【Dom/Subユニバースパロ】dom社会人赤葦×sub社会人夢主
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静かな部屋に、スマホの着信音が響く。
ディスプレイに表示された名前を見て、思わず息を止めた。
『赤葦京治』
きっと、出ない方がいい。
そう思うのに、無視することも出来なかった。
意識した人の電話を無視できるほど私は強くないから。
「はい……」
何も悪いことはしていないのに、鼓動は変に早くて喉の奥はやけに渇いている。
彼の一言が聞こえるまでこんなに長く感じるなんて。
「赤葦です。……今まで飲んでたんですか」
決して怒ってはいないのに、どこか咎めるような言い方は私のことを気にかけているようで。胸の奥が少し満たされてしまう自分がいる。
「……少し前には帰ってました」
やっと出てきた声は思いの外小さくて、自分自身でも驚いた。
「こんな時間までどうしたんです?」
「酔い冷ましに歩いて帰ってたらこんな時間で……」
彼の質問に答えるだけで精一杯だった。
ただの電話なのに、どうしてこんなに緊張しているんだろう。
電話越しなのに、domの気配がわずかに滲んでいる気がして、彼の声の響きに身体が縮こまっていく。
「夜道は危ないですから。今後はタクシー使ってください」
穏やかな声は優しいcommandのようで、「……すみません、気を付けます」気付いたら、そう返事をしていた。
「そうしてください。心配なので」
やんわりとした口調は心配してくれているとわかるのに、もっと心配してほしい、叱ってほしい、私のこと考えてほしい、なんてどこまでも私を欲張りにさせてしまう。
―そんなの、駄目。
最近お店に行ってないせいだ。
抑えていたはずのsubの感覚が、赤葦さんに反応してしまう。
「あの、電話なんて、何かありましたか?」
***
返信が来ない。既読もつかない。
いつもなら返事が来ていてもおかしくない。
何かあった?
……あぁ。そう言えばこの前取材で会った時に、黒尾さんが言っていた。
金曜日に□□さんと飲みに行くと。
もしかしたら、まだ飲んでいるのかもしれない。
□□さんは大丈夫だろうか。
この前の食事では飲み過ぎる人ではなさそうだった。
それでも、この時間に女性一人で帰るのは……。
気付いた時には既に指先が着信を押していて、ディスプレイには『□□◯◯』と表記されていた。
しかし、彼女は結局出なかった。
ほとんど無意識だったと思う。
気にならないと言えば嘘になる。
□□さんには彼女の生活がある、これ以上邪魔は出来ない。
スマホの画面を眺めながら微かに漏れるglareには気付かないふりをした。
『もう寝ちゃいましたか?
ゆっくり休んでください。』
送信して、彼女から返信が来たのは23時を少し過ぎた頃だった。
『お疲れ様です
すみません、着信気が付かなくて!
黒尾と飲んでました』
……こんな時間まで?
そもそも黒尾さんは国外出張もある忙しい人だ。
それなのに先月も飲みに行って今日も?
『黒尾さんとは、よく飲みに行くんですか?』
気付けば、そう返信していた。
先月の黒尾さんとの飲みで俺のことを紹介されたと、□□さんは言っていた。
スマホの画面には再び『□□◯◯』の文字。
返信を待つ時間が惜しくて、またもや通話ボタンを押していた。
「はい……。」
彼女が出たのは何コール目だったか。
やけに長く感じた。
「赤葦です。今まで飲んでたんですか?」
「……少し前には帰ってました」
アルコールで少しふわふわした彼女の声は甘く、耳元が心地良い。
――もっと聞きたい。
通話越しに聞こえるsubの声。play不足の俺にはこれだけでは足りない。
「夜道は危ないですから、タクシー使ってください」
「気を付けます……」
commandではないのに、彼女の返答に満たされるのがわかる。
彼女に隠すように「そうしてください。心配なので」と返していた。
おそらく彼女にとっての俺はくたびれた無害なdomという認識だろうから。
「あの、電話なんて、何かありましたか?」
戸惑ったような彼女の声に、言葉が一瞬詰まる。
そういえば、彼女と通話するのはこれで二度目だ。
一度目は、初めて会う日の待ち合わせ。
急に電話をかけられて驚くのも当然かもしれない。
用件なんて、いくらでも作れる。
メッセージより通話の方が早いとか。
ただ、それだけ。
「黒尾さんとは、よく飲みに行くんですか?」
「月一くらいですかね。……赤葦さん?」
月一。
そんなに……?
いや、別にいいじゃないか。彼女なりの付き合い方がある。
……踏み込むなんて烏滸がましい。
「……実は黒尾さんと飲んでるって聞いて、ちゃんと帰れてるか心配でかけました」
嘘じゃない。せっかく知り合った人がお酒でなにかあるのは心苦しい。
スマホを持つ手に力が入るのはなぜなのか。わからないまま問い掛けていた。
「…………俺とはまた、ご飯行ってくれませんか?」
「えっ?」
「……前に□□さんが、今度は予約してくれるって言ったじゃないですか」
そう、確かに彼女は言っていた。
別に黒尾さんに張り合うとか、彼女を独占したいとかそんな大層なものじゃない。ただ、もう一度会って話してみたい。
「もしよければ、今度の金曜日どうですか?」
月一の金曜日に黒尾さんと飲むことが多いなら、金曜日のほうが□□さんにはきっと都合がつきやすい。だから別に他意はない。
「……難しければまた今度でも構いません。おやすみなさい。温かくして寝てくださいね」
驚く彼女の返事を待たず、逃げるように通話を切った。
スマホをベッドへ放り投げ、両手で顔を覆うも思い出されるのは先ほどの通話。
「なにやってるんだ俺は」
彼女の都合も聞かずに言い逃げして、こんなの拗ねているだけじゃないか。
***
通話終了の音が、静かな部屋に小さく響いた。
耳からスマホを離すと、ほんのり熱を持っている。
……切られちゃった。返事してないのに。
いつも落ち着いていて余裕がある人なのに。
わざわざ通話までして私を誘ってくれた。
それだけのことなのに、胸の奥が落ち着かない。
鏡を見ると、自分の顔が少し赤い。
……お酒のせいだけじゃない気がした。
震える指でメッセージを打つ。
『金曜日、空いてます。
お店、私に選ばせてください』
少し迷ってから、もう一文足す。
『赤葦さんに、ゆっくりしてほしいので』
送信ボタンを押す。
それだけなのに、妙にほっとした。
「赤葦さん、やっぱり声も綺麗だったなぁ。」
初めて会った日をなぜか思い出していた。
***
金曜日。
彼と約束した二度目の食事。
それだけなのに、こんなにも弾んでしまうのは自分でも浮かれ過ぎだとは思う。
今回は、私が選んだお店。
駅から少し離れた隠れ家風ダイニングバーは暗めの照明に、耳障りの良い落ち着いた音楽が広がっている。
少しでも彼にはゆっくりして欲しくて。
そんな気持ちで選んだ。
「お待たせしました」
掘りごたつ式の半個室の扉が開けられる。
少し急いできたのだろう。彼の髪はほんのり乱れていて息が仄かに上がっているよう。
「急いで来なくても大丈夫ですよ」
「運動不足がバレますね。お待たせしてすみません」
そういえば赤葦さん、元バレー部なんだよね。…元バレー部かぁ。バレーしている赤葦さんちょっと見てみたいかも。
彼に言ったらどんな反応をするんだろう。
アルコールを何度かおかわりした頃、頭の中は浮遊感に包まれていてなんだか気持ちがいい。
もしかしたら、アルコールのせいだけじゃない気がする。
「□□さんは……、パートナー探さないんですか」
不意にやってきた質問はなんとも心臓に悪い内容で。ちょっとくらい意地悪してもいいんじゃないか。
「……赤葦さんこそ作らないんですか」
「質問を質問で返すのはズルいです」
彼を横目で覗き見すると顔はほんのり赤みがかっていて、声もなんだかいつもより柔らかい気がする。
「そうですねぇ、なって欲しい人はいるかもしれません」
「いるんですか?」
俯き、グラスを持つ彼の手に力が入るのが見えた。
……怒っている?
僅かに漏れ出すdom特有のglareになんて触れていいのかわからなくて。
慌てて誤魔化すように私の左手は彼の黒髪を撫でていた。
「……なんですか」
「頭撫でると幸せホルモンってやつが出るらしいですよ」
「オキシトシンです」
「なんでもいいですよ。少しは落ち着きましたか」
彼を撫でる左手をそっと引っ込めた。名残り惜しいけど、ずっとそうしているわけにもいかない。赤葦さんもずっと撫でられるのも嫌かもしれないし。なんだか大型犬みたいで可愛かったな。
「……あの、赤葦さん」
私は、テーブルの下で膝の上の拳を強く握りしめた。
「なんですか?」
「……もし、赤葦さんが良ければ、ですけど」
「…………」
「赤葦さんの体調が落ち着くまで、私と……仮のパートナーになりませんか?」
沈黙が走る。
額はほんのり汗ばんでいて、その割に背筋は凍りそうに寒い。
断るでもいい。せめて、何か言ってほしくて。
何分も経ったように感じる体感とは裏腹に、赤葦さんは淡々と突きつけてきた。
「俺とplayすることになりますが。□□さんはいいんですか、俺がパートナーで」
眼鏡の奥、深緑の瞳がゆらゆらと覗かせるその気配は支配なのか、最後の警告なのか。
なんにせよ私の答えは決まっていた。
「私をパートナーにしてください。」
どうか、お願い。
私に彼の手助けをさせてください。
―認めるしかない。
subが、本能が、彼を必要としている。
「……駄目、ですか。」
彼は眼鏡をゆっくりと外し、息を深く吐いた。
「パートナーになったら、そう簡単に解消しないかもしれません」
「望むところです」
「本当にいいんですね」
最後の通達を告げる彼はまっすぐと見据えてきて、その視線に身体が焼けるような熱を感じる。
あぁ、やっぱり。
間違ってなんかいない。
「赤葦さん、commandほしいです」
我慢出来ずに彼を見つめると、待ち望んだそれはやってきた。
「"look" こっちを見て」
「はい……」
静かに温かいものが流れ込んでくる。こんな気持ちはいつ以来だろうか。
「"good" よく出来ました」
大きな手が私の頭にふんわりと乗ってきて、空っぽだったはずの身体がどんどん満たされていく。
「それと、」
こんな感情、元パートナーの時には湧かなかった。やっぱり赤葦さんのcommandは心地良い。
「名前、呼んでもらえますか?」
「名前?」
そんなの"call"と一言発すれば済むはず。
なのになぜ?
瞬きを何度か繰り返せばcommandとは別のものが返ってくる。
「これは、commandじゃなくてお願いなんですけど……。駄目、ですか?」
彼の言葉に胸の奥はきゅっと締め付けられ、私の精一杯を伝えるのでやっとだ。
「京治、くん。」
そう呼んだとき、彼の瞳は微かに揺れていて。
少し下がる目尻に、上がる口角は嬉しそうに見えた。
「◯◯さん、」
私を呼ぶ声はどこまでも甘くて、痺れそうになる。
「これからお願いします。」
でも、その表情がほんの少しだけ寂しそうに見えたのは、気のせいだろうか。
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