ワードパレット
「……わり、起こしたか?」
「いいえ……どしたの、時任くん」
「いや、先に久保ちゃん……って思ったんだけどよ」
「誠人はまだ起きそうにないわね……」
近づく気配に気づいたのは、久保田ではなく玲子の方だった。声をひそめながら、ゆっくりベッドから身体を起こした。鼻先に感じるのは甘いパンケーキの匂い。
リビングへ向かうと、そこには皿の上に焼かれたパンケーキが詰まれていた。少し不格好なあたり、失敗作と言いたげで――。慣れない右手で力を加減しながら、最後の一枚を盛り付けた時任。
「ほらよ。今ならあったけーぞ」
「いいの? ふふ、ありがとう。時任くん、誠人もきっと喜ぶわ」
彼の右手は獣化していて、普通と同じようにはいかないはず。なのに、その右手で頑張ってくれた。それが何だか嬉しくて、玲子は小さく微笑むとメープルシロップの瓶を開けるのだった。
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