【Dom/Subユニバースパロ】dom社会人赤葦×sub社会人夢主
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沈黙が流れる。
狭いビジホのダブルベッドで身を寄せ合い、向かいあう。
ひんやりしたシーツに包まれても、心臓はどくどくとうるさくて。私の熱は中々冷めないでいる。
「……□□さん、起きてますか。」
落ち着いたテノールは、この静寂な空間によく響いた。
「はい。赤葦さんも起きてたんですね。」
「えぇ、まぁ。」
ふと見上げると赤葦さんの、綺麗なモスグリーンの瞳と視線がかち合った。
眼鏡を外しているからか、その綺麗な瞳に吸い込まれそうで。
ずっと見ていられる、そう思ったの。
「□□さん?」
「えっと、すみません……。」
見つめすぎたことに申し訳なくなり、力なく謝罪の言葉が出てきては尻すぼみになる。
赤葦さん、怒ったかな。
次第に手足が冷えてきて、心まで凍えそう。
そもそもパートナーがいない私に、こんな素敵な人を意識しないのが無理な話な訳で。
あれ……?
寝るって、どうやってたっけ……?
「もしかして、眠れませんか?」
彼のこちらを見据えるような視線がびりびりと痛い。
「……そう、ですね。」
やっぱり、一緒に寝るなんて言わなきゃよかったかな。
突然、ふわり、と。
頭を撫でられる感覚が身体中を走る。
――え?
ここには私の他にはもう一人しかいない。
まさか、そんなはずは。
視線だけ再び頭上にやると、赤葦さんの平べったい大きな手が私の頭を撫でていた。
彼の体温が頭越しに、伝わってきてさらに鼓動は早くなる。
「あの、赤葦さん……?」
「突然すみません。でも、頭を撫でられるとオキシトシンが出て寝やすくなるみたいなので。」
「オキシ……なんですか?」
「幸せホルモンってやつですね。」
……そっか。そうだよね。
ずっと隣で起きていられるのも困るから。
だから撫でてくれるだけで。
どきどきするのは赤葦さんに失礼だよ。
「寝られそうですか?」
「……はい。」
赤葦さん、怒ってなくてよかった。
彼の手のひらは、なんとも言えない温かさで。
胸がぽかぽかしてきて、次第に瞼は落っこちそうになる。
撫でてくれるこの手が離れないでほしい、そう思ってしまう自分がいる。
これも、オキシなんとかのせい。
赤葦さんの体温の、せいじゃ……な……。
「…………。」
「……おやすみなさい。ゆっくり寝てね。」
彼のその言葉は、静寂の中にひっそりと消えていった。
「んっ……。」
眩しい。鳥のさえずりが聞こえる。
ホテルの薄いカーテンからは、キラキラと木漏れ日が降り注いで朝を知らせた。
目が覚めると、広い背中で視界がいっぱいになる。
……あ。赤葦さんか。
そうだ、一緒に寝てたんだっけ。
同じホテルのガウンを着ているのに、彼からは私と違う香りがする。
……って、私は何考えてるの!
昨日から赤葦さんに失礼なことばかり考えてしまう。
彼は善意でホテル取ってくれて、寝かし付けてくれたのに。
もしかして、私って欲求不満……?
「……ん゛、」
やばっ、赤葦さん起きた?
どうする? いや、普通に挨拶すればいいよね!
少し掠れた低い声はそれから聞こえず。
ゆっくりと、広い背中は壁際へ。
かわりに端正な顔がこちらに向き直った。
なんだ、寝返り打っただけか。
「え?」
彼の長い腕はこちらへ向かってきて。
力が入った腕にそのまま引っ張られ、赤葦さんの胸の中へ収まった。
なにこれ。
赤葦さん、寝ぼけてる?
それとも、もしかして起きてる……?
彼の胸の中はとくんとくんと、一定のリズムと体温がガウン越しに伝わってくる。
同じホテルのボディソープなのに、なんで香りが違うんだろう。
「あのー、赤葦さん? 起きてますか……?」
そうっと声をかけてみるけど、反応は無くて。
かわりに聞こえてきたのはすうすうと規則正しい寝息だけで。
試しに身を捩ってみても、抱きしめられる腕には更に力が入ったのがわかった。
「わっ、」
力が入った腕は私を更に胸元へ押しやり、彼の顎が私の頭上に乗ってきて抱え込まれるようで。
全身が熱を持つのがわかった。
細身だと思っていた彼の腕は固くて重い。だけど、それが心地良い。
どこか行くのを許さないような力強さは、無意識でも嬉しかった。
そんな赤葦さんの寝ている顔は、少しあどけなく見えた気がする。
「……これ、どうしよう。」
***
なんだか寝心地がいい。
抱き枕は温かくて、このままずっと眠っていられそうだ。
起こさないでほしい。
けれど、眩しいほどの日差しに起こされた時には遅かった。
「……っ!!」
喉の奥がひゅっと冷えた。
声が出そうになったのを抑えられた自分を褒めてやりたい。
それくらい刺激が強かった。
なんで、□□さんがくっついているんだ?
落ち着け、まだなにかしたと決まったわけじゃない。
いや、でも。
……もしかして、俺が抱き寄せた?
「すみません、□□さん。……起きてますか?」
自分の口から出たのは、想像以上に控えめな声量だった。
それから聞こえたのは、可愛らしい寝息。
寝ている彼女の髪の毛からは甘く、いい香りがする。同じシャンプーのはずなのに、なぜこうも違うのか。
腕の中の彼女は身を捩るも、俺の身体に収まるほどの小ささだった。化粧も落としているせいか、昨日の食事の時より幼く見える。
……駄目だ。
彼女に失礼だ。
碌にplayしていないせいで、□□さんに黒い欲望をぶつけそうになる。
落ち着け。
落ち着け。
静かに、深く、息を吐く。
こんな時、dom性がどうしょうもなく憎くなる。
名残り惜しい、なぜそう思ったのかはわからない。
それでも、彼女を起こすところから始めなければ。
***
今日は華金。
月に一度の黒尾との飲み。
前回の高級和食店とはうって変わって、いつも懇意にしているチェーン店。
飛び交う注文、入れ替わるお客さん、すぐに運ばれてくるアルコール。
どれもこれもがこの前のお店とは違っていて。
あれは嘘だったんじゃないか、とさえ思う。
馴染みのお店に戻ったのは、私に赤葦さんを紹介するという目的が達成されたから。
それでも先月以来の料理は相変わらず美味しい。
「で、どうよ? 赤葦とは仲良くなった?」
あれだけ飲んでいるのに、黒尾は相変わらず表情一つ変えずに尋ねてきた。
「んー、まぁ、別に普通だよ。」
……嘘だ。
冷えたアルコールを流し込んでも、喉は焼け付くようにひりついて。自分には嘘をつけない。
ビジホの一件から、私はおかしくなってしまったのか、赤葦さんのことばかり考えるようになっていた。
月明かりの夜、頭を撫でられて。
朝の日差しの中、彼の胸の中に収まった。
どれも思い出す度に彼の香りや、体温を思い出してくらくらしそうになる。
きっと、これも全てsub性のせいだ。
だから強いdomを求めているだけ。生物学的反応なだけ。
……私の意思じゃない。
そう思わないとやってられない。
グラスを持つ手に力が入るのを、遠巻きに感じる。
「……□□?」
「あっ、ごめん。なんだっけ?」
黒尾の声で、意識が戻ってきたのがわかった。
なにしてるんだろう。
今は赤葦さんは居ない。
わかっているのに、どうにも意識は逸れていく。
「その顔、やっぱりなにかあったんじゃないの?」
彼の射抜くような視線は、まるで全てお見通しと言わんばかりで。真剣に、でもどこか嬉しそうに聞いてきた。
「特になにもないよ。ご飯行って、今も連絡してるだけだよ。」
意外なことに赤葦さんとは未だに連絡を取り合っている。
ビジホの一件があったし、彼はそもそも多忙だ。
だから彼から連絡が途絶えても、全くおかしくないしそうなったらなったで、しょうがないと思う。
「へぇ。……赤葦が連絡ねぇ。」
どこか含みのある言い方は、彼本来のものなのか。
それとも、なにか言いたいことがあるのか。
どちらなのか、私にはわからなかった。
黒尾はジョッキの中のアルコールを飲み干すと続けた。
「忙しい赤葦がまだ連絡取るって中々無いよ?」
そう、なのかな。
都合よく信じられたら苦労はしないんだろうけど。
「……多分、気を遣って返信してるだけだよ。」
「俺らとはそんなに長く連絡しないよ。」
そんなこと言われたら都合よく解釈してしまう。
……ううん、だめだよ。そんなことないから。
「黒尾たちとは付き合い長いから。気を遣わなくていいからでしょ。」
「そういうもんかねぇ。」
新しく来たジョッキに手を付けながら、こちらに見定めるような視線を寄越す。
「……想像してみなよ。あの赤葦が、用件もない連絡に律儀に返信する。それって相当だぞ。」
そんな圧をかけられても、事実は変わらないのに。
忙しくて、それでも人のことよく見ていて。
あの綺麗で優しい声色、威圧しないdom。
なんで私に紹介したんだろう。
他にも紹介してほしい人は山ほどいるはず……。
「なんで、私に赤葦さん紹介したの?」
「……なんとなく。君ら二人、相性良さそうって思ったからだよ。」
黒尾は目を細めて、穏やかな顔をしていた。
きっと今の話は彼の本心だ。
「そう……。」
なんとなく、気まずくて視線を外してしまう。
赤葦さんは、どう思っているんだろう。
相性以前にこの前のビジホの件を思い出すだけで、熱が顔に集まり、お店のBGMは遠退いていく。
もし、本当に相性がいいならまた会ってくれるのだろうか。
またあの瞳で私を見つめて、あの優しい声で名前を呼んでくれるのかな。
その後は私が飲み過ぎたから、何時もより早めの解散となった。
だってしょうがない。
黒尾にあんなに風に、赤葦さんのこと聞かれて思い出さないのは無理で。彼に悟られないようお酒で誤魔化したのだから。
冷たい空気が痛い。
まるで今のささくれだった私の心みたいだ。
コートに入れているスマホもすっかり冷えていて、ブブっと振動するも手に取るのは後回しになる。
相手はどうせ黒尾でしょ。
ちゃんと帰るんだぞ酔っ払いーとか、そんなの。
改札を出て、一人歩いて帰路に着く。
時間的にはタクシー使うのが正解なんだろうけど。
今は、歩くような早さでゆっくりと考え事をしたい。
あの夜から日にちはどんどん経過していくのに、私は日に日に思い出す回数ばかり増えている。
狭いベッド。撫でてきた大きな手。優しい声。
無意識の抱擁。細身なのに固い腕。綺麗な瞳。
全部、全部思い出す度に心拍数は加速していくの。
彼の気持ちなんて、わからない。
それなのに、勝手に一人で舞い上がって、馬鹿みたいな自分もいて。
「どうしても、期待したくなっちゃう。」
凍えるような夜風が吹きすさぶ中、やっと自宅に着いた。
コートに入れっぱなしのスマホはもはや氷のように冷たくて。
また振動でメッセージを知らせた。
そろそろ黒尾に返信しようかな。
さすがにずっと未読スルーはよくないよね。
「あれ?」
おかしい。
何度かスマホはメッセージ通知の振動をしていたのに。
黒尾からのメッセージは一件も来ていなかった。
――え?
『今日もお仕事お疲れ様です。』
『不在着信あり』
『もう寝ちゃいましたか?
ゆっくり休んでください。』
来ていたのは赤葦さんからのメッセージ。
それから、不在着信だった。
でも、待って。
この着信は間違い?
……それとも私あて?
時刻は23時を過ぎたばかり。
夜分遅いのは承知の上で、急いで送信した。
『お疲れ様です
すみません、着信気が付かなくて!
黒尾と飲んでました』
『黒尾さんとは、よく飲みに行くんですか?』
既読がすぐに付いて、パッと返信が表記された。
赤葦さん、まだ起きてたんだ。
焦りや不安でさっきまで体の芯まで冷えていたのに、今ではすっかり熱を取り戻した。
とにかく、返信しなきゃ!
瞬間、初期設定のままの電子音が鳴った。
これは通話の呼び出し音。
そんなまさか。……嘘だよね。
おそるおそるスマホ画面を見ると、そこには、
『赤葦京治』
彼の名前が表示されていた。
なんで?
……間違い電話、じゃないよね。さっきまでメッセージしてたし。
じゃあ、これは一体……?
スマホを握る指先は、そこだけ熱くなるようで。
震えている画面はまだ、取れそうにもない。
だって、自覚してしまったから。
この思いは、subの本能だけじゃないから。
――一人佇む部屋の中で、着信音はまだ鳴り続けている。
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