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!ほんのりかなしい
!二部設定


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―サスケが、里に帰ってきた。

朝、目を覚ましたらどことなく違和感を覚えて、慌てて家中をひっくり返した。やっぱりどこを探しても俺の額当てが見つからなかった。家に帰ってきてから外して、いつものように写真の前に置いたのに。
とりあえず、今日は朝からの任務は何もなかったから額当てを発注しに行こう。その道すがら、昨日通った道も歩いてそれとなく探してみよう。外にはきっとないとは思うけど。

冷蔵庫を開けて、牛乳を取り出そうとしたらその冷蔵庫には何かメモがひっついていた。
首を傾げながらそれをとると、達筆な綺麗な字で「捜し物。サスケ」と書いてあった。
俺は飯を食うのも牛乳を飲むのも放り出して、急いで身支度をして家を飛び出した。

場所なんてわかんなかったけど、何となくこっちかもしれないという勘でひたすら走った。

はっはっ、と息を乱して膝に手をついてから、顔を上げて目の前のデカい門を見た。
里が二回崩されてもなお、里の皆の考えでこの誰もいない一族の場所もちゃんと修復されていた。
みんな、ちゃんとうちはのことを忘れていなくて、心から見捨ててなんていなかったから。
はあ、とひとつ深く深呼吸してから、うちはの家紋のかかれた幕下がりの門を潜った。

しん、としている。
誰一人いない静けさは、俺がよく知る静けさ。

ひたすら歩いて、一つの大きな家の前に立った。
サスケの家なんか知らない。あいつは用があると勝手に俺の家へ押し掛けて来てたから。
ただなんとなく、ここじゃないかなという勘だけ。

ガラリ。音を立てて引き戸を開けると、玄関には忍靴が並べてあった。
俺もそれに倣って綺麗に並べてから、土間を上がる。

トタトタとわざと音を立てて足早に廊下を歩く。それと同時に心臓も早くなってる気がする。
少しだけ気配を感じて立ち止まり、すぐ真横の障子を開けた。


「…さ、」


そこで胡座をかいて目を伏せていたのは、長年追いかけていたサスケ。
サスケの目の前には細かい傷がついた額当てが置いてあって、それはきっと俺のなんだろう。
ふらふらとしながら俺はサスケの近くに行って、サスケを見下ろした。息を飲み込んだタイミングで、サスケは目を開けて俺を見上げた。


「忍が音を立てて歩くな」

「…うっせーってばよ…バカサスケ」


俺はストンと腰が抜けたようにサスケの右隣に座りこんだ。


「な、んで。なんで、こんなとこ、いるんだってば」


なんか、なんか。


「ここはうちはの場所だ。俺がいる権利はある」

「そうじゃねえ。お前、おまえ、俺が、俺達がどんだけ追いかけたと思ってんだってばよ…なんで、こんなあっさり里にいるんだってば」


なんか、いろいろゴチャゴチャしてくる。
お前を取り戻すために俺達は必死こいて戦って、血みどろになって、その折り人柱力狩りが加速して、ペインが襲ってきて、里は半壊して。
俺達はお前を本気で殺そうとして、向けたくもない刃を向けざるを得なくて。
なのに、お前は今ここにいる。
刃を向けるどころか殺意や敵意すら無くて、あの時みたいに嫌な目をしてなくて、俺がこんなに近くにいるのに俺のことを殺そうともしない。

いつから。こんなに近くに、普通に居れなくなった?肩を並べられなくなった?


「…サスケ、サスケ。…俺ってば、里の皆に認められたってばよ?ペインと戦って、里を守ったから。それでみんなに、認め、られて」


視界が潤んだ。
そのまま前に倒れてみたら、ぼすりとサスケの右肩に額が当たった。なんだ、俺、避けられて畳にぶつかると思ったのに。
なんでそんな優しいんだってばよ。


「みとめ、られ…て」

「…それが、ナルト、お前の夢じゃなかったか?火影にはなっていなくとも、お前の真の夢は認められることだったろ」

「…が、ぅ」


じわじわと、額から熱が伝わる。
サスケってば、ほんとにいるんだな。嘘みたいだ。
瞬きをしたら、ぽたりと涙が畳に落ちた。


「違う、そうだけど、おれ。嬉しかった。嬉しかったけど、そこに、お前がいなかったから。俺は、何よりも誰よりも、サスケに、認めてもらいたくて」

「ナルト」


するりと、右肩が動かされてサスケの向きが変わった。
俺は下を向いたままだったから、サスケの膝しか見えなくて、体が俺の方を向いて、膝にあった手が上に移動したから咄嗟に肩を竦めた。
その手は俺の頭を抱えてサスケの左肩へ押し付けて、右手は俺の腰辺りを緩く撫でただけだった。嫌な身体反射を見せてしまったと後悔した。


「さす、け?」

「…今、体を竦めたことに関しては、俺の責任でもある。何も言わない」

「ごめん、ってば。…あ、そうだ。サスケ、俺の額当て、返してほしい」

「…………」


サスケは俺の頭に置いていた左手を離して、自分の左隣にあった額当てを握った。


「ナルト、顔を上げろ」

「ん」


素直に顔を上げたら、サスケが俺に額当てを巻いて結んでくれた。ああ、なんか、初めて額当てを貰ったときを思い出す。
人に結んで貰うのって、なんかすげー心が暖かくなる。


「ありがと。なあ、サスケ」

「…なんだ」


笑ったつもりだったのに、サスケの親指が俺の目の下をなぞったからきっと泣いてしまってたんだろう。
サスケの親指が、左目の瞼を押さえて眦まで軽く撫でた。指の先がテラリと光っていた。口は、笑ってるはず何だけど。


「サスケ。サスケ」

「なんだナルト」


涙をサスケに拭かれながら、俺は笑う。


「…おかえり、サスケ」


サスケは、少しだけゆっくり瞬きをしてから、俺の涙を拭うのをやめた。


「…ナルト、」


小さく口を開いたサスケ。
俺は笑った。


・・・


意識が急に戻ったかのように、俺は体を震わせて目を見開き浅い呼吸を繰り返した。
きょろりと目をさまよわせると、そこは見知った俺の部屋だった。
違和感なんてどこにもない。

あの静かな空間も、幸せな温もりも、穏やかに話してたサスケも、俺の涙を拭ってくれてたサスケも、どこにもない。

俺はベッドから体を起こして、チェストを見る。そこにはちゃんと額当てが乗っていた。
俺は顔を覆う。


「…さ、すけ…」

 
頬へ伝う涙を止める術は、俺は知らない。
だって、それは、サスケの役目だったのに。






(あんな夢、見たくなかった)

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