司さんの彼女になる(仮)
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閉店間際の忙しさが落ち着いた頃、慎之介さんと魁斗さんがレストランに現れた。
いつものキラキラのアイドルらしさは影を潜め、物思いに耽っているのか俯きがち。ふたりともどこか沈んだような浮かない顔をしている。
空いている店内を、いつもの席に向かう足取りも重かった。
「いらっしゃいませ」
テーブルにお水を運ぶと、すがるような面持ちで慎之介さんと魁斗さんがこちらを見上げてきた。
「俺たち3 Majestyじゃなくなるかも」
「このままだと2 Majestyになっちゃう」
「え……? どういうことですか?」
3 Majestyはデビューからずっと3人グループ。
誰一人欠けてもいけないのだ。
「霧島くんが3 Majestyを抜けるかもしれない……ううん、日本からもいなくなってしまうかもしれないんだ」
日本からもいなくなってしまう。
そこまで聞いて頭を過ったのは、ブリュアイランドのプリンセス、マリエッタの姿だった。
「日本からいなくなるって……」
先を促すと、今まで日本と主だった交流のなかったブリュアイランドのプリンセスが親善の為に来日。
日本の歴史に大変興味があり、さまざまな場に顔をだしては見聞を広めているらしい。
わたしは自宅でも時間があればレシピを考えていて外の情報には疎い。なにかきっかけがなければテレビも見ない生活を送っている。
大々的に取り上げられたらしい彼女の来日も、知らなかったわけだ。
そして司さんとは、雑誌の対談で初めて顔を合わせてからというもの、知識豊富で聡明。取り乱すことない王子然とした雰囲気と、何事にも動じない冷静さが認められて「あなたならすぐに王子になれるわ」と、とても気に入られてしまい、それ以来べったりだそうで……。
「あのプリンセス、花婿探しに来日したってウワサも聞くし、霧島くん、このままだと本当にアイドルやめるかもしれない……!!」
辻が頭を抱えテーブルに突っ伏し、音羽はテーブルに付いた肘に片方の頬を預け、ぼんやり窓の外を見てため息をついた。
新たしい情報を手に入れ、謎が線と線で繋がった。
マリエッタが司さんに対して積極的だったのは、結婚したいから。
逆に結婚するつもりのない司さんは、わたしを恋人と偽って……。
「それ、もしかしたら阻止しようとしているのかも」
だって、そうじゃなければわたしを恋人なんて紹介するわけない。
そう自分で考えてちょっと悲しくなってきた。
「えっ」
レス子の呟きに、ふたりの視線がこちらを見る。
レス子は自分を指先す。
「わたし、マリエッタに司さんの恋人だって紹介されました」
「恋人!?」
「はぁ!?」
音羽と辻かテーブルに両手をついて立ち上がり、その反応にレス子はびくっとして胸に抱くお盆を握りしめた。
グループのリーダーが、行きつけのレストランの知り合いと恋仲ってことになるとやっぱりびっくりだよね……。
わたしはただの一般人だもの。
「あ、でも本当の恋人じゃなくて、仮のだと思います」
「当たり前だよ!」
「レス子の恋人とか、ありえねーし!」
仮のだと訂正をすると、今度はこちらに身を乗りだしたふたりから秒もかからずに言葉が返ってきた。
そんな否定するとこ?
全力すぎてなんだかショックだ。
レス子落ち込む。
「わたしだって司さんの恋人とかおこがましいって思ってますよ……」
「違う!!」
「そうじゃないんだって!!」
「じゃあなにがダメっていうんですか……」
ふたりの剣幕にレス子はタジタジだ。
「あ、あー……でも」
「うん……」
ショックを引きずりその場に立ち尽くすレス子を余所に、音羽と辻は差し迫った様子で頭を寄せ、なにやら話し合いを始めた。
頭を振ったり、強く頷いたり、表情は至って真剣だ。
「うーん、この問題が落ち着くまで協力しあった方が良さそうだね。あ、僕、ミルクティーホットでお願いします」
「だな。俺はジンジャーエール」
「ホットミルクティーとジンジャーエールですね。オーダー承りました」
レス子が飲み物を用意する為に離れると、ふたりはまた頭を寄せあって内密の話でもするように熱のこもった話し合いを始めた。
一体なにを話し合っているのだろう? 首を傾げつつ厨房に戻り、茶葉を入れたティーポットにお湯を入れてジャンピングさせながら、思い出すのは別のことだった。
柔らかな唇の感覚。
司さんとしたキス。
唇ではなかったけど、司さんにああして触れられるのは嫌じゃなかった。
もし、あのキスを口に受けていたら……。
そう考えるだけで胸が切望に痛いくらいドキドキした。
本当に口にキスを受けていたらわたしはどうなってしまうのだろう。
一般人とアイドルのお付き合いってやっぱり難しいのかな……。
いっそのことお料理番組とかに出演できるようになれば、隣に並ぶのに少しは相応しくなる?
レストランを受け継いでここでの生活があるのに、ありえないこと考えてバカだな、わたし。
でも、そんなありえないことを考えてしまうくらい、仮なんかじゃなくて、司さんと本当の恋人になりたい気持ちが強くなっている。
カランカラン。
入り口のベルが鳴って顔を上げると高いところからのぞく枯れ草色の髪が見えた瞬間、司さんだと分かった。
店内に入ってきた司さんは、一見わからないくらい僅かだけれど、眉間が寄っている。
疲れているのかな。レス子は心配になった。
霧島はいつもの席に音羽と辻を見つけるとそちらへ向かった。顔を上げたふたりが笑顔で迎える。
「霧島くん」
「プリンセスは巻けたの?」
「ああ、仕事だといって抜けてきた」
重いため息を着きながら席へと着く。
「いらっしゃいませ」
お待たせしました、と続けて音羽と辻の飲み物を置く。手前の席の司さんが顔を上げ、メガネ越しにロイヤルブルーの瞳と目が合った。
「トニックウォーターをひとつ」
「はい」
「レス子、さっきは合わせてくれてありがとう。なにも打ち合わせをしていない状態で、俺の望む通りに動いてくれて本当に助かった」
「お役に立てて良かったです」
本当は展開についていけなかっただけなんだけれど。
内心苦笑い。
「さっき慎之介さんと魁斗さんにだいたいの事情は聞きました」
「そうか」
「3 Majestyをやめないために、マリエッタのアプローチを避けているんですよね?」
「ああ。相手が相手だけにハッキリと断ることも出来なくて。下手に傷つけてもし外交に問題が起きたら国家問題に繋がりかねない。彼女がいると伝えるのが一番いい方法かと思った。申し訳ないが、しばらく彼女のフリをしてもらってもいいだろうか?」
女性としてはどうなのだろうか。
モデルでも通用しそうなほっそりした体型のマリエッタは、男性なら魅力的に映るのでは。
「わたしは構わないですけど……」
「はーい! 僕は霧島くんが王子なのがいけないと思いまーす」
「普段からスマートっていうか、王子っぽい雰囲気あるし、それやめたらいいんじゃね」
「やめるとは?」
「プリンセスの前では不破くんみたいになってみたらいいんじゃない!? 『ああ、おう、だな、ニク』を多用して、無駄に動かないのはどう!?」
「シン、剣人のことをどんな目でみているんだ」
やれやれと首を振る。
その様子から音羽の案は却下されたようだ。
「伊達くんみたいにプレイボーイ気取るとか……いや、霧島くんの伊達くん想像つかねぇし」
「京也みたいに、か」
口元に拳を当て、ふむと頷く。
「レス子」
「は、はい」
突然立ち上がる霧島に仰け反り気味に驚く。
「お前の笑顔には誰も敵わねぇよ。どれだけ俺を夢中にさせるつもりなんだ? マイレディ」
「………」
う。
両手を広げてウインク付きの笑顔でいわれても違和感有りすぎでどう反応したらいいの……!
「……ぷっ」
吹き出す声にそちらを見ると、音羽と辻が顔を背けてプルプルしている。
その様子を見た霧島が思案げな表情を浮かべた。
「やはり無理があるか」
チャレンジ精神の塊ですか!!
「透みたいにいつも相手の感情を逆撫でて引っ掻き回すのも疲れそうだ」
やれやれと霧島は席に座り直す。
透さんみたいに猫化する司さん……。
背中の毛を立ててニャーニャー?
「想像できません……」
「最初についたイメージというものはなかなか変えられないものだな。普段と変えてみたところで違和感を感じるだけだ」
冷静に分析して、無理があったと反省している。
決してネガティブになることなく、深い青の瞳で見つめるのはいつだって前方。前に進み挑戦することを躊躇わない。この真っ直ぐなところが、時に可愛かったり素敵だったり、頼もしかったりするんだよなぁ。
レス子は眩しい光を見つめるように目を細め、微笑んだ。その穏やかな眼差しを音羽も辻も見逃さなかった。
そんな顔をされたら、協力するななんていなえないよ。やがて諦めたように、
「わかった。プリンセスが諦めるまで、君には隊長の彼女を演じてもらうしかないみたいだね」
「プリンセスが諦めるまで」
音羽の案に、辻か頷く。
「ふたりからの許しも出たことだし、改めてしばらくは俺の彼女を演じてもらえないだろうか?」
「はい……分かりました」
彼女『役』に引っ掛かるものがありながらも、レス子は頷く。
顔を上げるとロイヤルブルーの瞳とぶつかった。心の奥まで見透かされてしまいそうで怖いのに、どこか気遣うような色を浮かべる瞳と絡む視線を外すことが出来ない。
目の前で見つめ合う霧島とレス子に、音羽と辻は『仮』とはいえ、とんでもない約束をさせてしまったかもしれないと既に後悔し始めていた。
「プリンセス・マリエッタが諦めるまでだからな!」
「期間限定の仮の恋人だからね!」
念を押してふたりは帰っていった。
いつものキラキラのアイドルらしさは影を潜め、物思いに耽っているのか俯きがち。ふたりともどこか沈んだような浮かない顔をしている。
空いている店内を、いつもの席に向かう足取りも重かった。
「いらっしゃいませ」
テーブルにお水を運ぶと、すがるような面持ちで慎之介さんと魁斗さんがこちらを見上げてきた。
「俺たち3 Majestyじゃなくなるかも」
「このままだと2 Majestyになっちゃう」
「え……? どういうことですか?」
3 Majestyはデビューからずっと3人グループ。
誰一人欠けてもいけないのだ。
「霧島くんが3 Majestyを抜けるかもしれない……ううん、日本からもいなくなってしまうかもしれないんだ」
日本からもいなくなってしまう。
そこまで聞いて頭を過ったのは、ブリュアイランドのプリンセス、マリエッタの姿だった。
「日本からいなくなるって……」
先を促すと、今まで日本と主だった交流のなかったブリュアイランドのプリンセスが親善の為に来日。
日本の歴史に大変興味があり、さまざまな場に顔をだしては見聞を広めているらしい。
わたしは自宅でも時間があればレシピを考えていて外の情報には疎い。なにかきっかけがなければテレビも見ない生活を送っている。
大々的に取り上げられたらしい彼女の来日も、知らなかったわけだ。
そして司さんとは、雑誌の対談で初めて顔を合わせてからというもの、知識豊富で聡明。取り乱すことない王子然とした雰囲気と、何事にも動じない冷静さが認められて「あなたならすぐに王子になれるわ」と、とても気に入られてしまい、それ以来べったりだそうで……。
「あのプリンセス、花婿探しに来日したってウワサも聞くし、霧島くん、このままだと本当にアイドルやめるかもしれない……!!」
辻が頭を抱えテーブルに突っ伏し、音羽はテーブルに付いた肘に片方の頬を預け、ぼんやり窓の外を見てため息をついた。
新たしい情報を手に入れ、謎が線と線で繋がった。
マリエッタが司さんに対して積極的だったのは、結婚したいから。
逆に結婚するつもりのない司さんは、わたしを恋人と偽って……。
「それ、もしかしたら阻止しようとしているのかも」
だって、そうじゃなければわたしを恋人なんて紹介するわけない。
そう自分で考えてちょっと悲しくなってきた。
「えっ」
レス子の呟きに、ふたりの視線がこちらを見る。
レス子は自分を指先す。
「わたし、マリエッタに司さんの恋人だって紹介されました」
「恋人!?」
「はぁ!?」
音羽と辻かテーブルに両手をついて立ち上がり、その反応にレス子はびくっとして胸に抱くお盆を握りしめた。
グループのリーダーが、行きつけのレストランの知り合いと恋仲ってことになるとやっぱりびっくりだよね……。
わたしはただの一般人だもの。
「あ、でも本当の恋人じゃなくて、仮のだと思います」
「当たり前だよ!」
「レス子の恋人とか、ありえねーし!」
仮のだと訂正をすると、今度はこちらに身を乗りだしたふたりから秒もかからずに言葉が返ってきた。
そんな否定するとこ?
全力すぎてなんだかショックだ。
レス子落ち込む。
「わたしだって司さんの恋人とかおこがましいって思ってますよ……」
「違う!!」
「そうじゃないんだって!!」
「じゃあなにがダメっていうんですか……」
ふたりの剣幕にレス子はタジタジだ。
「あ、あー……でも」
「うん……」
ショックを引きずりその場に立ち尽くすレス子を余所に、音羽と辻は差し迫った様子で頭を寄せ、なにやら話し合いを始めた。
頭を振ったり、強く頷いたり、表情は至って真剣だ。
「うーん、この問題が落ち着くまで協力しあった方が良さそうだね。あ、僕、ミルクティーホットでお願いします」
「だな。俺はジンジャーエール」
「ホットミルクティーとジンジャーエールですね。オーダー承りました」
レス子が飲み物を用意する為に離れると、ふたりはまた頭を寄せあって内密の話でもするように熱のこもった話し合いを始めた。
一体なにを話し合っているのだろう? 首を傾げつつ厨房に戻り、茶葉を入れたティーポットにお湯を入れてジャンピングさせながら、思い出すのは別のことだった。
柔らかな唇の感覚。
司さんとしたキス。
唇ではなかったけど、司さんにああして触れられるのは嫌じゃなかった。
もし、あのキスを口に受けていたら……。
そう考えるだけで胸が切望に痛いくらいドキドキした。
本当に口にキスを受けていたらわたしはどうなってしまうのだろう。
一般人とアイドルのお付き合いってやっぱり難しいのかな……。
いっそのことお料理番組とかに出演できるようになれば、隣に並ぶのに少しは相応しくなる?
レストランを受け継いでここでの生活があるのに、ありえないこと考えてバカだな、わたし。
でも、そんなありえないことを考えてしまうくらい、仮なんかじゃなくて、司さんと本当の恋人になりたい気持ちが強くなっている。
カランカラン。
入り口のベルが鳴って顔を上げると高いところからのぞく枯れ草色の髪が見えた瞬間、司さんだと分かった。
店内に入ってきた司さんは、一見わからないくらい僅かだけれど、眉間が寄っている。
疲れているのかな。レス子は心配になった。
霧島はいつもの席に音羽と辻を見つけるとそちらへ向かった。顔を上げたふたりが笑顔で迎える。
「霧島くん」
「プリンセスは巻けたの?」
「ああ、仕事だといって抜けてきた」
重いため息を着きながら席へと着く。
「いらっしゃいませ」
お待たせしました、と続けて音羽と辻の飲み物を置く。手前の席の司さんが顔を上げ、メガネ越しにロイヤルブルーの瞳と目が合った。
「トニックウォーターをひとつ」
「はい」
「レス子、さっきは合わせてくれてありがとう。なにも打ち合わせをしていない状態で、俺の望む通りに動いてくれて本当に助かった」
「お役に立てて良かったです」
本当は展開についていけなかっただけなんだけれど。
内心苦笑い。
「さっき慎之介さんと魁斗さんにだいたいの事情は聞きました」
「そうか」
「3 Majestyをやめないために、マリエッタのアプローチを避けているんですよね?」
「ああ。相手が相手だけにハッキリと断ることも出来なくて。下手に傷つけてもし外交に問題が起きたら国家問題に繋がりかねない。彼女がいると伝えるのが一番いい方法かと思った。申し訳ないが、しばらく彼女のフリをしてもらってもいいだろうか?」
女性としてはどうなのだろうか。
モデルでも通用しそうなほっそりした体型のマリエッタは、男性なら魅力的に映るのでは。
「わたしは構わないですけど……」
「はーい! 僕は霧島くんが王子なのがいけないと思いまーす」
「普段からスマートっていうか、王子っぽい雰囲気あるし、それやめたらいいんじゃね」
「やめるとは?」
「プリンセスの前では不破くんみたいになってみたらいいんじゃない!? 『ああ、おう、だな、ニク』を多用して、無駄に動かないのはどう!?」
「シン、剣人のことをどんな目でみているんだ」
やれやれと首を振る。
その様子から音羽の案は却下されたようだ。
「伊達くんみたいにプレイボーイ気取るとか……いや、霧島くんの伊達くん想像つかねぇし」
「京也みたいに、か」
口元に拳を当て、ふむと頷く。
「レス子」
「は、はい」
突然立ち上がる霧島に仰け反り気味に驚く。
「お前の笑顔には誰も敵わねぇよ。どれだけ俺を夢中にさせるつもりなんだ? マイレディ」
「………」
う。
両手を広げてウインク付きの笑顔でいわれても違和感有りすぎでどう反応したらいいの……!
「……ぷっ」
吹き出す声にそちらを見ると、音羽と辻が顔を背けてプルプルしている。
その様子を見た霧島が思案げな表情を浮かべた。
「やはり無理があるか」
チャレンジ精神の塊ですか!!
「透みたいにいつも相手の感情を逆撫でて引っ掻き回すのも疲れそうだ」
やれやれと霧島は席に座り直す。
透さんみたいに猫化する司さん……。
背中の毛を立ててニャーニャー?
「想像できません……」
「最初についたイメージというものはなかなか変えられないものだな。普段と変えてみたところで違和感を感じるだけだ」
冷静に分析して、無理があったと反省している。
決してネガティブになることなく、深い青の瞳で見つめるのはいつだって前方。前に進み挑戦することを躊躇わない。この真っ直ぐなところが、時に可愛かったり素敵だったり、頼もしかったりするんだよなぁ。
レス子は眩しい光を見つめるように目を細め、微笑んだ。その穏やかな眼差しを音羽も辻も見逃さなかった。
そんな顔をされたら、協力するななんていなえないよ。やがて諦めたように、
「わかった。プリンセスが諦めるまで、君には隊長の彼女を演じてもらうしかないみたいだね」
「プリンセスが諦めるまで」
音羽の案に、辻か頷く。
「ふたりからの許しも出たことだし、改めてしばらくは俺の彼女を演じてもらえないだろうか?」
「はい……分かりました」
彼女『役』に引っ掛かるものがありながらも、レス子は頷く。
顔を上げるとロイヤルブルーの瞳とぶつかった。心の奥まで見透かされてしまいそうで怖いのに、どこか気遣うような色を浮かべる瞳と絡む視線を外すことが出来ない。
目の前で見つめ合う霧島とレス子に、音羽と辻は『仮』とはいえ、とんでもない約束をさせてしまったかもしれないと既に後悔し始めていた。
「プリンセス・マリエッタが諦めるまでだからな!」
「期間限定の仮の恋人だからね!」
念を押してふたりは帰っていった。