赤葦京治
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今、確かに視線が合った。
けれど彼女が俺に何か言うことはなく、去っていった。
一瞬だったけど、職場とは違う一面を俺だけが見れた気がした。
呼び出されたのはいつものように、忙しなくパソコンと向き合っていた時だった。
「赤葦くん、ちょっといい?」
「はい、なんでしょうか。」
「ここだとちょっと……、飲み物奢るから少し付き合って。」
そう□□さんに言われて向かった先は、小さな休憩スペースの自動販売機前。
彼女は迷うことなくボタンを押し、紙コップにコーヒーが注がれ、数十秒後には特有の芳ばしい香りが鼻をかすめる。
「はい。赤葦くん、いつもコーヒー飲んでるよね?」
「ありがとうございます。」
コーヒーは好きだけど、眠気覚ましの意味でも飲んでいることを彼女はきっと知らない。
小さな彼女の手の中にはミルクティーが収まっていて、□□さんに似合うと漠然と思った。
「それで、話とは……?」
「この前の日曜日さ、すれ違ったよね?」
「あぁ、そうでしたね。」
「あのさ、この前の服装のこと他の人には言わないでもらえるかな。」
「……なんでですか?」
もちろん、周囲に話すつもりはない。そもそも呼び出される前まではそんな発想すら無かった。
ただ、気になる。なぜ、□□さんが隠したがるのか。
一瞬しか見えなかったが私服も似合っていたような気がする。
「いつもは私、スーツじゃん。休みの日と服装違いすぎるからなんとなく知り合いに知られるの恥ずかしくて。だから言わないでもらえたらな、って。」
「そんな理由だったんですか。」
「赤葦くんが誰かに話したりするような人じゃないのは知ってるよ! でも一応、念の為というか……。」
「デートに行くから知られたく無かったのかと思いましたよ。」
「……赤葦くんも冗談言うんだね。」
彼女はふふっと静かに笑っていて。
お互いのコーヒーとミルクティーはとっくに冷めていた。
***
何やら騒がしい声が聞こえる。あぁ、打ち合わせルームか。
通り過ぎようとすると聞き覚えのある声が聞こえた。
「□□ちゃん、そんなかわいい格好もするんだ?!」
「もう、先生てばお世辞はいいですから、打ち合わせしますよ。」
「俺、デートしたい!」
「えーっと、まずはこの前の続きからですね。」
「□□ちゃん、無視?!」
通り過ぎるはずだった。なのに気付いたら止まっていた。
……かわいい格好? □□さんは普段スーツのはず。確か、「色々な先生と打ち合わせするから失礼の無いように」という理由でパンツスタイルのスーツを着ていることを彼女から聞いたことがある。
別に服装はおかしくない。何を着るのも本人の自由だ。
ただ、かわいい格好、という言葉がどうにも引っかかる。
もし、その格好がこの前見た休日のような服装なら、職場の人には見せなくてもいいと思ってしまった。
***
「お疲れ様です、お先失礼します。」
「おつかれー!」
「お疲れ様〜。」
残っている人達から労いの言葉をもらいながら彼女は退席した。
それを見て気が付いたら後を追っていた。
「□□さん!」
「赤葦くん? どうしたの?」
「少しでいいので付き合ってくれませんか? 飲み物奢るんで。」
「……いいけど、少しだけね。私このあと予定があって。」
やっぱり、何かあったのか。
先ほどの打ち合わせルームから聞こえた会話。どうにも気になり、戻ってきた彼女を見てみると、明らかにいつものスーツ姿とは違っていた。
可愛らしいニットにスカートを履いていて、髪型もいつもは纏めているのに外行き用にセットしてある。心なしか化粧も、目元がいつもよりキラキラしているような気がする。
――それは、まるで休日に見た時の彼女のようだった。
「赤葦くん、何か話あるんでしょ?」
「…………今日はなんでスーツじゃないんですか?」
「え?」
「……この前、俺に口止めしてましたよね。それが少し気になって。」
「だからそれは予定があって……。」
「デートですか?」
「もう、赤葦くんなんか変だよ。どうしたの?」
自分でも変だと思う。なんでこんなに彼女を他の人に見せたくないんだ……?
……あぁ、そうか。この前からきっと。
「……正直に言うと□□さんのこと、ずっと気にはなっていました。」
「はっ?! え、なに? 急にどうしたの?」
彼女は慌てている。それもそうだ、デートの前に職場の男からこんなこと言われれば慌てもするだろう。
「すみません。伝えたくて引き留めてしまいました。デート楽しんで来てください。」
「……違うよ。」
「……はい?」
「デートじゃないよ。友達とご飯に行くの。」
ほっとしている自分がいて、ようやく認識できた。
なんでこんなにも見せたくないのか、……一人占めしたくなったのか。
「もし、嫌じゃなければ、」
ほんのり頬が色付く彼女を見て、確信に変わった。
「今度休みの日に、俺ともご飯行ってください。」
平日に、いや、職場の人達にはこの姿は見せたくない。
彼女の為じゃなくて俺の為に。
この姿は誰も知らなくていい。
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