笑った。
つかの間、気を抜いたな。
シン、お前のことなどお見通しだ。
何年共に過ごしたと思っている?
余裕さえ窺わせる様子で眼鏡のフレームをかけ直し、
「分かった。レッスン量を増やそう」
「ええー」
肩を落とし、口を大きく開け全力で音羽が否定を表す。口に運ぼうとしていたドーナツを持つ手が止まった。
「ま、まぁまぁ、霧島くんもさ今日くらいは多めにみよーぜ」
目の前で繰り広げられる攻防に我慢出来なくなった辻が口を開いた。
毎度のことながら、ドーナツにどれだけ真剣になれるんだと呆れ半分感心半分で音羽を思いながら、真剣にそれを阻止しようとする霧島に苦笑いを浮かべる。
「カイト、それじゃダメなんだ」
「えっ」
いつもと違う霧島の反応に、辻が驚きの声をあげる。
今度は自分が眼鏡越しの静かな瞳に射ぬかれていた。
いつもなら穏やかに笑みを浮かべ、ブラックホール(シンくんの胃袋)に吸い込まれていくスイーツを容認するはずなのに。
「俺たちはシンに甘すぎる」
「そう、かな……?」
チラリと音羽を見て、戸惑いの視線を霧島に投げ掛ける。
「カイト、思い返してみろ。打ち上げだから、祝賀会だからと、大きな集まりやイベントがあるごとに今回は特別だと、俺たちはその度に何度も何回もシンの犯す犯行を容認していた」
「いや、犯行って。でも、ああ……そういえばそうかも」
「俺たちは甘やかしすぎなんだ」
「えー甘くていいのに 」
音羽がとぼくれる。
「甘い物の取りすぎでいつか体調崩したら困るのは自分だぞ」
「隊長、僕の体調は至って良好です! 心配ありがとうございまーす」
音羽が伸ばした指を勢いよく額に当てて敬礼してみせる。
「いまは、だろう。これからもずっと、というわけじゃない。3Majestyの問題にもなる。どうするんだ、いつか透がいっていたようにドスコイ王子になってしまったら」
「ドスコイアイドルとはいってたけど、ドスコイ王子とはいってなかったよ」
「どっちも同じようなものだ」
「もういーだろ。ライブ終わってせっかく3人での打ち上げなんだからさ」
苦笑いを浮かべた辻が仲裁にはいる。
このやり取りも本人たちは真剣だし、とばっちりを受けなければちょっとホッとする光景でもあるんだよな。
他人が見たらヒヤヒヤするのかもだけど。
なんとかいまの会話から話を逸らそうと辻が席を立つ。
「雨の振りが激しくなってきた」
カーテンの隙間から窓の外を覗く。
「ライブのときに嵐じゃなくてよかったよな」窓の外を見ながら呟いたとき、ピカッ!! 暗い空が鈍色に光った。部屋のなかに入り込む銀色の眩しい光。
間髪入れずにバリバリと空を引き裂くような地響きを伴う爆音と共にフッと電気が消える。
雨の降りしきるザーザーという音だけが耳に届く、闇。
「え、停電?」
声だけが暗闇の中に浮かび上がる。
「この近くに落ちたか。動かずに様子を見よう」
霧島がいつもと変わらない落ち着いた口調で声をかける。
「少し待っていればすぐに復旧する」
沈黙の中、ガタン!
突然の物音。
「えっ、あっ」
暗闇の中、驚きの声が上がり、争うような物音が聞こえてきた。
「カイト……?」
霧島が問いかけた。
「ちょっ、ま……んんっ」
息を荒げ、口を塞がれるような苦しげな声。
「カイト!? 大丈夫か? 一体何が起きているんだ」
流石に不振に思った霧島が声をあげる。
再び大きな物音。
「う、んっ……ああっ」
続いて呻く音羽。
「シン? シンもなのか!? 二人共どうしたんだ!?」
状況が分からず、焦る霧島。
苦しげな二人に、それまで座っていた霧島も立ち上がった。
それと同時に部屋が明るくなる。
短い停電から復旧したようだ。
眩しい電気の光が照らされ、目を細めた。
カイトとシンは無事なのか!?
視線をさ迷わせ、ふたりを見つけ、
「…………」
ため息がでた。
ふたりとも口に入りきらないドーナツを咥えている。
「どういうことだ」
「シンくんが無理やり口にドーナツ突っ込んできたんだって!」
口からはみ出ているドーナツをもぎ取って辻が訴える。
あ。
これ、チーズドーナツだ。
口の中に残ったドーナツを咀嚼して気付く。
美味しい。
あの暗闇でチーズ系をチョイス出来るところがシンくんらしいな。
違う!
そうじゃなくて。
いま感心するとこじゃねぇ。
「だって僕1人だと霧島くん怒るでしょ」
当の音羽は反省の欠片もない態度で、もぐもぐと口を動かしている。
「なぜ、カイトに?」
「霧島くん相手は僕には無理だよ」
「なぜ?」
「霧島くんだったら暗闇で襲いかかったら空手技で返り討ちに遭うでしょ。カイトなら大丈夫かなって」
「シン……お前は……」
いいかけて、暗闇での出来事をもう一度脳内再生して疑問が生まれる。
抵抗するカイトの後で、シンまで苦しそうにしていた。
何者かに襲われたのかと、体に緊張が走ってーーー。
「じゃあ、なぜシンの悲鳴が聞こえたんだ?」
「それはね……霧島くんを撹乱させるためだよ。だってカイトだけだとすぐばれちゃうじゃない? ふふ、迫真の演技だったでしょ?」
「演技」
繰り返す霧島の声音が鋼のように硬い。レンズの向こうの瞳が細くなり、霧島の周りの温度が下がっていく。
心なしか肩が震えているように見えなくもない。
「ちょ、シンくん」
怒りのボルテージが上がっていく霧島をこれ以上刺激してはいけないと、辻が止めに入る。
「なるほど。流石アイドルだ」
霧島の開いた口を目掛け、テーブルの上に身を乗り出した音羽が動いた。
「それだけ完璧な演技が出来るなら、普段ももっと真面目にレッスンに取り組むことも出来ーーーんふっ!?」」
その口にドーナツを突っ込み、長くなりそうな話を遮った。
「シンくん……」
「やっぱり隊長にもあげないと不公平かなって思って」
「霧島くん固まってる」
「じゃあ、霧島くんが固まってる間に僕ももっと食べようっと」
「ふぉらひん……!!」
「ぷっ」
口にドーナツを咥えたまま唸る霧島、今のうちと音符マークを飛ばしながら幸せそうにドーナツを頬張る音羽。その真逆の光景に吹き出す辻。
事務所の寮に、意味不明の叫び声が響き渡った嵐の夜であった。
おしまい。
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