他雑多
「紫苑様」
「、笹百合」
庵から降りて中庭に続く廊下に差し掛かると不意に声を掛けられ、立ち止まる。
後ろには笹百合が居て、可愛らしい笑顔を浮かべて葛饅頭を差し出した。
「…これは」
「紫苑様、お疲れでしょう?今朝頂いたのです。尼寺の皆で宜しければ…と」
最初の勢いを段々と失い、尻窄みになっていく笹百合へ穏やかに笑う。
「いいよ。食べよう」
「!ほ、本当ですか?!」
笹百合にとって快い返事を返してやると、眉を下げて伺っていた顔が一気に破顔する。
名前に負けぬ、花が咲いたようだ。
「うん」
「あ、え、縁側でお待ち下さい!直ぐにお茶を用意してきます」
「ありがとう」
言われた通り、中庭を望む縁側に腰を落とす。笹百合の嬉々として走って行ったその姿を見て、笑いが零れる。
笹百合は、まさか承諾されるとは思わなかったのだろう。紫苑は気まぐれで、体を合わせはするものの、笹百合に気遣いなど持ち合わせていた様な女ではない。
そう、紫苑は。
「……吾は、妹とは違う」
母に疎まれ、殺され、生き延び、鬼と付けられた。
しかし今は。
「し、紫苑様!お待たせ致しました!」
「…ありがとう。笹百合」
「い、いいえ!」
笹百合は、下界の話が一等好きで花見がしたいと告げる。いつもいつも。
紫苑はどう聞いていたのだろうか。笹百合に違和感を与えていないだろうか。
それでも、隣で嬉しそうに笑う笹百合が、綺麗で綺麗で。
「紫苑様、いま、とても優しいお顔をしています」
「…そう?」
「ふふ。紫苑様でも、寺の外が気になるのですね」
そう笑う笹百合に、何故か目頭が熱くなった。
いつ気付かれてしまうのか、
了