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さらさら、さらさら。
水色の髪は艶やかで。何度櫛を入れても一度も引っかかりがない。
この荒れた海の上で生活をしているというのに、この髪はとても綺麗な状態を保ったままだ。
シャンプーもトリートメントも、していてもどうしても荒れるのは必至なこの生活環境なのに。海の潮風、突き刺す紫外線、照り返す水面、じりじり焼ける甲板。その上に我が物顔で生活しているというのに。
するりするりと右手の櫛でといて、左手で綺麗な水色の髪を掬うように撫でる。
ずっと触っていたいこの感触に自然と口元が緩む。
このままぐしゃりと握りつぶして、思いっ切り髪を引っ張って、自分の顔をこの水色に埋めたい。
想像するだけで恍惚とするその情景を思い浮かべて、現実には絶対出来ないな、と少し冷めた目になる。
きっと私の欲望のままにそれをした瞬間、この人はバラバラになって逃げるだろうし、そのままナイフを投げてくるかもしれない。それにそんなことをしたらもう二度と触らせてもらえない可能性大だ。
そんなアホな。
美容師が髪に触れないだなんてふざけてる。
髪フェチの私がなんのために美容師やってんだって話になる。
だから、しない。
それに。
ちらり、と斜め横を見やる。
そこにはどーんと赤い髪が座っている。
「……はあ」
思わずため息をついてから、左手に櫛を持ち替えて、右手に鋏を持つ。
そんなことをしたら、このだらりと座っているくせに隙が全くない赤髪さんが、容赦しないだろうな。きっと吊し上げで殺される気がする。
ふざけるな。私の死因は髪に絞め殺されてと決まっている。
しゃきん、しゃきん、と切れ味のいい音が響く。
「あァ?なんで溜息なんかついてんだ」
水色の髪からハスキーな声が飛び出した。
「んー、いやぁ、別に。なんでもないですよ」
「そうかァ?」
しゃきん。
長さは変えず、梳くだけにした髪は相変わらず綺麗なままだ。
ああ、埋もれたい。
この髪をベッドにして寝たいレベルで好き。髪が。
「はい、終わりました」
「おおー、悪いな!いやーハデにすっきりしたぜー!」
「おお!やっと終わったかバギー!俺も待ちくたびれたぞ!」
「…………」
ぐーっと伸びたバギーさんは、そのままぴたりと止まった。
そしてダラダラと有り得ない発汗をしたと思えばギコチナく、そりゃもうブリキの玩具みたいにゆっくりと斜め後ろを振り返った。
「なッ!んでいやがんだハデバカ赤髪ィイイイ!!!」
「だっはっはっはっ!!気付くのおせーよ!」
「ハデにいつからいやがったんだァー!!?」
目を見開いて叫ぶバギーさんを、少し抑えるように肩を押して座って貰う。
少し抵抗したが、櫛を入れれば抵抗は止んだ。ちゃっちゃっとサイドに髪を集めていく。
「髪をイジり始めた時辺りから、いらっしゃいましたよ」
「なん、なんで言わねーんだアンナ!」
「なんで、と申されましても。当たり前のように乗り込んだので、それが日常なのかと思いまして」
「こんのスットンキョーが!んなわけあるかァ!!」
「はいはい、申し訳ありません。はい、できました。終わりです」
ギャンギャン叫び続けるバギーさんの髪を見事に可愛らしくサイドテールにした。似合うと思ったのだ。私天才。
さらりと揺れる髪の束が私の心を擽る。
しかし、髪型を見てどこか不満げなバギーさんに、どうしましたと訊ねる。
「……いや、べつに」
「可愛いじゃねーかバギー!見習いん時を思い出すなァ、その髪型」
「ハデに死ねェー!!」
さも昔を懐かしむように愛おしそうに仰った赤髪さんに、バギーさんは顔をその丸いお鼻同様真っ赤にして投げナイフを装備し、次々と投げる。しかし赤髪さんも軽々とひょいひょい避ける。
私はというと、それを尻目に黙々と仕事道具を片付けて、バギーさんの散らばった髪を一カ所に集め、そっとそれを懐紙に包んだ。
今ここでこいつ変態だ、とか思った奴はバギーさんじゃないがハデに死刑だ。
人の性癖に一々口を出さないことが世渡り上手です。
それに私はバギーさんの髪だから持って帰るのではなく、とてもとても魅力的な髪だから持って帰るのだ。
私が切って死んでしまった髪も、私の家にある少し特殊な櫛を通せば忽ち生き返って、ぐんぐん伸びる。生命力の強い髪だと時には頭皮すら形成しようとする。それは流石に気持ち悪いと思ってる。
まぁそんなことはどうでもよくて。
私はそれを切って鬘やエクステにして生業にしているのだ。
水色の髪はあまり需要がないが、赤い髪は結構重宝する。だから。
「バギー、折角会いに来たんだ部屋に入れてくれないか?」
「だぁれがそんな虫酸が走ることを自らするかァ!」
「つれないな。バギーのために値の張るかもしれない宝石を持ってきたんだがな」
「な、なんだと」
「俺はあまり目利きがうまくねーからな。そういうのは昔からバギー得意だろ?沢山あるんだ、全部やるよ」
「ぐ、そ、それならそうとはやく言えってんだこのハデアホめ!」
とかなんとか。上手く丸め込まれてますバギーさん。
まぁそれより、変にいちゃついてるとこ悪いんですが、その赤髪、少しでいいので切らせていただけませんかね。
【私のかみ】
了