帰り道
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お店を閉め、街灯のぼんやりとした灯りが照らす夜道を司さんに見送ってもらいながら家の近くまで来ると、隣に並んで歩く司さんが今日何度目かのため息をついた。
「君の自宅を調べることくらい簡単か。レス子、そのままいつも通り歩いて」
「え?」
ふたりの靴音だけが夜の闇に響く。
司さんの手がレス子の肩へと回る。足を止めないよう、抱いた腕でさりげなく前へと誘われる。
司さん側の体が、思わぬ密着にどきっとした。
「不自然な動きをしないでほしい。マリエッタを乗せたロールスロイスが止まっている」
「ど、どうしましょう……?」
夜のこの時間この道を使う車は少ない。車の通りが少ない分、止まっている車があれば目立つ。
「マリエッタはフランスの大使館に身を寄せているんだ。もし、あの車に彼女が乗っているならナンバープレートはブルーナンバーなはずだ。確認をしたい」
「ブルーナンバー?」
聞いたことがない。
「プレートのカラーが青で、外という漢字にいくつかの数字が並んでいる。各国の大使館の車のみが使用出来るナンバープレートなんだ」
「そんなものがあるなんて知らなかったです。でも、確認ってどうやって……?」
「こっちが気付いていることを知られたくない。このまま君を抱き締めるから、反対の車道に寄せている車を見て欲しい」
だ、抱き締める!?
「さあ、恋人役を演じる時間だ」
司さんがふと足を止めた。肩を抱いていない方の腕が腰に回り体ごと引き寄せられる。
胸に顔を埋める前の僅かな時間、暗い夜道に視線をさ迷わせ唯一止まっている車を見つけ、与えられた役目をこなす。
「………」
服越しにも分かる、引き締まった固い胸。
フワッと香るのは、爽やかな香水と男らしい司さんの香り。
彼の鼓動が聞こえる。早いのは、わたしのせい? それとも緊迫した状況のせい?
「か、確認しました……」
いつまでもこうして胸に顔を埋めていたい衝動にかられるも、なんとか言葉を口にした。
「どうだった?」
体を離して解放されたことに寂しさを感じたのも束の間、今度は両手で頬を掬い上げるようにして、司さんは顔を近づけながら親指で頬を撫で始めた。
聞こえてくる穏やかな声は耳に心地よく、優しく触れている指はまるで最愛の人に触れているかのよう。
端から見たら誰もが恋人同士だと思うだろう。
うっとりと身を預けてしまいそうになる自分を叱咤する。
これは演技なのだ。
「ブルーナンバーです。外の文字と並ぶ数字を確認しました」
話している間ずっと司さんの視線が口元に注がれて、落ち着かない気持ちになる。
「やはりそうか。それにしてもなぜ君の家に……」
レス子と話をつけるため?
いや。レス子との関係を疑っていたから、話をするとすれば直接俺のところにくるだろう。
だとしたら恋人と一緒に帰るところを見届けるためか?
「つ、司さん……」
触れているレス子の頬が熱い。
堪えきれないといった感じで名前を呼ばれ、愛しさが込み上げてきた。
瞳を潤ませ、震えているのは俺が怖いから?
「怖がらないで」
小さな物音ひとつでも立てたら逃げてしまいそうな、警戒心の強い小動物に話しかけるようにそっと声をかける。
彼女には嫌われたくない。
自分でも驚くほど、レス子の反応が気になった。
「……怖く、ないです」
霧島はその返答に安堵し、体から力が抜けていくのを感じた。
困ったな。
このまま彼女を離したくない。
3 Majestyのリーダー、霧島司。
それをやめるつもりは全くない。
マリエッタから共にブリュアイランドへ行こうと誘われたとき、咄嗟に浮かんだのはレス子の顔だった。
そうだ。
俺は彼女の側を離れたくない。
彼女が作ってくれた料理が食べられなくほど、遠くへ離れたくはないんだ。
濡れたような大きな瞳も、サラサラの髪も、いまは上気しているであろう柔らかな頬も、ちょこんと上を向いた小さな鼻も、唇もいまは俺のものだ。
街灯の明かりの下でも、彼女のことがよく見えるよう顔を持ち上げ、その魅力的な唇をじっと見つめ続けた。
一方のレス子は、綺麗に生え揃った睫毛の下からロイヤルブルーの瞳が自分の目よりも下を見ていることにドキドキが止まらないでいた。
しかし、霧島のほうは魅入られたように止める気配がない。
過去にドラマで共演した間柄の、同じ業界の女性に頼むことも出来ただろう。
プロが相手ならやり易かったとは思う。
だが、毎日のように温かく美味しいご飯を作ってくれるレス子以外、『彼女』を頼みたいと思う相手は浮かばなかった。
訳を話す時間がないまま彼女と紹介し、戸惑わせてしまったことは申し訳ないと思う。
それでもあの場で「違う」と否定されなかったことに救われた。
そこまで考えてふと疑問がよぎる。
しかしなぜ、彼女なんだろうか?
一番多くの時間を過ごしていて、信頼に値するからだろうか……?
口元に視線を注いだまま、この唇の端にキスをしたことを思い返して疑問はどこかへ吹き飛んだ。
あのとき、キスをしなければいけない状況なのに、堂々とレス子に触れることが出来て俺は舞い上がっていた。
無理難題を押し付けてくるマリエッタにも、あのときばかりは心のどこかで感謝していたと思う。
しかし今、そのマリエッタのお陰で、このまま帰るわけにはいかなくなってしまった。
この状況を俺は困っているのか、本当は喜んでいるのか……?
滑らかな肌の質感を指先で楽しんでいた霧島は躊躇いながらも口を開いた。
「家の前まで見送るだけのつもりだったんだが……中に入れてもらってもいいだろうか?」
少しだけ時間を潰させもらい、帰る。
ただ、それだけだ。
「君の自宅を調べることくらい簡単か。レス子、そのままいつも通り歩いて」
「え?」
ふたりの靴音だけが夜の闇に響く。
司さんの手がレス子の肩へと回る。足を止めないよう、抱いた腕でさりげなく前へと誘われる。
司さん側の体が、思わぬ密着にどきっとした。
「不自然な動きをしないでほしい。マリエッタを乗せたロールスロイスが止まっている」
「ど、どうしましょう……?」
夜のこの時間この道を使う車は少ない。車の通りが少ない分、止まっている車があれば目立つ。
「マリエッタはフランスの大使館に身を寄せているんだ。もし、あの車に彼女が乗っているならナンバープレートはブルーナンバーなはずだ。確認をしたい」
「ブルーナンバー?」
聞いたことがない。
「プレートのカラーが青で、外という漢字にいくつかの数字が並んでいる。各国の大使館の車のみが使用出来るナンバープレートなんだ」
「そんなものがあるなんて知らなかったです。でも、確認ってどうやって……?」
「こっちが気付いていることを知られたくない。このまま君を抱き締めるから、反対の車道に寄せている車を見て欲しい」
だ、抱き締める!?
「さあ、恋人役を演じる時間だ」
司さんがふと足を止めた。肩を抱いていない方の腕が腰に回り体ごと引き寄せられる。
胸に顔を埋める前の僅かな時間、暗い夜道に視線をさ迷わせ唯一止まっている車を見つけ、与えられた役目をこなす。
「………」
服越しにも分かる、引き締まった固い胸。
フワッと香るのは、爽やかな香水と男らしい司さんの香り。
彼の鼓動が聞こえる。早いのは、わたしのせい? それとも緊迫した状況のせい?
「か、確認しました……」
いつまでもこうして胸に顔を埋めていたい衝動にかられるも、なんとか言葉を口にした。
「どうだった?」
体を離して解放されたことに寂しさを感じたのも束の間、今度は両手で頬を掬い上げるようにして、司さんは顔を近づけながら親指で頬を撫で始めた。
聞こえてくる穏やかな声は耳に心地よく、優しく触れている指はまるで最愛の人に触れているかのよう。
端から見たら誰もが恋人同士だと思うだろう。
うっとりと身を預けてしまいそうになる自分を叱咤する。
これは演技なのだ。
「ブルーナンバーです。外の文字と並ぶ数字を確認しました」
話している間ずっと司さんの視線が口元に注がれて、落ち着かない気持ちになる。
「やはりそうか。それにしてもなぜ君の家に……」
レス子と話をつけるため?
いや。レス子との関係を疑っていたから、話をするとすれば直接俺のところにくるだろう。
だとしたら恋人と一緒に帰るところを見届けるためか?
「つ、司さん……」
触れているレス子の頬が熱い。
堪えきれないといった感じで名前を呼ばれ、愛しさが込み上げてきた。
瞳を潤ませ、震えているのは俺が怖いから?
「怖がらないで」
小さな物音ひとつでも立てたら逃げてしまいそうな、警戒心の強い小動物に話しかけるようにそっと声をかける。
彼女には嫌われたくない。
自分でも驚くほど、レス子の反応が気になった。
「……怖く、ないです」
霧島はその返答に安堵し、体から力が抜けていくのを感じた。
困ったな。
このまま彼女を離したくない。
3 Majestyのリーダー、霧島司。
それをやめるつもりは全くない。
マリエッタから共にブリュアイランドへ行こうと誘われたとき、咄嗟に浮かんだのはレス子の顔だった。
そうだ。
俺は彼女の側を離れたくない。
彼女が作ってくれた料理が食べられなくほど、遠くへ離れたくはないんだ。
濡れたような大きな瞳も、サラサラの髪も、いまは上気しているであろう柔らかな頬も、ちょこんと上を向いた小さな鼻も、唇もいまは俺のものだ。
街灯の明かりの下でも、彼女のことがよく見えるよう顔を持ち上げ、その魅力的な唇をじっと見つめ続けた。
一方のレス子は、綺麗に生え揃った睫毛の下からロイヤルブルーの瞳が自分の目よりも下を見ていることにドキドキが止まらないでいた。
しかし、霧島のほうは魅入られたように止める気配がない。
過去にドラマで共演した間柄の、同じ業界の女性に頼むことも出来ただろう。
プロが相手ならやり易かったとは思う。
だが、毎日のように温かく美味しいご飯を作ってくれるレス子以外、『彼女』を頼みたいと思う相手は浮かばなかった。
訳を話す時間がないまま彼女と紹介し、戸惑わせてしまったことは申し訳ないと思う。
それでもあの場で「違う」と否定されなかったことに救われた。
そこまで考えてふと疑問がよぎる。
しかしなぜ、彼女なんだろうか?
一番多くの時間を過ごしていて、信頼に値するからだろうか……?
口元に視線を注いだまま、この唇の端にキスをしたことを思い返して疑問はどこかへ吹き飛んだ。
あのとき、キスをしなければいけない状況なのに、堂々とレス子に触れることが出来て俺は舞い上がっていた。
無理難題を押し付けてくるマリエッタにも、あのときばかりは心のどこかで感謝していたと思う。
しかし今、そのマリエッタのお陰で、このまま帰るわけにはいかなくなってしまった。
この状況を俺は困っているのか、本当は喜んでいるのか……?
滑らかな肌の質感を指先で楽しんでいた霧島は躊躇いながらも口を開いた。
「家の前まで見送るだけのつもりだったんだが……中に入れてもらってもいいだろうか?」
少しだけ時間を潰させもらい、帰る。
ただ、それだけだ。