WILD ADAPTER
その日――雀荘から出てきた久保田は、何者かに襲撃されたのであった。黒服の男たちに取り囲まれ、それであっても事なくやり過ごそうとしたら、問答無用で無機質なアスファルトに体躯を押えつけられた。
空になった注射器が視界の端に転がる。男の一人をなんとか引き剥がし、無防備になった腹部を蹴り込む。呆気なく身体がぐらりと揺れて、まるで尻もちをつくように簡単に崩れた。
――出雲会って言うより、俺が目的……とか?
思考する久保田の隙をついたように、別方向から向かってきた男の拳を難なく受け流す。そのまま掴み上げて容赦なくギリギリと捻った。苦痛に上がる悲鳴を耳障りに感じながら、久保田は男を払い飛ばした。
たったそれだけの動きで、身体は異常を訴えるように呼吸を荒らげている。明らかな違和感。どこのヤクザかは見当もつかないが、得体の知れない薬の実験動物にされたことには違い無かった。
「はぁ……はぁ……は、はっ……」
襲撃された場所を離れ、身を隠すよう路地裏へ。レンガを模したタイルの壁に背中を預け、ずるずると座り込む。がさりと久保田はポケットを漁り、気分を落ち着けようとタバコを口に咥える。
ライターを擦るが、なかなか火が点かない。ジャリッジャリッと石を鳴らしつづけるも、諦めて立ち上がりかけたところで女から火が差し出される。
「ねーえ、キミ。
タバコを一口吸って、ゆっくりと煙を吐き出す。その挙動ひとつで、じわりと身体が汗ばむのが分かる。早くにでも吐き出したい。その辺で適当にぶちまけて帰ってもよかった。けれど、この日の久保田は金を払ってでも、また逆に払われてでもヒトに触れたかった気がするのだ。
「おねーさんが、俺と……? どして」
「キミ、さっきコワイお兄さんたちに囲まれてたでしょ? ――それじゃダメかしら」
女はそう言って慣れた仕草でライターをしまい、緩慢な動作で久保田の顎を掬った。無機質な視線同士が絡まり合い、そこに僅かな熱が生まれたかと思えば、しんと急速に冷えていった。
熱くも楽しくもない情事に金を出す。なんて酔狂な女なんだろう。世は想像以上に世紀末なのかもしれない。
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