賢者の石
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ルイスとソフィアを含めた一年生全員の引率者はハグリッドからマクゴナガルへと引き継がれた。彼女はとても厳格そうな雰囲気を漂わせていた。
2人はこのホグワーツで面白おかしい日々を過ごす為には彼女の目を盗む必要がある、そう直感した。
マクゴナガルはマグル出身の一年生の為に四つの寮の説明と組み分けが行われる旨を簡単に説明した。それぞれの寮の特色を今伝えないという事はきっと後程組み分けの儀式の時に伝えられるのだろうと2人は思う。
2人はどこの寮に配属されても、特に問題はなかった。希望も特に無い、ただ2人はお互いが必ず同じ寮になる事を信じて疑わなかったし、当然そうなると思っていた。ただ、愛しい兄妹と同じ寮なら、2人の願いはそれだけだ。
「組み分け儀式がまもなく始まります。さあ、一列になって。ついてきてください」
扉が開き、小部屋に集められていた一年生達は緊張から強張った顔をしてマクゴナガルを見つめた。組み分けの儀式はどんなものなのだろうか、試験や戦いは本当に行われるのだろうか、もしどの寮にも選ばれなかったら──。
組み分け帽子を被るだけだと知っているルイスとソフィアも、周りの緊張と不安が伝染し、いつもより表情を固くして静かに一年生の列に並んだ。
組み分けの儀式がいよいよ始まる。
二重扉を潜って大広間へと向かった一年生達は、その先に広がっていた素晴らしい光景に今までの不安を一瞬忘れた。
何千という蝋燭が空中に浮かび大広間を照らす。四つの長机にはそれぞれの寮の色を示すネクタイをつけた上級生達が着席し、机の上には黄金に輝く食器やゴブレットが置いてある。ホグワーツで共に過ごす新入生達を上級生達は暖かい眼差しで歓迎した。
大広間の上座にはもう一つの長机があり、そこに座る教師達の中に、ソフィアとルイスは父親を見つけた。
口を固く結び、他の教師達とは違い微笑ましげに見てもいない。2人は久しぶりに見た父親に思わず飛び出しそうになったがぐっと堪えた。そうだ、親子だとバレてはいけないんだった。
教師が座る机に着きながら一年生の中にいるソフィアとルイスを見たセブルスは、2人の今にも飛び出しそうなウズウズとした表情を見て、小さくため息をこぼす。本当にこの双子達は在学中ずっと秘密を守れるのだろうか。
マクゴナガルは椅子を出すとその上に組み分け帽子を置いた。その帽子はぴくりと動くとつばの縁の破れ目をかぱりと大きく開き、そしてそれぞれの寮の特色を歌い出した。
勇気ある者が住まう寮、グリフィンドール
忍耐強い者が向かう寮、ハッフルパフ
知識を得る者が選ばれる寮、レイブンクロー
真の友と狡猾さを持つ寮、スリザリン
歌い終わると全員が割れるような拍手を送る。一年生達はほっとしたように表情を緩めた、試験や戦いなんてない、帽子を被るだけだなんて!
「ABC順に呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組み分けを受けてください。──アボット・ハンナ!」
名前を1番に呼ばれた少女は頬を赤く染めながら転がるように舞台に上がり、震える手で帽子を掴むとそのまま被り、椅子に座った。
「ハッフルパフ!」
帽子は高らかに宣言し、ハンナは嬉しげに笑いながら温かい拍手を送るハッフルパフ寮へと走り、同じ寮生が待つテーブルに着いた。
何名もの組み分けが終わり、ハリーとロン、それにルイスとソフィアはまだよばれぬ名前と、徐々に近づいて来た順番に緊張するように前を見た。
きっと、ハリーの次に呼ばれる。アルファベット順ならそうなるはずだ、とルイスは隣に居るハリーと自分の妹を見た。
ハリーの組み分けはこの数多く居る一年生の中で最も注目を集めていた、この世界でハリーの名前を知らない人はいない。ぜひ、ハリーを我が寮に、そう皆が思い固唾を飲んで見守る中、組み分け帽子は高らかにグリフィンドールを宣言した。
誰よりも大きい拍手と歓声がグリフィンドールから湧いた。
頬を赤くしてグリフィンドール寮へ向かうハリーを見ていたルイスは、少しだけこの後に続くのが自分でなければいい、と思ってしまう。こんな注目されたハリーの後だなんて。いや、別にどこの寮でもいいんだけど。
ちらりとグリフィンドール寮を見れば、ネビル、ハーマイオニー、ハリー、そしてフレッドとジョージがその場にいる事に気付く。どこでも良いが、知り合いが大勢いる所も中々に楽しそうだと思った。だが、スリザリン寮を見ればドラコがじっと自分を見つめている事に気付き、少し笑って手を振った。
「プリンス・ルイス!」
名前が呼ばれ、ルイスは静かに組み分け帽子の元に向かう。
プリンス?王子様だって?珍しい苗字だな。微かなざわめきが大広間に響き、上級生達は首を伸ばしてルイスの顔を見た。
ルイスは一年生の中で最も背が低く華奢だった。彼が羽織るローブはやや大きく、白い指先が少しだけ見えている。
温かな日差しを思わせる柔らかそうな赤毛はさらりと形の良い頭に沿って流れ、頬は緊張からか赤く染まり、形の良い口はきゅっと結ばれている。
けして、王子様のような美少年では無かったが、何処か温かな雰囲気を持つ少年だった。
ルイスが帽子を被ると大きすぎる帽子は彼の顔全てを隠した。
「ふーむ。どうしたものかね…君は何よりも勇敢な心を持ち、とても思慮深い、好奇心も旺盛じゃ…」
ルイスの頭の中に低い声が響いた。
その声を黙ってルイスは聞く、どこの寮でもいい、帽子の決定に委ねようと思っていた。
「──ほう、じゃが、その優しさを向けられるのは──…なるほど──それならば…」
帽子は一度一呼吸分沈黙し、大きく口を開いた。
「──スリザリン!!」
わっと歓声がスリザリン寮から上がる、ルイスは帽子を脱ぎ、微かなブーイングの声──おそらく赤毛の双子だろう──を聞きながら何処か嬉しげなドラコの隣へ向かった。
「一緒で良かったよ!」
「僕はルイスはきっとスリザリンだと思っていたさ。…きっとソフィアも同じだろう」
「そうだろうね」
ルイスはドラコの言葉に頷く。ルイスもまたソフィアが同じ寮に組み分けられるだろうと思っていた。
ちらりと父を見れば、嬉しいようなそれでいて複雑そうな顔で手を叩いているのが見えた。家族にだけわかる、あの微妙な表情。きっと自身が持つ寮に息子が入ったのは嬉しいが、この後の学生生活で間違いなく大量の減点をする事を予想し、気を揉んでいるのだろう。
ルイスはスリザリン寮になっても、たとえ父に怒られようが、悪戯を控えるといった発想にはならなかった。
「プリンス・ソフィア!」
続いてソフィアが舞台の上に上がる。
同じ苗字を持つ少女を見て、彼らを知らない生徒達は初めて男女の双子だと気づいた。
ソフィアもまた、ルイスと同じように小柄で華奢だった。ローブの袖からはほんの少し指先が見え、その肌も青白い。
顔の作りはよく似ていたが髪色は黒く艶やかで、腰の辺りまで伸び毛先は途中から緩く巻かれていた。くるりとソフィアが振り返れば、ふわり、とそれに合わせて髪が靡く。
瞳の色は鮮やかな緑をしており、キラキラと輝いていた。
この少女も特別美少女なわけではない、ただ、どこか愛らしさを持つ少女だった。
ソフィアは深呼吸を一つし、帽子をかぶって椅子にちょこんと座った。
「ふむふむ…君は誰よりも強い意志と、困難にも立ち向かえる勇気と博愛、恵まれた魔法の才能を持つ…それでいて他者を信じる心の強さもある…」
ソフィアもまたルイスと同様静かに組み分けされるのを待っていた。
ルイスがスリザリンに選ばれたのならきっと自分もそうに違いないと思い込んでいたソフィアは帽子に何も言わなかった。
──この時の過ちを、ソフィアは酷く後悔する事になる。
「ならば──グリフィンドール!!」
割れるような歓声と拍手が響いた。一際大きくフレッドとジョージが喜び口笛を吹く。
双子であっても必ず同じ寮に組み分けられるわけではない、帽子はその人の本質を見て、そして少しの希望を叶える。
ソフィアは固く身体をこわばらせたまま、動けなかった。今帽子から高らかに宣言された言葉が信じられず、膝の上で強く手を握り、帽子を取ることも、立ち上がりグリフィンドールへ向かう事もなかった。
動こうとしないソフィアに、マクゴナガルは片眉を上げ近づくと帽子をさっととった。
帽子の奥から現れたソフィアの表情は蒼白であり、目は大きく開かれ、そしてうっすらと涙の膜を張っていた。
その表情を見てマクゴナガルは驚く、スリザリンに組み分けされ、このような顔をする者は過去に何名か見たことがある、それでもグリフィンドールに入って、こんな絶望感を見せる子どもは初めてだった。
「ミス・プリンス、さあ立ちなさい」
動かないソフィアをマクゴナガルはややきつい口調で促す。マクゴナガルはグリフィンドールの寮監であり、自分の寮が最も素晴らしいと心の底から思っているのだ、その素晴らしいグリフィンドールに入る事を喜びこそすれ、嫌そうにするなんて、とマクゴナガルは少し気分を害した。
他の生徒も一向に動かないソフィアをざわざわと見た。グリフィンドールからの拍手もいつのまにか止まり、不穏な空気が静かに流れる。
「──嫌よ!!」
ソフィアは立ち上がると、悲痛な声で叫び、マクゴナガルの手から無理やりに組み分け帽子を奪うと強く揺さぶった。
「いや!!なんで、なんでグリフィンドールなの!?スリザリンに入れなさいよ!!」
その声にグリフィンドール生はやや軽蔑にも似た目でソフィアを見る。スリザリンを渇望するなんて、そんな生徒こちらからお断りだと何人かが舌打ちをした。
しかし、ソフィアと交流があるフレッドとジョージはそのソフィアの悲痛な叫びを聞いて顔を見合わせ、心配そうに見た。いつも笑顔で楽しげなその表情のかけらもなくら今にも泣き出しそうに目は揺れ、帽子を掴む指は力が込められ白く震えていた。
「ミス・プリンス。組み分けは絶対です。…それ程グリフィンドールが嫌なのなら…どうぞ、扉から家へお帰りください」
マクゴナガルは厳しい目つきでソフィアを見ると、大広間の扉を指差した。
ソフィアはぐっと言葉に詰まり、帽子を強く抱きしめる。
その目には、どこか必死な懇願が滲んでいた。
「違う…違いますマクゴナガル先生…グリフィンドールが嫌なわけじゃ無いの…」
「なら、どうぞあの席へ」
震える声でソフィアは呟く、マクゴナガルを見上げるその大きな目からついにポロポロと涙が溢れ頬を伝った。
「…ソフィア…」
スリザリン寮の席についていたルイスはその涙を見て呆然とつぶやいた。
ソフィアは滅多に泣かない、どれだけ自分と喧嘩しようとも、幼い頃に孤児院で上級生と取っ組み合いの喧嘩をし怪我をした時だって、泣かなかった。
セブルスもまた、唖然とした表情でソフィアを見る。彼もまた彼女がこんなにも悲痛な表情をするのも、涙を流すのも滅多に見たことがなかった。
「じゃあ…ルイスを…ルイスをグリフィンドールにして…」
「…それも、不可能です」
「そんな…!私達、今まで、一度も離れたことがないの!生まれてから、ずっと…!ルイスと一緒じゃなきゃ、わ、私…!」
マクゴナガルはソフィアがグリフィンドールを嫌がる理由が、寮を嫌うわけではなく、双子の片割れと離れたく無いのだと分かると少しだけその厳しく固められた表情を緩め、残念そうに、それでいて諭すように優しく泣きじゃくるソフィアの背を撫でた。
「ミス・プリンス…別の寮にわかれたといって、ずっと会えないわけではありません。…このホグワーツで共に暮らすのですから…」
「っ…いや…いやぁ…ルイス…」
ソフィアは駄々をこねるように首を振り、涙を流して愛しい片割れを見た。
その涙に濡れる悲痛な瞳を見たルイスはたまらなく胸が締め付けられ思わずそこから駆け出しソフィアの側に駆け寄り、縋るように腕を伸ばすソフィアを強く抱きしめた。
「ソフィア!僕だってソフィアと離れるのは辛いよ…」
「ああ、ルイス!こんな、こんなの…わたし、どうしたら…」
「組み分けは覆らないんだ、ソフィア…ね?良い子だから…もう泣き止んで?」
ルイスは優しく身体を離すと、まだ涙を流すソフィアの目元にキスを落とした。
「僕の可愛いソフィア!君は笑顔が1番似合う、…さあ、僕に笑顔を見せて?」
「ルイスっ…で、でも、私…!」
何を言ってもソフィアの目からポロポロと涙の粒は溢れて止まりそうになかった。
ルイスはちらりとマクゴナガルとグリフィンドールの生徒がいる机を見た。
先程まで憤っていたグリフィンドール生は皆、可哀想なものを見る目で2人を見ていた。あまりの悲痛な泣き声に、感性豊かな子はつられてうっすらとその目に涙を見せている。
「…ソフィア」
ルイスの諭すような声に、ソフィアは固く唇を結んだままだったがようやく諦めたようにごしごしと袖で目元を拭った。
「…ま、毎日会いにきてくれる?」
「うん、絶対会いにいくよ」
「おはようとおやすみのキスは?」
「勿論!ソフィアが望む限り寮を抜け出すさ!」
目の前で校則を破る行為の約束が交わされていたが、今口を挟めばきっとまたこの少女は泣き喚く事だろう、そう考えマクゴナガルは何も聞こえなかったふりをした。
「いつだって…そばにいると、思ってたの」
「心ではいつもソフィアを思っているよ、…ソフィア、君もそうでしょ?」
赤くなった目元を優しく撫でれば、ソフィアは小さく頷いた。
「さあ、グリフィンドールに行けるね?」
そっとソフィアの手を取り立たせると、ソフィアはルイスにしがみつくようにしていたが、名残惜しそうにルイスの頬にキスを落とした後、何度も振り返りながらとぼとぼと肩を落としてグリフィンドール生が待つ机へ向かった。
温かい拍手の代わりに、誰もが悲しげなソフィアを慰めた。