賢者の石
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12月13日。
朝日が部屋の中を明るく照らしたその瞬間、男女の双子はほぼ同時に目を覚まし、勢いよくベッドから飛び起きた。
「おはようソフィア!僕の親愛なる妹よ!お誕生日おめでとう!」
喜びながら叫ぶように言ったのは少年の方で、ネグリジェを着る少女に飛びつくと強く抱きしめ頬にキスを落とした。少女は少し残念そうに「負けたわ!」と言いながらも同じように強く抱き返し、頬にキスを返す。
「私が先に言いたかったのに!おはようルイス!私の大切なお兄様!お誕生日おめでとう!」
2人は頬をくっつけ、ぎゅーっと抱きしめ合う。そして指を絡め手を繋いだままスリッパをならしぱたぱたと廊下を走り一つの扉を少年──ルイスは蹴り開け、少女──ソフィアは手で押し開けた。
2人の暴行により扉は蝶番を破壊され大きな音を立てその場に無惨にも倒れた。2人は少しも気にする事なくその倒れた扉を踏みつけ部屋に入ると、布団の中でまだ毛布に包まれるその人めがけて飛び乗った。
「おはよう父様!今日という日に感謝を!」
「父様まだ寝ているの?今日は家族にとって特別な日よ!」
「──っ!」
2人は膨らむベッドに飛び乗る。2人分の体重を一身に受けたそのベッドの主であり、2人の父親──セブルス・スネイプは呻めき痛む腹や脇腹を抑えながら起き上がる。
「…ルイス…ソフィア…お前たちは私を圧死させるつもりか?」
それだけで人を殺せそうな冷たくきつい眼差しを見ても2人は少しも恐ることはなくそれぞれセブルスの頬にキスを落とした。
「まさか!僕たちはただこの日を少しでも早く祝いたかっただけさ!」
「そうよ!…ねぇ父様?私父様の作ったあまーいブラマンジェが食べたぁい」
「ええー!ずるいよ!僕はプティング!カラメルソースは苦めがいいなー」
自分の首に絡まる2人の重さを感じながらセブルスは身体を起こし、2人の成長を少し喜ばしく思いながら微かに微笑む。
「…ああ、良いだろう」
「「やったー!」」
途端に嬉しそうに歓声を上げた2人はセブルスの頬に再びキスを落とす。
「ルイス、ソフィア…誕生日おめでとう」
セブルスは優しさと、愛おしさが含んだ声で2人に言うと、そっとその頬に掠める程度の軽いキスを返す。
2人はきょとんと顔を見合わせ、そして頬を押さえキラキラと目を輝かすと強くセブルスに抱きついた。
「ありがとう父様!」
「私達を産んでくれてありがとう!」
「…いや、産んではいない」
苦笑しながらセブルスは言うが2人は気にせずベッドから飛び降りる。そしてニコニコと明るくいっぱいの喜びを表したままセブルスの腕を引きベッドから外へ誘い出した。
2人がこれ程までに楽しげで、興奮しているのは誕生日だから、ではない。
父親と、家族揃って過ごせる誕生日だから、であった。
2人の父であるセブルスはホグワーツの教員をしている。教師も皆ホグワーツで寝泊まりし、家に帰って来ることは少ない、それにセブルスはただの教師ではなく、スリザリンの寮監でもある。夜の見回りや数多く起きる問題の処理があり、家に帰れないのも仕方のない事だった。
幼い頃は自分達ではなく他人の子どもばかり構う父が悲しくて、なんだか無性に悔しくて、見たこともない子供への嫉妬心から沢山の我儘や駄々を捏ねてセブルスを困らせていた2人だったが今はもう──悲しい事だが──眠れない夜に父の寝室へいき、そのベッドが冷えていることに悲しむ事にも慣れていた。
それでも、何度途中で呼び出されることになろうとも、休暇のたびに戻って来てくれることは嬉しく思っていた。
彼らの11歳の記念すべき誕生日は、幸運にも休日だった為にセブルスは夜遅くにダンブルドアに帰宅する事を告げ、愛しい我が子らの誕生日を祝うべく自宅へと帰って来ていたのだ。
2人は寝巻きのままリビングへ向かい、そして沢山のプレゼントを見て嬉しげに駆け寄る。
色とりどりの包装紙を眺め、暫くはこの幸福な気持ちに浸っていたいと彼らはすぐに開けることはなく、ダイニングテーブルにつくと微笑みながらそのプレゼントの山を見ていた。
セブルスが2人の希望の料理──という名のお菓子であったが─とを作る様子をちらちらと見て、2人は顔を合わせ笑い合う。
こんな幸せな日、滅多にないだろう。父親がいて、愛しい相方も隣にいるなんて!
「…2人とも、もう朝の挨拶はしたか?」
「あ!」
「忘れてた!ごめんなさい母様!」
2人はばたばたと慌てて椅子から飛び降りると、リビングの窓のそば、1番日当たりのいい場所にある小さな丸テーブルの上に置かれている写真たての前に向かい、膝をつき祈るように指を組んだ。
「おはよう母様!遅くなってごめんね?僕たちは11歳になりました!」
「おはよう!もうすぐホグワーツよ!私たくさんの伝説を残してみせるわ!」
口々に写真たてに映る、真っ赤な髪と優しげな緑色の目を持つ女性に話しかけた。その女性は赤子を抱き愛おしげに微笑むだけで答えることは無かったが、幸せそうに微笑んでいた。
2人は母親を写真でしか知らない。まだ赤子の時に亡くなったのだと聞いた。あまりにも父親が辛そうにするので、2人は母がなぜ死んだのか…病気なのか、事故なのか、それとも──殺されたのかを、知らなかった。
薄情だと思われるかもしれないが、2人は記憶に無い母親の事よりも、父であるセブルスを愛し、そんな大切な人の辛い顔は二度と見たくなかったのだ。
2人は口々に写真たてに向かって話を続ける。返答はないが、まるで会話をするようにとても楽しげだった。
セブルスは2人の声をBGMにしながらプティングとブラマンジェ、そして軽い朝食を作り終えると机の上に並べた。
「2人とも、朝食が出来たぞ」
「「はーい!」」
元気良く2人は声を揃えて返事をし、テーブルに着くと目を輝かせ嬉しそうに、好物を食べ始める。そんな2人を見て、セブルスの表情は柔らかく緩んでいた。
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