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「新堂さんおるー?」
昼休み、私のクラスへの訪問者に廊下への出入り口に生徒の視線が集中した。
「きゃー!忍足くん!」
「うちのクラスに来るなんて珍しいねー!」
「今日の練習見に行くんだけどどこのコートに居る?」
女子が…あっという間に忍足くんを囲んだ。
…私の名前呼ばれた気がするんだけど、気のせいかな。
新堂って苗字、このクラスに私しかいない気がしたんだけど…聞き間違いかな。
うん。
だって用なんてないし、そもそも私と忍足くんには接点がない。
私は親友の雅と机を並べてお弁当を広げようとした時に…近くから声がした。
「なぁ、俺、さっきから新堂さんの名前呼んどるやんか。聞こえてへん?」
私のすぐ隣から聞こえた声に顔を向けると忍足くんはしゃがんでて…椅子に座っている私と視線の高さがバッチリ噛み合ってて…
「………きゃぁーーー!」
忍足くんのいない方向へ体重を掛けすぎて椅子から落ちそうになるところを忍足くんの手が椅子を掴んで制止する。
椅子から落ちなくてよかった…
「そない驚いて声上げんでもえぇやんかー。おばけ見るような悲鳴やったで?…まぁ、コケんでよかったわ。この前みたいに」
あまりにも冷静に忍足くんが普通に話してくるから私は状況が読み込めない。
そもそも忍足くんと私は今まで同じクラスになったことがない。
委員会も同じになったことなんてない。
今まで私が記憶にある中では関わったことが一度もなかった。
勿論私は忍足くんの事を知っている。
跡部くんと同じテニス部の正レギュラー。氷帝の天才。
学園内にテニス部正レギュラーを知らない人なんていないと思う。
それくらい、雲の上の人達。
忍足くんはその中でも跡部くんに匹敵するほど熱烈なファンがいるらしい。
友達にも忍足くんファンがいるからその友達から聞いた話によると…
かなり女の子にモテる…らしい。
しかも来るもの拒まずっていう態度らしくて告白した女の子に、1、2、3…と指を折って数を数えて「今は…4番目でも良ければえぇで?」とかあっさり言ったとか言わなかったとか。
…跡部くんとは大違い!!
跡部くんはそもそも彼女を作った噂など聞いたことがない。
玉砕覚悟で告白して見事に玉砕したって噂なら山ほど聞いたことあるけど。
生徒会室から泣きながら出てくる女の子を何回見たことか…
とにかく!忍足くんは女の子に対して…だらしないイメージしかなかった。
そんな忍足くんが一体私に何の用なのか…雅との昼食タイムが…
「忍足くん、私に何か用?」
「なんや冷たい反応やなぁ…俺に呼ばれた女の子でそんな反応かなりレアやで?」
「えと…用がないならお昼ご飯食べたいんだけど…」
「今日俺と昼飯せぇへん?ってか、するよな。ちょぉこの子借りてえぇ?」
「うん。どうぞ?愛音、いってらっしゃーい」
「おおきに。ほな新堂さん借りてくな?」
…ん?
私会話に参加してなくない?
でも、なんか話進んでない??
私に尋ねず雅に許可を得てませんか???
忍足くんが私のお弁当箱を巾着に入れ、私のお弁当用の巾着に入れて持ち私の腕を掴んで引っ張る。
流れるような2人のやりとりに思考回路が追い付かずただされるがままに忍足くんに連れていかれる私。
ファンの子の悲鳴やざわざわするクラスメイトの声が遠くから聞こえた気がした。
「んー、ここでえぇか。」
そう言って連れてこられたのは中庭の奥にある小さなベンチだった。
奥にあるだけあって人は周りにおらずベンチも木陰になっておりご飯をするには丁度いい場所だった。
あ。遠くにテニスコートが見える…
私がちょうど気付いたタイミングで私の視線に気づいた忍足くんが言う。
「結構遠いねんけど…テニスコート見えるやろ?いつもあそこで練習してんねん」
「そっか。でも、こんな中庭からは奥だし、テニスコートからは離れてるところよく見つけたね」
「跡部の虫の居所がよぉあらへん時にちょぉやらかしてもうて…居残りランニングせぇ言われた時に見つけてな。一人でゆっくりしたい時はここに来たりすんねん」
「もぉ…一体何したんだか…」
「デリケートな問題やから黙秘権ってことで」
忍足くんが自分の人差し指を立てて唇においてヒミツ。とジェスチャーする。
私が溜め息交じりに息を吐き出すとお互いにどちらからともなくベンチに並んで座り昼食を食べようと手を動かす。
私はお弁当箱を広げて、忍足くんは購買のパンを食べ始める。
「ねぇ…どうして突然私を呼び出したの?私、忍足くんと面識ある記憶ないんだけど…」
「ん?あー…面識は確かにないな。でも新堂さん有名人やんか。生徒会書記やし」
「いや、有名人って言えば忍足くんの方が有名人じゃない」
「まぁ、否定はせぇへんな。一応氷帝の天才やし」
あっさりと自信満々に言ってしまう所が忍足くんらしい。
会話をしながらどうして私が誘われたのかさっぱり見当もつかなかった。
「でしょ?突然呼び出されてご飯しようなんて。忍足くんにお昼誘われたい女子は私じゃなくてもいっぱいいるのに」
「新堂さんは俺にお昼誘われて嬉しないん?」
「別に………嬉しいとかより驚きが大きすぎて」
一瞬言葉に詰まって頭に浮かんだのは真剣な表情で書類に目を通す跡部くんだった。
跡部くんに誘われたら…それはもう夢のように嬉しかったに違いないと思う。
…って、この心の声を口に出してそれが忍足くんファンの耳にでも入ったら大事件だから口にはしないけど。
「ふーーーん。嬉しなさそうやんか」
ちょっと面白くなさそうにして忍足くんがペットボトルの水を飲む。
モテるのが当たり前になっている忍足くんにとっては私の反応が面白くなかったのかちょっとだけ拗ねているようにも見えた。
その拗ねている姿が普段大人びている姿しか見たことがなく新鮮でちょっと可愛いとか…思っ………ってないんだから!!!
気のせい!!
何考えたんだろ。私!…そんな考えあっち行けっ!しっしっ!!
自分の脳内でそんな事を繰り広げていたが、ふと本題から逸れている事に気付いた。
「嬉しいとか嬉しくないとかよりも!私は忍足くんがなんで今日お昼一緒にしようと思った方が気になるんだけど…」
「あぁ、それな。…ちょぉ気になった事があってん」
「気になった事?」
「なんで新堂さん、伊達眼鏡なん?」
食べようとして箸で掴んでいた卵焼きがぽてっ。とお弁当箱に落ちた。
確かに私は眼鏡をかけている。
でも、視力は悪くない。
忍足くんに指摘された通り伊達眼鏡だ。
…なんで気付かれて…
どう答えたらいいのかわからなくて落ちた卵焼きを見つめる。
「なんや…聞いたらあかんようなことやった?…せやったら堪忍」
私が無言になったからか忍足くんの声色が柔らかいものになって私を気遣ってくれる。
箸を静かに置いてから自分の眼鏡のフレームに触れる。
「ダメ…じゃないけど…」
答えようか迷った。
深呼吸を一つして、黙っているほどの理由もなく私は口にすることにした。
「裸眼で人と話すの…ちょっと勇気がいるんだよね…」
そう。
眼鏡を掛けている方が不思議と落ち着く。
人と目を合わせることが裸眼よりも眼鏡を掛けていた方が落ち着くと気づいたのは中学に入る頃だった。
それ以来私は眼鏡を掛けるようになった。
視力は悪くないから度は入っていないし、家で一人の時は外していることも多い。
卵焼きを見つめたまま話す頭に手を置かれてポンポンと撫でられる。
自分がされている事に驚いて忍足くんを見るとそこにはちょっと恥ずかしそうにしながらも見たこともない優しい笑顔があった。
「奇遇やな。俺も伊達眼鏡なんやで?裸眼で人に見られるのってなんや恥ずかしいやん」
忍足くんが伊達眼鏡だってことは知ってたけど…理由なんて考えたこともなかった。
本当か嘘かはわからない忍足くんの伊達眼鏡の理由に思わず笑ってしまう。
「忍足くんが言っても全然説得力ないよ」
「なんでやねん。ホンマやってー」
お互い笑い合って、生徒会室でぶつかって眼鏡を拾った時に私の伊達眼鏡に気付いた事を教えてもらった。
同じ伊達眼鏡してる者としてどうして伊達眼鏡なのか気になったんだって。
忍足くんの方から話を振ってくれたり聞いてくれるから、初めて話すのに忍足くんは話しやすく親しみやすかった。
私の話だったり忍足くんの話だったり…私と忍足くんの知っている共通の人。跡部くんのことも。
テニス部での部長としての事、休みの日に跡部くんの家にテニス部のみんなで遊びに行った時の事。
私の知らない跡部くんの話はどれも新鮮で楽しかった。
「メシも食べ終わったし、そろそろ教室もどらなアカン時間やな」
「もうそんな時間なんだ。もっと色々聞きたかったな」
「またいつでも話せるやん。クラスは違うけど同じ校内に居んねんで?」
「それもそうだね」
「あ。せや、連絡先交換してや?これもご縁やで?」
いつもの私なら、交換しても話すこともないし自分と交換してもつまらないから。と理由を付けて断ってしまうけど…
ご縁と言われ理由もなく拒否するのもよくないな。と思い、携帯を取り出してその場ですぐに連絡先を交換した。
一緒に教室に戻ろうとした時、忍足くんの携帯がポケットから鳴った。
取り出した時に一瞬だけ見えてしまったディスプレイ。
女の子の名前。
「堪忍、ちょぉ先に戻るな?」
「うん。私はゆっくり戻るからじゃあね」
やっぱりモテる人は違うんだなぁ。なんて思いながら中庭を後にした。
忍足くんと別れてから下駄箱で靴を履き替えて教室へ戻ろうと廊下を歩いていると…
「おい、新堂。丁度よかった。資料のまとめを任せたい。これだ。」
階段の上から降りてきた跡部くんに声を掛けられた。
「はいっ。えと、急ぎ?」
「いや、今月中で構わねぇ。」
「あまり遅くならないうちに仕上げて渡すね」
去っていく跡部くんの後ろ姿を見送り、受け取った資料を受け取り両腕で大切に抱える。
今まで跡部くんがこういう資料まとめてたって前任の人から聞いてたから…それを任せてもらえるのは凄く嬉しかった。
生徒会の仕事に誰よりも厳しい人なのにその人からの信頼を得ている。
好きな人からの信頼。
思わず自然と笑みが零れる。
先ほど忍足くんから聞いた跡部くんの話を思い出しながら教室への廊下を歩く。
また少し好きな人に近づけた気がしてスカートを揺らし軽やかな足取りで…
「新堂さんおるー?」
昼休み、私のクラスへの訪問者に廊下への出入り口に生徒の視線が集中した。
「きゃー!忍足くん!」
「うちのクラスに来るなんて珍しいねー!」
「今日の練習見に行くんだけどどこのコートに居る?」
女子が…あっという間に忍足くんを囲んだ。
…私の名前呼ばれた気がするんだけど、気のせいかな。
新堂って苗字、このクラスに私しかいない気がしたんだけど…聞き間違いかな。
うん。
だって用なんてないし、そもそも私と忍足くんには接点がない。
私は親友の雅と机を並べてお弁当を広げようとした時に…近くから声がした。
「なぁ、俺、さっきから新堂さんの名前呼んどるやんか。聞こえてへん?」
私のすぐ隣から聞こえた声に顔を向けると忍足くんはしゃがんでて…椅子に座っている私と視線の高さがバッチリ噛み合ってて…
「………きゃぁーーー!」
忍足くんのいない方向へ体重を掛けすぎて椅子から落ちそうになるところを忍足くんの手が椅子を掴んで制止する。
椅子から落ちなくてよかった…
「そない驚いて声上げんでもえぇやんかー。おばけ見るような悲鳴やったで?…まぁ、コケんでよかったわ。この前みたいに」
あまりにも冷静に忍足くんが普通に話してくるから私は状況が読み込めない。
そもそも忍足くんと私は今まで同じクラスになったことがない。
委員会も同じになったことなんてない。
今まで私が記憶にある中では関わったことが一度もなかった。
勿論私は忍足くんの事を知っている。
跡部くんと同じテニス部の正レギュラー。氷帝の天才。
学園内にテニス部正レギュラーを知らない人なんていないと思う。
それくらい、雲の上の人達。
忍足くんはその中でも跡部くんに匹敵するほど熱烈なファンがいるらしい。
友達にも忍足くんファンがいるからその友達から聞いた話によると…
かなり女の子にモテる…らしい。
しかも来るもの拒まずっていう態度らしくて告白した女の子に、1、2、3…と指を折って数を数えて「今は…4番目でも良ければえぇで?」とかあっさり言ったとか言わなかったとか。
…跡部くんとは大違い!!
跡部くんはそもそも彼女を作った噂など聞いたことがない。
玉砕覚悟で告白して見事に玉砕したって噂なら山ほど聞いたことあるけど。
生徒会室から泣きながら出てくる女の子を何回見たことか…
とにかく!忍足くんは女の子に対して…だらしないイメージしかなかった。
そんな忍足くんが一体私に何の用なのか…雅との昼食タイムが…
「忍足くん、私に何か用?」
「なんや冷たい反応やなぁ…俺に呼ばれた女の子でそんな反応かなりレアやで?」
「えと…用がないならお昼ご飯食べたいんだけど…」
「今日俺と昼飯せぇへん?ってか、するよな。ちょぉこの子借りてえぇ?」
「うん。どうぞ?愛音、いってらっしゃーい」
「おおきに。ほな新堂さん借りてくな?」
…ん?
私会話に参加してなくない?
でも、なんか話進んでない??
私に尋ねず雅に許可を得てませんか???
忍足くんが私のお弁当箱を巾着に入れ、私のお弁当用の巾着に入れて持ち私の腕を掴んで引っ張る。
流れるような2人のやりとりに思考回路が追い付かずただされるがままに忍足くんに連れていかれる私。
ファンの子の悲鳴やざわざわするクラスメイトの声が遠くから聞こえた気がした。
「んー、ここでえぇか。」
そう言って連れてこられたのは中庭の奥にある小さなベンチだった。
奥にあるだけあって人は周りにおらずベンチも木陰になっておりご飯をするには丁度いい場所だった。
あ。遠くにテニスコートが見える…
私がちょうど気付いたタイミングで私の視線に気づいた忍足くんが言う。
「結構遠いねんけど…テニスコート見えるやろ?いつもあそこで練習してんねん」
「そっか。でも、こんな中庭からは奥だし、テニスコートからは離れてるところよく見つけたね」
「跡部の虫の居所がよぉあらへん時にちょぉやらかしてもうて…居残りランニングせぇ言われた時に見つけてな。一人でゆっくりしたい時はここに来たりすんねん」
「もぉ…一体何したんだか…」
「デリケートな問題やから黙秘権ってことで」
忍足くんが自分の人差し指を立てて唇においてヒミツ。とジェスチャーする。
私が溜め息交じりに息を吐き出すとお互いにどちらからともなくベンチに並んで座り昼食を食べようと手を動かす。
私はお弁当箱を広げて、忍足くんは購買のパンを食べ始める。
「ねぇ…どうして突然私を呼び出したの?私、忍足くんと面識ある記憶ないんだけど…」
「ん?あー…面識は確かにないな。でも新堂さん有名人やんか。生徒会書記やし」
「いや、有名人って言えば忍足くんの方が有名人じゃない」
「まぁ、否定はせぇへんな。一応氷帝の天才やし」
あっさりと自信満々に言ってしまう所が忍足くんらしい。
会話をしながらどうして私が誘われたのかさっぱり見当もつかなかった。
「でしょ?突然呼び出されてご飯しようなんて。忍足くんにお昼誘われたい女子は私じゃなくてもいっぱいいるのに」
「新堂さんは俺にお昼誘われて嬉しないん?」
「別に………嬉しいとかより驚きが大きすぎて」
一瞬言葉に詰まって頭に浮かんだのは真剣な表情で書類に目を通す跡部くんだった。
跡部くんに誘われたら…それはもう夢のように嬉しかったに違いないと思う。
…って、この心の声を口に出してそれが忍足くんファンの耳にでも入ったら大事件だから口にはしないけど。
「ふーーーん。嬉しなさそうやんか」
ちょっと面白くなさそうにして忍足くんがペットボトルの水を飲む。
モテるのが当たり前になっている忍足くんにとっては私の反応が面白くなかったのかちょっとだけ拗ねているようにも見えた。
その拗ねている姿が普段大人びている姿しか見たことがなく新鮮でちょっと可愛いとか…思っ………ってないんだから!!!
気のせい!!
何考えたんだろ。私!…そんな考えあっち行けっ!しっしっ!!
自分の脳内でそんな事を繰り広げていたが、ふと本題から逸れている事に気付いた。
「嬉しいとか嬉しくないとかよりも!私は忍足くんがなんで今日お昼一緒にしようと思った方が気になるんだけど…」
「あぁ、それな。…ちょぉ気になった事があってん」
「気になった事?」
「なんで新堂さん、伊達眼鏡なん?」
食べようとして箸で掴んでいた卵焼きがぽてっ。とお弁当箱に落ちた。
確かに私は眼鏡をかけている。
でも、視力は悪くない。
忍足くんに指摘された通り伊達眼鏡だ。
…なんで気付かれて…
どう答えたらいいのかわからなくて落ちた卵焼きを見つめる。
「なんや…聞いたらあかんようなことやった?…せやったら堪忍」
私が無言になったからか忍足くんの声色が柔らかいものになって私を気遣ってくれる。
箸を静かに置いてから自分の眼鏡のフレームに触れる。
「ダメ…じゃないけど…」
答えようか迷った。
深呼吸を一つして、黙っているほどの理由もなく私は口にすることにした。
「裸眼で人と話すの…ちょっと勇気がいるんだよね…」
そう。
眼鏡を掛けている方が不思議と落ち着く。
人と目を合わせることが裸眼よりも眼鏡を掛けていた方が落ち着くと気づいたのは中学に入る頃だった。
それ以来私は眼鏡を掛けるようになった。
視力は悪くないから度は入っていないし、家で一人の時は外していることも多い。
卵焼きを見つめたまま話す頭に手を置かれてポンポンと撫でられる。
自分がされている事に驚いて忍足くんを見るとそこにはちょっと恥ずかしそうにしながらも見たこともない優しい笑顔があった。
「奇遇やな。俺も伊達眼鏡なんやで?裸眼で人に見られるのってなんや恥ずかしいやん」
忍足くんが伊達眼鏡だってことは知ってたけど…理由なんて考えたこともなかった。
本当か嘘かはわからない忍足くんの伊達眼鏡の理由に思わず笑ってしまう。
「忍足くんが言っても全然説得力ないよ」
「なんでやねん。ホンマやってー」
お互い笑い合って、生徒会室でぶつかって眼鏡を拾った時に私の伊達眼鏡に気付いた事を教えてもらった。
同じ伊達眼鏡してる者としてどうして伊達眼鏡なのか気になったんだって。
忍足くんの方から話を振ってくれたり聞いてくれるから、初めて話すのに忍足くんは話しやすく親しみやすかった。
私の話だったり忍足くんの話だったり…私と忍足くんの知っている共通の人。跡部くんのことも。
テニス部での部長としての事、休みの日に跡部くんの家にテニス部のみんなで遊びに行った時の事。
私の知らない跡部くんの話はどれも新鮮で楽しかった。
「メシも食べ終わったし、そろそろ教室もどらなアカン時間やな」
「もうそんな時間なんだ。もっと色々聞きたかったな」
「またいつでも話せるやん。クラスは違うけど同じ校内に居んねんで?」
「それもそうだね」
「あ。せや、連絡先交換してや?これもご縁やで?」
いつもの私なら、交換しても話すこともないし自分と交換してもつまらないから。と理由を付けて断ってしまうけど…
ご縁と言われ理由もなく拒否するのもよくないな。と思い、携帯を取り出してその場ですぐに連絡先を交換した。
一緒に教室に戻ろうとした時、忍足くんの携帯がポケットから鳴った。
取り出した時に一瞬だけ見えてしまったディスプレイ。
女の子の名前。
「堪忍、ちょぉ先に戻るな?」
「うん。私はゆっくり戻るからじゃあね」
やっぱりモテる人は違うんだなぁ。なんて思いながら中庭を後にした。
忍足くんと別れてから下駄箱で靴を履き替えて教室へ戻ろうと廊下を歩いていると…
「おい、新堂。丁度よかった。資料のまとめを任せたい。これだ。」
階段の上から降りてきた跡部くんに声を掛けられた。
「はいっ。えと、急ぎ?」
「いや、今月中で構わねぇ。」
「あまり遅くならないうちに仕上げて渡すね」
去っていく跡部くんの後ろ姿を見送り、受け取った資料を受け取り両腕で大切に抱える。
今まで跡部くんがこういう資料まとめてたって前任の人から聞いてたから…それを任せてもらえるのは凄く嬉しかった。
生徒会の仕事に誰よりも厳しい人なのにその人からの信頼を得ている。
好きな人からの信頼。
思わず自然と笑みが零れる。
先ほど忍足くんから聞いた跡部くんの話を思い出しながら教室への廊下を歩く。
また少し好きな人に近づけた気がしてスカートを揺らし軽やかな足取りで…