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「………愛音…愛音…」
眠りに付いてしまって…目が覚めたのは夜だった。
窓から見える月明りと星空。
そして私を呼ぶ声。
やっと…会えた。
「侑士…目が覚めたら一番に会いたかったのに…」
「堪忍。ちょぉ準備があってん」
「準備?」
まだ体調は完全ではないけど上半身をベットから起こした。
侑士の方を見ると両手を背中側にやり何かを私に隠して持っているように見える。
鼻を擽る柔らかな甘い香り…
「蕾、咲いててん。ほら…」
侑士が私に向かって差し出すと、腕にはマーガレットの花束が…茎に白いレースのリボンで飾られただけのシンプルな花束だったけど…
あの日、侑士と見られなかった花畑が今侑士の腕の中にあった。
差し出された花束を受け取って香りを吸い込む。
「綺麗…すごく。嬉しい…」
「手術の成功、おめでとうな」
「うん…もう、病気の心配しなくてもいいんだって…」
「…さよか。な、俺がついてる言うたやん」
「うん。病気で悩んでた私の前に侑士が現れてくれて…助けてくれたんだね。最初に私が侑士の事、天使だって言った事…本当だったんだ」
目からポロポロと涙が溢れてきた。
悲しいとかそんな気持ちじゃなくて…嬉しかった。
「泣かんといてや…」
「えへへ…これは悲しい涙じゃないからいいのー」
「せやけど、泣いてんの見んのはなんやなぁ…」
侑士があまりにも困った表情をするから指で涙を拭ってにっこりと笑顔を向ける。
ゆっくりとベットから立ち上がる。
床に足を付けて。
侑士に伝えたいことがあるから。
侑士の正面に立って…向き合う。
真っ直ぐに侑士を見つめる。
お互いの視線が絡まる。
あのね、私…
そう言いだそうとした時、先に言葉を発したのは侑士だった。
輝いていた月明かりが雲に隠れて少し影を作る。
「愛音のロザリオ、返すな?ちょぉこっち来て」
一歩進んで侑士のすぐ傍まで歩み寄る。
すぐ傍に侑士が立ってる。
手を伸ばしたら抱きしめられるほど近くに。
胸の高鳴りが収まってくれない。
一瞬曇って影を落とした月明りが再び輝きを取り戻した時…私は言葉を失った。
目の前の光景が理解できなかったから。
侑士の身体…透けてる……
侑士の体の向こうには見知った病室。
今までこんなこと一度もなかった。
なに?どういうこと?
侑士が胸元のロザリオを掴んで自分の首から抜こうとした瞬間…
カシャンッ………
侑士の手から確かに握っていたロザリオが零れ落ちた。
透けてる侑士の足にあるロザリオを目で追った。
え?なにが…起こってるの?
思考も体も固まったまま動けない。
そんな中で静寂を打ち破ったのは侑士の声だった。
「タイムオーバーに…なってもうたんか…神様は、残酷やんなぁ」
何言ってるの?
ゆっくりと顔を上げて侑士を見つめた。
苦しそうな表情だけど笑ってる侑士。
透けてて…天井が見えることが変だなって思って…
私を見つめる侑士があまりにも普段通りの喋り方で話す。
「ロザリオ…愛音の首に掛けたるのも…出来へんみたいや。堪忍。
俺にはもう物に触れたり…そういうんもダメみたいや」
「や、やだ。侑士…何……冗談言って…」
やっと絞り出した声で笑って…
侑士の手を握って…
私の手が空を掴んだ。
握ったはずの侑士の手の感触はなくて…何度握っても何度何度握っても掴むものはなくて。
「俺は愛音の天使になりたかってん。
病気の愛音を助ける天使。その夢、叶えることが出来て本望やわ…」
侑士の掌が私の頬を優しく撫でる。
温かい侑士の掌の感触は…なかった。
「居なくなっちゃうなんて…ダメだから…」
怖くて侑士の顔が見られなくて俯く。
傍に居られないみたいな事、侑士が言い出すから…先手を打って私から言う。
「堪忍…」
「謝ら…ないでよ…謝ったら本当に居なくなっちゃうみたいじゃない…」
「なぁ、俺は愛音の天使になれた…?」
ビクッとして顔を上げる。
自分でも意識してないけど…視界が涙で滲む。
頬を涙が伝う。
ポタポタと頬を伝った涙が床に落ちた。
「侑士は…私の天使だよ…何度も……言ってるじゃない…」
私の言葉に嬉しそうに柔らかな微笑みを見せて侑士がバサァッと音を立てて翼を広げた。
でも…
かつて私に見せてくれた輝く純白の翼はそこにはなくて…
羽根は灰色に曇り綺麗な形だった翼は羽根が抜け落ちて歪になり…私が見ている瞬間にも一枚、また一枚と落ちては消えてなくなった。
「俺の願いはな…愛音が助かることやった。
もう近くにはおれんけど…愛音の願いも叶うように…祈っとるな。」
「急に何言って……私…私の願いはっ……」
背景の病室に溶け込んで微笑む侑士が消えて行ってしまいそうで…
目の前の侑士の胸に飛び込む。
受け止めて…抱きしめて欲しい…
私、伝えたいことがあるのに侑士にまだ言ってないんだよ?
好きだって。
一緒にいたいって。
私の願いは侑士とずっと一緒にいることだって…!
胸に飛び込んだ私の身体が抱き留められることなく…私は透けた侑士の身体を通り抜けてバランスを崩して床に両手を付いた。
止まらない涙が床に落ちる。
涙で無数に床に模様を作るけど…涙で滲んだ私の視界にはそれすらも入ってこなかった。
身体の震えが止まらなない。
「侑士っ…」
そう言って振り返ると無数の羽根の嵐。
灰色のボロボロになってしまった羽根の嵐だった。
一瞬だけ驚きで目を閉じてしまって…開いたその先に…
もう侑士の姿はなくて羽根すらもすぐに消えて…
何もなかったかのようで…
足元には侑士の手から滑り落ちた私のロザリオだけが静かに落ちていた。
「………愛音…愛音…」
眠りに付いてしまって…目が覚めたのは夜だった。
窓から見える月明りと星空。
そして私を呼ぶ声。
やっと…会えた。
「侑士…目が覚めたら一番に会いたかったのに…」
「堪忍。ちょぉ準備があってん」
「準備?」
まだ体調は完全ではないけど上半身をベットから起こした。
侑士の方を見ると両手を背中側にやり何かを私に隠して持っているように見える。
鼻を擽る柔らかな甘い香り…
「蕾、咲いててん。ほら…」
侑士が私に向かって差し出すと、腕にはマーガレットの花束が…茎に白いレースのリボンで飾られただけのシンプルな花束だったけど…
あの日、侑士と見られなかった花畑が今侑士の腕の中にあった。
差し出された花束を受け取って香りを吸い込む。
「綺麗…すごく。嬉しい…」
「手術の成功、おめでとうな」
「うん…もう、病気の心配しなくてもいいんだって…」
「…さよか。な、俺がついてる言うたやん」
「うん。病気で悩んでた私の前に侑士が現れてくれて…助けてくれたんだね。最初に私が侑士の事、天使だって言った事…本当だったんだ」
目からポロポロと涙が溢れてきた。
悲しいとかそんな気持ちじゃなくて…嬉しかった。
「泣かんといてや…」
「えへへ…これは悲しい涙じゃないからいいのー」
「せやけど、泣いてんの見んのはなんやなぁ…」
侑士があまりにも困った表情をするから指で涙を拭ってにっこりと笑顔を向ける。
ゆっくりとベットから立ち上がる。
床に足を付けて。
侑士に伝えたいことがあるから。
侑士の正面に立って…向き合う。
真っ直ぐに侑士を見つめる。
お互いの視線が絡まる。
あのね、私…
そう言いだそうとした時、先に言葉を発したのは侑士だった。
輝いていた月明かりが雲に隠れて少し影を作る。
「愛音のロザリオ、返すな?ちょぉこっち来て」
一歩進んで侑士のすぐ傍まで歩み寄る。
すぐ傍に侑士が立ってる。
手を伸ばしたら抱きしめられるほど近くに。
胸の高鳴りが収まってくれない。
一瞬曇って影を落とした月明りが再び輝きを取り戻した時…私は言葉を失った。
目の前の光景が理解できなかったから。
侑士の身体…透けてる……
侑士の体の向こうには見知った病室。
今までこんなこと一度もなかった。
なに?どういうこと?
侑士が胸元のロザリオを掴んで自分の首から抜こうとした瞬間…
カシャンッ………
侑士の手から確かに握っていたロザリオが零れ落ちた。
透けてる侑士の足にあるロザリオを目で追った。
え?なにが…起こってるの?
思考も体も固まったまま動けない。
そんな中で静寂を打ち破ったのは侑士の声だった。
「タイムオーバーに…なってもうたんか…神様は、残酷やんなぁ」
何言ってるの?
ゆっくりと顔を上げて侑士を見つめた。
苦しそうな表情だけど笑ってる侑士。
透けてて…天井が見えることが変だなって思って…
私を見つめる侑士があまりにも普段通りの喋り方で話す。
「ロザリオ…愛音の首に掛けたるのも…出来へんみたいや。堪忍。
俺にはもう物に触れたり…そういうんもダメみたいや」
「や、やだ。侑士…何……冗談言って…」
やっと絞り出した声で笑って…
侑士の手を握って…
私の手が空を掴んだ。
握ったはずの侑士の手の感触はなくて…何度握っても何度何度握っても掴むものはなくて。
「俺は愛音の天使になりたかってん。
病気の愛音を助ける天使。その夢、叶えることが出来て本望やわ…」
侑士の掌が私の頬を優しく撫でる。
温かい侑士の掌の感触は…なかった。
「居なくなっちゃうなんて…ダメだから…」
怖くて侑士の顔が見られなくて俯く。
傍に居られないみたいな事、侑士が言い出すから…先手を打って私から言う。
「堪忍…」
「謝ら…ないでよ…謝ったら本当に居なくなっちゃうみたいじゃない…」
「なぁ、俺は愛音の天使になれた…?」
ビクッとして顔を上げる。
自分でも意識してないけど…視界が涙で滲む。
頬を涙が伝う。
ポタポタと頬を伝った涙が床に落ちた。
「侑士は…私の天使だよ…何度も……言ってるじゃない…」
私の言葉に嬉しそうに柔らかな微笑みを見せて侑士がバサァッと音を立てて翼を広げた。
でも…
かつて私に見せてくれた輝く純白の翼はそこにはなくて…
羽根は灰色に曇り綺麗な形だった翼は羽根が抜け落ちて歪になり…私が見ている瞬間にも一枚、また一枚と落ちては消えてなくなった。
「俺の願いはな…愛音が助かることやった。
もう近くにはおれんけど…愛音の願いも叶うように…祈っとるな。」
「急に何言って……私…私の願いはっ……」
背景の病室に溶け込んで微笑む侑士が消えて行ってしまいそうで…
目の前の侑士の胸に飛び込む。
受け止めて…抱きしめて欲しい…
私、伝えたいことがあるのに侑士にまだ言ってないんだよ?
好きだって。
一緒にいたいって。
私の願いは侑士とずっと一緒にいることだって…!
胸に飛び込んだ私の身体が抱き留められることなく…私は透けた侑士の身体を通り抜けてバランスを崩して床に両手を付いた。
止まらない涙が床に落ちる。
涙で無数に床に模様を作るけど…涙で滲んだ私の視界にはそれすらも入ってこなかった。
身体の震えが止まらなない。
「侑士っ…」
そう言って振り返ると無数の羽根の嵐。
灰色のボロボロになってしまった羽根の嵐だった。
一瞬だけ驚きで目を閉じてしまって…開いたその先に…
もう侑士の姿はなくて羽根すらもすぐに消えて…
何もなかったかのようで…
足元には侑士の手から滑り落ちた私のロザリオだけが静かに落ちていた。