なにもない場合は、マリエになります。
はなのわ 2022了
おなまえ
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𖤣𖥧𖥣。𖤣𖥧𖥣。
がやがやと今日の花市場も朝から賑やかだった。
マリエが仕入れのためにある程度スタンダードな花を注文票へ書き込み、あとはかけ込みギフトがあるといけないからと多少珍しいものも予算内でチェックしていく。
ハウスの中は暖かくて、気持ちいい。
以前たまたまこの花市場で知り合ったホウエン出身の人は、地元だと真夏になればハウスはサウナになって地獄だとぼやいていた。雨が多く曇り空が多いガラルではハウスはある意味オアシスなのだが。
とてとてと市場を歩きつつ、たまに見かける珍しいポットをチェックして、店に置くかどうか悩む。
基本的に近所のお客様からは切り花、すでにアレンジされた小ぶりな置き型、一輪ブーケがよく売れる。
あまり珍しい苗木はいらないか、と思いつつ、そういえば昨夜深夜にSNSのメッセージが届いていたことを思い出す。
おもむろにスマホロトムを出して内容を確認するとホップからで、近々ユウリとマサルの双子の誕生パーティーをするため家へフラワーギフトを贈ってほしいとのことだった。
中くらいのスタンド二対、あとは食卓テーブルに置くように小ぶりなポットでのアレンジメント数点、部屋の中にフラワーガーランドもしたいとのことだ。
メッセージはところどころ文体が違うため、ホップ一人で入力したわけではなさそうで、画面の向こうでワーワー言いながら入力するチャンピオン達の同期組の顔が思い浮かぶ。
きっとマリィやビートもいるのだろう。
それから、もしかしたらダンデやほかのジムリーダーも。
他にもユウリやマサルの仲がいい人たちが寄り合うのかもしれない。
これは気合を入れて豪華にしないとな、とマリエは顔を緩めつつ気を引き締め、メッセージへオーダーを承った旨を返信した。
スタンドを作るのならやはり背が高いものとボリュームのあるものもほしい。
もう一度チェック表を見ながらハウスをうろうろしていると、トントンと肩をつつかれる。
振り向けばにこやかな顔でヤローが立っていた。
「やあ、おはようマリエさん」
「おはようございますヤローさん」
朝早くだというのにヤローはいつも通り爽やかで、今が昼間かと錯覚してしまうほど眩しい。
「いつも精が出ますなぁ。よく利用してくれて嬉しいんだな」
「こちらこそ、いつも素晴らしい品揃えでありがたいです」
「そういえばマリエさん、前、ぼくお花のプレゼントを貰ったんだわ」
「へえ! いいですねえ」
きっとそれはあの美しい褐色の女性だろう。
マリエはにこにこしながらも知らないふりをする。
けれどすぐにそれは崩された。
「ふふ、知らんふりしてくれてありがとうなぁ。けどあれ、マリエさんとこのお花じゃろ?」
「えっ、なんでです」
「わかるよぉ。いつもマリエさん、真剣にお花選んでくれとるし、加工も上手じゃ。ジムトレーナーの女の子がバスケット見てエシャ…シャン…なんとか風じゃって言っとったが」
「ふふ、シャンペトル風、ですね。もちろん贈り主様のお気持ちがしっかり入った花籠ですけど、お相手がヤローさんだって教えていただいたので実は日ごろのお礼も兼ねてちょっぴり予算より豪華にしました」
穏やかに笑うマリエに、ヤローもにこにこして「ありがとう」と返す。
「ルリナさんから貰ったときは、ちょっぴり驚いたけどねえ」
「あら、どうしてですか?」
「いやぁー、ぼくがまさかあんなにきれいな女性からプレゼントを貰うだなんて驚きじゃし…」
「そうでしょうか? ヤローさんは素敵なんですから、もっと自信を持ってください」
マリエの脳裏には、ヤローのことを照れくさそうに語るルリナが浮かぶ。
私相手に手を抜かない、と話すルリナはとても嬉しそうだった。
「ありがとう。そうだ、マリエさんもうお店戻るかい?」
「ええ、もう少ししたら。ちょっと大口の注文が入ったので、デザイン固まり次第またすぐに戻ってくると思いますけど」
「じゃあちょっと待っとって」
「はい」
ヤローはすたすたと大股で来た道を戻っていった。
その背中を見送り、マリエは手元にあるチェック表を記入して、最後に自分のサインを書く。
近くの受付へ渡せば、すぐに従業員がチェック表を見ながら花を用意して黒い籠へ入れていく。
それをぼうっと見ながらヤローを待っていると、従業員から「出来上がった籠はタクシーでいいですか?」と訊ねられた。
「はい、お願いします」
返事を返せば、すぐに満タンになっていた籠を持ってタクシーへ詰め込み始める。
籠をいっぱいにしてはタクシーへ詰め込む作業を見守っていると、「マリエさん」と声がかかった。
「ヤローさん」
「思ったより待たせてしまってごめんなあ。ハイ、どうぞ」
「…え?」
ヤローがマリエの手を取って握らせてきたのは白く可愛らしいカスミソウ一輪。
マリエが購入したものはもうタクシーの中にパンパンに詰められている。
それにこのカスミソウは一輪だけだが、その細く頼りない茎には明るいオレンジのリボンが結ばれている。
「え、え」
「カスミソウはぼくから。いつもお世話になっています。それにルリナさんを通してだけど、マリエさんからのメッセージもしっかり受け取ったんだな」
「…そんなぁ、…」
マリエは喜びで震える声を誤魔化す様にカスミソウを強い力で受け取る。
「リボンの色はルリナさんが決めたんじゃよ。さっき急に連絡して聞いたんだけど、悪かったかなぁ…なんだか早口だったし、忙しかったんじゃろうか」
「…あー、それは、まあ…そうですね、きっと」
ルリナは急にヤローから早朝に電話がかかってきて心底焦ったに違いない。それを察してマリエは何とも言えない気持ちになる。
早朝からたたき起こされたと思えば内容は別の女性へ贈る花のリボンの色。ルリナの気持ちを決めつけるつもりではないマリエも、さすがにこれは可哀想だと思った。
今度来店があった時はそれとなくサービスしておこうと決める。
「本当にありがとうございます」
「いいんだな。さぁ、もう詰め終わったみたいだし、気を付けてな」
「はい。ではまた。お疲れ様です」
もらったカスミソウを握りしめ、マリエをまつタクシーに乗り込んだ。
飛び立ったタクシーから下を見れば、ヤローが緩く手を振って見送ってくれている。
それに穏やかな気持ちのまま、マリエも緩く手を振って頭を下げ、ようやくちゃんとシートベルトをして深く息を吸った。
𖤣𖥧𖥣。𖤣𖥧𖥣。
*カスミソウ/幸福、親切:ほかの花と相性が良い、引き立て役
*オレンジのリボン/明るい、社交的、親しみ、華やか、楽しい
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