賢者の石
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ルイスはドラコと、そしてドラコのボディガードのように少し後ろを歩くゴイルとクラッブと共にスリザリンの監督生である男子生徒に引率されながら地下へと向かっていた。
石造りの廊下や階段を下り、どこかひやりとした雰囲気の地下深く、そこには一つの扉がありその上には壁や扉と同じ灰色をした石像の蛇が生徒たちを見下ろしていた。
その扉は取手やドアノブの無い、奇妙な扉だった。
「この蛇に向かって合言葉を言うんだ。合言葉は定期的に変わる、他寮の人間に伝えないのは勿論だが…くれぐれも忘れないように」
監督生の男も勿論、先ほどの組み分けをしっかり目撃していた為、ルイスが別の寮の生徒──ソフィアを連れ込むのではないかと危惧し、厳しい目でルイスを見ながら伝えた。
その目にルイスは少し肩を竦める。
流石のルイスも超えてはいけない境界線や、分別はついているつもりだ。他の生徒からの信頼を壊すような悪戯をするつもりはなかった。
「合言葉は…──穢れなき血」
その言葉に反応して蛇の石の目が光り、ゆっくりと這うように動くと本来ドアノブがある場所へと向かい、静かにその場で鎌首をもたげた。
監督生はドアノブの代わりとなった蛇を掴み押し開ける。見た目は重そうな石の扉だったが、するりと直ぐに扉は開かれる。
「入ってすぐが談話室だ。一年生は先に自分の部屋を確認しなさい」
その声にぞろぞろと一年生達は扉を通り談話室へと入っていった。
石造りの細長い談話室は中々に広く、天井や壁にかけられたランプの炎は少し緑がかり揺れている。
至る所に壮大な彫刻があり、黒い革張りのソファが数脚一番奥にある暖炉を囲むように配置されている。それらはランプの光に照らされ輝いていた。
少し冷たい印象を与える談話室だが、静かな空間を好む者が多いスリザリンらしい談話室だった。
ルイスは談話室傍にある男子寮へと降りていく、そこは石造りの地下牢を模した構造になっていた。生徒を地下牢で寝泊まりさせるなんて、少し悪趣味ではないかとうっすら考えた。
「ルイス!…同室のようだぞ」
「え?…本当だ!」
扉の一つに貼られた紙にはドラコ・マルフォイとルイス・プリンスという2人の名前が書かれていた。他の部屋に貼られた紙にはどうやら3人分の名前が書かれている事から、2人分余ってしまったのだろうとルイスは考えた。
昔からの友人のドラコと2人部屋というのはルイスにとってかなり都合が良かった。勿論、緊張する事なく過ごせると言う事もあるが、父のことをうっかり話したとしてもドラコにならば問題が無い。
まさか、それを見越してのこの部屋割りなのか、とルイスは考える。それなら、愛しい片割れは一人で秘密を守り続けなければならなくなる、グリフィンドール寮には自分達の秘密を知っている者はいない。
ルイスはふと、誰が本当の秘密を知っているのかと考えた、ダンブルドアは勿論だが、他の教師は知っているのだろうか?この事はいつか父に確認しなければならない、そうルイスは思った。
「僕は疲れたから…もう寝るよ、ルイスは?」
ドラコは欠伸を噛み殺し、目を擦りながらルイスに問いかける、ルイスは自分の荷物を片付けていた手を止め少し悩むように顎に手を当てた。
「うーん。ちょっとソフィアのところに行くよ」
「こんな時間に…外に出て怒られないか?」
「さあ、別に怒られてもいいさ。おやすみのキスをしなきゃいけないからね」
「まぁ…気をつけろよ。…ソフィアに、僕の分もおやすみと伝えてくれ」
「わかった!」
ドラコは少し眉を寄せたが止める事はせずパジャマをトランクから出した。
妹の事になるとどんな事でもしてしまうルイスの性格をよく知っているドラコは止めても無駄だと考えていた。お互いに溺愛しているのだ、長く2人で暮らしているようなものだし、お互いに依存するのは仕方のない事だろう。
ルイスとソフィアはほぼ同時にこっそりと寮を抜け出し、夜の薄暗い廊下を駆けた。
ホグワーツにきて初日で寮から抜け出したのは長いホグワーツの歴史の中でも2人が初めてだった。そのため教師達も油断し見回る事は無かった。彼らもまた、明日から始まる新年度の授業の準備で忙しく、そこまで気が回らなかったのだ。──ただ、1人を除いて。
人1人いない廊下を走っていた2人は、お互いの寮の場所は勿論知らない。だが、相手ならきっとここに来るはずだ、という直感で大広間近くの廊下を目指していた。
「ルイス!」
「ソフィア!」
2人は薄暗い廊下で愛しい片割れを見つけると駆け寄り強く抱きしめあった。さながら恋人同士の密会のような光景に、壁にかけられた肖像画が眠そうな目をしながら2人をちらりと見て「お熱いことで」と呟いた。
暫く2人は無言で抱き合っていたが、そっと身体を離し額をくっつけ合う。
黒い目と緑の目が確かに結ばれ、その瞳の中に映るのは愛しい片割れ、ただそれだけだった。
「…私、明日から不安だわ…」
「大丈夫、グリフィンドールにはハリーやロンもいるし…ほら、フレッドとジョージもいるでしょ?心配する事ないよ」
心細そうに呟くソフィアをルイスは何度も励ました。決まった事は覆らない、どうしようもない事だ。ソフィアもそれは分かっていたが、一度吐いた弱音は止まることが無い。
ルイスはソフィアの手を繋ぎ、近くの大きな窓に近づいた。充分に座れる窓の縁に腰を下ろし、隣をぽんぽんと叩き、座るよう促した。
手を繋ぎ、身を寄せながらポツポツと弱音を吐くソフィアに、ルイスは何度も優しく頷いた。
突如、コツ、コツ、と小さな靴音が響き2人は身体を硬まらせる。おそらく同じ生徒では無い、間違いなく見回りの先生だろう。
足音は徐々に近づき、窓から差し込む月明かりがその人物を朧げに照らし出すと、2人は肩の力を抜いて思わず立ち上がった。
「と──」
父様、そう言いかけて慌てて口を押さえる。
久しぶりに対面した事と、周りに誰も居ない事でつい油断してしまったが、ここは家では無い、ホグワーツだ。誰が──どのゴーストが急に現れるかわからない。ピーブズに知られたらそれこそ次の日には噂は駆け巡り、2人は荷物を鞄に詰めてホグワーツを後にする事となるだろう。
セブルスは寮を抜け出し、窓の側にいる2人を見て盛大にため息をつくと額を抑えた。その表情に怒りはなく、代わりに呆れが滲んでいた。
組み分けの時の2人の会話から、本当に夜に抜け出しているかもしれないと思い念のため見回りをしたのだが、まさか本当に…ホグワーツでの生活が始まった初日にして校則を破った、記念すべき第一号が自分の子供達だなんて。
「…ミス・プリンス、ミスター・プリンス。就寝時間後に寮から出る事は禁じられている」
「…ごめんなさーい」
他人行儀なセブルスの言葉に、ソフィアは面白くなさそうに口を尖らせしぶしぶ頷いた。
ホグワーツに入学するにあたっての約束はわかっている。だが実際他人として話す父に何とも言えない寂しさを感じていた。
2人がセブルスと会うのは実に1か月ぶりだった。毎年新年度が始まる前の夏季休暇は、セブルスも家に戻り一緒に過ごしていたのだが、今年は忙しくセブルスが家に戻ってこれたのは初めの数週間だけだった。
「…罰則を与えねばならん、…明日の放課後、私の研究室に来なさい」
どんな内容の罰則なのかと2人は続きの言葉を待ったが、セブルスはそれ以上何も言わない。ソフィアとルイスは顔を見合わせ、不思議そうにセブルスを見上げる。
「罰則の…内容は?」
ルイスが恐る恐る聞けば、セブルスはほんの少し、彼らにしかわからない程度の微笑を浮かべる。
「それだけだが、…不満かね?」
「…?……あっ!なんて事だろう!」
「…まぁ!なんて罰則なの!?」
2人は含みを見せるセブルスの言葉の真意にようやく気付くと嬉しそうな悲鳴をあげた。
罰則という名の、自室への誘いに2人は思わず飛び付きそうになったがぐっと耐え、飛び切りの笑顔を見せた。
セブルスも我が子らに会いたく無いわけではなかった。だが会うにはそれなりの口実が必要だ。
研究室に罰則として生徒を呼び寄せる事は今までに何度かあり、周りから不信感を抱かせる事は無い、密会をする口実としては最適だろう。研究室の奥にはセブルスの自室もあり、そこでなら親子として会話をしても誰に聞かれる心配もない。わざわざセブルスの自室や研究室に近づく命知らずの生徒など、このホグワーツには居ないだろう。
しかし、セブルスは後にこの事を後悔する事になるのだが、今はまだ何も気付いていない。
「もう遅い、寮まで送ろう」
「はい!スネイプ先生!」
二人は嬉しそうに笑いセブルスの両隣に立つと、そっと彼のローブを握った。いつもする彼らの癖だったが、普通の生徒なら決してしないその行動に、セブルスは無言で咎めるような目で見下ろした。
しかし、2人は手を離す事はなく、悪戯っぽく笑いながらセブルスを上目遣いに見上げた。
「僕、暗いのが本当は怖くて…こうして居てもいいですか?」
「私もなの!怖くて震えちゃうわ!」
セブルスは2人が闇を怖がる事はないと知っている。こうしてローブを掴むための、彼らなりの言い訳だとすぐに分かり小さくため息をついた。
「…それなら、仕方があるまい」
だが、セブルスは少し微笑むと振り払う事はせず2人の歩調に合わせゆっくりと歩く。
静かなホグワーツの廊下を歩く親子を、月明かりが優しく照らしていた。