Be in love
「───本気か…?」
「うん。本気だよ?先輩が好き。大好き。誰よりも……。」
─────────
先程までいつもの様に皆で騒いでいた食堂車は22時で完全に営業時間を終え、客室乗務員であるナオミに急かされ食堂車から閉め出されたイマジン達は各々の自室へと向かって行った。
ご機嫌で夜中中夜更かししてお絵描きしようとしていたリュウタロスは食堂車から閉め出されたのをかなり不満げに愚痴って拗ねていたが、それを見兼ねたキンタロスがリュウタロスの首根っこを豪快に掴み上げ半ば強引にイマジン専用車に連れて行った。
そんな二人を見てやれやれとため息を吐きながら、モモタロスは自分も自室に行って寝るかと食堂車の自動ドアから離れ歩き出そうとした。
「待って。」
自室へ向かおうとしたモモタロスの手首を掴み、そう声を掛けて引き留めた者が居た。
「何だよ。」
「引き留めてごめんね、先輩…。ちょっと…、先輩に話したい事があって……。」
ウラタロスだった。
「…だから何だよ?俺は眠ぃんだ。話したい事があるなら、さっさと話せよ。」
直感で普段の彼とは少し様子が違うとモモタロスは気付いたが、敢えて自分も普段通りの対応をした。
「うん…。でも、ここじゃ言い難くて……。先輩の部屋で話させて貰いたいんだけど駄目かな…。」
「……。」
「ごめん。やっぱり良いや。眠いのに引き留めたりしてごめんね、先輩。今の…、忘れて良いから……。」
自分からの返答が無い事を拒否されたと解釈したのか、掴んでいた手首を放したウラタロスは「それじゃおやすみ、先輩…。」と一言告げ、その場から去ろうとした。
「待てよ。誰も俺の部屋に来るなとも、駄目とも言ってねぇだろうが。」
そう言って今度はモモタロスが彼を引き留めた。
「え…?」
「だからっ!俺に“大事な”話があるんだろうがっ!!」
「え?う、うん…。て、ちょっと先輩、声が大き、」
「うっせぇ!!グダグダ言ってねぇで、さっさと俺の部屋に行くぞっ!!」
ウラタロスの言葉を遮ったモモタロスは自身の頭をガシガシ荒く掻くと、「あ〜っ!ったく、めんどくせぇっっ!!」とぶっきらぼうにウラタロスの手首を掴んでスタスタと足早に自室へと向かった。
─────────
所変わり、デンライナー・イマジン専用車。
そのモモタロスに当てがわれた自室にウラタロスを連れて入ったモモタロスは自室の照明灯を点けると、そこで漸く手を放した。
「──で、話って何だよ。」
「あ、うん…。あのね…、、、」
ウラタロスの望み通りに自分の部屋に連れて来てやったのにいざ来てみると怖気付いてしまったのか、いつも人を軽くあしらう彼らしくもなく言い淀んだ。
それ程までに話し難い内容とはいったい何なのか…。
彼は嘘を吐く。
まるで呼吸をするかの様に自然に、“それ”が当たり前の様に……。
カイ達との最終決戦の直前の時もそうだった。
デンライナーに敵イマジン達が数体乗り込んで来た時、最初から敵側のスパイとして自分達と共に居た振りをして裏切ったウラタロス。
しかしそれはデンライナーと良太郎達を守ろうとした彼の渾身の演技(=嘘)だった。
あの時、自ら電王ロッドフォームに変身して敵イマジン達を倒して良太郎をデンライナーに送り戻して彼は過去に一人残った。
先立って別の過去に残ったキンタロスに感じた仲間としての思いとは別に。
ウラタロスが過去に留まり現在へ向けて走り出したデンライナーを…、そして自分達を見送った彼のあの微笑んだ顔がモモタロスの胸を締め付けた。
あの微笑みを見て自分の中に生まれた感情…。
デンライナーのコックピットへ急ぎ、デンバードに跨って必死でブレーキを掛けたあの時。
デンライナーの“意思”により結局はあのままウラタロスを過去に残してしまった。
あの瞬間の仲間としてのどうしようもない喪失感と。
そして仲間としてだけじゃない、ウラタロスに対して芽生え始めていた彼への“想い”がモモタロスの胸を締め付け苛んだ。
その時芽生えたウラタロスへの“想い”の正体が何なのか……。
それが分からない程、モモタロスは馬鹿ではない。
だが、それを彼に打ち明けてしまったら、今の自分達の関係が崩れてしまう。
だからモモタロスは自分の心を押し隠して今まで通りにただの“仲間”として接し続けて来た。
だからまた彼に疑念を感じてしまったのだ。
ウラタロスはまた自分達に言えない重要な事を隠していて、嘘を吐いている…。
そうだとすればまた彼に甚大な危機が迫っているのではないかと、モモタロスは直感でそう感じたのだ。
「──お前、また俺たちに何か重大な事を隠してんじゃねぇだろうな…。」
「え…?」
「え?じゃねぇよっ!!またあの時みてぇに何かまた強敵が現れて、そんでまたお前だけが重大な何かを見つけてたった一人でどうにかしようって思ってんじゃねぇだろうなっ!?」
「、、、は???」
「〜〜〜〜っっ何、すっとぼけた面してんだ、このクソ亀っ!!食堂車じゃ言い難いっつうから、俺の部屋に連れて来てやってみりゃ案の定やっぱり喋べらねぇじゃねぇかっ!!そうまでしても言えねぇってことは、テメェがまた何か禄でもねぇ重大な事を隠してやがるに決まってんだろっ!!だからさっさと話しやがれ、仲間だろうがっっ!!!」
「……。」
思わず激昂してウラタロスの胸倉を掴み上げ怒鳴る様に捲し立てた。
「──先輩、そんな事思ってたの…?僕がまた先輩たちを裏切るかもしれないって心配だったんだね…。」
「…あ?裏切る??心配……???」
漸く話し出したウラタロスだったが、モモタロスは自身が予想した内容の言葉では無かった。
「そうだよね…。僕はこのデンライナーに乗った時からずっと嘘を吐いてばかりだったしね。僕の事、未だに信用出来ないのは仕方無い…か、、、」
「な…、お、お前何言っ」
「ごめん。僕が先輩に話したい事があるって言ったの、やっぱり忘れて良いよ。こんな僕じゃ、やっぱりどうしても信じられないよね…。」
「な……、、、」
見た事の無い、余りに哀しげで寂しそうな表情を浮かべてそう話したウラタロスにモモタロスは何も言えなくなった。
何を間違えた?
自分が直感で感じたウラタロスの異変は間違いだったのだろうか…
だが自分にはそれ以外思い当たる節が無い。
新たな敵の強襲以外に何があるのか、見当も付かない。
他に彼が自分に対して言えない事というのはいったい何だ…??
「それじゃ、おやすみ先輩…。また明日…。あ、念の為に言っておくけど、新たな敵が現れた訳じゃないし、危険な事態にもそもそも全くなって無いから安心してね。」
「じゃ、またね…。」…と、そう言い残してウラタロスはモモタロスの横を通り過ぎて自動ドアが開くと部屋から出て行った。
ウラタロスが部屋から出て行った直後、ハッと我に返るとモモタロスは慌ててウラタロスを追い掛けた。
「待てよっ!!テメェ一人で自己解決しやがって!!だからテメェが俺に話してぇ事っていったい何なんだよっ!!」
「…先輩、もうちょっと声抑えないとみんな起きちゃうよ?それにさっきも言ったけど、もう良いから…。諦めたから、もう良いんだ先輩…。だから自分の部屋に戻って休んでよ…ね……?」
「良くねぇっ!!諦めたって何だよっ!!…テメェはいつもいつも一人で抱え込みやがって……。またテメェがたった一人で大勢の敵どもと戦おうとしてんじゃねぇか…って、心配するこっちの身にもなれっつうんだ馬鹿野郎……。」
「…え?心…配??僕が一人で敵と戦うのが……??」
「…じゃなきゃ、いったい何だよ。俺に話したい事って……。諦めたって何を諦めたっつうんだ??」
「──!?……。」
モモタロスの言葉を聞いて互いに誤解していた事にウラタロスは漸く気付くと、安堵と少しばかりの自嘲を交えて笑った。
「ごめんね…。僕が先輩に話したい事を話さなかったせいでお互いに誤解が誤解を生んでたみたい…。」
「は…?誤解だ……??」
「うん、誤解…。そっか…。それじゃまだ諦めるのは早いかな……。」
「…???」
モモタロスは未だ何が誤解なのか全く分からず戸惑っていた。
「それじゃ、改めて言うよ。」
目の前の男の真意が読めず未だ戸惑いの色を浮かべたままのモモタロスに対し、ウラタロスは真っ直ぐ真剣な面持ちで見つめ返すと静かに“その言葉”を告げた。
「好きなんだ…。」
「え…、な……??」
「何を」と訊く前にウラタロスにそっと片手を取られ、両手で包み込む様に握られた。
「ごめん…。いきなり過ぎてビックリしたよね。でももう、自分の心を抑えきれなくなっちゃった…。」
「自分の…心……、、。」
「うん…。ずっと…、ずっとね、もういつからか分からないくらい、いつの間にか先輩に心惹かれてた…。気付いたらずっと先輩の姿をいつも見てた…。喧嘩っ早くて…でも凄く純粋で真っ直ぐで、太陽みたいに眩しくて…。そんな先輩にいつしか惹かれて焦がれて止まなくて、ずっと苦しかったんだ……。」
「……。」
ウラタロスが告げて来るその感情には自分にも思い当たる節が有る。
というか有り過ぎて、モモタロスは更に戸惑い困惑した。
まさか…、まさか自分が今までずっと必死で押し隠し続けて来たこの感情をこの男も自分に対して同じ様な感情を抱いて、同じ様にその“想い”を隠し続けていたというのだろうか…。
信じたい…。
信じたいが……、、
俄にはこの男の言葉を信じる事が出来ない自分も居る…。
この男は嘘偽るのが得意だ。
そもそも、この男と初めて出会った時も嘘偽りだらけだったのだから…。
その悪癖の所為で何度この男と衝突し、喧嘩になった事か…。
ただその一方で、その嘘で幾度となく敵から受けた窮地を脱する事が出来たのも事実ではあるが……。
ウラタロスを信じたい気持ちと過去の彼の素行から信じきれず、迷い一人葛藤していると。
「僕の言う事が信じられない…?」
ポツリと男が呟いた。
「そうだよね…。先輩との出会いからしても、僕はずっと嘘偽ってばかりだったからね…。でもほんとなんだ…。先輩の事が好きで大好きで、好き過ぎて苦しいんだ……。」
「──っっ。」
ツキリとモモタロスの胸が痛んで思わず息を詰めた。
彼のこんな思い詰めた表情を見たのは初めてだったが、こんな苦しげな顔を見たくないと。
笑って欲しいと思った…。
思ってしまった……。
「──亀…、俺は……、、」
自分の心を解放して笑って、笑い掛けて欲しいのに上手く言葉が出て来ない…。
この男にどう伝えたら良いのか、どうしたら笑ってくれるのか分からなくてもどかしい……。
けれど。
「──ごめん、先輩。無理しなくて良」
「──本気か…?」
「え…?」
「さっきの…、ほんとに本気かって訊いてんだ…。どうなんだよ……。」
この男の言う事が真実なら…、、
しかし、この男の顔を真っ直ぐ見れずにモモタロスは自身の顔を逸らして真意を訊ねた。
「──うん。本気だよ…?先輩が好き。大好き。誰よりも……。」
「──そうか……。」
「先輩…??」
数瞬の沈黙の間の後。
モモタロスは顔を逸らしたまま、自分の言葉を告げた。
「──良いぜ。」
「え…?」
「信じてやるよ、その言葉…。」
「先輩…??」
モモタロスから思い掛けなく告げられた言葉に、今度はウラタロスが戸惑い狼狽えた。
「だから…、信じてやるって言ったんだ。その…、、ほんとは俺も……、、、」
ちらりとウラタロスを見て頬をほんのり染めながら、また視線を逸らしてモモタロスはボソリと答えた。
「俺も…。俺もお前の事がずっと好きだった…。」
「は…、え…??せ…、先、輩???」
余りにも想定外の事だったのだろう…。
らしくなく酷く狼狽えた様子で、このいつも抜け目の無い敏いウラタロスが余りに急展開な状況に頭が付いて行ってない様だった。
「好きだ…。俺もほんとはずっと前からお前の事が好きだったんだ…。」
「先輩…も??僕の事…が……好きっ…て、え…???」
動揺の余り今も自分の片手を握ったままの彼の両手が震え始めた。
「──あぁ、好きだ…。ずっと好きだった…。けど、まさかお前に告られるとは思ってもみなかったけどな…。」
「……。」
「──何だよ。俺の事疑ってんのか?…言っとくけどな、俺ぁ、お前みてぇに嘘吐くのは苦手だし嫌ぇなんだよ。」
「先輩…。」
「──だから、お前がほんとに嘘言ってねぇなら受け入れるし、信じてやるって言ったんだ。嘘じゃねぇってんならな……。」
「先輩……。」
すると、ウラタロスは希望と不安の入り混じった様な、今にも泣きそうな顔をした。
「──嘘じゃねぇ…、んだろ?」
「先輩……。」
「嘘じゃねぇんだよな??」
「先輩……。」
「何だよ。どうなんだ、ハッキリしろよ…。」
ウラタロスの震えた両手を更に肩まで震わせた様子に居心地を悪くしたのか、モモタロスもまた罰が悪そうに顔を背けた。
「──うん…。うん、好きだよ先輩…。大好き。愛してる……。」
「──おぅ…。」
「先輩…、モモ…、、愛してる……。」
「──っっ!?か、亀っ!!んっ、ん…ぅ……、、」
ずっと今まで握られていた手を放したかと思うと、ウラタロスはモモタロスが背けた顔をそっと自分に向けさせ口接けた。
口接けられたとはいえ、自分達イマジンの姿同士では人間の様な唇は無い。
互いの口が接した瞬間、カチッと硬い音がした。
だがその音すらも心地良く感じてしまい、モモタロスは口接けられた瞬間体を強張らせたがすぐにウラタロスに身を委ねたのだった…。
「…はっ、、亀……、、、」
「好きだよ先輩…。まさか、こんなにも幸せで嬉しい日が来るなんて、思ってもみなかった…。」
先程までとは打って変わり心底嬉しそうな表情で微笑み、そして抱き締められた。
「夢じゃないよね…?ほんとに現実なんだよね…??」
「──あぁ…。夢なんかじゃねぇよ。全部本当の事だ…。」
「うん、そうだね…。ありがとう…。ありがとう、先輩…。僕の想いを受け入れてくれて…。僕を信じてくれて、ほんとにありがとう…。凄く嬉しいよ先輩……。」
「そりゃ、お互い様だろ…。俺だって、まさかほんとにお前とこんな風になるとは思ってなかったからな…。」
「ははっ、ほんとにね…。」
ウラタロスがモモタロスの額にコツンと自身の額を合わせると、互いに微笑み合った。
「ね…、っていう事はさ、僕ら晴れて恋人同士って事で良いんだよね…?ね?先輩??」
「え??あ、あぁ、多分…。」
不意にいつもの調子で訊ねられ、モモタロスはドギマギしつつ答えた。
「多分なんて曖昧に答えないでよ。ねぇ…、僕たち恋人同士に、相思相愛の両想いで晴れて結ばれたんだよねっ!ねっ???」
前のめりに押されて後ろに倒れそうになった。
「──あぁ、そうだよ…。俺たちゃ今日から恋人同士だ。これで文句は無ぇだろ。」
ぶっきらぼうに答えたのは照れ隠しの御愛嬌だと思って欲しい…。
この男だから自分の想いも認める事が出来たが、だからと言ってウラタロスの様にまるで呼吸をする様に愛だの恋だのと口に出来る程自分は柔軟ではないのだ。
「うん、嬉しい…。ありがと、モモ……。」
「──どうでも良いけどよ、その“モモ”っての止めろよ。」
「え、どうして?」
「何か、擽ったいっつうか…。変な気持ちになっちまうんだよ……。」
「……。」
先程から時折ウラタロスが口にしていた自分への呼び名…。
先輩と呼ばれる分には良いが、“モモ”などと呼ばれると擽ったい様な心が震わされる様な、妙な感覚に駆られるのだ。
「残念だけど先輩…、先輩からそんな事言われた以上、先輩への“モモ”呼びは抑えられそうに無いみたい……。」
「…は??何でだよ……。」
「ほんとに先輩は無自覚に可愛い過ぎて無防備過ぎて、僕、本当に心配だけど、めちゃくちゃ幸せ……、、、」
うっとりと溜め息を漏らしながら、ウラタロスは未だ自分の呼ばれ方に対する不耐性が何処から来るものなのか全く理解出来ずにいるモモタロスの片手を再び優しく両手で包み込む様に取ると、そっと手の甲に口接けた。
「──なっ!?てっ、テメッ…ッ!!」
「それはね…、先輩が僕の事をそれ程までに好きで、好き過ぎてどうしようも無いくらいに僕に惚れ込んじゃってるからだよ…。」
「──はっ!?な、ほ、惚れっ!??」
「うん、そうだよ。嬉しいな…。僕に“モモ”って呼ばれる度に震えちゃうくらい、僕の事を好いて惚れ込んでくれてるなんて。あぁ…、僕ってほんとに幸せ者だなぁ〜。」
「──なっっ!??ち、ちょっと待っっ、、」
幾らウラタロスへの“想い”を自覚していたとはいえ、ここに来てまさか自分の性癖までも自覚させられるとは思いもしなかった。
案の定、調子に乗らせてしまい、完全に普段の通常営業(笑)のウラタロスに戻ってしまっている彼にはもうモモタロスの往生際の悪い制止など届く筈も無く。
「さ、晴れて喜ばしくもお互いに両想いだった事が判明して、無事に恋人同士になれたお祝いしなくちゃね…。」
「お、お祝い…??」
「そ、“お祝い”♪」
「──…って、おい…。その“お祝い”…ってのは、まさかこれからお前と…、、、」
再びウラタロスに前のめりで詰め寄られ、後ろに倒れそうになった所を支えられる様に腰を抱き寄せられた。
その所為で互いの腰が触れウラタロスの“ソレ”がもう既に緩く勃ち上がり、そこそこの硬度を成している事にモモタロスは気が付いた。
モモタロスは全力で否定したい、急激に差し迫って来た自分の“バージン”を失う危機をひしひしと感じて額に冷や汗をたらりと流しながらおずおずと逃げ腰を打った。
「駄目だよ、逃げちゃ…。“モモ”…。もう君を逃さないし離さない…。」
「ちょ、おい、亀待てって…、、」
目の前の男の笑みが優しく柔らかな微笑みから徐々に目が据わり、腹黒い笑みへと変わっていく。
「大丈夫だよ、先輩…。今夜は先輩との大切な初夜なんだから、ゆっくり丁寧に大事に優しく蕩ける様に抱いて極上の天国に連れてってあげるから…。何も心配しなくて良いし、怖がらなくて良いからね…。ね、“モモ”……。」
「いや、ほんとにちょっと待てって。落ち着けよ、亀……。」
触れている互いの腰が。
ウラタロスの屹立が更に熱く硬度を増して来ているのが分かる…。
「ごめんね、先輩…。待ってあげたいけれど、僕もう抑えきれない…。君が欲しいんだ、“モモ”…。君を抱いて、名実ともに君が僕のものだっていう証明が欲しいんだ。君が欲しい…。欲しくて堪らないんだ、“モモ”……。」
抱き寄せる力を強められこれ程までに欲し求められ、耳元に響くウラタロスの自分を呼ぶ声にゾクリと体が震えた。
「──ちくしょう…。テメェばっかズリィぞ。」
「先輩…??」
「──俺だって…、、。」
「先輩、どうし」
「抱けよ…。」
恥ずかしくて堪らない…。
でも此奴ばかり狡いと、生来の負けず嫌いとウラタロスを欲する思いがモモタロスを突き動かした。
「抱けよ…。テメェが欲しいだけくれてやるから、テメェの好きなだけ俺を抱けよ…。その代わり……、、」
「先ぱ、──っっんっ!?」
ウラタロスの肩に腕を回して自分に引き寄せると、モモタロスは告白した勢いのままさっきのお返しとばかりに自分から口接け返した。
「その代わり、俺もお前の全てを貰う…。テメェばっかり欲しがってると思うなよ?この俺様をものにしてぇってんだ。俺は高く付くぜ…、覚悟しろよ…?」
ニッと挑発的な笑みを浮かべ、モモタロスはウラタロスの屹立に自分のそれを押し付ける様に体を密着させた。
「了解…。先輩こそ、僕の欲望を甘く見ないでね。僕の君への愛は海の様に広くて、もの凄く重く深いんだから…。溺れさせちゃうかも……。」
「先輩、金槌なのにね…。」と、ウラタロスもまたモモタロスの挑発に応戦する。
するとモモタロスはハッと笑い飛ばし、事も無げにこう宣った。
「やれるもんならやってみろよ。溺れんのはむしろ、テメェの方だぜ。泡吹いてひっくり返ったって知らねぇかんな。“ウラタロス”……。」
「フフッ。上等……、、、」
不意に呼ばれた“その名”に驚きと同時に言い様の無い昂揚を感じて。
「愛してるよ、モモ…。愛してる……。」
「──あぁ、俺もだ。ウラ……、、、」
「モモ……、、」
「ウラ…、ん、ふ…っ、っ……」
そうして互いに不敵な笑みを浮かべると、どちらからとも無く抱き寄せ引き寄せ合い、再び口接け合った……。
END
「うん。本気だよ?先輩が好き。大好き。誰よりも……。」
─────────
先程までいつもの様に皆で騒いでいた食堂車は22時で完全に営業時間を終え、客室乗務員であるナオミに急かされ食堂車から閉め出されたイマジン達は各々の自室へと向かって行った。
ご機嫌で夜中中夜更かししてお絵描きしようとしていたリュウタロスは食堂車から閉め出されたのをかなり不満げに愚痴って拗ねていたが、それを見兼ねたキンタロスがリュウタロスの首根っこを豪快に掴み上げ半ば強引にイマジン専用車に連れて行った。
そんな二人を見てやれやれとため息を吐きながら、モモタロスは自分も自室に行って寝るかと食堂車の自動ドアから離れ歩き出そうとした。
「待って。」
自室へ向かおうとしたモモタロスの手首を掴み、そう声を掛けて引き留めた者が居た。
「何だよ。」
「引き留めてごめんね、先輩…。ちょっと…、先輩に話したい事があって……。」
ウラタロスだった。
「…だから何だよ?俺は眠ぃんだ。話したい事があるなら、さっさと話せよ。」
直感で普段の彼とは少し様子が違うとモモタロスは気付いたが、敢えて自分も普段通りの対応をした。
「うん…。でも、ここじゃ言い難くて……。先輩の部屋で話させて貰いたいんだけど駄目かな…。」
「……。」
「ごめん。やっぱり良いや。眠いのに引き留めたりしてごめんね、先輩。今の…、忘れて良いから……。」
自分からの返答が無い事を拒否されたと解釈したのか、掴んでいた手首を放したウラタロスは「それじゃおやすみ、先輩…。」と一言告げ、その場から去ろうとした。
「待てよ。誰も俺の部屋に来るなとも、駄目とも言ってねぇだろうが。」
そう言って今度はモモタロスが彼を引き留めた。
「え…?」
「だからっ!俺に“大事な”話があるんだろうがっ!!」
「え?う、うん…。て、ちょっと先輩、声が大き、」
「うっせぇ!!グダグダ言ってねぇで、さっさと俺の部屋に行くぞっ!!」
ウラタロスの言葉を遮ったモモタロスは自身の頭をガシガシ荒く掻くと、「あ〜っ!ったく、めんどくせぇっっ!!」とぶっきらぼうにウラタロスの手首を掴んでスタスタと足早に自室へと向かった。
─────────
所変わり、デンライナー・イマジン専用車。
そのモモタロスに当てがわれた自室にウラタロスを連れて入ったモモタロスは自室の照明灯を点けると、そこで漸く手を放した。
「──で、話って何だよ。」
「あ、うん…。あのね…、、、」
ウラタロスの望み通りに自分の部屋に連れて来てやったのにいざ来てみると怖気付いてしまったのか、いつも人を軽くあしらう彼らしくもなく言い淀んだ。
それ程までに話し難い内容とはいったい何なのか…。
彼は嘘を吐く。
まるで呼吸をするかの様に自然に、“それ”が当たり前の様に……。
カイ達との最終決戦の直前の時もそうだった。
デンライナーに敵イマジン達が数体乗り込んで来た時、最初から敵側のスパイとして自分達と共に居た振りをして裏切ったウラタロス。
しかしそれはデンライナーと良太郎達を守ろうとした彼の渾身の演技(=嘘)だった。
あの時、自ら電王ロッドフォームに変身して敵イマジン達を倒して良太郎をデンライナーに送り戻して彼は過去に一人残った。
先立って別の過去に残ったキンタロスに感じた仲間としての思いとは別に。
ウラタロスが過去に留まり現在へ向けて走り出したデンライナーを…、そして自分達を見送った彼のあの微笑んだ顔がモモタロスの胸を締め付けた。
あの微笑みを見て自分の中に生まれた感情…。
デンライナーのコックピットへ急ぎ、デンバードに跨って必死でブレーキを掛けたあの時。
デンライナーの“意思”により結局はあのままウラタロスを過去に残してしまった。
あの瞬間の仲間としてのどうしようもない喪失感と。
そして仲間としてだけじゃない、ウラタロスに対して芽生え始めていた彼への“想い”がモモタロスの胸を締め付け苛んだ。
その時芽生えたウラタロスへの“想い”の正体が何なのか……。
それが分からない程、モモタロスは馬鹿ではない。
だが、それを彼に打ち明けてしまったら、今の自分達の関係が崩れてしまう。
だからモモタロスは自分の心を押し隠して今まで通りにただの“仲間”として接し続けて来た。
だからまた彼に疑念を感じてしまったのだ。
ウラタロスはまた自分達に言えない重要な事を隠していて、嘘を吐いている…。
そうだとすればまた彼に甚大な危機が迫っているのではないかと、モモタロスは直感でそう感じたのだ。
「──お前、また俺たちに何か重大な事を隠してんじゃねぇだろうな…。」
「え…?」
「え?じゃねぇよっ!!またあの時みてぇに何かまた強敵が現れて、そんでまたお前だけが重大な何かを見つけてたった一人でどうにかしようって思ってんじゃねぇだろうなっ!?」
「、、、は???」
「〜〜〜〜っっ何、すっとぼけた面してんだ、このクソ亀っ!!食堂車じゃ言い難いっつうから、俺の部屋に連れて来てやってみりゃ案の定やっぱり喋べらねぇじゃねぇかっ!!そうまでしても言えねぇってことは、テメェがまた何か禄でもねぇ重大な事を隠してやがるに決まってんだろっ!!だからさっさと話しやがれ、仲間だろうがっっ!!!」
「……。」
思わず激昂してウラタロスの胸倉を掴み上げ怒鳴る様に捲し立てた。
「──先輩、そんな事思ってたの…?僕がまた先輩たちを裏切るかもしれないって心配だったんだね…。」
「…あ?裏切る??心配……???」
漸く話し出したウラタロスだったが、モモタロスは自身が予想した内容の言葉では無かった。
「そうだよね…。僕はこのデンライナーに乗った時からずっと嘘を吐いてばかりだったしね。僕の事、未だに信用出来ないのは仕方無い…か、、、」
「な…、お、お前何言っ」
「ごめん。僕が先輩に話したい事があるって言ったの、やっぱり忘れて良いよ。こんな僕じゃ、やっぱりどうしても信じられないよね…。」
「な……、、、」
見た事の無い、余りに哀しげで寂しそうな表情を浮かべてそう話したウラタロスにモモタロスは何も言えなくなった。
何を間違えた?
自分が直感で感じたウラタロスの異変は間違いだったのだろうか…
だが自分にはそれ以外思い当たる節が無い。
新たな敵の強襲以外に何があるのか、見当も付かない。
他に彼が自分に対して言えない事というのはいったい何だ…??
「それじゃ、おやすみ先輩…。また明日…。あ、念の為に言っておくけど、新たな敵が現れた訳じゃないし、危険な事態にもそもそも全くなって無いから安心してね。」
「じゃ、またね…。」…と、そう言い残してウラタロスはモモタロスの横を通り過ぎて自動ドアが開くと部屋から出て行った。
ウラタロスが部屋から出て行った直後、ハッと我に返るとモモタロスは慌ててウラタロスを追い掛けた。
「待てよっ!!テメェ一人で自己解決しやがって!!だからテメェが俺に話してぇ事っていったい何なんだよっ!!」
「…先輩、もうちょっと声抑えないとみんな起きちゃうよ?それにさっきも言ったけど、もう良いから…。諦めたから、もう良いんだ先輩…。だから自分の部屋に戻って休んでよ…ね……?」
「良くねぇっ!!諦めたって何だよっ!!…テメェはいつもいつも一人で抱え込みやがって……。またテメェがたった一人で大勢の敵どもと戦おうとしてんじゃねぇか…って、心配するこっちの身にもなれっつうんだ馬鹿野郎……。」
「…え?心…配??僕が一人で敵と戦うのが……??」
「…じゃなきゃ、いったい何だよ。俺に話したい事って……。諦めたって何を諦めたっつうんだ??」
「──!?……。」
モモタロスの言葉を聞いて互いに誤解していた事にウラタロスは漸く気付くと、安堵と少しばかりの自嘲を交えて笑った。
「ごめんね…。僕が先輩に話したい事を話さなかったせいでお互いに誤解が誤解を生んでたみたい…。」
「は…?誤解だ……??」
「うん、誤解…。そっか…。それじゃまだ諦めるのは早いかな……。」
「…???」
モモタロスは未だ何が誤解なのか全く分からず戸惑っていた。
「それじゃ、改めて言うよ。」
目の前の男の真意が読めず未だ戸惑いの色を浮かべたままのモモタロスに対し、ウラタロスは真っ直ぐ真剣な面持ちで見つめ返すと静かに“その言葉”を告げた。
「好きなんだ…。」
「え…、な……??」
「何を」と訊く前にウラタロスにそっと片手を取られ、両手で包み込む様に握られた。
「ごめん…。いきなり過ぎてビックリしたよね。でももう、自分の心を抑えきれなくなっちゃった…。」
「自分の…心……、、。」
「うん…。ずっと…、ずっとね、もういつからか分からないくらい、いつの間にか先輩に心惹かれてた…。気付いたらずっと先輩の姿をいつも見てた…。喧嘩っ早くて…でも凄く純粋で真っ直ぐで、太陽みたいに眩しくて…。そんな先輩にいつしか惹かれて焦がれて止まなくて、ずっと苦しかったんだ……。」
「……。」
ウラタロスが告げて来るその感情には自分にも思い当たる節が有る。
というか有り過ぎて、モモタロスは更に戸惑い困惑した。
まさか…、まさか自分が今までずっと必死で押し隠し続けて来たこの感情をこの男も自分に対して同じ様な感情を抱いて、同じ様にその“想い”を隠し続けていたというのだろうか…。
信じたい…。
信じたいが……、、
俄にはこの男の言葉を信じる事が出来ない自分も居る…。
この男は嘘偽るのが得意だ。
そもそも、この男と初めて出会った時も嘘偽りだらけだったのだから…。
その悪癖の所為で何度この男と衝突し、喧嘩になった事か…。
ただその一方で、その嘘で幾度となく敵から受けた窮地を脱する事が出来たのも事実ではあるが……。
ウラタロスを信じたい気持ちと過去の彼の素行から信じきれず、迷い一人葛藤していると。
「僕の言う事が信じられない…?」
ポツリと男が呟いた。
「そうだよね…。先輩との出会いからしても、僕はずっと嘘偽ってばかりだったからね…。でもほんとなんだ…。先輩の事が好きで大好きで、好き過ぎて苦しいんだ……。」
「──っっ。」
ツキリとモモタロスの胸が痛んで思わず息を詰めた。
彼のこんな思い詰めた表情を見たのは初めてだったが、こんな苦しげな顔を見たくないと。
笑って欲しいと思った…。
思ってしまった……。
「──亀…、俺は……、、」
自分の心を解放して笑って、笑い掛けて欲しいのに上手く言葉が出て来ない…。
この男にどう伝えたら良いのか、どうしたら笑ってくれるのか分からなくてもどかしい……。
けれど。
「──ごめん、先輩。無理しなくて良」
「──本気か…?」
「え…?」
「さっきの…、ほんとに本気かって訊いてんだ…。どうなんだよ……。」
この男の言う事が真実なら…、、
しかし、この男の顔を真っ直ぐ見れずにモモタロスは自身の顔を逸らして真意を訊ねた。
「──うん。本気だよ…?先輩が好き。大好き。誰よりも……。」
「──そうか……。」
「先輩…??」
数瞬の沈黙の間の後。
モモタロスは顔を逸らしたまま、自分の言葉を告げた。
「──良いぜ。」
「え…?」
「信じてやるよ、その言葉…。」
「先輩…??」
モモタロスから思い掛けなく告げられた言葉に、今度はウラタロスが戸惑い狼狽えた。
「だから…、信じてやるって言ったんだ。その…、、ほんとは俺も……、、、」
ちらりとウラタロスを見て頬をほんのり染めながら、また視線を逸らしてモモタロスはボソリと答えた。
「俺も…。俺もお前の事がずっと好きだった…。」
「は…、え…??せ…、先、輩???」
余りにも想定外の事だったのだろう…。
らしくなく酷く狼狽えた様子で、このいつも抜け目の無い敏いウラタロスが余りに急展開な状況に頭が付いて行ってない様だった。
「好きだ…。俺もほんとはずっと前からお前の事が好きだったんだ…。」
「先輩…も??僕の事…が……好きっ…て、え…???」
動揺の余り今も自分の片手を握ったままの彼の両手が震え始めた。
「──あぁ、好きだ…。ずっと好きだった…。けど、まさかお前に告られるとは思ってもみなかったけどな…。」
「……。」
「──何だよ。俺の事疑ってんのか?…言っとくけどな、俺ぁ、お前みてぇに嘘吐くのは苦手だし嫌ぇなんだよ。」
「先輩…。」
「──だから、お前がほんとに嘘言ってねぇなら受け入れるし、信じてやるって言ったんだ。嘘じゃねぇってんならな……。」
「先輩……。」
すると、ウラタロスは希望と不安の入り混じった様な、今にも泣きそうな顔をした。
「──嘘じゃねぇ…、んだろ?」
「先輩……。」
「嘘じゃねぇんだよな??」
「先輩……。」
「何だよ。どうなんだ、ハッキリしろよ…。」
ウラタロスの震えた両手を更に肩まで震わせた様子に居心地を悪くしたのか、モモタロスもまた罰が悪そうに顔を背けた。
「──うん…。うん、好きだよ先輩…。大好き。愛してる……。」
「──おぅ…。」
「先輩…、モモ…、、愛してる……。」
「──っっ!?か、亀っ!!んっ、ん…ぅ……、、」
ずっと今まで握られていた手を放したかと思うと、ウラタロスはモモタロスが背けた顔をそっと自分に向けさせ口接けた。
口接けられたとはいえ、自分達イマジンの姿同士では人間の様な唇は無い。
互いの口が接した瞬間、カチッと硬い音がした。
だがその音すらも心地良く感じてしまい、モモタロスは口接けられた瞬間体を強張らせたがすぐにウラタロスに身を委ねたのだった…。
「…はっ、、亀……、、、」
「好きだよ先輩…。まさか、こんなにも幸せで嬉しい日が来るなんて、思ってもみなかった…。」
先程までとは打って変わり心底嬉しそうな表情で微笑み、そして抱き締められた。
「夢じゃないよね…?ほんとに現実なんだよね…??」
「──あぁ…。夢なんかじゃねぇよ。全部本当の事だ…。」
「うん、そうだね…。ありがとう…。ありがとう、先輩…。僕の想いを受け入れてくれて…。僕を信じてくれて、ほんとにありがとう…。凄く嬉しいよ先輩……。」
「そりゃ、お互い様だろ…。俺だって、まさかほんとにお前とこんな風になるとは思ってなかったからな…。」
「ははっ、ほんとにね…。」
ウラタロスがモモタロスの額にコツンと自身の額を合わせると、互いに微笑み合った。
「ね…、っていう事はさ、僕ら晴れて恋人同士って事で良いんだよね…?ね?先輩??」
「え??あ、あぁ、多分…。」
不意にいつもの調子で訊ねられ、モモタロスはドギマギしつつ答えた。
「多分なんて曖昧に答えないでよ。ねぇ…、僕たち恋人同士に、相思相愛の両想いで晴れて結ばれたんだよねっ!ねっ???」
前のめりに押されて後ろに倒れそうになった。
「──あぁ、そうだよ…。俺たちゃ今日から恋人同士だ。これで文句は無ぇだろ。」
ぶっきらぼうに答えたのは照れ隠しの御愛嬌だと思って欲しい…。
この男だから自分の想いも認める事が出来たが、だからと言ってウラタロスの様にまるで呼吸をする様に愛だの恋だのと口に出来る程自分は柔軟ではないのだ。
「うん、嬉しい…。ありがと、モモ……。」
「──どうでも良いけどよ、その“モモ”っての止めろよ。」
「え、どうして?」
「何か、擽ったいっつうか…。変な気持ちになっちまうんだよ……。」
「……。」
先程から時折ウラタロスが口にしていた自分への呼び名…。
先輩と呼ばれる分には良いが、“モモ”などと呼ばれると擽ったい様な心が震わされる様な、妙な感覚に駆られるのだ。
「残念だけど先輩…、先輩からそんな事言われた以上、先輩への“モモ”呼びは抑えられそうに無いみたい……。」
「…は??何でだよ……。」
「ほんとに先輩は無自覚に可愛い過ぎて無防備過ぎて、僕、本当に心配だけど、めちゃくちゃ幸せ……、、、」
うっとりと溜め息を漏らしながら、ウラタロスは未だ自分の呼ばれ方に対する不耐性が何処から来るものなのか全く理解出来ずにいるモモタロスの片手を再び優しく両手で包み込む様に取ると、そっと手の甲に口接けた。
「──なっ!?てっ、テメッ…ッ!!」
「それはね…、先輩が僕の事をそれ程までに好きで、好き過ぎてどうしようも無いくらいに僕に惚れ込んじゃってるからだよ…。」
「──はっ!?な、ほ、惚れっ!??」
「うん、そうだよ。嬉しいな…。僕に“モモ”って呼ばれる度に震えちゃうくらい、僕の事を好いて惚れ込んでくれてるなんて。あぁ…、僕ってほんとに幸せ者だなぁ〜。」
「──なっっ!??ち、ちょっと待っっ、、」
幾らウラタロスへの“想い”を自覚していたとはいえ、ここに来てまさか自分の性癖までも自覚させられるとは思いもしなかった。
案の定、調子に乗らせてしまい、完全に普段の通常営業(笑)のウラタロスに戻ってしまっている彼にはもうモモタロスの往生際の悪い制止など届く筈も無く。
「さ、晴れて喜ばしくもお互いに両想いだった事が判明して、無事に恋人同士になれたお祝いしなくちゃね…。」
「お、お祝い…??」
「そ、“お祝い”♪」
「──…って、おい…。その“お祝い”…ってのは、まさかこれからお前と…、、、」
再びウラタロスに前のめりで詰め寄られ、後ろに倒れそうになった所を支えられる様に腰を抱き寄せられた。
その所為で互いの腰が触れウラタロスの“ソレ”がもう既に緩く勃ち上がり、そこそこの硬度を成している事にモモタロスは気が付いた。
モモタロスは全力で否定したい、急激に差し迫って来た自分の“バージン”を失う危機をひしひしと感じて額に冷や汗をたらりと流しながらおずおずと逃げ腰を打った。
「駄目だよ、逃げちゃ…。“モモ”…。もう君を逃さないし離さない…。」
「ちょ、おい、亀待てって…、、」
目の前の男の笑みが優しく柔らかな微笑みから徐々に目が据わり、腹黒い笑みへと変わっていく。
「大丈夫だよ、先輩…。今夜は先輩との大切な初夜なんだから、ゆっくり丁寧に大事に優しく蕩ける様に抱いて極上の天国に連れてってあげるから…。何も心配しなくて良いし、怖がらなくて良いからね…。ね、“モモ”……。」
「いや、ほんとにちょっと待てって。落ち着けよ、亀……。」
触れている互いの腰が。
ウラタロスの屹立が更に熱く硬度を増して来ているのが分かる…。
「ごめんね、先輩…。待ってあげたいけれど、僕もう抑えきれない…。君が欲しいんだ、“モモ”…。君を抱いて、名実ともに君が僕のものだっていう証明が欲しいんだ。君が欲しい…。欲しくて堪らないんだ、“モモ”……。」
抱き寄せる力を強められこれ程までに欲し求められ、耳元に響くウラタロスの自分を呼ぶ声にゾクリと体が震えた。
「──ちくしょう…。テメェばっかズリィぞ。」
「先輩…??」
「──俺だって…、、。」
「先輩、どうし」
「抱けよ…。」
恥ずかしくて堪らない…。
でも此奴ばかり狡いと、生来の負けず嫌いとウラタロスを欲する思いがモモタロスを突き動かした。
「抱けよ…。テメェが欲しいだけくれてやるから、テメェの好きなだけ俺を抱けよ…。その代わり……、、」
「先ぱ、──っっんっ!?」
ウラタロスの肩に腕を回して自分に引き寄せると、モモタロスは告白した勢いのままさっきのお返しとばかりに自分から口接け返した。
「その代わり、俺もお前の全てを貰う…。テメェばっかり欲しがってると思うなよ?この俺様をものにしてぇってんだ。俺は高く付くぜ…、覚悟しろよ…?」
ニッと挑発的な笑みを浮かべ、モモタロスはウラタロスの屹立に自分のそれを押し付ける様に体を密着させた。
「了解…。先輩こそ、僕の欲望を甘く見ないでね。僕の君への愛は海の様に広くて、もの凄く重く深いんだから…。溺れさせちゃうかも……。」
「先輩、金槌なのにね…。」と、ウラタロスもまたモモタロスの挑発に応戦する。
するとモモタロスはハッと笑い飛ばし、事も無げにこう宣った。
「やれるもんならやってみろよ。溺れんのはむしろ、テメェの方だぜ。泡吹いてひっくり返ったって知らねぇかんな。“ウラタロス”……。」
「フフッ。上等……、、、」
不意に呼ばれた“その名”に驚きと同時に言い様の無い昂揚を感じて。
「愛してるよ、モモ…。愛してる……。」
「──あぁ、俺もだ。ウラ……、、、」
「モモ……、、」
「ウラ…、ん、ふ…っ、っ……」
そうして互いに不敵な笑みを浮かべると、どちらからとも無く抱き寄せ引き寄せ合い、再び口接け合った……。
END
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