このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

他雑多


「紫苑様」

「、笹百合」


庵から降りて中庭に続く廊下に差し掛かると不意に声を掛けられ、立ち止まる。
後ろには笹百合が居て、可愛らしい笑顔を浮かべて葛饅頭を差し出した。


「…これは」

「紫苑様、お疲れでしょう?今朝頂いたのです。尼寺の皆で宜しければ…と」


最初の勢いを段々と失い、尻窄みになっていく笹百合へ穏やかに笑う。


「いいよ。食べよう」

「!ほ、本当ですか?!」


笹百合にとって快い返事を返してやると、眉を下げて伺っていた顔が一気に破顔する。
名前に負けぬ、花が咲いたようだ。


「うん」

「あ、え、縁側でお待ち下さい!直ぐにお茶を用意してきます」

「ありがとう」


言われた通り、中庭を望む縁側に腰を落とす。笹百合の嬉々として走って行ったその姿を見て、笑いが零れる。
笹百合は、まさか承諾されるとは思わなかったのだろう。紫苑は気まぐれで、体を合わせはするものの、笹百合に気遣いなど持ち合わせていた様な女ではない。

そう、紫苑は。


「……吾は、妹とは違う」


母に疎まれ、殺され、生き延び、鬼と付けられた。
しかし今は。


「し、紫苑様!お待たせ致しました!」

「…ありがとう。笹百合」

「い、いいえ!」


笹百合は、下界の話が一等好きで花見がしたいと告げる。いつもいつも。
紫苑はどう聞いていたのだろうか。笹百合に違和感を与えていないだろうか。
それでも、隣で嬉しそうに笑う笹百合が、綺麗で綺麗で。


「紫苑様、いま、とても優しいお顔をしています」

「…そう?」

「ふふ。紫苑様でも、寺の外が気になるのですね」


そう笑う笹百合に、何故か目頭が熱くなった。





いつ気付かれてしまうのか、


2/6ページ