賢者の石
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9月1日。
2人は沢山の荷物をカートに詰めキングズ・クロス駅に来ていた。胸を期待に膨らませ、ゴロゴロとカートを押しながら9と4分の3番線を探す。あらかじめセブルスから行き方を聞いていた為迷う事なく足を進めた。
「あ!ソフィア、見てみて!」
「え?何なに?!」
マグルや魔法使いらしき人の群れにソフィアは大声をあげた、目を離すと前を進むルイスを見失ってしまいそうなほど混雑していた。
ルイスは早く気付いて欲しいと言うように、人の群れの中の先を指差した、その目はきらきらと嬉しそうに輝いている。
「ほら!あの家族達を見てよ!」
「えー?…あっ!」
ソフィアはその場でぴょんぴょんと跳んでいたが、ようやくルイスが言う家族達、が誰だかわかりぱっと表情を明るくさせカートを勢い良く押し慌てて飛び退くルイスを追い越すと、そのまま燃えるような赤毛の集団に突撃──彼らにとっては奇襲だっただろう──した。
「うわぁ!?」
「な、何だい!?」
後ろからのいきなりの衝撃に驚いた彼らはしこたまぶつけ、痛む腰を抑えながら何事かと振り返る。
その先にあったのは大きなカートに乗せられた沢山の荷物、それを見てその集団に居たモリーはきっと誰がが誤ってぶつかってしまったのだろうと思った。少し皆で固まって動きすぎて通行の邪魔になっていたかもしれない。
とりあえず謝ろうとしたが、荷物からひょっこりと顔を出した少女のその表情は何処か既視感のある悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「あはは!ごめんなさい!ジョージ!フレッド!会いたかったわ!」
「「ソフィア!」」
謝罪しながらも嬉しそうに笑い、ソフィアはカートから手を離しジョージに駆け寄ると飛びつくようにして首元に抱きつく。ジョージはそのスキンシップに少し驚いたが抱きつく妹のジニーを受け止める事に慣れていた為特に照れる事なくしっかりと抱きとめた。
「ソフィアが居るって事は…」
「フレッド!また会えて嬉しいよ!」
ゴロゴロとカートを押しながらルイスも現れ、同じようにフレッドの首元目掛けて飛びついた。フレッドもまたルイスを抱きとめたが、ニヤリと笑うとその場で勢いよくルイスを振り回す。ルイスの「わあ!あははは!」という楽しげな歓声がホームに響いた。
「ジョージ?フレッド?この子達は…?」
モリーは初めて見るルイスとソフィアを見て、少し驚いた。フレッドとジョージに歳下の友人が居るとは思わなかったのだ。
「この前言った双子さ!」
「まさに、運命的な出会いだった!」
二人はルイスとソフィアを離すと、自分の母親の前にずいっと押し出す。押し出されたソフィアはスカートの端を掴み丁寧に頭を下げた。少し目を回していたルイスはよろめきながらも胸に手を当て恭しく頭を下げる。
「私はソフィア・プリンスです、はじめまして!彼らの偉大なるお母様!」
「僕はルイス・プリンスです、フレッドとジョージという最高な2人を産んでくださり感謝します!」
「まぁ!…ふふっ!面白い子達ね!」
双子の母であるモリーは、ソフィアとルイスに抱いた既視感の正体に気付いた、わが家の双子とよく雰囲気が似ているのだ、あの悪戯っぽい笑顔は何度も見て…そして頭を悩まされていたのだが。
しかし幼い2人は愛らしく、フレッドとジョージがするような危険な悪戯をするようには見えず、モリーは微笑んだまま目線を合わせるように少し身を屈めた。
ソフィアとルイスはその年齢にしては小柄な方だった、身長も低く、末っ子のジニーとあまり変わらないように見えた。
「ホグワーツの新入生かしら?」
モリーが聞けば、2人は笑顔のまま頷く。
「母さん、僕たち、先に2人と行くよ!」
「ルイス、ソフィア!これから楽しい日々の幕開けだ!」
「「さあ、行こう!」」
その言葉に2人は顔を輝かせ、カートを掴むと先に進んだフレッドとジョージの後を追って目の前の柱の中へ突っ込んだ。
恐れる事はなかった、セブルスから行き方を聞いていたのは勿論だが、フレッドとジョージがこの先で待っていたのだから。
まるで嵐のように過ぎ去っていった4人を見送り、残されたモリーは何処かつまらなさそうに口を尖らせるロンの肩を叩く。
「…さあ、ロン、あなたも早く行きなさい」
ロンは小さく頷きカートを握りなおす。
いこう、と思った瞬間、近くにいた少年に声をかけられ出鼻を挫かれた思いがした。
「あのっ…すみません、ホグワーツに行くには…どうすればいいんですか?」
話しかけてきた黒髪の少年が同じ新入生だと知ると、ロンは少し安堵した。先程の新入生の双子が自分には目もくれずさっさと兄達と行ってしまった事を、少し残念に思っていたのだった。
ルイスとソフィアはフレッドとジョージと共に空いているコンパートメントを探していた。もうすぐ出発するホグワーツ特急は既に沢山の生徒で溢れており、4人が一緒に座れる場所…つまり、誰も乗っていないところを探す事は中々に難しかった。
「フレッド!ジョージ!おーい!こっちだ!」
少し離れた場所から自分達を呼ぶ聞き慣れた声が聞こえ、2人はぱっとその声の方へ走り寄る。ルイスとソフィアは聞き覚えの無い声に顔を見合わせたがきっと彼らの友人なのだろうと推測した。
汽車の窓から身を乗り出し手を大きく振る少年のその手を取りフレッドとジョージは再会を喜んだ。
「久しぶり!休みはどうだった?」
「楽しかったさ!こっち来いよ、もう出発する、中で話そう」
2人の親友であるリー・ジョーダンは自分がいるコンパートメントに向かい顎をしゃくる。リーが居るコンパートメントに入ろうとする者は誰一人として居ない。フレッドとジョージが後から来るだろう事を皆知っており、もし入ってしまったらどんな悪戯を仕掛けられるかわからないのだ。
それに、先程リーが何やら毛むくじゃらの生き物をこっそり持っていたのを何人かの生徒が目撃して居た。
「ああ!…あ、ちょっと待って俺らの他に…後2人分入れるかなぁ?」
ジョージはちらりとルイスとソフィアを見てコンパートメントを覗き込む。しかし4人がけのその場所に5人入るのは中々無理そうに思えた。5人中3人が中々に高身長の男なのだ、荷物も複数個あり、皆が入るには些か狭すぎる。
リーはジョージとフレッドの後ろにいる2人の存在に気付いた。てっきり新しく入学する二人の弟の事かと思ったが、その2人の外見はどう見てもウィーズリー家の者ではない。
「フレッド、ジョージ私たち別の場所を探すわ」
「でも…」
フレッドが少し残念そうに眉を寄せた。だが2人は何でもないと明るく笑う。
「またホグワーツで会えるよ!」
「そうよ!…あ、でも…別れる前に列車に荷物を積むのを手伝って貰えたら嬉しいわ」
「お安い御用さ!」
沢山の荷物を小柄な2人が持ち上げるのは無謀に思える。大きなトランクケースに潰される未来が容易く想像でき、フレッドとジョージはすぐに頷いた。
列車の戸口へと向かうと、1人の少年が顔を真っ赤にし必死にトランクケースを積み込もうと奮闘していた。ジョージはそれを見ると直ぐに駆け寄り落ちかけたトランクケースを後ろから支え、少年がトランクケースに潰される未来を回避した。
ルイスとソフィアは、彼の優しい一面、それも気取った様子のない自然な善意を見て心が温かくなるのを感じた。悪い人ではないと思っていたが、自分達の目に狂いは無かったようだ。
「手伝おうか?」
「うん、お願い…!」
少年──ハリーはぜえぜえと荒い呼吸をしながら救世主を見る目でジョージを見るとこくこくと頷く。
「おい、フレッド!こっち来て手伝えよ!」
ジョージの声にフレッドも後ろからぐいとトランクケースを押し、何とかトランクケースは汽車に乗り、ハリーは空いていたコンパートメントに引き摺るように荷物全てを押し込んだ。
続いて2人はルイスとソフィアのトランクケースを協力しながら同じように汽車に乗せた。
「フレッド!ジョージ!本当にありがとう!」
「ありがとう!コンパートメント探さないとダメだね」
「ありがとう…あ、僕のところにくる?」
ハリーも2人と同じように赤毛の双子に言うと、何処か緊張した面持ちで少しだけ微笑みソフィアとルイスに聞いた。
「え?いいの?わー!やったね!ありがとう!」
「お願いするわ!」
ハリーは2人のぱっと明るい顔を見て、僅かに心が踊った、はじめての友達になれるかもしれない。今までに友達はいなかった、きっと魔法界に飛び込めば同じ力を持つ人たちと仲良くなれ…友達が出来るかもしれないそう思っていたのだ。
ハリーは拒絶されなかった事に安心しながら汗をかき額に張り付いた前髪をかきあげた。
その瞬間、ジョージがその額に走る稲妻型の傷を目を見開いて見つめた。
「…それ、なんだい?」
ソフィアとルイスも、その特徴的な傷痕を見て彼が誰なのか分かった。かの、有名なハリー・ポッター。奇跡の子だ。
「驚いたな…君は?」
「…彼だ。…君…そうだよね?」
フレッドとジョージは確信めいた目をしていると言うのにひどくあやふやにそれを指し示す。ハリーは2人の、どこか恐る恐ると言った声に目を瞬かせ首を傾げた。
「何が?」
「君、ハリー・ポッターでしょ?」
明言しない赤毛の双子の代わりにルイスがさらりと答えた。
「ああ、その事。うん、そうだよ。僕がハリー・ポッターだ」
ハリーは先日のもれ鍋での一件を思い出し、ようやく赤毛の双子の言いたいことを察すると頷く。2人はぽかんと口を開きじっとハリーを見つめた。
ハリーは僅かに頬を赤らめ、きまりが悪そうに視線を逸らす。
その時列車の外から彼らを探すモリーの声が響き、ようやく2人はハリーから視線を外した。
「今行くよ!…じゃあなルイス、ソフィア…そして、ハリー!また後で!」
フレッドとジョージは最後にもう一度ハリーを見てから列車から飛び降り、自分達を探す家族の元へ向かった。
残された3人は誰からともなく顔を合わせた。
「…僕はルイス・プリンスだよ」
「私はソフィア・プリンス。双子なの」
「あっ…僕は…ハリー・ポッター、よろしくね」
何処かぎこちなくハリーは自分の名前を告げる。また先ほどの彼らのように見られるかと思ったが、2人は特に何も言わず荷物を詰め、コンパートメントに入った。ハリーはなんとなく傷痕が見られないように前髪で隠し、2人に続いてコンパートメントへ入る。
外からは先ほどの双子と、そして恐らくその家族達の会話が聞こえ、なんとなく恥ずかしくなりハリーはもじもじと座席の上で落ち着きなく足を動かした。
ソフィアとルイスは顔を見合わせ、少し肩をすくめる。
2人はハリーの事を知っていた。
かの残酷で劣悪な魔法使い、ヴォルデモートを退ける事が出来た唯一の奇跡の子どもだ。
だが、彼は両親を失っている。大人たちはヴォルデモートの失脚を喜びハリーを讃えたが、沢山の賞賛をうける代償にハリーが払ったものは大きいと、彼らは思っていた。
汽車が汽笛を鳴らし、ゆっくりと動き出す。流れていく景色を見ながら暫く3人は無言だった。
「ホグワーツ、楽しみね」
その沈黙を破ったのはソフィアであり、ソフィアはハリーを見ながら優しく微笑む。
ハリーはどこかほっとしたような顔でそれに頷いた。