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音頭を合図に、カチャンとグラスとジョッキがぶつかる。中の液体がわずかに揺れ、琥珀色のアルコールが反射した。
一口含めば、溜め込んでいた鬱憤もいくらか昇華される気がした。
「ねぇ、また振られた……! なんで?!」
グラスを置くより早く、喉元まで来ていた言葉が弾け飛ぶ。
「あいつとお前、最初から合わなそうじゃん」
木葉はこともなげに言い捨てて、再びジョッキに手を伸ばした。
「だってさぁ、タイプだったんだよ!」
そう、だから付き合えたときはまさに天にも昇る思いだった。ところが蓋を空けてみればまさかの彼女が別にいた。というか、私が浮気相手だった。
「もうさ、やってらんない!」
「暫く恋愛はやめとけば?」
慣れた手つきでタッチパネルを操作する彼は、心底どうでもよさそうに、でも的確な助言をしてくる。
「私、次はハイボール!」
「はいよ」
注文完了の画面が表示されると、彼はじろりと何か言いたげな視線をよこした。
「……なによ」
「好みってだけで毎回飛びついてたら、キリなくね」
「いやいや、好きになるでしょ。なっちゃうでしょ」
私はスピードメニューのタコわさをつつきながら、拗ねたように彼を見返す。……美味し。
「ねぇ、いい人いたら紹介してよ」
「あのなぁ」
「わがまま言わないって。私のタイプで、優しくて、一緒に出かけてくれて、私のこと好きになってくれる人でいいの」
「……我がままが過ぎるだろ」
あー、楽しい。
この軽妙なやりとりと、どんな愚痴も受け止めてくれる安心感。木葉と友達でよかったな。
「紹介したら、そいつと付き合うの?」
「もしそんな人がいれば、の話だけどね」
どうせそんな人いないし。ほんの冗談で言ってみただけ。
「……一人知ってる」
「なにが?」
「お前のこと好きなやつ」
「ごほっ!」
今、なんて言った? 誰か私を?
「そんな人いるの……?」
「いるよ」
普段の軽口とは違う、やけに響く声のトーン。視線が、熱い。
「お待たせしましたー!」という店員さんの声で、凍りついた空気が一瞬だけ緩んだ。……今度ばかりは店員さんに感謝しかない。
私はハイボールをゆっくりと飲み込み、喉を落ち着かせる。大丈夫、これで今度はむせない。
「何年も前から好きで、でも男友達としか思われてない可哀想なやつだよ」
「え〜、そんな人いたかなぁ」
脳内で友人関係を必死に検索しては、候補から消してを数回繰り返すが、思い当たる人はいない気がする。
「……目の前にいる、って言ったらどうする」
「ごほっ!」
「おい、大丈夫かよ。ほら、おしぼり」
差し出されたおしぼりで口元を拭いながら、リフレインするその言葉。
目の前……。
って目の前には木葉しかいないんだけど。
まさかね……。
「それってオチは、実は木葉でしたってやつ?」
「オチって……。これでもめちゃくちゃ緊張したんだけど」
「その言い方、本当に私のこと好きみたいじゃん」
「みたい、じゃなくて。……そうなんだけど」
木葉はジョッキを置くと、不意に距離を詰めてきた。
逃げ場のない距離感で、バチリと視線がぶつかる。
「……俺だって、興味ないやつの失恋話をわざわざ毎回聞くほど暇じゃねぇんだわ」
耳が熱くなる。
木葉のことは友達だと思ってたから。
振られたら呼び出しては一緒に飲んで、買い物すれば自然と荷物を持ってくれて、気になるお店があれば一緒に回って……。
……あれ?
一緒に過ごしていた時間は思っていたより、ずっと長くて隣にいた気がする。
「もしかして、ありかも?」
小さく出てきた言葉を彼は聞き逃すことなく拾ってくる。
ジョッキを置いた彼は少し距離を詰めきて、視線がバチリと合った。
「それ、期待していいやつ?」
木葉はからかうような、それでいて真っ直ぐな笑みを浮かべて私のことを見つめ返した。
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