君は果実
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バタン。
普段全然気にもしないのに、今日に限っては玄関の扉が閉まる音がやけに大きく感じる。
司さんが一緒だと、些細なことすら敏感になるみたいだ。
「………」
「………」
言葉もなくふたりはその場に立ち尽くしていた。
普段何気なく使っている玄関、長身の司さんと並んで立つと慣れた空間もやけに狭く、息苦しく感じる。
暑くもないのに体の中から熱くなって、レス子の手のひらが汗ばむ。
ど、どうしよう。
意識するから余計に緊張するって分かってるけれど、好きな人と密室状態で冷静でいられるはずもなかった。
会話、会話……!
司さんも困って……。
焦っていると、
「ふむ、恋人の家に招かれた男性の滞在時間とはどれくらいなのだろうか」
冷静な声が頭の上から降ってきた。飛び上がったレス子が反射的に見上げる。
「ど、どうなんでしょう……」
もしかして黙ってたのはそんなことを考えていたから?
様子を伺っていると、こちらを向き、視線を合わせた霧島の至って真面目な表情とぶつかった。
「恋人を家にいれたことはない?」
「え、えっと、恥ずかしながらない、です」
思わず素直に答えていた。
家に連れてくるような彼氏がいたといえたらよかったのに、生憎そんな相手はいなかった。
人生にモテ期は三度やってくるというけれど、わたしの第1回モテ期はいつなんだろう?
複雑な気持ちでいるレス子に、霧島から予想外の反応が返ってきた。
「良かった」
良かった、って……。
硬かった霧島の表情がふっと緩んで、そこに柔らかい笑顔が浮かぶ。
うう。
不意打ちにそんな表情、ズルい。
残念女子だと思う気持ちもどこかへ吹き飛んでしまった。
3 Majestyのときに見せる王子スマイルとは違う、素の自然な笑顔に頬が熱くなって胸のドキドキが早くなる。
至近距離で刺激が強すぎます……!
それだけでわたしの心臓が口から溢れてしまいそうなのに、司さんは頬に触れてきた。
「つ、司さん……」
「しっ、黙って」
頬を染め、夢見るようなうっとりとした表情で見上げてくるレス子に、気付くと霧島は手を伸ばして触れていた。
いまは、俺の俺だけの彼女。
恋人を家に入れたことがないと聞いて、自分が初めてなのだと気づいた瞬間、なぜだか無性に嬉しかった。
嬉しくて感情のままに浮かべた笑みに、彼女はつかの間驚いた顔をしたが、その後に見せた表情は……陶酔? いや、もっと柔らかい、うっとりという言葉がしっくりくる……しかし、そんな表情させた俺は一体どんな顔をしていたんだ?
不思議だ。
レス子に触れていると気持ちが甘いもので満たされる。
側にいたらより近くへ。
隣りにいたら触れずにいられない。
彼女が相手だと距離感が分からなくなる。
シンやカイトが相手ならばパーソナルスペースに入ってきても特に気にならない。勿論、俺も必要とあらば二人のパーソナルスペースを気にすることなくどんどん入り込む。
いまは、お互いがその距離感に納得している。
たくさんの時間、様々な困難を乗り越えてきた大事な仲間だと認め合っているから。
しかし、彼女は。
レス子には常に触れていたい。
霧島は睫毛を下げ、レス子をじっと見つめた。
滑らかな頬が今は赤く染まって、林檎のようだ。
食べたら酸っぱい? 甘い?
いや、絶対甘いだろう。
一口だけ味わってもいいだろうか?
一口だけだ。
「あっ……」
レス子の頬を撫でていた霧島の指がその顎を持ち上げ、頭を下げる。
霧島のロイヤルブルーの瞳が陰り、次に何が起きるか気付いたレス子は自ら目を閉じ、唇に重なる柔らかい感触を受け止めた。
「………」
司さんにキスされるまま、棒立ちになって動けない。
ドキドキし過ぎて胸が爆発しそう。
嬉しい気持ちとどうしたらいいか分からない気持ちが混じりあって分けが分からない。
でも、拒絶する気持ちだけはなかった。
「もう一度……」
僅かに顔を離しただけの至近距離から囁く霧島の声。普段よりも低く甘い声が胸のうちを擽る。
震える睫毛を伏せ、目を閉じると今度はさっきよりも長く唇か重ねられた。
棒立ちだったレス子の足元がふらつき、バランスを崩す前に霧島の腕が支えるように背中に回る。
離れていた体が引き寄せられ、霧島の胸に手を置いた。服の上からも分かる、引き締まった硬い胸。
「………っ」
目を閉じてキスを受けながら、ドクンドクンと早鐘を打つ心臓の音が体中に響く。
さっきよりも少し長めのキスの後、衣擦れの音がして司さんが離れた。
整った顔はまだ近いところにある。
「君の唇は柔らかくて甘いな」
「………?」
その言葉に首を傾げたレス子だが、答えを見つけた霧島は満足そうに再び唇を求めた。
キスをしたまま、角度を変えようとしたとき、
「………っ!」
レス子が驚いた声を上げ、身を強張らせた。
ハッとして我に返ると、眼鏡のフレームの金具の部分が彼女の髪を噛んで引っ張っていた。
「すまない」
慌てて眼鏡を外し、絡んでしまったレス子の艶やかな髪をそっと外す。
「大丈夫か?」
「ちょっとびっくりしただけで……大丈夫です」
「………」
「………」
完全に彼女のこと、彼女とのキスに没頭していた。
眼鏡の邪魔が入らなければより多くのものを求めていたかもしれない。
どんな状況でも必ずどこかに冷静な部分は残っていた。しかしいま、分別がなくなるほど我を忘れていた。
邪魔が入ったのが良かったのか悪かったのか。
とにかくいまいえることは、レス子に怪我をさせなくて良かったということだ。
彼女に夢中になるあまり、他の事が全く考えられなくなるとは。
霧島が少しの気恥ずかしさを感じつつレス子を見ると、彼女も気恥ずかしさを感じているのかどこか落ち着きがなくて。
俺の視線に気づいて目が合うと、どちらからともなく笑みが溢れ、照れてしまうのに笑いも止まらなくて。
濃密なムードが払拭され、後には楽しげなふたりの笑い声が続いた。
普段全然気にもしないのに、今日に限っては玄関の扉が閉まる音がやけに大きく感じる。
司さんが一緒だと、些細なことすら敏感になるみたいだ。
「………」
「………」
言葉もなくふたりはその場に立ち尽くしていた。
普段何気なく使っている玄関、長身の司さんと並んで立つと慣れた空間もやけに狭く、息苦しく感じる。
暑くもないのに体の中から熱くなって、レス子の手のひらが汗ばむ。
ど、どうしよう。
意識するから余計に緊張するって分かってるけれど、好きな人と密室状態で冷静でいられるはずもなかった。
会話、会話……!
司さんも困って……。
焦っていると、
「ふむ、恋人の家に招かれた男性の滞在時間とはどれくらいなのだろうか」
冷静な声が頭の上から降ってきた。飛び上がったレス子が反射的に見上げる。
「ど、どうなんでしょう……」
もしかして黙ってたのはそんなことを考えていたから?
様子を伺っていると、こちらを向き、視線を合わせた霧島の至って真面目な表情とぶつかった。
「恋人を家にいれたことはない?」
「え、えっと、恥ずかしながらない、です」
思わず素直に答えていた。
家に連れてくるような彼氏がいたといえたらよかったのに、生憎そんな相手はいなかった。
人生にモテ期は三度やってくるというけれど、わたしの第1回モテ期はいつなんだろう?
複雑な気持ちでいるレス子に、霧島から予想外の反応が返ってきた。
「良かった」
良かった、って……。
硬かった霧島の表情がふっと緩んで、そこに柔らかい笑顔が浮かぶ。
うう。
不意打ちにそんな表情、ズルい。
残念女子だと思う気持ちもどこかへ吹き飛んでしまった。
3 Majestyのときに見せる王子スマイルとは違う、素の自然な笑顔に頬が熱くなって胸のドキドキが早くなる。
至近距離で刺激が強すぎます……!
それだけでわたしの心臓が口から溢れてしまいそうなのに、司さんは頬に触れてきた。
「つ、司さん……」
「しっ、黙って」
頬を染め、夢見るようなうっとりとした表情で見上げてくるレス子に、気付くと霧島は手を伸ばして触れていた。
いまは、俺の俺だけの彼女。
恋人を家に入れたことがないと聞いて、自分が初めてなのだと気づいた瞬間、なぜだか無性に嬉しかった。
嬉しくて感情のままに浮かべた笑みに、彼女はつかの間驚いた顔をしたが、その後に見せた表情は……陶酔? いや、もっと柔らかい、うっとりという言葉がしっくりくる……しかし、そんな表情させた俺は一体どんな顔をしていたんだ?
不思議だ。
レス子に触れていると気持ちが甘いもので満たされる。
側にいたらより近くへ。
隣りにいたら触れずにいられない。
彼女が相手だと距離感が分からなくなる。
シンやカイトが相手ならばパーソナルスペースに入ってきても特に気にならない。勿論、俺も必要とあらば二人のパーソナルスペースを気にすることなくどんどん入り込む。
いまは、お互いがその距離感に納得している。
たくさんの時間、様々な困難を乗り越えてきた大事な仲間だと認め合っているから。
しかし、彼女は。
レス子には常に触れていたい。
霧島は睫毛を下げ、レス子をじっと見つめた。
滑らかな頬が今は赤く染まって、林檎のようだ。
食べたら酸っぱい? 甘い?
いや、絶対甘いだろう。
一口だけ味わってもいいだろうか?
一口だけだ。
「あっ……」
レス子の頬を撫でていた霧島の指がその顎を持ち上げ、頭を下げる。
霧島のロイヤルブルーの瞳が陰り、次に何が起きるか気付いたレス子は自ら目を閉じ、唇に重なる柔らかい感触を受け止めた。
「………」
司さんにキスされるまま、棒立ちになって動けない。
ドキドキし過ぎて胸が爆発しそう。
嬉しい気持ちとどうしたらいいか分からない気持ちが混じりあって分けが分からない。
でも、拒絶する気持ちだけはなかった。
「もう一度……」
僅かに顔を離しただけの至近距離から囁く霧島の声。普段よりも低く甘い声が胸のうちを擽る。
震える睫毛を伏せ、目を閉じると今度はさっきよりも長く唇か重ねられた。
棒立ちだったレス子の足元がふらつき、バランスを崩す前に霧島の腕が支えるように背中に回る。
離れていた体が引き寄せられ、霧島の胸に手を置いた。服の上からも分かる、引き締まった硬い胸。
「………っ」
目を閉じてキスを受けながら、ドクンドクンと早鐘を打つ心臓の音が体中に響く。
さっきよりも少し長めのキスの後、衣擦れの音がして司さんが離れた。
整った顔はまだ近いところにある。
「君の唇は柔らかくて甘いな」
「………?」
その言葉に首を傾げたレス子だが、答えを見つけた霧島は満足そうに再び唇を求めた。
キスをしたまま、角度を変えようとしたとき、
「………っ!」
レス子が驚いた声を上げ、身を強張らせた。
ハッとして我に返ると、眼鏡のフレームの金具の部分が彼女の髪を噛んで引っ張っていた。
「すまない」
慌てて眼鏡を外し、絡んでしまったレス子の艶やかな髪をそっと外す。
「大丈夫か?」
「ちょっとびっくりしただけで……大丈夫です」
「………」
「………」
完全に彼女のこと、彼女とのキスに没頭していた。
眼鏡の邪魔が入らなければより多くのものを求めていたかもしれない。
どんな状況でも必ずどこかに冷静な部分は残っていた。しかしいま、分別がなくなるほど我を忘れていた。
邪魔が入ったのが良かったのか悪かったのか。
とにかくいまいえることは、レス子に怪我をさせなくて良かったということだ。
彼女に夢中になるあまり、他の事が全く考えられなくなるとは。
霧島が少しの気恥ずかしさを感じつつレス子を見ると、彼女も気恥ずかしさを感じているのかどこか落ち着きがなくて。
俺の視線に気づいて目が合うと、どちらからともなく笑みが溢れ、照れてしまうのに笑いも止まらなくて。
濃密なムードが払拭され、後には楽しげなふたりの笑い声が続いた。