賢者の石
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ソフィアは父と会える魔法薬学の次に、変身術の授業を楽しみにしていた。
何度も複雑な変身術をソフィアは成功させている、これは努力した結果ではなく、彼女の才能だと言えるだろう。──実は、彼女が持つ杖は人を惑わす魔法を得意としている。その為さらに魔法の成功率を上げているのだが、まだ彼女は杖の魔法を詳しく知らなかった。
「初めての授業では何を変身させるのかしら?」
変身術の教室で、自ら一番前に着席したのはハーマイオニーとソフィアの2人だけだった。後の生徒は真ん中か後ろの方に座り、遅れてきた者たちが仕方がなく諦めたように前に座っていた。
「確か…マッチを針に変える事が基礎とされていたわ。…出来るかしら…」
「なーんだ、その程度なら簡単よ!変身魔法はね、しっかりと変身させたい物を観察して、変身するイメージを強く持つの。必ず変身させる!…っていう気持ちでやれば大丈夫よ!」
不安そうなハーマイオニーを励ますようにソフィアは彼女の背中を軽く叩く。
その話を近くでこっそりと盗み聞きしていた生徒たちはソフィアの助言をしっかりと記憶した。変身術が得意なソフィアの言うことだ、きっと間違いはない。
マクゴナガルが入室するまでざわざわと生徒たちは囁き合っていたが、それも彼女が現れたらすぐに止まった。
厳格で聡明な彼女は、存在するだけで生徒たちを黙らせる力があった。この先生に逆らってはいけない、そう、皆が思ったのだ。
「変身術は、ホグワーツで学ぶ授業の中で最も複雑で危険なものの一つです。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒には出て行ってもらいますし、二度とクラスには入れません。…初めから警告しておきます」
マクゴナガルはそう言うと机を豚に変え、また戻してみせた。
ソフィアは無言魔法を使い鮮やかに変身させるマクゴナガルをキラキラとした尊敬の眼差しで見つめる。早く出来るようになりたい、心が躍りうずうずとした気持ちを抑えられなかった。
しかし、すぐに変身術を使う事はなく。まずマクゴナガルは複雑な変身術の構造を黒板に書き、それをノートに写させた。その後マッチ棒が一人ひとつ配られ、ハーマイオニーの予想通りそれを針に変える練習が始まった。
「
ソフィアは当然のようにマッチ棒を輝く銀色の針へ一度で変身させる。
それを見たハーマイオニーも、同じように変身魔法を唱えたが、彼女のマッチ棒は銀色に僅かに変色しただけだった。
それでも初めての変身術で少しでも変身させる事が出来たハーマイオニーは優秀だと言える。
しかし、隣で完璧な変身術を見たハーマイオニーは銀色になっただけでは納得が出来なかった。
「ソフィア!難しいわ…ねえ、もう少しコツを教えてくれないかしら?」
「んー…そうねぇ」
ソフィアは自身の針を解呪し、マッチ棒まで戻すとハーマイオニーの目の前にずいと出した。
「ハーマイオニー、これは針よ」
「え?…ええ、針だと、思い込むのよね?」
「ええ、針だと強く考えた?」
真剣な顔でハーマイオニーは一度目を瞑り、これは針、これは針、とぶつぶつと呟き目を開けた。
「…うん、針…針ね」
「じゃあ──」
ソフィアはマッチ棒の先端の赤い部分をハーマイオニーの手の甲にちょんとつけた。しかしハーマイオニーはそれを不思議そうに見つめ、何かのおまじないかと訝しげに眉を顰める。
「…何?」
「ハーマイオニー!これは針なのよ?まだ思い込めて無いわ!針なら、貴女は手を引っ込めるべきよ!」
「──ああ!そうね、そうだったわ…まだ思い込む意思が弱いのね…」
「想像して、ハーマイオニー?照明の光を反射して光っているわ、先端は尖っていて…触れるだけで手の先にぷっくりと血が流れるの…冷たくて…細くて…鋭利な針よ……」
ハーマイオニーはもう一度目を閉じ、歌うように囁くソフィアの声に集中した。
家で裁縫をした時の、針を思い出した、そうだ、あれは冷たくて、指を誤って刺した時にちくりとした痛みを感じた、思わず手を引いてしまい、白い布に赤い血がつく──。
「──さあ、唱えて!」
「
ぱちりと目を開けたハーマイオニーは杖を振るう。
するとマッチ棒はその姿を鋭利な針へと変身させた。
「やったわ!」
「おめでとう!ね、簡単でしょ?」
頬を赤くして喜ぶハーマイオニーを見て、ソフィアが何でもない事のように言うが、ちょっとだけハーマイオニーは苦笑し首を振った。
「んー…簡単では無いと、おもうわ」
その証拠にこの授業でマッチ棒を針に少しでも変える事が出来たのはソフィアとハーマイオニーの二人だけだった。
マクゴナガルは生徒全員に、二人の針がどれだけ銀色で尖っているかを見せた後、2人を褒め微かに微笑みを見せた。
変身術の授業が終わり、ソフィアとハーマイオニーが片付けを始めているとマクゴナガルはそっと2人の元に近づいた。
「ミス・プリンス、…少し残ってくれませんか?」
「え?…はい」
まだ今日は騒ぎを起こして居ないはずだが、と思ったが、マクゴナガルの表情は何処かいつもより柔らかく見えた。ソフィアは叱られるわけではなさそうだと安堵しながら頷いた。
ハーマイオニーはきっとソフィアがまたなにかをしたのだと思い、何も言わずに1人教室を後にした。
誰も居なくなった教室で、マクゴナガルは静かにソフィアを見つめ、近くにある椅子を指差した。
「ミス・プリンス、貴方は椅子を動物に変えることが出来ますね?」
「え?…はい、それなら…──
ソフィアは杖を振り、木で出来た椅子を黒猫に変えた。マクゴナガルはその黒猫を手に取り、じっと観察するが、その黒猫はどこからどう見ても完璧な猫であり、尻尾を揺らしてにゃあと小さく鳴き声を上げた。
完璧な変身術に、マクゴナガルはにっこりと微笑みを見せた、その目には彼女の才能を褒め称える色と、僅かな期待と興奮がちらちらと覗いていた。
「貴女は…恐らく、歴代の魔女の中で最も変身術の才能を持っています。…そう、私以上に」
「そんな!褒めすぎですよ!冗談でしょう?」
「いえ、ミス・プリンス。私は冗談は言いません。…もし、貴女がより変身術を深く知りたいという気持ちがあるのなら…私の個人授業を受けてみませんか?」
「…個人、授業…ですか?」
「ええ、本来なら上級生のみが受けられるものですが…貴女は今からでも、問題ないと…充分な才能がありますから」
ソフィアは、たしかに自分は人より変身術が得意だとは思っていた。危険で複雑だと書物に書かれていた魔法も、数回の練習で出来るようになったのだ。それでも、目の前の先生より優れた魔女であるという言葉はあまりにも過大評価しすぎでは無いかと思っていた。
だが、得意な変身術で個人授業が受けられる。より高度な魔法を学ぶことが出来るまたと無いチャンスに、ソフィアは悩む事なく即答した。
「私、受けたいです!」
「貴女ならそう言ってくれると思いました。…では毎週金曜日の午後2時から3時の1時間行います。私の研究室に来てください」
「はい!よろしくお願いします!」
期待通りの返答に、マクゴナガルは優しげに目を細める。ソフィアもまた嬉しそうに頬を赤く染めにこにこと笑った。