賢者の石
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ルイスとソフィアは放課後、セブルスの研究室の前で立っていた。
ルイスが拳を上げ、軽く扉をノックする。
「スネイプ先生、ルイスとソフィアです」
「…入れ」
「はぁい」
2人は扉の奥から聞こえてきた声に素直に返事をし、直ぐに扉を開けた。
他の生徒なら何としてでもセブルスの研究室に向かう事を回避するだろうが、2人は寧ろはやくこの時が来るのを朝からそわそわと心待ちにしていた。
ルイスはドラコに、ソフィアはハーマイオニーに昨日夜に抜け出したことがスネイプ先生にばれて罰則を受ける事になったと伝えて寮を抜け出していた。
ハーマイオニーは酷く心配し、「だから気をつけてって言ったでしょう!」と憤慨していたが、ドラコは全く気にせず頷いただけだった。
ソフィアとルイスが研究室の中に入り扉を閉めると、セブルスはすぐに防音魔法とくっつき魔法を扉に掛けた。
それを見て2人は期待の眼差しをセブルスに向ける。
「…ここでは何と呼べばいいかしら?」
「スネイプ先生?それとも──」
二人は白い頬を赤らめ、研究室の後方にある椅子に座っているセブルスを期待のこもった眼差しで見つめる。はやく、許可を出して欲しい。二人の目は雄弁にそう語っていた。
「…いつものように呼んで構わない」
「「父様!」」
セブルスの許可を得た二人はパッと笑顔を見せるとその場から跳ねるように駆け出した。
ルイスは走った勢いをそのままに机の上に足を掛け椅子に座るセブルスの正面から抱きつき、ソフィアは流石に机に登ることはせず少し遅れて横からひしっと抱きついた。
「父様!久しぶり!…ちゃんとシャワー浴びてる?」
「父様!せっかく父様の髪は黒くて綺麗なのに、薬品の臭いがついているわ!」
「なんかべっとりしてるし、ねえ頭洗ってあげようか?僕、清め魔法最近覚えたんだ!」
「えー!ずるい!私も父様にしてあげたいわ!」
「んーじゃあ交代でする?一度の魔法じゃこの汚れは取れないかも!」
「いいわね!そうしましょう」
「…少し、落ち着け」
次々と溢れる2人の言葉に、セブルスはくぐもった声でそれだけを伝える。すると2人はぴたりと口を閉ざし、えへへ、と恥ずかしそうに笑った。
「だって!久しぶりだもの!幾らでも話したい事があるのよ!」
「ソフィアの言う通りだよ!」
「わかった、…ルイス、机の上から降りなさい。ソフィア、ローブの端を踏んでいる」
強く抱きしめられているセブルスが静かに言えば、2人はようやくセブルスから離れ──ルイスは机からひょいと降り──机を挟み、前に立った。
「そこに座りなさい。…紅茶を淹れよう」
「「はぁい」」
セブルスは杖を振るいソファと小さな丸机を出現させた。2人はその黒くふかふかとしたソファに座り、セブルスが紅茶を淹れている間興味深そうに辺りを見渡した。
よく見れば、棚には様々な瓶や材料が並んでいる。それ見てソフィアは少し顔を顰め、ルイスは対照的に目を輝かせた。
「父様!部屋を見てもいい?」
「構わないが…。…危険なものもある、決して触れないように」
「はーい!」
ルイスは立ち上がると興味深そうに一つ一つを見て、瓶に書かれたラベルを熱心に読んでいた。
「生ける屍の水薬!…真実薬まで!…えっ…こ、これってもしかしてフェリックス・フェリシス!?…凄い…あっ!これは…サラマンダーの血液かな…ベゾアール石まで!かなり貴重なのに…」
ぶつぶつと呟き、時折歓声を上げながら興奮するルイスを、ソフィアはソファの背に腕を乗せ頭を預けながら見ていた。
魔法薬学が好きなルイスとは違い、ソフィアはあまり魔法薬学が好きではなかった。
得意では無い、とも言い換える事が出来るだろう。
「ルイスって本当に魔法薬学が好きなのね」
「うん!だって、材料の組み合わせと調合が完璧に合わないと薬は完成しないんだよ?それを編み出した過去の偉大な賢者達は…本当に素晴らしいと思わない!?それに、魔法薬ってさ、本当に、運命も操作出来るんだ!このフェリックス・フェリシスは幸運の液体とも呼ばれていて──」
「オーケー、もういいわ!」
まだまだ話は続きそうだった為、ソフィアは無理矢理ルイスの言葉を遮る。ルイスは少しムッとしたが、気を取り直して再び棚に収められている薬や材料をまじまじと見た。
「ソフィアは魔法薬学が嫌いか?」
セブルスは紅茶の入ったカップを机の上に置き、ソフィアの隣に座った。
ソフィアはカップのなかに角砂糖を3つほど落としティースプーンでかき混ぜながら少し申し訳なさそうに、セブルスを見た。
「うーん…嫌いじゃないわ。筆記試験ならきっと完璧よ!…でも、魔法薬作りは…苦手なの」
「ソフィアは大雑把過ぎるんだよ!なんで手順はわかるのに適当にしちゃうのかなぁ?」
充分に薬や材料を見たルイスはセブルスの隣に座り、紅茶の中にミルクを少し垂らしながら言った。心の底からわからないという彼の言葉に、ソフィアは熱い紅茶をちびちびと飲みながら眉を寄せる。
「だって…右に掻き回すのも左に掻き回すのも同じじゃない?違う意味がわからないわ!」
「同じじゃないよ!」
ルイスは首をぶんぶんと振り、セブルスは我が子の魔法薬学に対する考えの無さに頭を痛めた。そもそも、仮にも魔法薬学を教えている自分に堂々とこんな疑問を向けるとは思わなかった。
「材料によっては、攪拌する方向により効能が変わるものもある。…いずれ学ぶこととなるだろう」
「えー…私、別に作れなくてもいいもの!魔法薬が欲しい時は父様に作ってもらうわ!」
胸を張って言うソフィアを、どこか可哀想な物を見る目で2人は見た。
「ソフィアには魔法薬学の美学がわからないんだね…」
「…嘆かわしい事だな」
「な、何よ!」
2人の視線にソフィアは少したじろぎ、じろりと睨み返したが、ルイスとセブルスは素知らぬ顔で紅茶を飲んだ。
「あ、それより…父様?僕たちと父様の事を知っているのは誰なの?」
「教師では、マクゴナガルとダンブルドアだけだ。マクゴナガルはグリフィンドールの寮長だからな、伝えないわけにはいかん」
ソフィアがグリフィンドールに組み分けされた日の夜、セブルスはマクゴナガルと共に校長室に向かった。
その場でルイスとソフィアは自分の子どもである事をマクゴナガルに伝えた。わざわざ話す場を校長室にしたのは、きっとダンブルドアが居なければ信じないだろうと思ってのことだった。
子ども達が入学する前に、ダンブルドアとセブルスは子ども達がどこの寮に配属されたとしても、寮長にだけは真実を話そう。そう決めていたのだ。
2人がセブルスの子どもだと聞いたマクゴナガルは、まず冗談だと思った。彼が結婚して居たなんて聞いた事が無かったし、そんな素振りも少しも感じられなかった。困惑した目でダンブルドアを見たが、ダンブルドアは否定する事なく頷いていた。
マクゴナガルは、学生時代にセブルスが仲良くしていた女生徒が居ることは知っていた。よく図書室や廊下で2人でいるのを、彼女は目撃していた。
マクゴナガルはホグワーツ特急でソフィアが蜘蛛をカエルチョコに変身させたと噂で聞いて、一年生がそんな事出来るわけがない、きっと噂が曲げられて囁かれている、と思っていたが、そういえば、彼女は変身術が得意だった。自分の個人授業を受けるほどに。
結婚した事と、子どもができたことは聞いていたが、彼女は最後まで相手を伝えなかった。
そう思えば、ルイスの髪色と、ソフィアの目の色は彼女と同じだ。…いや、なぜ今まで気が付かなかったのだろう、ルイスとソフィアは幼い頃の彼女に、良く似ている。
マクゴナガルは、手を口元にあて、小さく囁いた。
「…まさか…アリッサの…?」
その言葉にセブルスは頷く。マクゴナガルは小さく、息を呑んだ。
「ルイスとソフィアには母親が何故死んだのか…伝えていない」
「そんな…どうして…」
「2人が聞かなかったからだ。…あなたは人の家庭には口を挟まず、私を差し置いて余計な事を伝えることのない人だと…。…私は思っていていいかね?」
「…ええ、…わかっています。私の口からは…言いません。…勿論、貴方達の関係についても、私は沈黙を約束しましょう」
寧ろ、言えるわけがない。
他人が踏み込んでいい領分ではない、そうマクゴナガルは思い真剣な面持ちで頷いた。
「──父様?」
いきなり黙ってしまったセブルスを2人は覗き込む、セブルスは何でもないように紅茶を飲み取り繕うと言葉を続けた。
「生徒で知っているのは、ドラコ・マルフォイだけだろう」
「まぁ、僕たち交友関係狭いからね」
ルイスは少し肩をすくめて笑った。
孤児院で共に過ごした子ども達は勿論皆魔法使いだが、2人より年上の子ども達はもう皆卒業していた。
「あーあ、ルイスと同じ寮じゃないなんて…今でも信じられないわ!合同授業も…魔法薬学だけだし…はやく金曜日にならないかしら!」
「きっと、スリザリンとの合同授業を望むのはソフィアだけだね。僕も早く父様の授業を受けたいなぁ」
「父様の授業かぁ…5点以上減点されないように頑張るわ!」
「せめて1点の加点を目標にしたら?」
「えー?…魔法薬学の教授様は大変スリザリン寮贔屓だと聞いたわ!グリフィンドールでも加点なさるかしら?…ねえ、父様?」
「それは困った事だね!そんな教授様がいるなんて…!僕らの父様が殴り込みにくるかも!ねぇ、父様?」
2人はセブルスを見上げ、悪戯っぽい笑顔を浮かべニヤニヤと笑う。
セブルスは自身でもスリザリン贔屓だと言われていると知っている。だが、特別贔屓しているつもりはない、ただグリフィンドール生は授業を真面目に聞かず、調合も大雑把で危なっかしく、つい何度も注意してしまうのだ。
調合ひとつで薬の効能は変わり、それこそ、ミスを犯せば大惨事になりかねない。
贔屓というよりも、グリフィンドール生には手を焼かされ仕方のない減点の、つもりだった。
「…真面目に授業を受けていれば減点はせん」
「えー?加点はしないのかしら?」
「…加点に相応しい功績を残せば、どこの寮であろうとも…加点する」
「まぁ!じゃあやっぱり私は加点されないわ!何たる不幸なの!…しくしく」
セブルスの言葉にソフィアは演技かかった口調で嘆くと、セブルスの肩にもたれかかるようにしてさめざめと泣く振りをした。
それを見たルイスも、同じようにそっとセブルスの肩にもたれかかる。
よく、家ではこうして一つのソファに3人で座り色々な話をしたり、本を読んでいた。
父の微かな温もりを半身に感じて微睡む事が、ルイスもソフィアも大好きだった。
「…父様…たまには、ここに来ても良い?」
ルイスは手に持つ冷えたカップを見つめたまま呟く。
その声は、今までのような明るい物ではなく、何処か寂しさと甘えが含まれていた。
セブルスはそっとルイスの肩を抱き、ゆるりと頭を撫でた、さらさらとした柔らかい髪質。亡き妻に──2人の母親によく似ている。
「…ホグワーツに入学する時の約束は、覚えているだろう。…頻繁に会うことは出来ん」
「……、…そっかぁ…」
「…父様は罰則を与える時は研究室に呼ぶ事が多いのかしら?」
「まぁ、罰則だからな、薬の下準備をさせることも…。…ソフィア、何を考えている?」
「なーにも!」
悲しげにするルイスとは対照的に、ソフィアは何か企むかのような悪戯っぽい笑顔を見せていた。
それからしばらく3人は親子として、限られた少しの幸せな時間を共に過ごした。
──後日談として、次の日のセブルス・スネイプの髪は汚れがさっぱりと取れ、さらさらと歩くたびに靡いていた事をここに記しておこう。