なにもない場合は、マリエになります。
はなのわ 2022了
おなまえ
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𖤣𖥧𖥣。𖤣𖥧𖥣。
ココガラが朝一に囀りを響かせ、朝日が昇る頃に彼女の1日は始まる。
朝早くにターフタウンの花農家達がやっている市場へ赴き生花の買付を行い、大量の花を自分の店へ2台のタクシーを使ってせっせと運ぶ。後ろをついてくるタクシーの中は大量の花で埋め尽くされ、ドライバーは風で落ちやしないかとヒヤヒヤしている。
2台のタクシーからポケモン達と手分けをして花を降ろして店内で切り花にしたりアレンジメントにしたりと忙しくしていればあっという間に開店時間。
シュートシティの郊外にある彼女の店はCBDにある花屋とは違い、頻繁に客が訪れる店ではない。
せいぜい近所の奥様や、お呼ばれをして遊びに来たが手荷物を忘れたので慌てて住宅街にある花屋へ駆け込んでくる客、草タイプや花が好きなポケモンにねだられた客ばかり。
しかし月に一度の頻度で訪れる数名の顧客が大枚を叩いていくのでなんとか生業として賄えている。
今日はその月に一度の日。
前日に店へ連絡があったのできっと昼前に来店するだろうと踏んで彼女は幾つか花を見繕う。
店内に置いてあるBGM代わりのラジオがゲストにマグノリア博士を迎えたのをお知らせした時、カランコロンとドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
水揚げをしていた手を止めて入り口を見れば、前日の電話のオーダー主が立っていた。
所在なさげに店内に溢れる花々に視線を合わせていた白い肌の女性は店主の声に慌ててカウンターへ近付く。
「お待ちしておりましたソニア様。本日はどういったご要望でしょうか?」
ほんの少しタレ目の目尻を下げて笑いかけた店主に、ソニアは綺麗に彩られた指先を口許に押し当て「えっとね」と空中を見る。
「今度ルリナ…親友の誕生日なの。だからプレゼントと一緒に花を贈りたくって」
「お誕生日ですか。それはおめでたいですね。花束にしますか? それともなにかアレンジをなさいますか?」
「えっと、プレゼントがお揃いのブレスレットなの。で、このラッピングボックスを花束の中に埋もれさせたいんだけど…できそう?」
白く四角い箱に紺色のリボンがかけられたプレゼントボックスを店主へ渡し、イメージはこういう感じでとジェスチャーを交えながら話すソニアに、うんうんと頷いた店主は手元のメモ用紙に大振りの花束のラフスケッチをする。
「ではこういった感じでよろしいですか? お花のお色や種類などご要望はございますか?」
「んーと…そうね、水や海のイメージだから、それっぽい感じならなんだっていいかな…。ゴメンなさい、あまりお花知らなくて…薔薇やデイジーくらいしかわからないの」
「いえ、大丈夫です。充分ヒントはいただけましたので。出来上がり次第お写真をお送りして、大丈夫そうであればそのまま郵便局に預けますがよろしいですか?」
ラジオから聞こえるマグノリア博士の声が少し大きくなり、それはソニアの耳へ入ったようで少しだけ眉を寄せた。
「…あ、うん。必要なのは午後6時までになのよ。それさえ守ってもらえたら…って店長さんにそんなこと言うのはヤボか。いつでも完璧だもん。楽しみにしてるね」
店主は静かにラジオに近付き、ボリュームを下げる。博士の声は遠くなった。
「嬉しいお言葉をありがとうございます。すぐに取りかかりますのでお時間はかかりませんよ」
その言葉にソニアは楽し気に頷くと、髪を弾ませて足取り軽く色とりどりの店を出ていく。
その後ろ姿を見送り、店主は手早くボールから3匹のポケモンを呼んだ。
「おはよう、みんな。お仕事よ。イエッサンとヒメンカは店頭でレジとお花の世話をしていてね。ニャスパーは私と一緒に大きな花束を作るお手伝いをしてくれる?」
彼女の言葉に3匹はそれぞれ頷き、2匹は店先へ。
イエッサンがホエルコジョウロとゼニガメジョウロのどちらを使うかで少し悩み、ホエルコジョウロを手に取る。
ヒメンカはふよふよ軽く跳び跳ねながらレジ台の上に乗りレジ横のサボテンの隣に腰かけた。無意識にせいちょうを使ったのかサボテンは一回り大きくなる。
ニャスパーは自分のマスターを見上げ、無表情のまま鳴き声をひとつあげて彼女を急かす。
「うん、まずはお花選びからね」
ニャスパーを抱えて奥の作業台に乗せると、早速ガラスケースの中からいくつか花を見繕う。
ルリナと言えばバウタウンのジムリーダーだ。マイナーに落ちることがない強いジムリーダーであり、モデルとしても活躍している褐色が美しい女性。
青い瞳が印象的で、いつぞやかにCBDビル街で見たブラックバックの目元だけがアップにされたポスターは記憶に新しい。確かマスカラのポスターだったはずだが、マスカラを纏った睫毛よりも海の底のような瞳ばかりが目を惹いた。
太陽光を模したエネルギー光源が取り付けられたガラスケースの中から、デルフィニウム、トゥイーディア、トルコキキョウ、スターチス、カスミソウ、ブルーレースフラワー、ピンポンマム次々に出して作業台に置いていく。
それをニャスパーがせっせと色別に分け、多分使うだろうとお得意のエスパーで読み取ったものは花束にしやすいように葉を取り茎を綺麗にしていく。
前日の電話で金額は上限を設けないと言われていたので、店主は遠慮なく素敵になるように花を選んでいく。と言ってもべらぼうに高いものなど作ることはしない。そもそも取引先のターフ農園花市場の仕入価格が安いので彼女の店の金額設定は他の花屋よりも安い。
一通り出した彼女は作業台に戻り、色分けされた花を見つめてソニアとルリナを頭の中へ思い浮かべる。
ちらりと傍らのラッピングボックスを見て、一先ずその外周を白いレースの不繊布で巻くと次に不繊布ごと覆うように白いサークルが描かれたワックスペーパーで囲む。
ニャスパーが20cmほどある台座を持ってきたのでその上にワックスペーパーで囲まれたラッピングボックスを置くと、次は花を手に取り合わせていく。
ソニアは親友であるルリナへ誕生日にお揃いのブレスレットを贈った。とすれば2人はとても仲がよく深い絆がある。
そこをイメージしていけば自ずと花は選ばれる。ニャスパーも彼女の気持ちを読み取り、完全に使う花を選り分けてアレンジするのに邪魔な蕾をせっせと取る。
彼女はニャスパーによって綺麗にされた花を次々選んで台座に差し込んだ。中心に置いてあるボックスの周りは紫で一周させ、その周りを青で固める。ボリュームのあるトルコキキョウやダリアで華やかにし、花瓶に生けたとき高低差が出るようにスターチスやデルフィニウムなど背の高いものを差し込んでいく。最後に白いカスミソウで外周を囲めば海や湖をイメージした涼やかで、けれど華やかな花束の完成だ。
幾つかの角度で写真を撮り、ソニアへ送信すればすぐに返事が返ってくる。
「えーと…ルリナみたいに素敵です…かあ。よし、じゃあこれでいこうか」
「ふにゃあん」
ニャスパーが無表情のまま返事をして、ワックスペーパーを持ってくる。
店主はボックスを小さな針金台に固定してから、花を台座から外してくるくると花束を作っていく。ニャスパーが持ってきたワックスペーパーで周りを囲んでしまえば完成だ。
「ニャスパーありがとう。とっても素敵なものができたね」
「ふにゃ」
「……あとはこれで、終わりにしようね」
青が基調の花束、中心に白いボックス。その周りに数本、バランスを考えながらマーガレットを差し込んだ。
最後にラッピングボックスと同じ紺色のリボンでペーパーの根本を結び、午後に来る郵便配達員に渡せば依頼は終わり。
それまでは花が萎びないように特性の水に浸けてケースに入れておく。あとはヒメンカが時折様子を見て花に元気を与えてくれる。
店主は一度ググっと背伸びをしてからニャスパーを撫でる。
BGM代わりのラジオはいつの間にかにマグノリア博士の話から、ガラル王国の歴史と政治を語りだしたのでつまみを捻って消した。
𖤣𖥧𖥣。𖤣𖥧𖥣。
*トルコキキョウ/あなたを想う(青)、思いやり(白)、感謝(西洋)
*デルフィニウム/清明
*ダリア/優雅、豊かな愛情・感謝(白)
*スターチス/変わらぬ心、上品(紫)
*ピンポンマム/真実
*トゥイーディア/信じ合う心
*ブルーレースフラワー/無言の愛
*カスミソウ/清らかな心、永遠の愛
*マーガレット/秘密の恋、信頼