他
なまえ
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何時ものごとく審神者に使役され遡行軍を討伐しに来た第一部隊は最後の一体である打刀を切り払った際、不思議な言葉を聞いた。
「……遡行軍のあの打刀……主、すまないって言ってたね」
ぽつりと呟くように言った大和守安定に、一同はピタリと足を止めた。
「これまで戦ってきて、初めてだったな」
薬研の言葉に今剣がこくんと頷いた。
「そこうぐんが ことばをはっしたこともおどろきでしたが あるじ、ということは……」
「……あいつらにも、俺達みたいに主がいるってこと、だろうね……。兎に角、帰るよ」
加州の言葉は、何処と無く一同の胸に小さな蟠りを残していく。
帰るゲートを潜った先、待っているであろう自分達の主にどう報告をすべきかと悩みながら、六振りの刀剣達は一先ず関ヶ原を後にした。
***
ザラザラとした風が纏めた髪を撫でていく。山砂が混じっているのだ。
一つに括った髪を翻し、柚は自分の部屋へ戻った。
簡素な作りの部屋は、畳八畳と床の間があるだけ。襖を開ければそのまま縁側となり、その先には幾数里か先に山肌と畑が見える。
見晴らしのよい小高い山に柚は居を構えていた。
桃配山から少し離れたこの山は木々が生い茂り、人は早々立ち入らない。
だからこそ勝手が良く、初めに拠点を構える所として長老方にもこの場所を自ら進言していた。
机の前に座り直し、とある図面を広げた数秒後、凛、と澄んだ音が響き渡る。
一息ついた柚はゆっくりと立ち上がって再び襖から外へ向かった。
「お帰り、
優しげに微笑んだ先にいるのは、短刀を咥えた鬼の頭蓋骨と蛇の骨を紡ぎ併せた異形のものだ。
所謂、刀剣男士達から遡行軍と呼ばれるものたち。
篝と呼ばれたその短刀は、くるりとその場で一周すると、後ろに二振り似た姿の短刀が現れる。
その二振りは尾の部分で巻き付けて持っていた折れた刀をその場にガシャガシャと落とす。
「ありがとう、
柚は微笑んだまま草履に足を通すと、落とされた刀の前に立ち、何事か祝詞を呟いて両の手を刀へ翳す。
ふわりと袖がはためいたかと思えば折れていた刀身が小刻みに動き集まり、ピタリと一つの刀身に戻る。
寸瞬後には、そこへ歪な形の太刀が一振り現れ、その柄に人差し指を置いて静かに柚が撫でれば、刀の代わりに武者姿の刀剣男士が現れた。
「……おはよう、
柚は篝に目配せをすると、篝はふわりと居の奥へ消えていった。
松、と名前を付けられた太刀は静かに柚の言葉を聞き、そして鎧の音をさせて頷く。
「ア、るジの、タメナラ、モう一度、再び、与えラレタコノ、命、尽き、ルマデ」
ガラガラと喉を裂いた声で途切れつつ言葉を紡いだ松に、柚は手を叩いて幸せそうに喜んだ。
「いい子ね、松。篝が皆を呼んでくるから、もう少し……」
そう言っている傍から、ゾロゾロと甲冑の音をさせて篝を先頭に柚の刀達が庭に揃う。
「よし、…集まったわね。ではこれより、最終軍議を行う。部隊は四つ。家康暗殺部隊、三成・左近守護部隊、小早川軍及び本田忠勝足止め部隊、そして物見部隊」
柚が四本指を立てたあと、懐へ手を入れて数枚の書類を出し、そこへ目配せをしてから声を張った。
「まず、家康暗殺部隊、隊長短刀の
「御意ニ」
緑が頭を下げれば、さらりと銀髪が肩から落ちる。
それを柚が近付いて掬い、緑の耳にかけると、近い距離のまま静かに口を開いた。
「緑、よく聞くのよ。小早川軍が動かなければ関ヶ原は勝てる。まだ若く迷いのある小早川軍を動かしたのは徳川の銃声だという。つまりその銃声を阻止すれば小早川は動かない。そうすれば小早川に追随して動いた朽木軍他も寝返らない。家康暗殺部隊が家康に近付くには周りで陣を固める本田、山内を惹き付けるしかない。……そこで緑には本田を相手取ってもらう」
「本田、デすカ」
きょろり、と緑の紫の目が動く。
「ええ。乙と芦は貴方の補佐よ。本田との一騎討ちを邪魔する人間は殺してくれるわ。……万が一本田を殺せずとも、足止めになれば僥幸よ」
静かなわりに熱く語る柚に、名前を呼ばれた乙と芦は深く頷いて緑へ目配せをした。
そして柚はくるりと方向転換をして打刀の香へ近付く。
香は笠を外して傅いたまま動かない。
「香、貴方には島左近と石田三成の守護を任命する。左近の奮戦は素晴らしいけれど、やはり多勢に無勢。彼に致命傷がないよう、敵方を掃討して。また、戦況によりけりだけれど石田三成が後退若しくは進軍する。その際左近に花と千年を。三成には貴方と袖がついて。笹尾山には基本貴方達しかつけない。信頼してるわ。状況を見つつ、宇喜多軍の守護も。福島正則他、面倒な武将を討てば士気は確実に下がる」
「ソの通リニ」
傅いたまま呟く香と、こくりと無言のまま頷いた立ったままの花。
正反対の性格だが、連携は上手い。
満足げな笑顔を浮かべた柚は、次に先程結び併せたばかりの松に近付いた。
「松。貴方は家康暗殺部隊よ。一番重要な使命。隊長は短刀の露。太刀の貴方は短刀の補佐をして。暗殺に必要なのは如何に気取られずに対象に近付くか。短刀は秀でている。暗殺は露達の誰かがやる。巳の刻には家康が小早川を動かすために、初期陣から進軍し、笹尾山に近付くはず。そうなると東軍の士気が高まってしまうから、辰の刻から半刻までの間に暗殺を行って。貴方と玉は暗殺の際の陽動。陣営の前で側近を誘き寄せればいい」
「側、近、を、殺ス」
「そう。切り臥せればおしまいよ」
淡々と、けれど熱く意志の籠った眼差しで柚が段取りを言っていくと、部隊には少しばかりはりつめた空気が漂う。
柚は一先ずくるりと全員を見渡すと、一息ついてからまた大きく口を開けた。
「最後に!……敵は人間だけに非ず。……松以外の皆は知っていると思うが、我ら歴史修正組織の邪魔をする、時の政府が雇った部隊がある。貴方達と同じ刀剣男士よ。刀の付喪神の分霊が、邪魔をする……背後には私のような巫女や審神者のような力を持ったものがいるはず。あいつらだけは、気を付けて。人間にやられた傷は痛くも痒くもないけれど、同じ刀剣男士にやられた傷は破壊に繋がる。……もう何度も、何振りも、破壊されてしまった」
私は、一度しか貴方達を結び併せることができない。
柚が小さく呟いた言葉に、刀剣達が心得たと力強く頷いた。
「あとはそうね、最近検非違使が煩いわ。長老方が言うには、全てを無に帰すために現れているそうだけど、まず話が通じない。検非違使がいたなら一先ず退避。隙を見て再び任務に戻って」
「我ら家康暗殺部隊、遂行致ス」
「足止部隊、オナジク。主ノタメに」
「守護部隊、必ズや」
玉、緑、香が各々武器である刀と槍を携え、恭しく頭を下げた。
短刀はふわふわと漂ったまま、喋れぬ代わりにくるりとその場で回転した。
「……再び、豊臣政権に光明を。江戸幕府の文化は徳川で開花せずとも豊臣の天下統一でもきっと開かれていた。年功序列ではなく、秀吉公の望んだ通り、豊臣一転集中の中央政権、実力社会が出来上がるはず。武家社会が色濃く残る、平和主義なボヤけた政府にはならない。それに付随する北と南の反発は目に見えているが、島左近と兵力のある毛利、小早川、小西、上杉さえ豊臣側にいれば勝てる戦だ。……此れで漸く、明治から続いた腐った政権に終止符を打てる…」
感慨深げに、独白のように心情をこぼし終えた柚は、一つ柏手を打つ。
途端に空間に黒い靄が現れて、其処へ吸い込まれるように全部隊が駆けて消えていった。
庭にはぽつりと柚だけが取り残される。
暫く立ち尽くしていた柚だったが、目前に見える桃配山、笹尾山にて狼煙が上がったことを確認すると、膝を折り手を合わせ、今度こそは、と祈る。
「……先に太閤の気持ちを、願いを、裏切ったのは徳川家康。だというのに勝てば官軍、戦が終われば豊臣側の悪質な噂を流布した。石田家はまるで賊軍の扱いに……秀頼様を亡き者にし、石田家を取り潰し……我らは弘前、津軽の家へ、隠れながら石田の血を残すしかなかった……この関ヶ原さえ引っくり返っていれば……」
わあ、と遠くから人々の雄叫びが広がって反響する。
風に鉄の臭いが纏った。
柚にとって、幾度目かの開戦の火蓋が切って落とされた。
「……今度こそ……改変の邪魔をしないでよ……刀剣男士……」
憎悪まとわりつく声色を、咎めるのものは誰もいなかった。
【我等に光を。】
了
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裏話
単純に私が西軍贔屓なので歴史改変をしたかっただけです。
設定をば。
主人公は審神者のようで審神者ではないです。分霊である刀剣を顕現させることはできません。
折れた刀を寄せ集め、結び併せて所謂遡行軍を産み出す力を持っています。歴史修正主義者と言われる組織に属する者はみんなこの力がある設定。取りまとめるのは長老方。審神者が時の政府なら、こちらは裏方でもある長老方です。
一度死んだ命を結び直されて世に舞い戻れているので、割りと刀剣達は忠実です。
個の名前の有無は部隊によって様々です。柚さんのように付ける人もいれば「短刀」「槍」と呼ぶ人もいます。
今回は柚さん、石田家の血筋の子にしてます。石田三成の娘、辰姫は北政所に護られ、弘前は津軽家へ嫁にいきました。そこから一応石田家の血は途絶えることなく細々と生き残ってます。その末裔の設定。
刀剣達の名前の由来、わかった人がいたら貴方も西軍!!!
彼らの名前は太閤と秀頼様、治部殿の歌や句から取ってます。
それでは、お粗末様でした。