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----------------------------2019/10/15 プレゼントは突然に
「おはようございます。10月15日本日は生憎の雨模様ですが………」
朝食のトーストを椅子に座ってかじりながらテレビを見つめる。
天気予報を伝えるキャスターが今日の天気の話をする。
大阪を出て一人暮らしを始めてしばらく経つため家事にも少しは慣れてきとった。
面倒やからと最初は朝飯抜いとったりもしたけどやっぱ朝練に集中できんし、重たいもんは朝から食いたないから軽めに食べるようになった。
今日はテスト週間中やから朝練もなくいつもよりゆっくり支度をする。
携帯を見ると通知が数件。
昨日の夜からちょいちょい鳴ってんねんけど…
俺の想い人からの連絡は全然あらへんかった。
…連絡先交換してへんから来る訳ないんやけどな……
深く重い溜め息をついて淹れたブラックコーヒーを喉へ流し込んだ。
天気予報やと今日は雨や言うとったけどまだ降ってきてはなかった。
出かける支度をして鞄を持つと家を出て学校へと歩く。
自転車やと早いねんけど俺がわざわざ徒歩にしとるんは理由がある。
俺の想い人も徒歩やから俺が自転車やとすぐ追い越してまうし、徒歩同士なら…こう、偶然を装って話しかけられたりとかあるかもしれんやん。
家の場所は詳しく知らへんけど…そこの角を曲がってくるんは見たことがある。
曲がった先を見ても彼女の姿はない。
…まぁ、そんな簡単にタイミング良く合う訳ないな。
表情には出さずとも少しだけ残念に思いながら歩くと赤信号で待っている彼女を見つけ驚いた。
おるやん…
同じクラスの新堂愛音。
それが俺の想い人や。
話はちょぉ遡るんやけど………
彼女を初めて意識したのは忘れもせぇへん、梅雨季節の雨の日やった。
普段テニスで体を鍛えとるさかい丈夫な方やったし、なにより体調管理にも気を配っとったつもりやった。
その俺が…体調を崩してなんや熱っぽい日があってん。
身体が怠くて。頭もちょぉ痛くて。
でも、テスト週間中の初日やったから怠いけど登校はしとった。
体調不良やって周りにバレれて気を使われるんも嫌やったし、ファンに家まで送るだの言われたら面倒やからいつも通りを心がけとった。
その日はたまたま日直で…新堂さんと一緒やってん。
テスト週間やから教室で駄弁ってるクラスメイトもおらへんし、日誌をまとめて職員室に持っていき、担任から頼まれた教材を化学室へ運んどった。
俺が重い教材を持ち新堂さんには軽い物を少しだけ持ってもらう。
「重いもの忍足くんに持たせてごめんね?」
「女の子に重いもん持たせるなん俺には出来へんって」
「あははっ、流石モテる人は女の子が喜ぶ台詞知ってるよね」
隣を歩きながら他愛もない会話をするも必要以上には喋らへん。
ちらりと隣に並ぶ彼女を見てみる。
俺より背ぇ低いから見下ろす感じ…なんやけど。
目立つ存在でもないし、俺も正直そんな話したことはない。
ちゃんと話すの初めてかもしれん。
心地いい声しとんな…。
なんて思いつつもそれ以上に会話があるわけでもなくあっという間に化学室へと着いた。
「教材は机に置いておくだけでいいって先生が言ってたからここでいいよね?」
「あぁ、ここでえぇやろ。新堂さん、今日1日おつかれさん」
「うん。忍足くんもお疲れ様」
お互いに抱えていた教材を机の上へと下ろして帰ろうとした時やった…
「忍足くん、ちょっと待って」
体調不良やし、はよ帰りたくて新堂さんに背を向けて帰ろうと一歩踏み出した時に名前を呼ばれて腕を掴まれた。
急に腕を掴まれたことに驚くも後ろを振り返る。
目の前の新堂さんが難しそうな表情で首を傾げたかと思うと腕を引かれて肩を押されすぐ近くの椅子に座らされた。
「ちょぉ、突然なんな………」
座った俺の目の前に新堂さんが目を閉じて俺の顔へ自分の顔を近づけてくる。
思わず目をぎゅっと閉じて、発したはずの言葉は最後まで言い終える事無く途中で発することを忘れてもうた。
はぁ!?
新堂さんって大人しそうな子ぉやって思っとったけどめっちゃ肉食女子なん!?
急にキスしてくるなん、熱狂的なファンでもして来ぉへんで!!!
あまりに突然で、俺自身も予期せぬ出来事に思わず受け入れてしまいそうになる。
このまま受け入れていいのかそれとも拒むべきなんか…
別にファーストキスとかやないし、流されてもえぇっちゅーたら悪くないとか思うし…
新堂さんは目立ったり、派手とちゃうけど可愛い方やと思うし、女子にも好かれるような性格で磨けば光る原石の部類やと思う。
俺が付き合う子とは全く違うタイプやからノーマークやったし。
実際新堂さんの事を良く言う男子が居るのも知っとった。
一瞬でどうでもいいような事が巡り思考回路がフル回転する。
まぁ、えぇか。
キスのひとつ…
今はフリーやし…
辿り着いた答えに唇が重なるのを静かに待つ。
…
……
………
来ぉへん。
そう思った瞬間に感じたのは額に何かが当たる感触。
驚きに目を開けるとそこには新堂さんが目を閉じて俺の額と自分の額をくっつけとった。
「やっぱりっ!忍足くん絶対熱ある!」
予想外の行動に目を見開いて完全に固まる俺。
そう、新堂さんは俺の額に自分の額をくっつけて熱を確認しとった。
「あ。……と、突然ごめんねっ!咄嗟にやっちゃったんだけど…お母さんがよくやってくれるからつい癖でっ」
固まって驚きの表情を見せる俺を目の前に新堂さんが顔を赤くしてパッと離れて距離を取り少し早口になる。
自分からしてきてめっちゃ照れとるやんか…
「えーっと、いや、かまへんけど…ちょぉ驚いてもうて…」
「そ、そうだよね。今日1日忍足くんずっと体調悪そうだな。とは思ってたんだけど…教材運んでた時にどうしても気になっちゃって」
「新堂さん、俺が体調悪いって気づいてたん?」
「うん…朝からでしょ?我慢は良くないよ?どんどん辛そうになってるんだもん。熱もだいぶあると思うし…」
いつも一緒におる岳人でさえ、気づいてなかったんやと思う。
自分がポーカーフェイスなのは自覚しとる。
心配そうな表情を浮かべる新堂さんを目の前にして先ほど額をくっつけていた至近距離での瞳を閉じた新堂さんの顔が蘇る。
…なんやろ…。この気持ち。
さっきまで一緒に居ってもなんともなかったのに…
触れたい。
離れてしまった彼女が急に欲しくなる妙な感覚に陥る。
氷帝テニス部正レギュラーの俺は他の男子に比べたらモテる方やと思う。
彼女もそれなりに居った方や。
相手から告白されて…顔も名前も知らんような子もおったけど…見た目が可愛いとかスタイルがいいとか…
その場のノリで付き合うてもえぇか。って思ったらOKしてきた。
好かれる事は嫌やなかったし、求められて悪い気もせぇへんかった。
でも、それだけやった。
自分から欲しくなった気持ちになったことがあったやろか…
「教材運んだ報告は先生にしてくるから…忍足くんはもう早く帰った方がいいよ」
「…あぁ、そうさせてもらうわ…」
新堂さんの表情や声色にホンマに俺の事を心配してくれてるんやろな。って伝わってくる。
正直朝と比べて段々怠くなって来とったからゆっくり立ち上がり言葉に甘えることにした。
「ほな、今日はおおきに。…薬飲んではよ休むことにするわ」
「うん。雨も降り出してるから温かくして休んでね?」
椅子から立ち上がり、新堂さんに触れてしまいそうな手をぎゅっと握って触れたくなる衝動を押し込め化学室を後にした。
それから新堂さんへの気持ちが大きくなって好きだと気づくのに時間はかからへんかった。
気付いたら目で追っとったし、彼女に近づきそうな男子をさり気無く威嚇したりもした。
彼氏はおらへんって情報も掴んだけど…
自分から気持ちを伝えたことのない俺はどうしたらいいのか迷っとった。
ストレートに好きや。付き合って欲しい。と伝えればえぇんやろうけど…
もしも他に好きな奴がおったら精神的大ダメージや。
直接本人にも聞けず、探りを入れることすらためらった。
告白される側やったからわからへんかったけど…
告白する側は相当勇気いるんやな…
新堂さんが俺に告ってくれたら即OKすんのになぁ。
残念ながら新堂さんにはそんな素振りも機会もあらへんかった。
テニスが忙しかったのもあるし、元々新堂さんと関わりもなく、新学期に席替えで隣や前後の席になるように神様に祈ったりもしたけど叶うこともあらへんくて。
話す機会もないまま時間だけがただ過ぎとった。
そして迎えた誕生日の今日。
雨模様だと聞いた天気は登校時間には灰色の雲に覆われてはいるが、降り出してはいないもののどんよりとしていた。
朝練がないときにさり気無く登校中の彼女を学校の敷地内ではない場所で遠くから見ることが俺のささやかな楽しみやった。
ほら、なんや学校で見て会っても当然って感じすんねんけど、学校外で会うとちょぉ違う気せぇへん?
そもそも朝練がない日がレアやし、朝練がなくても登校中に運よく見かけるなんて更にレアケースや。
今日は奇跡的にタイミングがよくて信号待ちしている間に自然に新堂さんに追いつくことが出来た。
神様からの誕生日プレゼントやろか…
神様、ありがとうございます。
心の中でお礼を言いつつさり気無く彼女の隣に立つ。
正直鼓動が早くなるのを感じつつも、それをなんとか抑えつつ冷静に声を掛ける。
「新堂さん、おはようさん」
久しぶりに彼女に話しかける俺は柄にもなく緊張しとった。
緊張は出さんようにしていつも話すトーンで話しかける。
そんな俺に新堂さんは一瞬驚くもすぐにいつも遠くから見とった柔らかな笑顔で俺を見る。
「おはよう、忍足くん。家、こっちの方なんだね。今日はテスト週間中だから部活ないんだ?」
「せやねん。ゆっくりできるのはえぇんやけど…体が訛らんように気ぃつけんと」
「前に日直一緒にやった時みたいに…無理はしちゃダメだよ?」
「あの時はありがとうな。薬飲んで寝たらすぐ良ぉなったし」
俺はいつもみたいに自然に話せとるやろか?
熱を気づかれたあの時みたいに…新堂さんに緊張しとるのバレてへん?
そんなことを考えとると信号が赤から青に変わった。
周りで信号待ちをしていた人達が歩き出す。
…でも、新堂さんはその場を動かへんかった。
「新堂さん?信号、青やで?」
不思議に思いながら話しかけた新堂さんはなんや頷いとって…
「ねぇ、忍足くん!
今日…友達から聞いたんだけど…忍足くんの誕生日でしょ…?」
覗き込んだ新堂さんの顔は真っ赤で…耳まで赤く染まっとった。
「せやけど…」
突然言い当てられ、なぜ急に誕生日の会話になったのかわからず短い返事を返すと新堂さんが顔を上げる。
「今日の放課後、化学室に来て欲しいの…
きっかけがないと踏み出す勇気がなかったけど…
伝えたいことがあって…忍足くんに…私の気持ち聞いてほしい…」
ドクンッ…
胸の鼓動が高鳴る。
俺は…何度もこういう場面に立ち会ったことがある。
今新堂さんが見せてくれたような表情の女の子。
それが意味することをわからんほど無知でも鈍感でもない。
ただ以前と違うことは…
顔や名前も知らない欲しいと感じない相手とちゃう。
俺が想いを寄せて欲しいと思った新堂愛音。その人やってこと。
「じゃあ、放課後にね!テスト…がんばろっ」
突然の出来事に俺が立ち止まったままでいると新堂さんはそのまま駆け出し横断歩道を走って渡っていった。
俺はというと…
驚きと嬉しさに立ちすくみ歩けなくて…
信号が再び赤になる。
スカートを靡かせて走っていく新堂さんの小さくなる後ろ姿を見て掌を口元に当てる。
顔、にやけてへんやろか…
いや、にやけててもえぇか。
放課後、新堂さんの気持ちを聞くのが楽しみやわ。
告白って…思って自惚れてもえぇんやろか…
逆にそうじゃないとかあんな表情見せられてありえへんで。
まずは連絡先交換せぇへんと。
初めてのデートはどこがえぇんかな。
テスト週間終わったら昼飯一緒に食ったり、登下校も一緒にしたりして。
勿論部活も見に来て欲しいわ。
新堂さん…やのうて、愛音って呼びたい。
付き合ってからの想像をしてしまい顔の緩みが収まらない。
気持ちはしっかり聞きたいんやけど…
でも、告白だけは俺からしたいから愛音には言わせへんで?
やっぱ男やし、好きな女には自分から告りたいやん?
今年は最高の誕生日プレゼント貰えそうやな。
「おはようございます。10月15日本日は生憎の雨模様ですが………」
朝食のトーストを椅子に座ってかじりながらテレビを見つめる。
天気予報を伝えるキャスターが今日の天気の話をする。
大阪を出て一人暮らしを始めてしばらく経つため家事にも少しは慣れてきとった。
面倒やからと最初は朝飯抜いとったりもしたけどやっぱ朝練に集中できんし、重たいもんは朝から食いたないから軽めに食べるようになった。
今日はテスト週間中やから朝練もなくいつもよりゆっくり支度をする。
携帯を見ると通知が数件。
昨日の夜からちょいちょい鳴ってんねんけど…
俺の想い人からの連絡は全然あらへんかった。
…連絡先交換してへんから来る訳ないんやけどな……
深く重い溜め息をついて淹れたブラックコーヒーを喉へ流し込んだ。
天気予報やと今日は雨や言うとったけどまだ降ってきてはなかった。
出かける支度をして鞄を持つと家を出て学校へと歩く。
自転車やと早いねんけど俺がわざわざ徒歩にしとるんは理由がある。
俺の想い人も徒歩やから俺が自転車やとすぐ追い越してまうし、徒歩同士なら…こう、偶然を装って話しかけられたりとかあるかもしれんやん。
家の場所は詳しく知らへんけど…そこの角を曲がってくるんは見たことがある。
曲がった先を見ても彼女の姿はない。
…まぁ、そんな簡単にタイミング良く合う訳ないな。
表情には出さずとも少しだけ残念に思いながら歩くと赤信号で待っている彼女を見つけ驚いた。
おるやん…
同じクラスの新堂愛音。
それが俺の想い人や。
話はちょぉ遡るんやけど………
彼女を初めて意識したのは忘れもせぇへん、梅雨季節の雨の日やった。
普段テニスで体を鍛えとるさかい丈夫な方やったし、なにより体調管理にも気を配っとったつもりやった。
その俺が…体調を崩してなんや熱っぽい日があってん。
身体が怠くて。頭もちょぉ痛くて。
でも、テスト週間中の初日やったから怠いけど登校はしとった。
体調不良やって周りにバレれて気を使われるんも嫌やったし、ファンに家まで送るだの言われたら面倒やからいつも通りを心がけとった。
その日はたまたま日直で…新堂さんと一緒やってん。
テスト週間やから教室で駄弁ってるクラスメイトもおらへんし、日誌をまとめて職員室に持っていき、担任から頼まれた教材を化学室へ運んどった。
俺が重い教材を持ち新堂さんには軽い物を少しだけ持ってもらう。
「重いもの忍足くんに持たせてごめんね?」
「女の子に重いもん持たせるなん俺には出来へんって」
「あははっ、流石モテる人は女の子が喜ぶ台詞知ってるよね」
隣を歩きながら他愛もない会話をするも必要以上には喋らへん。
ちらりと隣に並ぶ彼女を見てみる。
俺より背ぇ低いから見下ろす感じ…なんやけど。
目立つ存在でもないし、俺も正直そんな話したことはない。
ちゃんと話すの初めてかもしれん。
心地いい声しとんな…。
なんて思いつつもそれ以上に会話があるわけでもなくあっという間に化学室へと着いた。
「教材は机に置いておくだけでいいって先生が言ってたからここでいいよね?」
「あぁ、ここでえぇやろ。新堂さん、今日1日おつかれさん」
「うん。忍足くんもお疲れ様」
お互いに抱えていた教材を机の上へと下ろして帰ろうとした時やった…
「忍足くん、ちょっと待って」
体調不良やし、はよ帰りたくて新堂さんに背を向けて帰ろうと一歩踏み出した時に名前を呼ばれて腕を掴まれた。
急に腕を掴まれたことに驚くも後ろを振り返る。
目の前の新堂さんが難しそうな表情で首を傾げたかと思うと腕を引かれて肩を押されすぐ近くの椅子に座らされた。
「ちょぉ、突然なんな………」
座った俺の目の前に新堂さんが目を閉じて俺の顔へ自分の顔を近づけてくる。
思わず目をぎゅっと閉じて、発したはずの言葉は最後まで言い終える事無く途中で発することを忘れてもうた。
はぁ!?
新堂さんって大人しそうな子ぉやって思っとったけどめっちゃ肉食女子なん!?
急にキスしてくるなん、熱狂的なファンでもして来ぉへんで!!!
あまりに突然で、俺自身も予期せぬ出来事に思わず受け入れてしまいそうになる。
このまま受け入れていいのかそれとも拒むべきなんか…
別にファーストキスとかやないし、流されてもえぇっちゅーたら悪くないとか思うし…
新堂さんは目立ったり、派手とちゃうけど可愛い方やと思うし、女子にも好かれるような性格で磨けば光る原石の部類やと思う。
俺が付き合う子とは全く違うタイプやからノーマークやったし。
実際新堂さんの事を良く言う男子が居るのも知っとった。
一瞬でどうでもいいような事が巡り思考回路がフル回転する。
まぁ、えぇか。
キスのひとつ…
今はフリーやし…
辿り着いた答えに唇が重なるのを静かに待つ。
…
……
………
来ぉへん。
そう思った瞬間に感じたのは額に何かが当たる感触。
驚きに目を開けるとそこには新堂さんが目を閉じて俺の額と自分の額をくっつけとった。
「やっぱりっ!忍足くん絶対熱ある!」
予想外の行動に目を見開いて完全に固まる俺。
そう、新堂さんは俺の額に自分の額をくっつけて熱を確認しとった。
「あ。……と、突然ごめんねっ!咄嗟にやっちゃったんだけど…お母さんがよくやってくれるからつい癖でっ」
固まって驚きの表情を見せる俺を目の前に新堂さんが顔を赤くしてパッと離れて距離を取り少し早口になる。
自分からしてきてめっちゃ照れとるやんか…
「えーっと、いや、かまへんけど…ちょぉ驚いてもうて…」
「そ、そうだよね。今日1日忍足くんずっと体調悪そうだな。とは思ってたんだけど…教材運んでた時にどうしても気になっちゃって」
「新堂さん、俺が体調悪いって気づいてたん?」
「うん…朝からでしょ?我慢は良くないよ?どんどん辛そうになってるんだもん。熱もだいぶあると思うし…」
いつも一緒におる岳人でさえ、気づいてなかったんやと思う。
自分がポーカーフェイスなのは自覚しとる。
心配そうな表情を浮かべる新堂さんを目の前にして先ほど額をくっつけていた至近距離での瞳を閉じた新堂さんの顔が蘇る。
…なんやろ…。この気持ち。
さっきまで一緒に居ってもなんともなかったのに…
触れたい。
離れてしまった彼女が急に欲しくなる妙な感覚に陥る。
氷帝テニス部正レギュラーの俺は他の男子に比べたらモテる方やと思う。
彼女もそれなりに居った方や。
相手から告白されて…顔も名前も知らんような子もおったけど…見た目が可愛いとかスタイルがいいとか…
その場のノリで付き合うてもえぇか。って思ったらOKしてきた。
好かれる事は嫌やなかったし、求められて悪い気もせぇへんかった。
でも、それだけやった。
自分から欲しくなった気持ちになったことがあったやろか…
「教材運んだ報告は先生にしてくるから…忍足くんはもう早く帰った方がいいよ」
「…あぁ、そうさせてもらうわ…」
新堂さんの表情や声色にホンマに俺の事を心配してくれてるんやろな。って伝わってくる。
正直朝と比べて段々怠くなって来とったからゆっくり立ち上がり言葉に甘えることにした。
「ほな、今日はおおきに。…薬飲んではよ休むことにするわ」
「うん。雨も降り出してるから温かくして休んでね?」
椅子から立ち上がり、新堂さんに触れてしまいそうな手をぎゅっと握って触れたくなる衝動を押し込め化学室を後にした。
それから新堂さんへの気持ちが大きくなって好きだと気づくのに時間はかからへんかった。
気付いたら目で追っとったし、彼女に近づきそうな男子をさり気無く威嚇したりもした。
彼氏はおらへんって情報も掴んだけど…
自分から気持ちを伝えたことのない俺はどうしたらいいのか迷っとった。
ストレートに好きや。付き合って欲しい。と伝えればえぇんやろうけど…
もしも他に好きな奴がおったら精神的大ダメージや。
直接本人にも聞けず、探りを入れることすらためらった。
告白される側やったからわからへんかったけど…
告白する側は相当勇気いるんやな…
新堂さんが俺に告ってくれたら即OKすんのになぁ。
残念ながら新堂さんにはそんな素振りも機会もあらへんかった。
テニスが忙しかったのもあるし、元々新堂さんと関わりもなく、新学期に席替えで隣や前後の席になるように神様に祈ったりもしたけど叶うこともあらへんくて。
話す機会もないまま時間だけがただ過ぎとった。
そして迎えた誕生日の今日。
雨模様だと聞いた天気は登校時間には灰色の雲に覆われてはいるが、降り出してはいないもののどんよりとしていた。
朝練がないときにさり気無く登校中の彼女を学校の敷地内ではない場所で遠くから見ることが俺のささやかな楽しみやった。
ほら、なんや学校で見て会っても当然って感じすんねんけど、学校外で会うとちょぉ違う気せぇへん?
そもそも朝練がない日がレアやし、朝練がなくても登校中に運よく見かけるなんて更にレアケースや。
今日は奇跡的にタイミングがよくて信号待ちしている間に自然に新堂さんに追いつくことが出来た。
神様からの誕生日プレゼントやろか…
神様、ありがとうございます。
心の中でお礼を言いつつさり気無く彼女の隣に立つ。
正直鼓動が早くなるのを感じつつも、それをなんとか抑えつつ冷静に声を掛ける。
「新堂さん、おはようさん」
久しぶりに彼女に話しかける俺は柄にもなく緊張しとった。
緊張は出さんようにしていつも話すトーンで話しかける。
そんな俺に新堂さんは一瞬驚くもすぐにいつも遠くから見とった柔らかな笑顔で俺を見る。
「おはよう、忍足くん。家、こっちの方なんだね。今日はテスト週間中だから部活ないんだ?」
「せやねん。ゆっくりできるのはえぇんやけど…体が訛らんように気ぃつけんと」
「前に日直一緒にやった時みたいに…無理はしちゃダメだよ?」
「あの時はありがとうな。薬飲んで寝たらすぐ良ぉなったし」
俺はいつもみたいに自然に話せとるやろか?
熱を気づかれたあの時みたいに…新堂さんに緊張しとるのバレてへん?
そんなことを考えとると信号が赤から青に変わった。
周りで信号待ちをしていた人達が歩き出す。
…でも、新堂さんはその場を動かへんかった。
「新堂さん?信号、青やで?」
不思議に思いながら話しかけた新堂さんはなんや頷いとって…
「ねぇ、忍足くん!
今日…友達から聞いたんだけど…忍足くんの誕生日でしょ…?」
覗き込んだ新堂さんの顔は真っ赤で…耳まで赤く染まっとった。
「せやけど…」
突然言い当てられ、なぜ急に誕生日の会話になったのかわからず短い返事を返すと新堂さんが顔を上げる。
「今日の放課後、化学室に来て欲しいの…
きっかけがないと踏み出す勇気がなかったけど…
伝えたいことがあって…忍足くんに…私の気持ち聞いてほしい…」
ドクンッ…
胸の鼓動が高鳴る。
俺は…何度もこういう場面に立ち会ったことがある。
今新堂さんが見せてくれたような表情の女の子。
それが意味することをわからんほど無知でも鈍感でもない。
ただ以前と違うことは…
顔や名前も知らない欲しいと感じない相手とちゃう。
俺が想いを寄せて欲しいと思った新堂愛音。その人やってこと。
「じゃあ、放課後にね!テスト…がんばろっ」
突然の出来事に俺が立ち止まったままでいると新堂さんはそのまま駆け出し横断歩道を走って渡っていった。
俺はというと…
驚きと嬉しさに立ちすくみ歩けなくて…
信号が再び赤になる。
スカートを靡かせて走っていく新堂さんの小さくなる後ろ姿を見て掌を口元に当てる。
顔、にやけてへんやろか…
いや、にやけててもえぇか。
放課後、新堂さんの気持ちを聞くのが楽しみやわ。
告白って…思って自惚れてもえぇんやろか…
逆にそうじゃないとかあんな表情見せられてありえへんで。
まずは連絡先交換せぇへんと。
初めてのデートはどこがえぇんかな。
テスト週間終わったら昼飯一緒に食ったり、登下校も一緒にしたりして。
勿論部活も見に来て欲しいわ。
新堂さん…やのうて、愛音って呼びたい。
付き合ってからの想像をしてしまい顔の緩みが収まらない。
気持ちはしっかり聞きたいんやけど…
でも、告白だけは俺からしたいから愛音には言わせへんで?
やっぱ男やし、好きな女には自分から告りたいやん?
今年は最高の誕生日プレゼント貰えそうやな。
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