賢者の石
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ソフィアが出ていった後、ルイス達はハリーが車内販売員から沢山購入したお菓子をみんなで分けて食べていた。
コンコン、とコンパートメントの扉がノックされ半分泣きながら1人の少年が静かに扉を開けた。
「ごめんね。僕のヒキガエルを見なかった?」
三人は顔を見合わせ同時に首を振る。
ルイスはそういえばペットとしてヒキガエルを連れてきても良いと書いてあった事を思い出した。2人は猫を飼おうかと相談した事もあったのだが、一年生でまだ学校生活に慣れない内は新しいペットを飼っても育てる余裕が無いかもしれないと思い諦めたのだった。
「いなくなっちゃった。僕から逃げてばかりいるんだ!…もし見かけたら、僕に声をかけて?」
少年はすんすんと鼻を啜り涙目のまま酷く落ち込んだ様子で出ていった。きっと、もう何人にも同じ事を聞き、同じ言葉を返されたのだろう。
ルイスは一人で探す少年が何だか気の毒に思った。今から輝かしく楽しい学生生活が始まるのだ、その始まりが涙で濡れている子どもが1人でも居るなんて、そう思うとルイスは立ち上がりルイスを驚いて見るハリーとロンを振り返りながら扉に手をかけた。
「僕、さっきの子と探してくるよ!」
「ええ?わざわざ…知り合いだったの?」
ロンはそんな事しなくても、と言いたげな目でルイスを見る。ルイスは少し苦笑し首を振った。
「知らない子だけど…入学する時の思い出が涙の記憶なんて、あんまりじゃないか!…それに、ソフィアの様子も見てくるよ」
ルイスは2人の返答を聞かずに手を振ると直ぐに少年の後を追った。
ロンとハリーは顔を見合わせ、ルイスの心の優しさを尊敬すると同時に、そんな事つゆとも思わなかったとほんの少し、恥ずかしく思った。
「ねぇ、君!」
「…僕?ヒキガエル、見つかったの!?」
少年──ネビルは呼び止められ期待を込めてルイスを見たが、彼の困ったような表情に気付くと再びじわっと目に涙を溜めて肩を落とした。
「期待させちゃってごめんね、僕も一緒に探すよ!」
「ほ、本当?ありがとう!…僕はネビル・ロングボトム、ヒキガエルの名前はトレバーだよ」
「僕はルイス・プリンス、よろしくね」
「…あら、貴方も一緒に探してくれるの?」
ルイスは気が付かなかったが、ネビルの奥にいた栗色のふわふわとした髪の少女がずいっとネビルを押し退けルイスの前に立つ、そして手を差し出した。
「私、ハーマイオニー・グレンジャーよ、私もネビルのヒキガエルを探しているの」
「そうなんだ、僕はルイス・プリンスだよ、よろしく!3人居ればすぐに見つかるかもね」
何となくソフィアと似た自分に自信たっぷりの話し方をする少女だと思いながらルイスはその手を握った。
「別れて探そうか、──僕はこっちを探すよ」
「ええ、じゃあ私たちは…こっちね」
ハーマイオニーはネビルとルイスが今来た方を示し、そっちはもう探したよ、とネビルが言う前にさっさと進んでいってしまった。
ネビルは慌ててハーマイオニーの後を追い、残されたルイスは仕方がなく一人で探す事にした。確かソフィアもこちらに向かって行ったはずだ、タランチュラを見に行ったにしてはなかなか帰ってこない。きっと話が盛り上がっているのだろう。
そう思いルイスは一つのコンパートメントをノックした。
「ごめんね、ヒキガエルを──あれ?ドラコ!こんな所にいたんだ!」
ルイスはぱっと表情を明るくさせコンパートメントの中に入る、ドラコもまた嬉しそうに立ち上がり、ちらりとルイスの後ろを見た。
「ソフィアは?…居ないのか?」
「…タランチュラを見に行っちゃったんだ」
「ああ…成程」
いつも一緒にいるもう一人がいない事にドラコは驚いた。彼が知る限り二人は常に行動を共にしていた。片時たりとも離れているところを見たことがなかった。しかし、ドラコもルイスの虫嫌いは知っていた為納得したように頷いた。
久しぶりにソフィアとも会いたかったドラコは残念そうな顔で無意識の内にため息を溢した。ルイスはドラコがソフィアに対して友情では無い少し甘酸っぱいものを抱いている事に気付いてはいたが、本人がしっかりと自覚していない感情を教えるつもりはなく、気が付かないふりをしていた。
ルイスはふとコンパートメントの座席に窮屈そうに身を屈めながらカエルチョコを貪り食う二人を見つけた。自分の1.5倍は横に大きい2人を見て、何を食べたらそれほど屈強な身体になれるのだろうかと、少しだけ羨ましく思う、太りたい訳では無いが、男としてがっしりとした体付きには憧れてしまう。
「コイツがクラッブで、こっちがゴイルだ」
「クラッブとゴイルね…よろしく!僕はルイス・プリンスだよ」
2人はモゴモゴと口を動かし、ごくり、と音を立てて口の中にあったものを飲み込み、慌てて口の周りについた食べカスを袖で拭った。ドラコと親しげに話す程だ、きっとそれなりの純血一族なのだろう、あまり不躾な態度を取るとドラコに、そしてお互いの親に叱られてしまう。そう考えたのだ。
「ビンセント・クラッブだ、よろしくな!」
「グレゴリー・ゴイル、よろしく!」
巨大な体格の2人はだったが、拭い切れていない食べカスを少しつけて笑うその表情はどこかあどけなさの残る年相応の少年に見えた。
ドラコは自分の隣に座ったルイスを見て、何とも言えない気持ちになり口を閉ざす。
ドラコはルイスがセブルス・スネイプの子どもである事を知っている。事前に父親とルイスやソフィアに強く誰にも言わない事を約束させられていた。賢く、父の決定に反論することの無いドラコはすぐに頷き疑問を持つことはなかった。
ただ、2人はいつも楽しそうに父親の話をしていた。一緒に暮らしていない、あまり会えない父親を心から愛していると言うように、数少ない思い出を何度も嬉しそうに話すのだ。
そんな2人が父親の事を言えないだなんて、これからは毎日会えるのに、父親と呼ぶことが出来ないなんて、きっと辛いだろう。そう、ドラコは考えていた。
「…そうだ、ルイス。入る時何か言いかけてなかったか?」
「え?──ああ、そうそう!ヒキガエル見なかった?ネビル…男の子のペットがいなくなったんだってさ」
「ヒキガエル?…いや、見てないな」
ドラコはすこし眉を顰めながら首を振る。確かにホグワーツの手紙にはヒキガエルを持ってきても良いと書かれてあったが、まさか本当に持ってくる人が居るとは思わなかった。
ルイスは少し残念そうに「そっか」と呟く。それならまた引き続きヒキガエルを探そう、とルイスが腰を浮かしかけた時、クラッブとゴイルが目を見開きながらコンパートメントの扉を指差した。
「「ヒキガエル!」」
「えっ?」
ルイスとドラコはその声につられて扉を見た。
扉のガラス部分にぺっとりとおおきなヒキガエルがくっついていたが、それはどう見ても普通のヒキガエルではない、茶色くつるりとした表面のそれはどう見ても今までクラッブが食べていたカエルチョコのように見えた。
一般的なカエルチョコよりもおおきなヒキガエルチョコを見つけると、クラッブとゴイルはその巨大からは想像も出来ない俊敏さで扉を開けた、するとぴょんぴょんとヒキガエルチョコは跳ねながら数匹コンパートメント内に入り込む。
クラッブとゴイルは見た事も無い大きなヒキガエルチョコに歓声を上げ、またも素早くそのチョコを捕まえた。
ドラコも珍しさから足元に跳ねてきたヒキガエルチョコを捕まえ、覗き込んでいたルイスに見せた。
「新商品か?見たことが無いな」
「僕も初めて見たなぁ。…ちょっと待って、これ…」
ルイスはヒキガエルチョコの背中に何か文字が記されている事に気付く。
それはすこし溶けかけていて読み難いものだったが、間違いなく「危険!食べるな!実は蜘蛛!」と書かれており、ルイスは思わず仰け反った。この見覚えのある文字は、間違いなくソフィアの字だ。
「…ドラコ…それ、ソフィアが魔法で変化させたやつだ、絶対そうだ!すぐに外に捨てて!」
「え?…あ、ああ、わかった」
顔を引き攣らせ悲鳴染みた声を上げるルイスに、ドラコは直ぐに手に持っていたヒキガエルチョコを窓から捨てた。
ルイスは安心し硬らせていた体の力を抜いたが、そういえばこのコンパートメントに入ってきたのは一匹ではなかった事を思い出し再び顔色を変えると辺りを見渡す。
そして今にもヒキガエルチョコを食べようとするクラッブとゴイルを慌てて止めた。
「ちょっと!チョコに書かれた文字を見なかった!?」
「あんなの嘘だろ!見てみろよ…こんなに美味そうだ」
「これを食べないで捨てるなんてどうかしてるぜ!」
「どうかしてるのは──」
君達の方だ、というルイスの言葉は2人が大きな口を開けて巨大なヒキガエルチョコを一口で頬張ったその衝撃で失われた。
2人は幸せそうにもぐもぐと口を動かしていたが、眉を顰め怪訝そうに顔を見合わせた。
「うぇっ!何だこれ?」
「口に入れた途端チョコが消えた!それに…なんだ…苦くて…何か硬いものが歯に挟まる…」
「うわあ!何も言わないでくれ!」
ルイスはおそらく、蜘蛛を食べただろう2人の食レポに耳を塞ぐと首をぶんぶんと振り、ドラコのローブをばっと捲るとその中に潜り込んだ。
「──っおい!」
「あーあー!何も見てない!聞いてない!!」
ルイスはドラコの背中に額を押し付けて、わあわあと叫ぶ。微かに震えを感じ、ドラコは小さなため息をついたが振り解く事はせず落ち着くまで好きにさせておいた。
「…クラッブ、扉を閉めろ」
「わ、わかった」
クラッブはそんなにカエルが怖いのかと検討はずれな事を思いながら素直にドラコに従う。その間にもゴイルは入ってきたヒキガエルチョコをすべて捕まえ今度こそ味わって食べまでやると舌なめずりをしていた。
「ゴイル、それを全部窓から捨てろ」
「え?そんな…勿体ない…」
「早く」
「…わかったよ」
ゴイルはしぶしぶ窓から集めたヒキガエルチョコを捨てた。最後の一匹は捨てるフリをしてこっそりとポケットの中に突っ込んだ。ルイスがカエル嫌いなら、いない所で後で1人で食べようと企んでいた。
ドラコはまだ震えるルイスに、ドラコにしては優しく話しかける。
「…ほら、もう居なくなったぞ」
「…本当?嘘ついてない?嘘だったら多分僕は気絶するよ!?いいの!?」
「嘘なんてついてない」
ドラコがため息混じりに言えば、ルイスはそろそろとドラコのローブの中から顔を出した、注意深く当たりを見渡し、本当に一匹も残っていない事を知るとホッと胸を撫で下ろす。
「…あー…良かった…ドラコが居なかったら僕は…たぶんコンパートメントを…いや、特急を爆発させてたよ…」
「ホグワーツに行く前に退学になっていたな」
冗談のつもりで言ったルイスだったが、ドラコは本気と捉え神妙に頷いた。
「…そういえば、ルイス、君はハリー・ポッターと会ったか?」
まだそわそわとしているルイスを落ち着かせるために蜘蛛から意識を逸らさせようとドラコは思い出したように話題を変えた。
ルイスは少しきょとんとした顔をして頷く。
「会ったよ、…っていうかたまたま同じコンパートメントだったんだ。5つ隣にいるよ」
「そうなのか!…見に行こう、行くぞクラッブ、ゴイル」
「じゃあ僕は…」
ルイスはちらりと汽車の廊下を見て、近くにヒキガエルチョコがいない事を確認して小さく、先程の事を思い出したのか嫌そうにつぶやいた。
「…ヒキガエルを探してくるよ、本物をね」
ドラコは頷き、ルイスと別れ言われたコンパートメントにハリーを探しに行った。魔法族の子どもなら、一度はハリーを目にしたいと思うものだ。ドラコは、密かに友人となれないかと考えていた。奇跡の子は、自分の友人にふさわしい、自分の家柄に自信があり、きっとハリー・ポッターは喜んで自分の手を取るだろうと考えた。
ルイスはドラコと別れ、ヒキガエル探しを再開した、ふと列車中央まで来た時に一つのコンパートメントから聞き覚えのある声がする事に気付く。楽しそうに笑う片割れ──ソフィアの声に、先程ソフィアが行った悪戯を思い出したルイスはノックする事なく強く足で扉を蹴り開けた。
「うわっ!?」
「何だ!?…ってルイスじゃないか!」
「やあフレッド、ジョージ!…そして、ソフィア」
「…まぁ、何だか…めちゃくちゃ怒ってるわね?」
ソフィアはさっとジョージの背の後ろに隠れた。
ルイスはとても、感情の赴くまま衝動的に行動する、もちろんそれは良い方向に動く事が殆どだ──ネビルを助けたのも、彼の衝動的行動ゆえだろう──だが、たまに悪い方向へ行くのも事実だ。
ルイスはにっこり笑ったままソフィアに近付き、ばちんとソフィアの両頬を強く挟むように叩いた。
「──っ!」
「ソフィア!蜘蛛は使わない約束でしょ!?僕はうっかりこの汽車を爆破させるところだったよ!」
そのままルイスは柔らかく白いソフィアの頬を摘むとぐいーっと引っ張った。
ルイスはしばらくぐいぐいと引っ張っていたが、ソフィアが痛みにたまらずルイスの腕を強く叩き、ようやくルイスは手を離した。
「いたい!──もう!ほっぺたがちぎれるわ!」
赤くなった頬を抑え、ソフィアは涙が滲む目でルイスをじとりと睨んだ。
ルイスは頬を膨らませ、べっと舌を出す。批難的眼差しを見ても少しも動じなかった。
「ソフィアが悪い!」
「何よ!」
「まあまあまあ!」
「お二人さん落ち着いて?」
今にも喧嘩が勃発しそうな2人を止めたのはフレッドとジョージだった。
あんなに仲の良さそうにしていた2人も喧嘩をするものなのかと意外に思い暫く見守っていたが、これ以上放っておくわけにもいかなかった。
ルイスはぐっと眉を寄せ、フレッドの服をぐいぐいと引っ張った。
「僕は蜘蛛が大っ嫌いなんだ!そんな悪戯するのって最低だよね?!」
ソフィアはその言葉にひくりと口元をひくつかせ、ジョージの服を引っ張る。
「ジョージ!ねえ、私の悪戯、素晴らしかったわよね??」
「フレッド!」
「ジョージ!」
ルイスとソフィアからそれぞれ名を呼ばれた二人は苦笑しながら降参というように手を挙げた。
「うーん、じゃあ判断はリーに任せよう!」
「それが最も公平だ!」
リーは楽しげな赤毛の双子と、自分が正しい!という男女の双子の4人から視線を浴び、ため息をこぼし、そしてゆっくりと口を開いた。
「──喧嘩両成敗!」
その言葉に何か言いかけたルイスとソフィアだったが、ジョージとフレッドにもうそれぐらいにしろと肩を叩かれる。お互い気まずそうに視線を交わした。
「…ごめんなさい、やり過ぎだったわ…蜘蛛は使わない約束、だったわ。私、その…ごめんなさい」
「…僕も、ごめん。言い過ぎたよ…ほっぺた、痛かったよね?…ごめんなさい」
ルイスはそっと赤くなったソフィアの頬を撫でる。ソフィアは首を振り、その手を取った。頬を引っ張られた時に、ルイスの手が僅かに震えていた事に彼女は気付いていた、よほど、蜘蛛が怖かったのだろう。
「…もう二度と、蜘蛛は使わないわ」
「うん、そうして?…ねぇそれよりもアレどうやったの?」
「変身魔法と変化魔法の応用よ!いつかやってみたいってずっと思ってたの!あのね──」
フレッドとジョージとリーは先ほどの激しい喧嘩は嘘のように楽しげに笑いあい、魔法の話をする2人を見て顔を合わせ、少し苦笑した。