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高校三年生、最後の夏。
付き合って二年目、出会って七年目。
お互いに過干渉にならないようにだけ気をつけようとしてきた。それは私が勝手に決めたこと。
私が好きで、好きで好きで好きで、勇気を出して告白したらあっさりOK。
兵助からは微妙な表情をされたけど、それはきっと勘ちゃんと遊ぶ時間が削られるせいだと思ってた。
半年までは。
半年目で勘ちゃんの浮気が発覚、というよりもともと凄く遊んでいたみたいで、相手の女の人も遊びだと解っていたからこそ、今まで勘ちゃんに彼女という存在がいなかったようだ。
そこへ私が初心まるだしで青臭い告白。
勘ちゃんも彼女という存在が気にはなっていたらしくて、そして今まで友達という立場で知っていた私だからという理由であっさりOKしたらしい。というのは全て幼馴染の兵助が教えてくれた。
だから微妙な顔をしていたのか、と半年目で納得…より、最初に言ってほしかった。
一言「勘ちゃんはこういう奴だよ」と言ってくれれば、私も考え直していたかも知れないのに。
半年も一緒にいて、勘ちゃんのいいとこいっぱい知って、勘ちゃんの格好良さも沢山知ってしまった私は、今更別れ話なんて出来なかった。
寧ろ知った上でも未だに私は勘ちゃんが好きだった。
勘ちゃんが私に飽きていないなら、それなら私はまだ勘ちゃんの彼女という立ち位置にいたい。
それだけが全てだったのだけれど、私が問い詰めたりしないと知るやいなや、勘ちゃんの遊び癖は滅法酷くなった。
私とは学校で会えるからか、休日は殆ど女の子。
長期休暇の時は男女混合六人で、二泊三日の旅行にまで行きやがった。
なにそれ、普通そこは彼女の私と行くべきじゃないの。
そう思っても言えなくて、私は無様に「お土産楽しみにしてるね」と伝えるので精一杯だった。そのとき、勘ちゃんがどんな顔をしていたのか覚えていない。怖くて見れなくて。凄く笑顔でいたら、それこそ立ち直れなくて。
***
夏休みに入って三週間目。
勘ちゃんと遊んだのは三日前。まだ今回は多い方だ。
私は気分転換に長い髪を切ってしまおうと行きつけの美容室へ来ていた。
勘ちゃんと初めて会った中学校の入学式のときに褒めてくれたから伸ばし続けていた髪。きっとそんなことも勘ちゃんは覚えてない、いや、普通は覚えてないか。私気持ち悪い。
からり、とドアベルの軽やかな音を立ててドアを開けば、タカ丸さんが満面の笑みで待っていた。
「いらっしゃいませー。こんにちは、待ってたよ」
「こんにちは、予約時間より早く来ちゃいました」
「大丈夫大丈夫ー。さ、こちらへどうぞ」
鞄と日傘を渡して、椅子へ座ると目の前の鏡には夏の暑さで紅潮した私がいた。ああ、なんて変な顔。
「はーい、五月ちゃん。今日のご要望は?」
「うん、だいぶ伸びたし、ボブにしよっかなあって」
「ええ!切っちゃうの?勿体なくないかなあ?折角のサラツヤロング…」
タカ丸さんは私の髪に手を挿し、撫で梳く。
あーあ。それ、勘ちゃんにしてほしいのに褒めるどころか「長くなったね」とかの感想ですら言ってくれないんだもんな。私の中で沸々と怒りが擡げる。
「いいんです!もうばっさり!肩までやっちゃって下さい!」
ふん、と鼻息荒くして言えばタカ丸さんは困ったように笑い、シャンプー台に通してくれた。
しゃきん、しゃきん、と切れ味の良さそうな鋏の音と、店内を流れる洋楽。タカ丸さんの手付きが素晴らしすぎて私は思わずうとうとする。
「ねえ、五月ちゃん」
「っ、ひゃい!」
「あ、ごめん、寝てた?」
「だい、大丈夫!しゃべれます!」
「あはは、相変わらず面白いねえ。そう、でね、五月ちゃん。髪切ること、勘右衛門君には言ったの?」
実はタカ丸さんは私の担当美容師さんな上、兵助のご近所さんで、つまり私とも昔からの友達で私のこともよく知ってる。それの流れで勘ちゃんのことも知ってるし、何度かご飯だって行った。
タカ丸さんに勘ちゃんの名前を出されて、急激に眠気はすっ飛ぶ。
「え、言ってないよ」
「ええー、大丈夫かなあ…」
「なんで?勘ちゃん、別に私の見た目が変わっても気にしないと思う」
「聞きようによっては凄い惚気だけど、そう言う意味じゃないんだもんねぇ…」
悲しい顔をしたタカ丸さんが前に回り込み、私の目元を覗く。前髪を切るんだろうなあと、そっと目を閉じれば案の定しゃきりと小気味いい音。
「僕、長い髪好きだったんだけどなあ」
「ん」
口を開いて髪が入るとイヤだから、頷くしかしない。
「ねえ、五月ちゃん。勘右衛門君がそんなにふらふらしてるのに、五月ちゃんが一途にじっとしてるのはどうなのかなぁ」
「…ん?」
タカ丸さんは後ろに戻ったけど、まだ前髪を指で梳いたり払ったりしてるから目を閉じたまま。
「だからね、他の子とも遊んでみたらってこと。僕はまだ友達でしょ?ほら、五月ちゃんは勘右衛門君のために友達まで減らしちゃったんでしょ?」
そっと鼻先に着いた髪をブラシで払われる。
久々にぱちりと目を開けたら、綺麗に切り揃えられている。
「こんなもんかな?」
「うん、ありがとう」
「後ろもう少し整えるよ」
友達、確かにいなくなっちゃったんだよね。
勘ちゃんが突然誘ってきてもいいように、って予定入れずにいたら、段々友達からもお誘いがなくなっちゃって。今じゃめっきり外出するときは一人だ。
「…いつ、お休み?」
「え?」
「タカ丸さん。今度のお休みあいてたら遊ぼうよ。私ね、この前出来たマカロン専門店に行きたい。あとね、壊れちゃったからミュールも新調したくて、あと、スムージー飲みたいしそれからバングルもほしいし映画も」
一度、するりと口に出すとしたいことや行きたいところが次々出てきた。私がマシンガンと化すまえに、タカ丸さんが笑いながら頭をぽんっと撫でた。
「いいよ、行こうか?明後日お休みだから、五月ちゃんがさっき言ったこともまだ行きたいとこもぜぇんぶ行こう!」
「やったあ!」
これで多少、私の寂しさは紛れるのだろうか。
***
「なあ、勘右衛門」
その日、鉢屋の部屋で尾浜、竹谷、久々知が集まって何の気なしにぐだぐだとしているとき、ぽつりと竹谷が尾浜に真剣な声で話しかけた。
「んー?」
携帯を弄りながら、尾浜は目を離さずに返事を返す。
「おまえさ、あー…その、…まだ、付き合ってんの?」
その言葉に、久々知が小さく反応する。誰と、とは聞かなかったが、尾浜の付き合っている人と言えば五月しかいない。
尾浜の指が少し止まったが、すぐに動き始める。
「うん」
「…あー、五月ちゃん、だっけ」
「うん」
竹谷が頭をかきながら、気まずそうに視線をきょろきょろと忙しなく動かす。
「八左ヱ門、何を見た?」
思わず、久々知が口を出していた。
「あー、…前、五月ちゃん、男と歩いてた」
「…は?」
思わず声を出したのはずっとパソコンを見ていた鉢屋だった。
回転椅子を鳴らして、鉢屋は体を尾浜達に向ける。パソコンからは「三郎?なにがあったの?」と声がする。
「あれ?雷蔵と話してたんだ」
「勘右衛門、今そっちに気を取られてる場合じゃないだろ」
鉢屋のパソコンに視線を向けた尾浜に、久々知が叱咤する。尾浜はへらりと笑って座り直した。
「ハチ、男って?」
鉢屋が促す。
「あー、あの、ほら、兵助の知り合いの、金髪の」
「ああ、タカ丸さんか」
その名前を聞いて、久々知はどこかほっとしたように落ち着く。斉藤なら五月とも友人で、何も心配することはないと思ったのだろう。
「タカ丸さん?俺知らないよ」
「…聞いてないのか?五月から」
「んー、多分?ていうかまあ、いいんじゃない?」
尾浜のなあなあな発言に、竹谷は眉間にしわを寄せる。
「何言ってんだよ!五月ちゃんは彼女なんだろ?浮気だって怒るもんじゃねぇのか?」
「バカを言えハチ。勘右衛門だって他の女達と遊んでいるのだから、五月ちゃんを怒れる立場じゃないだろう」
「そ、それもそれで大問題じゃねぇのか」
久々知は携帯を出し、竹谷と尾浜と鉢屋の会話を聞くだけの体勢に入る。しかしその携帯では五月の連絡先を開き「お前は何をやってるのだ」と連絡を打つ。
「まあさー、正直俺もふらふらしてるから、他の男と遊ばれても文句言えないのが本音だよね。寧ろ今までよく我慢してたよね」
「お前なあ…」
竹谷は呆れた顔で尾浜を睨む。
「二年も続いてそれかよ…それってお前等付き合ってる意味ないんじゃねぇの?五月ちゃんが可哀想だし、勘右衛門自体だって何で付き合ってんだよ」
竹谷の言葉に、尾浜は静かになる。
鉢屋は飽きて再び雷蔵と話し始める。
喋らなくなった尾浜に、久々知が口を開く。
「なあ、勘ちゃん」
「ん?」
目線は携帯の画面のまま、久々知は話す。画面には「私だって一人で出掛けるのもう嫌だったんだよ」というメッセージ。少しだけ久々知は手に持つ携帯を握りしめた。
「本当に、五月のことが好きなのか?」
久々知の固い声質のその言葉は、尾浜の緩い笑顔で曖昧に流されてしまった。
***
久しぶりに楽しかった。いつも一人で買い物をしていたけど、やっぱり友達と出掛けてわいわい言いながらの買い物って凄く楽しい。
私は、この感覚を久々に思い出した。
いつも勘ちゃんのことを考えて動いていたけど、ここ数日は全く考えなかった。タカ丸さんのお喋りも上手いし、私といれて楽しいよ、というのを前面に押し出してきてくれるのが解ると、私も自然と嬉しくなる。
そんなタカ丸さんといると、勘ちゃんのことが頭からすっぽ抜けるのも自然だと思う。
帰宅して、ここ数日の戦利品を眺める。タカ丸さんはなんとお父さんに無理を言って連休まで取ってくれたので、私はタカ丸さんと三日間ずっと遊んでいた。
マグカップにぬいぐるみ、ミュールにストラップにピアス、大量のお菓子に可愛いパッケージの紅茶パック。財布を漁れば映画の半券が二枚。一日目は私がみたい奴で、次の日はタカ丸さんがみたい奴だった。
カラオケに行ったときはタカ丸さん、物凄く歌がうまくて良い声で、思わず聴き惚れてしまった。そう言えば、勘ちゃんとはカラオケ行ったことがなかったな。
「んー、楽しかったあ…確かに、気分転換にもなったし、タカ丸さんの言うとおり……思い過ぎもだめだったね」
それは自分自身も疲れる。正直前の私は凄く疲れていた。だが今はどうだ。
タカ丸さんのガス抜きのおかげで、私はしっかり前を見据えることが出来ている。今も勘ちゃんのことが好きだけど、前ほど重くはない。きっとあの重さが、勘ちゃんの気持ちを逃げさせて浮気に走らせていたのかも知れない。
まあ、ずっと浮気とか言ってたけど、勘ちゃん別に他の女の子とちゅーしたりとかした訳じゃないんだけどね。ほら、こんなこと思えるほど余裕出来てる。
「んふふ」
ぬいぐるみを抱き締めながら、友達との余韻を噛みしめていると、携帯が鳴った。のろのろとした動きで携帯を見れば、兵助からのメッセージだった。
「何をやっているのだ?なんだそれ…あ、もしかしてタカ丸さんに聞いたのかな」
でも、私だっていい加減一人で遊ぶのつらかったし、兵助だって受験勉強がとか言って遊んでくれなかったし、今更私なんかを誘ってくれる友人もいなかったし。仕方がないと思う。寧ろ私の心的に凄く安定したもの。タカ丸さん万々歳!
「別に嫌いになったわけじゃないし…それに私はタカ丸さんとは友達なんだし、勘ちゃんみたいに相手の女の子が勘ちゃんのこと好意的に見てる関係とかじゃないもん…」
兵助に返信して、愚痴るように呟く。なんだか言い訳みたい。
でもどうせ、問い詰めてくるのは兵助で、いつの間にかあの仲間内には伝わってて、それでも勘ちゃんは何にも言ってこないんだろうな。
まあ、別に嫉妬してほしい訳じゃないからいいんだけど。
「あーあ、勘ちゃん好きだよー…」
また、携帯が鳴った。しかも今度は電話だ。
兵助しつこい、と思って力任せに通話を押す。
「もうしつこい!兵助に関係ないじゃん!豆腐食って寝ろ!」
「…あー…ごめん、俺、兵助じゃないよ。期待外れ?」
「ひっ、…か、勘ちゃん…!?」
電話口から聞こえた落ち着いた低い声に、ドキドキするけど、それよりなにより間違えたことと兵助だと思って怒鳴ったことに謝れ私!
「ごごごめ、ごめん、違うのさっきまで兵助が…あの、間違えて、ごめんね…期待外れなんかじゃないよ」
「ふうん?ねえ、五月ちゃん。今からお家は平気?お母さんいる?」
「お、お母さん夏休みの旅行行ってる!私しかいないよ」
母子家庭の家だから、私以外いないこの家はしんと静かだ。夕暮れの風景が何故か物悲しい。
「じゃあ、今から行くね」
「え、ちょ、」
待って、と言う前に、勘ちゃんは電話を切ってしまった。有無を言わせない態度に、私の動悸は激しくなる。
なんか怒ってる?兵助に間違えたこと、そんなに嫌だったかな…。いや、でも、兵助と勘ちゃんは友達同士なんだし、そこまで怒ることないと思うし。
いや、それよりなにより部屋片付けないと!ゴミ散らかってる!私は慌ててゴミ袋をひっつかんで掃除を始めた。
***
本当に、一時間も経たない内に勘ちゃんは我が家に来た。
前髪を触りながら勘ちゃんを出迎えると、勘ちゃんは丸い目をもっと丸くして「髪」と一言呟いた。
「あ、うん、切ったよ。ちょっと暑くて、鬱陶しかったから」
「そう、なんだ。…おじゃまします」
「ど、どうぞ」
私の部屋に入ってからも、暫く無言。なんなの怖い。
手持ち無沙汰になって、私は無駄にマグカップに手を添えて力を入れる。温かいココアがちょっと安心する。
タカ丸さんとデザイン違いの、コミカルなら忍者のキャラが現代部長に手裏剣を向けているマグカップは一目惚れだった。因みにタカ丸さんは忍者が女湯を覗き見しているもの。私が選んだそれを面白がって快諾してくれたのだ。
「暑かったなら結べよかったんじゃないの?」
「え」
「髪だよ。どうして切っちゃったの」
さっきまで部屋に座るなり、携帯持ちだしてずっと弄っていたくせに、勘ちゃんは唐突にそんなことを言う。玄関の、まだ続いてたんだ。
「え、ええと、髪先とかも痛んできてたし、ほら、気分一新も…したくて」
「嘘。髪のケアは凄い頑張ってたじゃん。痛んでなかったでしょ?」
勘ちゃんちょっと待ってなにそれ。知ってたの?
「俺、髪長い方が好きなのに。言わなかった?忘れちゃったの?」
「あ、え」
「あと聞いたよ。タカ丸さんとお出かけしたんだっけ?」
勘ちゃんは、携帯をしまって、机の上に肘をつき、頬杖をする。
「あ、うん。楽しかったよ。私ね、よく考えたら、出掛けるとかそういうのも全部勘ちゃんと、とか思ってたんだけど、正直それって…重かったよね」
勘ちゃんはじっと聞いている。そうだ、私は言わなきゃ。変わったんだよ勘ちゃん。変われたんだよ。
「あのね、タカ丸さんと出掛けて気持ちに余裕ができたの。正直勘ちゃんには私は重荷だったよね。だって勘ちゃんは、私と付き合う前から友達が多くて、予定もいっぱいで、なのに私が入っちゃったから、…どうしても削られちゃうもんね」
「……」
「私が私がって考えしかなかったんだけど、私こそ周りを見て、友達を大事にすべきだったんだよね」
ギュッと、マグカップを握って、ココアの水面を見る。勘ちゃんの顔は、見れない。
「だからね、勘ちゃん。私が重荷だったら、もうね、別れてもいいんだよ。私、泣いたり迷惑かけたりしないから」
もう私は一人でも大丈夫だから。
そう言う意味を込めて伝えると、喉につっかえていたものがスッと下がった気がした。スッキリした。
やっと勘ちゃんを見ると、じっと私の手元を睨んでいる。
「勘ちゃん?」
「あのさ、いつ俺が別れたいって言ったの?いつ俺が重荷だって言ったの?ねえ、それこそさ、五月ちゃんの勝手な判断だよね」
「え…」
勘ちゃんは、睨んでいた手元から視線を引き上げて私を見た。
「俺も悪いよ。ふらふらしてんだもん。でもさ、それに関して何にも言わなかったのは五月ちゃんだよね。どうして何も言わなかったの?兵助には愚痴ってたんでしょ?」
私は唖然とする。
なにそれ、それじゃあまるで、浮気を咎めなかった私が悪いみたいな。
「そりゃ幼馴染だもんね、俺より兵助のが言いやすいとは思うよ。あいつは話もちゃんと聞いてくれるだろうし。ねえ、五月ちゃんは本当に俺が好きなの?兵助のがよかったとか思わないの?」
「な、何言ってんの勘ちゃん!私は勘ちゃんが好きで」
何も、言えなかったのに。
ぽつりと小さく呟くと、勘ちゃんは鼻で笑う。
「俺が好きだったから?なにそれ、普通は浮気したら怒るもんじゃないの?何も言われなかった俺の気持ち、知ってる?」
「わ、わかんないよ…だって、だって!勘ちゃんだって何も言ってくれなかった!私が好きかどうかもわかんなかった!勘ちゃんは、彼女がどんなものか知りたくて付き合ったんじゃなかったの?!だから、私、私も嫌われたくなくて、だから、何も!」
「は?何それ。そんなこと誰が言ったの?」
「そ、れは…」
兵助が、憶測で話していただけで…兵助は「勘ちゃんは他の子とも遊ぶから、彼女がどんなものか知りたかったんじゃないのか?それでいいなら、五月も納得して付き合えばいいんじゃないか」って言ってただけで、それを鵜呑みにしたのは、私だ。
「誰でも、いいじゃない…そう思わせるような素振りを見せていた時点で、勘ちゃんは」
「そうだね、俺が悪いよ。でも一つ言わせてよ、俺は、五月ちゃんのこと本当に好きだよ。告白されたときも、凄く嬉しかったし、五月ちゃんだから付き合おうって思ったんだ」
「…え」
「兵助に紹介された中学の時から、俺は五月ちゃんが気になってたよ。ちゃんと恋心になったのは高校上がってからだけど。そんな五月ちゃんとの接し方がわかんなくて、確かに他の子と遊んだのは悪かったよ。でもそれで、五月ちゃんが怒って、遊ばないでって言ってくれたら、俺も二度と遊ばなかった」
私は、勘ちゃんの顔をまじまじと見る。
さっきまでの鼻で笑い飛ばしていた勘ちゃんじゃなくて、困ったような、怒ったような、複雑な顔。
「あーごめん、それは責任転嫁。普通は遊ばないもんだもんね。俺はさ、何も言われなかったことに対して疑心を持っちゃったんだよね。五月ちゃんもお試しで付き合ってみただけ何じゃないかとか、その頃も兵助になんか相談してたから、結局兵助のがいいんじゃないかとか」
「それは、ちが…」
「そう、違う。五月ちゃんも解んなかったんでしょ。俺がどんだけ五月ちゃんを好きか。遊んだことを咎めて俺が別れ話してくるかも、とか思ってんだろうなって。俺的には嫉妬心煽るつもりだったから、とんだ誤算だよ」
勘ちゃんは一息着いてから、もう一度私の手元を睨んだ。
「まさか、爆発もせずに俺から離れようとするだなんて考えもしなかった」
その一言に、ドキリとする。
「そのずっと握ってるマグカップも、あのぬいぐるみもその髪も、全部俺以外の男が関わってるんだと思うと反吐が出る。知ってた?俺って案外嫉妬深くて、執着凄いんだよ」
へらり、いつもみたいに笑顔を作った勘ちゃんだけど、私をじっと見る目は何を考えているのか解らない。
ひんやりと背筋を何かが伝うのと同時に、それでも私は好きな勘ちゃんにこんなに思われていたのかと思うと、下腹がきゅっと締め付けられるように疼く。
「勘、ちゃ」
「今ね、遊んでた子達との連絡先全部消した。男友達と女の人は母親と先輩二人と五月ちゃんしか入ってないよ」
「え」
「だからと言って、五月ちゃんにも連絡先消せなんて言わない。ただ、俺が今から、五月ちゃんへの接し方変えるし、本気でガンガンくっつき始めるからねっていう宣言?」
勘ちゃんは、にぃんまり、と音がつくほどの笑顔を私に見せてから私へ手を伸ばし、マグカップから手を引きはがした。
「今までごめん。これから、覚悟してね」
視界いっぱいに、勘ちゃんの顔と丸いドレッドの毛先が広がった。
【さぁ、君を愛そうか】
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