信介くんと、結婚前の恋。
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信介くんの風邪が治って数日。
いつものように、彼は私の家に来ていた。
私はあの時のことがバレてないか、ドキドキしながら迎え入れた。しかし、それはあっさりと打ち砕かれた。
「……なぁ、◯◯。」
「なあに?」
彼は、私から視線を逸らさず続けた。
「……この前のな、忘れとらんから。」
「この前の……?」
信介くんは自分の額をトントンと指さして、
「随分と可愛らしいことしよるな。」
いたずらっ子のような笑みを浮かべていた。
「……え?! 信介くん、寝てたんじゃないの?!」
寝ていると思っていた信介くんの額に、キスをした。けど、まさか覚えてたなんて。急に顔に熱が集まるのを感じた。
「寝る寸前やったけどな。」
「……忘れてください。」
「そら、無理な話や。あと、」
大きな手は温かくて、私の頬を撫でてきて、それから顎を持ち上げられる。視線は自然とカチリと信介くんと合って逸らすことは出来なかった。その揺れる琥珀色の瞳には私が映っているのが見えた。
これって、まさか…………。
「ほんまは、ここにしたいんやけど。」
彼は目を細めて、少し寂しそうに笑った。
その寂しさは多分、私の心境を思った結果なんだろう。
でも、彼は知らない。私が、信介くんのことどう思っているのか。
「……いいよ。」
自分の本心を静かに、けれど真剣に声に乗せた。
だって、これ以上、自分の気持ちを隠したくないから。
「なんて、冗談や。」
「……私は、信介くんならいいよ。」
これは冗談じゃない。正真正銘、私の気持ちだ。
「……ほんまに言っとる?」
「言っとる……。」
「……嫌やったら、すぐ言うてな。」
信介くんはこんな時でも優しくて、そんな彼と少しでも長く……ううん。ずっと一緒に居たい。
いつも冷静な彼の手はほんの少しだけ、震えていた。
その震えの理由が私なのは決して自惚れじゃない、だって言い終わる前に唇に触れるのを感じたから。
触れた彼の唇は思ってたより、ずっと柔らかかった。
その柔らかな唇は何度か私の唇を確かめるように、触れるだけのものから深いものへと変わっていった。
「っ、……んぁ、あっ、……しんすけ、くん、」
息も絶え絶えになりながらやっと酸素が吸えた。彼の中にこれほどの熱があることに、心臓は痛いくらい鼓動している。
そんな彼に少しでも応えたい自分もいて。
「……すまん。」
なにに対しての謝罪なのか。
それはきっと彼だけが知ることなんだろう。
私は彼のがっしりとした腕の中で、鼻腔をくすぐる柔軟剤の香りに酔っていた。
私達の関係が一歩進んでから、さらに数日後。
信介くんが来る日は、決まって冷蔵庫の中が少し賑やかになる。
「デザート食べよか。」
「うん!」
彼は手土産のケーキをお皿に出してくれた。そのケーキはもちろん私のお気に入りのお店のケーキ。
彼は、今ではどこに何があるか把握していて。
それが、付き合いだしてから時間が経ったことを気付かせる。
「……なぁ、◯◯。」
「なあに?」
ケーキをつつきながら、ふと思い出す。
信介くんに、結婚の話を持ちかけられたことを。あの時もこうしてこのお店のケーキを食べていたことを。
今では少し、懐かしい思い出。
「無理、してへんか?」
信介くんはティーカップをカチリと鳴らし、言った。
責めるでも、探るでもない声。
「してないよ。」
「……そか。」
それだけで、彼はそれ以上何も言わなかった。
テレビを流し見していたら、
「ほな、そろそろ帰るわ。◯◯は夜更かしせんと寝るんやで。」
なんて言いながら、帰ろうと立ち上がった。
その時、気付いたら信介くんの服の裾を引っ張っていた。
その行動に一番驚いたのは私自身で。
「……◯◯?」
帰りそうになる彼に、口からは自然と言葉が落ちていった。
「もっと、一緒にいたい。」
「はぁ……。」
信介くんの反応か怖くて、床ばかり見つめていた。
呆れられてないかな、なんて。
「◯◯は、ほんま甘えたやな。」
「……信介くんが甘やかすから。そうなったの。」
それから二人でソファへ腰掛けて、信介くんにもたれかかる。
すると大きな手が私の頭を優しく撫でた。
「……信介くん。」
「ん?」
目と目が合って、それから。
唇と唇が、静かに重なった。
それは静かに優しく触れて、しっとりとしたものへと変わっていき、ケーキのほのかな甘さが広がった。
「んっ…、はぁッ、」
彼の舌先が触れる度に頭の中が真っ白になる。
もっと、もっと信介くんが、欲しい。
「……これ以上はあかん。」
「しんすけくん、もっと……。」
恥ずかしさと火照りで、自分の瞳が潤んでいるのがわかった。
「あかん、俺が止まれんくなる。」
「……いいよ。」
「そない簡単に言うもんやない。」
彼はそう言うけど、私の気持ちはどんどん高鳴る。
信介くんにもっと触れたい、触れてほしい。
この気持ちは嘘じゃないから。だから……。
「だって、信介くんだもん。信介くんなら、いいよ。」
「……ほんま、◯◯はあかんわ。」
静かに押し倒され、二人ともそのままベッドへ溶け込んだ。
シーツは2人の動きに呼応するかのごとく、激しく波打った。
その様子は、ベッドサイドにいるあのイルカのぬいぐるみだけが、静かに知っている。
カーテンの隙間からは、キラキラと木漏れ日が入ってきて朝を知らせる。
「……んっ、」
「……◯◯、起きた?」
目が覚めたら、彼に腕枕されていて。
そんな彼は少し心配そうにこちらを見ていた。
「信介くん、おはよ。」
「おはようさん。……身体、しんどない?」
「ううん、へいき。」
本当は、身体は少し特有の怠さが残っている。
でもこれは、幸せの重みだから。だから、平気。
いつも冷静な彼が、あんなに求めてくれた。それだけで胸がいっぱいになるの。
これから彼に伝えたいことも、きっと大丈夫。
「あのさ、私、まだ返事してなかったよね。」
「返事?」
信介くんなら、きっと受け止めてくれる。
「……信介くん。私と、結婚してください。」
彼の頬には一筋の涙が流れていた。
「…………そんなん、言われたらあかんわ。」
優しく微笑む彼は、一筋の涙が日の光に照らされていて。
信介くんを綺麗だと思った。
彼にそっと抱きしめられ、私達は朝の日差しに包まれながらもう少しだけ微睡んでいた。この瞬間を噛みしめるようにして。
***
「指輪全然決まらないよ〜!」
「そんなん、好きなの選び。」
「だって~、デザインたくさんあるんだもん。」
「焦らんと、ゆっくり選んだらええよ。」
あれから、二人で結婚指輪を見に行くことを決めた。
が、なかなか決まらず迷うこと何店舗か渡り歩く。
「お腹空いてきたー!」
「ここからやと、あの店が近いな。」
「ん?」
少し歩くと、そこはおにぎり屋さんだった。
炊けるご飯、お出汁の効いたお味噌汁のいい香りが鼻腔をくすぐる。
「いらっしゃいませー! って、北さん?!」
「治、今日は食べに来たわ。」
「はぁ?! 北さん、おるん?!」
「なんや、侑もおったんか。」
店長さんと、顔がそっくりな人がもう一人いる……。
なんか二人とも見覚えがあるような、無いような。
「◯◯、こっちが店長の治で、あそこ座っとるんが侑や。二人とも俺の後輩なん。」
「こんにちは〜。」
「侑、治、紹介しとくわ。こちら、俺の婚約者の◯◯な。」
信介くんは静かに私の腰を引き寄せて、侑さんと治さんに紹介した。
……そっか。私、婚約者なんだ。
その甘い響きにぽかぽかと温かくなるのを感じた。
「マジで?! 北さん、結婚するん?!」
「そら、めでたいな! おめでとうございます!」
矢継ぎ早に言われて少し驚いたけど、二人からはやや賑やかなお祝いの言葉をもらった。
あとから聞いたけど、信介くんのお米の卸先のお店らしい。
お腹も心も満たされて、また指輪巡りへ。
きっと、次に信介くんとこのお店へ来る頃は北◯◯になっている。
「ほな、そろそろ行こか。」
「うん!」
私が北◯◯になるまでの僅かな期間。
それまでは、このまま恋人でいさせて。
――恋人から、家族になるまであと少しだから。
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