賢者の石
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朝食後、2人は数々のプレゼントをそれはもう溢れんばかりの喜びを表現するように包装紙びりびりと勢いよく開けた。散らかった包装紙が部屋の中をひらひらと舞うのを見てセブルスは苦笑した。この双子は一挙一動が全て、ややオーバーだと言えるだろう。
「──ああっ!ソ、ソフィア…これ見てよ!ジャックからのプレゼント…!」
「え?なになに??…うわぁーー!」
ルイスはその小さな冊子を掴むとわなわなと体を興奮で振るわせ相方にずいっと見せた、ソフィアはそれを手に取り、そして見ると大きな声で叫ぶ。が、すぐにその開いた口を手で抑え、身を屈めるとこそこそと囁きあった。
セブルスは聞こえた名前に、嫌な予感を覚えて興奮する2人の元に音もなく忍び寄る。いつも賑やかな双子がこうやってひそひそとしている時は、だいたい碌でもない事になっていた。
「…ダメよこれ父様にバレたら間違いなく、没収されるわ!」
「僕もそう思うよ、だから早く隠さないと!」
「──ほう、何を隠すのかね?」
「「うわぁ!」」
セブルスの、低い声に2人は飛び上がると、直ぐにそれを背中に隠しにっこりと微笑み首をものすごい速さで振った。
「何でもないよ父様!」
「そうよ、何でもないの!」
「……アクシオ」
どう見ても、何かがある、今までの経験上そう察したセブルスは杖を振り、ソフィアの手からその小さな冊子を自身の元に引き寄せた。
「「ああ!!」」
2人は悲痛な声を出し慌てて取り返そうとするが、セブルスが高くそれを掲げてしまえば大人と子どもの身長差ではとても届く事が出来ず、2人は地団駄を踏みながらぴょんぴょんと何度も跳んだ。
「父様!返して!」
「父様!それは私達のバースデープレゼントよ!」
「…、…」
セブルスは、その冊子がアルバムだという事に気付き、二人の叫びを聞きながら嫌な予感がするそれを開いた。
そこに挟まれていた沢山の写真は、学生時代のセブルスと、このアルバムの送り主であるジャックが映るものだったが──。
セブルスはその写真の内容に表情をこわばらせ、びきりとこめかみに青筋を立てる。
──あ、やばい。
双子は父の静かな怒りを感じぴたりと跳んでいた脚を止めると慌ててその場から退散した。
セブルスは自分を落ち着かせようと、何度か深呼吸をし、そして暖炉の前に足速に向かいフルーパウダーを一掴みすると乱暴な動作で粉を投げ入れる。
「──ジャック!今すぐ来い!」
怒りを滲ませるその声を聞いて2人は肩をすくめ顔を見合わせたが、その顔はどこか楽しげだった。
暖炉の奥で緑の焔が上がり、すぐに1人の男が現れる。男にしては長めの銀髪をゆるく1つに結び、長身を窮屈そうに屈めながらジャックは暖炉から這い出た。
「何だよこんな朝早くに…それに、今日は双子の誕生日だろ?」
ジャックは眠そうな目を擦りながら訝しげにセブルスを見た。
セブルスは口先をひくつかせ、怒りを極力抑えながらゆっくりと、嫌に静かに問いかけた。
「……これは何だか、私に教えていただけるかね?」
手に持つアルバムを軽く振る。ジャックは「あ。」と一言漏らし。ソファの背に隠れそろそろと目から上を出して此方を伺う双子を見た。
「ばれちゃった?」
「うん」
「一瞬だったわ」
あちゃー、とジャックはどこか演技かかった動作で額を抑える。
セブルスは戦慄きながら、非難めいた目で鋭くジャックを睨むが、その目を見てもジャックは少しも恐れない。双子と同様、慣れていたのだ。
そのアルバムは学生時代、セブルスがジャックからの悪戯により空中に浮かされていたり、変化術で制服を女生徒の物に変えられていたり、くすぐり呪文により無理矢理爆笑させられている所であったり──つまりセブルスにとってしてみれば我が子らには決して見せたくない姿がありありと写っていた。
「ジャック!!」
「んな怒るなって!俺にとってはセブ、お前との青い友情の日々の輝かしい思い出なのさ!」
からからと笑いながら答えるジャックを苦々しくセブルスは見つめ、手に持つアルバムを衝動的に暖炉に放り込んだ。
「ああーーっ!!」
「酷い!」
双子の悲痛な叫びに、少し大人げない事をしたかと思ったが、既にアルバムは炎に飲まれぷすぷすと音を立てて燃えている。
ジャックは、本当セブルスは衝動的に行動するところは変わってない、と笑いながら残念そうに燻るアルバムを見る双子の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「心配するな!俺の家にまだたくさんあるから!」
「やった!」
「ジャック!!貴様いい加減にしろ!」
双子が喜びの声を上げるのと、セブルスの怒りが爆発するのはほぼ同時だった。
ジャックは五月蝿そうに耳を抑えくるりとセブルスを振り返る。
「セブ!…セブルス!今日は可愛い双子の誕生日だ!そんなかりかり怒るなよ。血管切れるぞ?」
「誰のせいで…!」
「はいはい、俺のせいです分かってますよ!…今日は休みなんだろ?お邪魔虫は退散するから、家族で過ごせ」
「…、…わかっている!」
ジャックは茶化すかのように言ったかと思えば、その目に優しさを滲ませセブルスを諭す。ジャックは双子の一時的な育ての親でもあった。
妻を失い、双子を育てるために──養うためには、セブルスは教員を続けなければならなかった。貧困の辛さは、彼自身がよく知っていた。愛する我が子たちにあんな想いはさせたくない、働かねばならない。
どうしようもなくなり、セブルスは唯一の親友を頼った。ジャックは第一次魔法戦争で親を失った子どもや、怪我の為育てられない親の子どもを孤児院で保護し、育てていた。
二つ返事でジャックは双子を預かり、2歳から7歳まで双子を育てたのだった。
勿論、親友の子どもだとはいえ、贔屓する事なく他の子と同様に、平等に育て、愛した。
そんなジャックだ。勿論2人の誕生日を祝いたい気持ちはセブルスには負けないが、家族として共に過ごせる僅かな時間ですら、邪魔をしたくは無かった。双子が誰よりも父親であるセブルスを愛し、求めている事を知っているからこそ、ジャックはこの場に自分はいるべきではないと考えた。
「ルイス、ソフィア…誕生日おめでとう、また改めて祝いにくるからな」
「…うん!ありがとう!」
「またね、ジャック!」
ジャックは膝を折り、幼い2人に目線を合わせるようにしゃがみ込み、優しく笑う。
双子はにっこりと微笑み、その頬に感謝のキスを送った。
2人を一度抱きしめ、ジャックは立ち上がると少しバツの悪そうな顔をするセブルスの肩を叩き、フルーパウダーを使い直ぐに家へと戻った。
「…燃やしてしまって…すまない」
セブルスは、小さく2人に謝罪した。冷静になってみれば、やはり大人げなかったように思えてきたのだ。何も燃やさなくとも…良かったのかもしれない。
「…ううん!大丈夫だよ!」
「気にしないで父様!」
2人は手を後ろで組み、首を傾げてにっこりと笑う。
ジャックが二人を抱きしめた時に、こっそりと新しいアルバムをその小さな手に持たせた事に、セブルスは気がつかなかった。
2人は今度こそバレないようにこっそりとそのアルバムをポケットの中に隠し、ほくそ笑んだ。
「…他の贈り物も、開けてしまいなさい」
「「はぁい!」」
セブルスは2人があまり悲しみを見せていない事にほっとしながらプレゼントの元へと促す。今日一日、2人には幸せであって欲しかったのだ。
「ドラコからは…また箒だよ!」
「あー、一緒に飛んで欲しいのね」
「ええー僕あんまり飛行術得意じゃないからなぁ」
ドラコから──正しくは、マルフォイ家からだが──は毎年新しい箒が2本届いていた。これで一緒に飛びたいのだろうが、ルイスはあまり飛行術が得意ではなく毎年変わり映えしないプレゼントに少し不服そうに頬を膨らませた。
ソフィアはドラコと共に空を駆け回れる程度には飛行術が得意だった為、箒が貰えて嬉しい気持ちはある。だが──。
「…部屋の一室が箒で埋まってしまうわね」
「箒屋さんでもはじめようか」
ドラコが箒に乗り始めた3年前から2本ずつ箒は届き、今年の2本を加えれば8本になってしまう。クィディッチチームを作れてしまう本数が収められている部屋を思い出し、2人は笑った。