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「なぁ、愛音、行きたいとこあんねんけど…まだ少しだけ歩けそうか?」
「うん。平気だよ。侑士の行きたいところってどこだろ?楽しみっ」
花が咲いてなかったことはちょっと残念だったけど…
これからは…花の咲いてない蕾も好きになれそうな気がした。
連れてきてもらった場所は病院近くの小高い丘。
病院は街よりもすこし高い場所にあるから、更にそこよりも少し高いため丘から街を一望できた。
街の先には水平線。
こんなところ…知らなかった。
自然と前へ歩き出す。
「あんま柵の方に近づかんようにな。落ちてまうで?」
落下防止の柵がある近くまで行くと侑士が心配して声をかけてくれる。
柵の前で夕方になり少し冷えてきた風を頬に感じながら見つめた。
綺麗な濃いオレンジに染まる街並み。
反射でキラキラと光る海。
大きな太陽が海へと沈んでいく。
なんだか…この世界に自分だけが存在してるくらい静かで…
そっと目を閉じてみる。
自分でも驚くくらいすっと言葉が出てきた…
「ねぇ、侑士。
私、手術受けてみようと思うの。」
ずっと、ずっと踏み出せなかった一歩。
怖くて、怖くて、怖くて仕方なかったけど…
私は生きたい。
侑士に後ろ姿を向けたままで決意を口にした。
今までなんでこんな簡単な言葉が言えなかったんだろうと思う。
でも、気付いちゃったから。
侑士を好きな気持ちと生きたいっていう気持ちに。
「愛音なら、大丈夫や。」
短い一言だったけど、私にはそれで十分だった。
その声色で侑士が今どんな気持ちで、どんな顔で言ってくれてるのかわかる。
自分の首からいつも付けていたロザリオを外す。
振り返って侑士の元へ歩くとつま先立ちをして首に掛けた。
「預かってて欲しいの。手術が無事に終わった時に…また侑士から受け取りたいから」
「わかった。愛音、いつも身に着けとったもんな、これ」
「うん。さっきの公園の少し外れた場所にね、教会があるの。偶然見つけて…そこからたまにだけど通うようになって…その時にシスターから頂いたの」
「小ぶりでシンプルやけど愛音によぉ似合ってるってずっと思っててん」
「だからっ、ちゃんと返してよね!」
「なくさんよう、気ぃつけんとあかんな」
「当然!なくしたら泣くからねっ」
「泣くって…それは怒るとかよりキツイやん。男は女の涙に弱いもんやねん。…大丈夫やって。俺のここに、ちゃんと持っとく。な?」
侑士が自分の首に掛けられたロザリオを握る。
私も頷いて返事をすると「くしゅんっ」とくしゃみが出た。
侑士が「冷えてきたな、帰ろか」と言って手を繋ぐ。
自然すぎるくらい自然にお互いの指を絡めて。
帰りが少し遅くなってしまったから…病室に戻るとベテラン看護師さんが居て…
「あまり年頃の女の子を遅くまで連れまわすもんじゃないよっ!」
って侑士が怒られてた。
あまりの迫力に侑士が静かに「すんませんでした…」って素直に謝るもんだから…思わず私は笑ってしまった。
私が手術を受ける気持ちを伝えると先生は驚きながらもすぐに日程を調整してくれた。
両親も私が頑なに受けないと言っていたが急に受けると言い出したことに驚きながらも凄く喜んでくれた。
病院での都合もあり、手術の日はすぐに決まった。
あまり先の月日だとずっと緊張してしまいそうだったから早くてよかったのかもしれない。
私のロザリオを首に着けて侑士は相変わらず毎日病室に来てくれる。
手術が終わったら、私は侑士に伝えたいことがあるの。
今はまだ侑士には教えてあげないけど…
伝えたら侑士はどんな顔をするのかな。
なんて言ってくれるのかな。
気持ちを伝えたら…ずっと私の傍に…いてくれるよね?
…自惚れかもしれないけど…侑士もきっと同じ気持ちだってなんとなく…思うんだよ。
あっという間に手術の前日になってしまった。
決心したはずなのに…日にちが近づくほどに恐怖に押しつぶされそうになる。
ベットの上で本のページをめくる。
本の内容なんて頭に入ってくるわけがなかった。
…明日、命に拘わる手術を受ける。
覚悟を決めていたはずでも……
怖い。
「…愛音
愛音…」
「…あぁ、ごめん。侑士、なに?」
声をかけてくれた侑士の方を向くと…手には皿を持ち…剥かれた林檎が乗っていた。
「明日やな。…怖い?」
「…そう、だね。怖くないって言ったら…嘘になっちゃうかな」
皿を近くの棚に置くと優しく私の頭を撫でて顔を覗き込んでくる。
「大丈夫や。俺がおんねんで?」
「…そう、だよね」
「愛音、右手出して?」
言われるがまま右手を差し出すと手の甲に侑士の唇が触れた。
一瞬だったけど…その温かさに震えた。
恥ずかしさから私はその手をぱっと自分の方へ寄せて左手でキスされた右手の甲を抑えた。
「や、やだっ!侑士急にっ…」
「やだって…愛音チャン酷い事言わんといてや~…」
「だって!侑士が急にするんだもんっ!」
「したなってもーたんやもーん。愛音は恥ずかしがりやさんやね」
「もぉっ~~~…」
侑士からぷいっとそっぽを向いていると侑士がベットの隣に椅子を置いて座り、機嫌を損ねた私の機嫌を取るような甘い声で話しかけてくる。
「堪忍やで?ただ愛音を元気付けたかっただけやねん。信じて?」
「……そういうのは…心の準備が…」
シャクっと林檎がフォークに刺さった音がした。
さっき、剥いた林檎持ってきてくれてたよね。
すぐに機嫌を直すのもなんだか癪だからちょっとした我儘。
「機嫌直してこっち向いてや?」
「……あーん…して…くれなきゃ許してあげないんだから」
「恥ずかしがりやさんの甘えたさんやね、愛音は。」
侑士の方を向くと優しい笑顔でうさぎの耳付きの林檎を口に持ってきてくれるから…口を開けて侑士に食べさせてもらった。
次を強請るように口を開くと侑士が私の口へ林檎を運んでくれる。
…最後の一切れ。
私が一口かじった林檎の残りを侑士がパクリと食べた。
「やっぱ林檎は最高やわ」
美味しそうに食べる侑士に自然と私も笑みが零れる。
…あれ?さっきまでの怖い気持ち、どこに行っちゃったんだろ。
手術の前日ということもあって仕事終わりの両親が来てくれて不安が全くないわけじゃないけど…昼間のような押しつぶされそうな不安な気持ちになることはなくなっていた。
先生と両親と私で手術の話を聞いた。
明日は朝から手術みたい。
夜ご飯は今日は食べられないから最後に口にした物が侑士の剥いてくれた林檎だった。
先生に早く寝てしっかり体力をつけるように言われたから早めに電気を消す。
両親が来た時に侑士はいつものように「お父さんとお母さん来たんやったらちょぉ出るな?」と言って出て行ってしまった。
ベットで仰向けになり静かに瞳を閉じる。
その時、右手に温かいものが重ねられた。
侑士の大きな手だ。
瞳を開けると…侑士がそこに居てくれた。
夜は野暮用とか言って…いつもいなくなっちゃうのに…
「今日は…野暮用ないの…?」
「せやな。今日はないさかい、愛音の傍におりたかってん」
「今日は愛音が寝付くまで傍におるから」
「じゃあ…寝なかったらずっと傍にいてくれる?」
「…ちゃんと寝なあかんやん。明日は大事な手術の日やで?」
「わかってる…ちょっと言ってみたかっただけ…」
ゆっくりと瞳を閉じる。
侑士の温もりを感じながら。
「おやすみ。侑士」
「おやすみ。愛音」
初めて交わしたおやすみの挨拶。
凄く穏やかに眠れたのはきっと侑士が傍に居てくれたからだよ。
「なぁ、愛音、行きたいとこあんねんけど…まだ少しだけ歩けそうか?」
「うん。平気だよ。侑士の行きたいところってどこだろ?楽しみっ」
花が咲いてなかったことはちょっと残念だったけど…
これからは…花の咲いてない蕾も好きになれそうな気がした。
連れてきてもらった場所は病院近くの小高い丘。
病院は街よりもすこし高い場所にあるから、更にそこよりも少し高いため丘から街を一望できた。
街の先には水平線。
こんなところ…知らなかった。
自然と前へ歩き出す。
「あんま柵の方に近づかんようにな。落ちてまうで?」
落下防止の柵がある近くまで行くと侑士が心配して声をかけてくれる。
柵の前で夕方になり少し冷えてきた風を頬に感じながら見つめた。
綺麗な濃いオレンジに染まる街並み。
反射でキラキラと光る海。
大きな太陽が海へと沈んでいく。
なんだか…この世界に自分だけが存在してるくらい静かで…
そっと目を閉じてみる。
自分でも驚くくらいすっと言葉が出てきた…
「ねぇ、侑士。
私、手術受けてみようと思うの。」
ずっと、ずっと踏み出せなかった一歩。
怖くて、怖くて、怖くて仕方なかったけど…
私は生きたい。
侑士に後ろ姿を向けたままで決意を口にした。
今までなんでこんな簡単な言葉が言えなかったんだろうと思う。
でも、気付いちゃったから。
侑士を好きな気持ちと生きたいっていう気持ちに。
「愛音なら、大丈夫や。」
短い一言だったけど、私にはそれで十分だった。
その声色で侑士が今どんな気持ちで、どんな顔で言ってくれてるのかわかる。
自分の首からいつも付けていたロザリオを外す。
振り返って侑士の元へ歩くとつま先立ちをして首に掛けた。
「預かってて欲しいの。手術が無事に終わった時に…また侑士から受け取りたいから」
「わかった。愛音、いつも身に着けとったもんな、これ」
「うん。さっきの公園の少し外れた場所にね、教会があるの。偶然見つけて…そこからたまにだけど通うようになって…その時にシスターから頂いたの」
「小ぶりでシンプルやけど愛音によぉ似合ってるってずっと思っててん」
「だからっ、ちゃんと返してよね!」
「なくさんよう、気ぃつけんとあかんな」
「当然!なくしたら泣くからねっ」
「泣くって…それは怒るとかよりキツイやん。男は女の涙に弱いもんやねん。…大丈夫やって。俺のここに、ちゃんと持っとく。な?」
侑士が自分の首に掛けられたロザリオを握る。
私も頷いて返事をすると「くしゅんっ」とくしゃみが出た。
侑士が「冷えてきたな、帰ろか」と言って手を繋ぐ。
自然すぎるくらい自然にお互いの指を絡めて。
帰りが少し遅くなってしまったから…病室に戻るとベテラン看護師さんが居て…
「あまり年頃の女の子を遅くまで連れまわすもんじゃないよっ!」
って侑士が怒られてた。
あまりの迫力に侑士が静かに「すんませんでした…」って素直に謝るもんだから…思わず私は笑ってしまった。
私が手術を受ける気持ちを伝えると先生は驚きながらもすぐに日程を調整してくれた。
両親も私が頑なに受けないと言っていたが急に受けると言い出したことに驚きながらも凄く喜んでくれた。
病院での都合もあり、手術の日はすぐに決まった。
あまり先の月日だとずっと緊張してしまいそうだったから早くてよかったのかもしれない。
私のロザリオを首に着けて侑士は相変わらず毎日病室に来てくれる。
手術が終わったら、私は侑士に伝えたいことがあるの。
今はまだ侑士には教えてあげないけど…
伝えたら侑士はどんな顔をするのかな。
なんて言ってくれるのかな。
気持ちを伝えたら…ずっと私の傍に…いてくれるよね?
…自惚れかもしれないけど…侑士もきっと同じ気持ちだってなんとなく…思うんだよ。
あっという間に手術の前日になってしまった。
決心したはずなのに…日にちが近づくほどに恐怖に押しつぶされそうになる。
ベットの上で本のページをめくる。
本の内容なんて頭に入ってくるわけがなかった。
…明日、命に拘わる手術を受ける。
覚悟を決めていたはずでも……
怖い。
「…愛音
愛音…」
「…あぁ、ごめん。侑士、なに?」
声をかけてくれた侑士の方を向くと…手には皿を持ち…剥かれた林檎が乗っていた。
「明日やな。…怖い?」
「…そう、だね。怖くないって言ったら…嘘になっちゃうかな」
皿を近くの棚に置くと優しく私の頭を撫でて顔を覗き込んでくる。
「大丈夫や。俺がおんねんで?」
「…そう、だよね」
「愛音、右手出して?」
言われるがまま右手を差し出すと手の甲に侑士の唇が触れた。
一瞬だったけど…その温かさに震えた。
恥ずかしさから私はその手をぱっと自分の方へ寄せて左手でキスされた右手の甲を抑えた。
「や、やだっ!侑士急にっ…」
「やだって…愛音チャン酷い事言わんといてや~…」
「だって!侑士が急にするんだもんっ!」
「したなってもーたんやもーん。愛音は恥ずかしがりやさんやね」
「もぉっ~~~…」
侑士からぷいっとそっぽを向いていると侑士がベットの隣に椅子を置いて座り、機嫌を損ねた私の機嫌を取るような甘い声で話しかけてくる。
「堪忍やで?ただ愛音を元気付けたかっただけやねん。信じて?」
「……そういうのは…心の準備が…」
シャクっと林檎がフォークに刺さった音がした。
さっき、剥いた林檎持ってきてくれてたよね。
すぐに機嫌を直すのもなんだか癪だからちょっとした我儘。
「機嫌直してこっち向いてや?」
「……あーん…して…くれなきゃ許してあげないんだから」
「恥ずかしがりやさんの甘えたさんやね、愛音は。」
侑士の方を向くと優しい笑顔でうさぎの耳付きの林檎を口に持ってきてくれるから…口を開けて侑士に食べさせてもらった。
次を強請るように口を開くと侑士が私の口へ林檎を運んでくれる。
…最後の一切れ。
私が一口かじった林檎の残りを侑士がパクリと食べた。
「やっぱ林檎は最高やわ」
美味しそうに食べる侑士に自然と私も笑みが零れる。
…あれ?さっきまでの怖い気持ち、どこに行っちゃったんだろ。
手術の前日ということもあって仕事終わりの両親が来てくれて不安が全くないわけじゃないけど…昼間のような押しつぶされそうな不安な気持ちになることはなくなっていた。
先生と両親と私で手術の話を聞いた。
明日は朝から手術みたい。
夜ご飯は今日は食べられないから最後に口にした物が侑士の剥いてくれた林檎だった。
先生に早く寝てしっかり体力をつけるように言われたから早めに電気を消す。
両親が来た時に侑士はいつものように「お父さんとお母さん来たんやったらちょぉ出るな?」と言って出て行ってしまった。
ベットで仰向けになり静かに瞳を閉じる。
その時、右手に温かいものが重ねられた。
侑士の大きな手だ。
瞳を開けると…侑士がそこに居てくれた。
夜は野暮用とか言って…いつもいなくなっちゃうのに…
「今日は…野暮用ないの…?」
「せやな。今日はないさかい、愛音の傍におりたかってん」
「今日は愛音が寝付くまで傍におるから」
「じゃあ…寝なかったらずっと傍にいてくれる?」
「…ちゃんと寝なあかんやん。明日は大事な手術の日やで?」
「わかってる…ちょっと言ってみたかっただけ…」
ゆっくりと瞳を閉じる。
侑士の温もりを感じながら。
「おやすみ。侑士」
「おやすみ。愛音」
初めて交わしたおやすみの挨拶。
凄く穏やかに眠れたのはきっと侑士が傍に居てくれたからだよ。