このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

op


ウソップとゾロがぎくしゃくしている間に、サニー号はそこそこの島へ着いた。
しんしんと雪が降り続いている冬島は、身も凍るような寒さだった。冬島出身のチョッパーと楽しければいいルフィだけが顔を輝かせて、我先にと島へ降りて行った。
冬島に着いたのはもう夕暮れ。海に太陽が落ちる寸前だったために余計に寒さが身に凍みる。
ウソップはそれを震えながら見送り、固まっているナミとロビンへ近付く。
 
 
「なあーナミー、ここは安全な島か?ログは?」
 
「あらウソップ。降りるの?」
 
「ああ、ちょっと見ときたいものがあるんだ」
 
「街はそこそこ発展しているみたいね。所々に貿易船が見える。ログは四日よ」
 
 
ナミはちらりと港町を見ながら言った。
 
 
「それならちょっとオレ、宿取ってくる」
 
「あらそう。それならその分のお金渡すわ。ちょっと待ってなさい」
 
 
ナミは何の理由も聞かずに、金を取りに部屋へ戻った。
ウソップがそれを腕を摩りながら見送っていると、ふわりと首に柔らかいものが掛けられた。
 
 
「…マフラー?」
 
 
確認するとそれは黄色のマフラー。柔らかく暖かいそれに、ウソップの顔も穏やかになる。
 
 
「いくらコートを着ているからと言っても、その首筋を見ていると寒そうだわ」
 
「おお、ありがとロビン。ちゃんと返すよ」
 
「ふふ、平気よ。だってそれは、貴方への贈り物らしいんですもの」
 
「…は?」
 
 
艶やかに笑うロビンは、意味有り気に頷いた。ウソップは思わず眉間にしわが寄る。
 
 
「ロビン」
 
「違うわ。ウソップが考えている人ではないわ…そうね、ヒントは…見掛けによらずってとこかしら。あと、繊細で不器用」
 
「…わからん…まあ、いいや。ゾロからじゃねェなら」
 
 
あやふやな関係の今、ゾロからの贈り物を受け取り況してや使うだなんて出来やしない。
ウソップは大人しくマフラーに鼻下までを埋めた。すん、とどこか嗅いだ事のある匂いが鼻を抜けたが思い出せなかった。
 
 
***
 
 
あの後すぐにナミが帰ってきて宿代をくれた。島でのお小遣いも。そして「もう夜になるんだからさっさと宿見付けるのよ」というお心遣いの言葉も貰って。
なんだか子供みたいだ、と毎回ウソップは歯痒くなる。
 
ウソップは島へ降りると、とりあえず街へ繰り出し格安の宿を探した。道端でリンゴを売っていた気の良いお婆さんに聞いてみると、笑顔で教えてくれて手書きの地図までくれた。
ウソップは快くそれを受け取り、リンゴも二個買ってお婆さんにお礼を言って歩き出した。
 
暫く歩くと教えて貰った宿はすぐに見つかり、即チェックインをさせてもらった。
ウソップはいつものようにキーだけを持って街へ散策の脚を伸ばす。
 
雪深いと言っても街中の道路は整備されていて、かつ賑わいもあり人が大勢いる為主要な道の雪は解けていて歩きやすい。夕暮れはいつの間にか夜の帳が降りていて、店の暖かい色が雪に反射してキラキラしている。
ふと目を雑貨屋に向ければ、仲睦まじい男女が近い距離で何かを話していた。少し背伸びしてみれば、見ていた先がシルバーのリングを置いてあるコーナーだと解って、ウソップは無表情でその場を後にした。
 
きっとあの二人は幸せで、お互いを愛していて、それでペアのリングでも買うのだろう。
 
 
「愛ねえ」
 
 
ウソップは吐き捨てるように呟いた。脳裏に過ったのは緑の剣士。
ゾロを警戒している訳ではないが、ウソップはゾロが自分に向けている愛情というものを警戒していた。
ウソップはその嘘つきな性分なために、人に深い愛情と言うのを向けて貰った記憶が無い。
幼少期に貰うはずである母からの無条件の深い愛情でさえも、病理によって奪われてしまった。
ナスビ達からは愛情ではなく尊敬。カヤからは友愛。一晩共にする相手からは欲情。中には付き合って欲しいと言う言葉を口にする奴もいたが、全て笑ってかわしてきた。
恋人としての愛情など、この人生で貰った覚えはない。
それは自分が突き放しているからでもあるが、ウソップはそれに溺れて後悔して傷付く事を恐れているから自ら愛に手を伸ばさない。
唯一愛していた母は病理で奪われ、その愛は消えた。どこへ向ければいいのか解らない感情は、やがて愛への嫌悪になる。裏切られたと感じるようになる。あんなに愛していたのに、いとも簡単にそれは裏切られて奪われる。
そして傷付くのは自分である。
 
それならば、とウソップは人を愛する事は止めた。
怖いから、怖くて怖くて、傷付きたくないから。結局臆病な自分が悪いのだ。
 
 
「あ」
 
 
そう考えて歩いていたら、いつのまにか見知った雰囲気の場所へ出た。頭が重くなる。
 
 
「本当、どこの島にでもあるよな…歓楽街とかいう奴」
 
 
ウソップは少し嘲る様に言いながらも、丁度いいと考え歩みを進めた。
この胸の蟠りも、モヤモヤも、面倒な事に突き当たっている現状も、一気に忘れたい。ウソップは目ぼしい人間を探す。
 
 
「だーれーかー…いねェかな」
 
 
キョロリと目だけ彷徨わせると、一人でいる男を見付けた。体格は良い。
その斜め後ろにも男が一人いるが、それはなんとなく違う気がする。所謂ゲイの勘という奴か、あれはノンケだと頭のどこかが訴えてくる。それならばと、ウソップは最初に目つけた男へ声をかけてみることにした。
 
 
「…はろー、お兄さん」
 
 
ウソップが気のいい声をかければ、体格のいい男は振り返った。顔も良い。
ウソップを見る目も、中々だ。ビンゴ、とウソップの頭の中で矢が放たれた。
 
 
「一人?オレも一人。遊んだりしねェ?」
 
「…男娼か?」
 
「あー、違う違う。商売じゃねェよ。金もいらない。一晩付き合ってくれないかなァって思っただけだって」
 
 
ウソップはなるべく自分が良いように見えるように小首を傾げて顎を引いた。
少しでも食い付け、と思っていたら見事成功。男は頷き、ウソップの腰へするりと手を伸ばしたのだ。
 
にまりと笑ったウソップは、少しだけ体を離して不自然に見えないように手首を握って引いた。
前回の事で学習したのだ。いつどこで誰が見ているかもわからないのだから、外ではクルーを警戒して無駄に男とひっつかないと。
男は黙ってウソップへ付き従う。そのままウソップは自分がとった宿へと直行したが、それは途中で阻まれた。
あと少し、もう宿の入口目の前というところで、ウソップは宿の前へ佇んでいるゾロを見付けた。
 
 
「!!」
 
 
ウソップは硬直する。なんで、いるんだ。頭がぐるりと回る気がした。
ゾロは船に居たはずだし、方向音痴のゾロが一人でこの宿まで来れる筈がない。それにウソップは自分の宿をクルーの誰にも教えていない。なんで。
 
ウソップが止まったことによって、男は不審がる。
男がウソップへ声を掛けようとするのとほぼ同時に、ゾロの口が開いた。
 
 
「……よォ、ウソップ。オトモダチか?」
 
 
その目は、鋭くウソップを突き刺した。

***

ウソップの肩は揺れる。
静かに怒るゾロを前に、重い部屋の中でウソップはなんで、と思うしかなかった。
 
あの後、ゾロは無理矢理ウソップと男の手を引き剥がし、男へ刀の音を聴かせた。
「まだヤる前で良かったな」という脅しをしてから、それでも誘いに乗ったというだけの理由でゾロは男へ鞘を叩きこんだのだ。
唖然としたウソップを後目に男はすっ飛び、けたたましい音をさせて壁にぶつかった。
 
その男がどんな怪我をしたのかは知らない。打ち所が悪くて死んだかもしれない。
でもそれを確認する術をウソップは持っていなかった。
口を開いたままだったウソップをゾロは担ぎあげて宿へ入り、ウソップがとっていた部屋へ直行したからだ。
 
いつの間にかポケットから抜き取られていたルームキーで部屋番号を確認したゾロは、鍵を開けて中へ入るなりウソップをベッドへ落とし、逃げられないようにかウソップの上へ乗しかかった。
下半身はゾロに座られ、右手はゾロの左手によってベッドへ縫いつけられる。
 
 
「…テメェ…散々俺を無視して逃げ回っておいて、何のうのうと他の男咥え込もうとしてやがンだ。あァ?!」
 
 
怒気の交じる声で言われたウソップは、びくりと肩を揺らした。
それでも、と噛み締めていた口を離す。
 
 
「…ぉ…お前に…ゾロに、関係ないだろ!」
 
「あ?ふざけてんじゃねェぞ。俺はテメェに言ったよなァ?次の島で男連れてたらどうなるか解んねェぞって」
 
「だからッ!それは、関係ないだろ!だってゾロはオレの恋人じゃねェんだから!」
 
 
ウソップの言葉に、ゾロは目元をピクリと動かした。
 
ゾロの右手は動き、ウソップの首にしてあった黄色いマフラーを毟り取る。
 
 
「おい!」
 
「こんなモンしてんじゃねェよ」
 
 
マフラーはベッドの下へ捨てられる。コートも釦を外されて、中の服も全て肌蹴させた。ウソップは寒さにぞわりと震える。
 
 
「な…なに、して」
 
 
ゾロは忌々しげに笑う。
 
 
「誰でもいンだろ。俺が遊んでやるよ」
 
「!!!……じょう、冗談、やめろよ…!」
 
「冗談じゃねェよ」
 
 
肌蹴させられたウソップの胸へ、ゾロの指が伸びる。そのまま胸板を撫でられ、寒さで立ちあがっていた乳首を弾かれた。
ひっ、とウソップの喉が鳴る。
気を良くしたゾロは、さらに抓み親指で押し潰した。少しの痛みを伴ったが、感度のいいウソップには快感にしかならない。見事に乳首は赤く染まり、寒さ以外で立ちあがる。
 
 
「やっめろ…!やめろよゾロ…!」
 
「うっせェな」
 
「今なら冗談で済む!オレも忘れる!お前を避けてたのも謝るし、全部今まで通りにすッ、ぃあ…!あッ!」
 
 
喋っている途中でゾロはウソップのズボンへ手を伸ばし、チャックだけを開けて中にある性器を強めに握った。
下着越しに握られたが、ゾロの熱い手によって見事に少しの快感を齎した。
ウソップは泣きたくなる。
 
 
「気持ちいいンだろ?今更戻れねェなァ…?ウソップ?」
 
「…うっー…!いや、だァ…!!」
 
「……」
 
 
ゾロはウソップの性器から手を離し、顎を捉えた。そして目を見開くウソップへそのままキスをする。
大人しかったウソップが途端に暴れる。しかしそれを無理矢理力の差で抑え込んだゾロは口を割り、舌を絡ませる。
嗚咽が混じっていたウソップの声が変わり、ゾロは不審がってちらりとウソップの目を見た。
 
 
「…!」
 
 
その目も、目蓋も、涙に濡れていて本格的に泣き始めてしまっていたウソップに驚き、ゾロは思わず口を離した。
そしてなるべく優しくウソップの顔の輪郭を撫でた。
 
 
「…おい…泣くな。悪ィ。なァ、ウソップ…」
 
「うぅッ、ひっい、…くぅうう…!」
 
 
ウソップは力で抑え込まれたのだ。
いくら男に体を開いていると言っても、それとは訳が違う。
無理矢理に力の差を見せつけられ、そして奪われるのは、同じ男として屈辱だった事はいとも簡単にわかる。
 
ゾロはグッと奥歯を噛み締め、謝る。
 
 
「ウソップ、ウソップ。悪い。…けど、なァ、聞いてくれ。俺は、お前に振り向いて欲しい」
 
「…る、せェ。…うっ、く…!そ、…そもそも!」
 
 
手首も解放されていたウソップは、目をゴシゴシと強く擦り、唐突に大きな声を出した。
ゾロは思わず、ビクリと手を揺らした。
 そしてウソップを起き上がらせて、二人はベッドの上で対面する。
 
 
「そもそも…、なんで、オレなんだよ…!同情か、興味か…、そんなんいらねェんだよ!」
 
「違う」
 
「お前、普通に異性愛者だろ!オレのカミングアウト聞いてから突然オレに近寄って来たじゃねェか…!それで、何が違うんだ…!」
 
「そうじゃねェよ」
 
「何が振り向いて欲しいだ…!結局興味だろ!ヤって試してみたいだけだろ!…そういうの迷惑なんだ!」
 
 
そこまでつらつらと言ったウソップは、一先ず息をつく。
部屋は静かになり、息を整えるウソップの息遣いしか聞こえない。
 
ゾロの頭には、ウソップの言葉だけが響く。
迷惑。ゾロはウソップにそう言われた。
 
ゾロのこめかみにビキリと筋が浮いた。
思わず、再びウソップの手首を握っていた。
 
 
「…ふざけんなよ…!」
 
「なに…!」
 
「興味だ?同情だ?試す…?そんなもんじゃねェよ!!ただ素直に、本心で、お前が好きだって言ってンだ!!」
 
「!!」
 
「あのクソみてェな知らねェ男も、過去の男共も、殺してやりたくなるほど、お前を愛しちまってンだよ…!悪ィか!!」
 
 
ゾロの言葉は、素直にウソップの心に突き刺さった。しかしウソップは乾いた音をたてて握られていた手を振り払う。
 
そして、ゾロの目を見て鼻で笑った。
 
 
「…愛?……そんなもん、信じてねェんだよ、オレは…!!」
 
 
ゾロは血の気が下がる音を聞いた、気がした。
 
 
「…ウソップ」
 
「愛とか…、愛は、すぐ消えるよ。ゾロ、お前は迷ったんだ。いつもみたいに、迷子なんだよ。すぐ抜ける。一時の気の迷いだ、オレじゃねェはずだろ。周り見ろって。オレよりいっぱい、いるだろ…?」
 
「おい」
 
「無理なんだ、無理だ。オレは、愛とか、わかんねェから」
 
 
なんのために、身体だけを繋げて来たと思ってんだよ。
ウソップは吐き捨てるようにゾロへ言うと、次いで乾いた笑いを少しだけ響かせる。
 
ゾロは、胡坐をかくウソップの膝にその大きな節くれ立った掌を乗せることしかできなかった。
 
 
 
 
おちたカブトムシ
 
6/9ページ