他
なまえ
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今日もほら、貴女はあの人を捜している。
私と一緒にいても、うろうろとその大きな青い目は彷徨い、私の向こうを見ている。
初等部の時からずっと一緒の私だから、すぐに解る。
貴女がまた、“我が君”を捜していることくらい。
何度も思った。
早く現れて、雪代を助けてあげて、雪代を安心させてあげてって。
けれどそれは、体の成長とともに段々と歪んで大きく膨れ上がる。
気付いたときには既に後戻りなんて出来ないほどに、ソレは成長してしまっていた。
雪代の幸せを願った私は今、雪代の一番望まないことを願っている。
私の大事な雪代を独り占めする“我が君”なんて、一生現れなければいいのに。
時折雪代が変わったお面をつけているときがあった。
いつもは頭に着けて髪飾りのようにしている白塗りのお面を、顔にする。
そうすると雪代の背中には、綺麗な綺麗な大きな蒼い翼が生える。
初めて見たときは、驚きのあまり夢だと思ったそれは、今となれば見慣れた。
雪代は雉だと言っているが、私にとっては天使にしか見えない。
そもそも雉ってなんだ。なんで雉なんてマイナーバードをチョイスしたんだろう。
雪代はそうやって、訳の分からないことをたまに言う。
そう言うときは決まって、雪代の幼馴染みの高猿寺君と犬飼君がいる。
金髪と眼鏡という非常に解りやすいアイコンの彼等もまた、同じようなお面を持っている。三人でお揃いなんだと思って嫉妬をしたこともあった。
あの二人と居るときの雪代は、なんだかいつもの雪代じゃない気がして、すごく嫌い。あの二人が。
でも言わない。
言ったらきっと雪代は凄く悲しそうな顔をして、謝るんだ。彼等のために。
私の唯一も特別も、全部全部雪代なのに、雪代の特別も唯一も私じゃない“我が君”で、大事な者はあの二人、そしてそこに多分私も何とか食い込んでいるんだ。
そんなの、イヤ。
私は、雪代の唯一無二になりたいのに。
私だけを頼って、私だけを見て、私だけを追いかけて、私だけの側にいて、ほしいだけなのに。
そんな私の願いは一生叶わないんだと、先日見事に思い知らされた。
転校生、桃園祐喜君が、現れてしまった。
雪代の、唯一で特別な、あの“我が君”が。
桃園君に会った雪代は、いつも以上に破顔して綺麗な笑顔でいて、キラキラしていてとても楽しそうで、そして桃園君の為に涙を流し、歯を食いしばり、唇を噛み、頭を悩ませたりしている。
全部全部、私が求めていたことを、彼はいとも簡単にやってのけてしまった。
突然現れて、私の欲しかった居場所を、唐突に浚っていってしまった。
悔しくて悔しくて、涙が止まらなくて、私は雪代を奪われてしまったと、もう二度と私の側で私だけに時間を割いてくれなくなってしまったと、私は、私は、私。
「…ねぇ、雪代、私、雪代が本当に本当に本当に、好きなの」
だからね、雪代。
私、彼を嫌いになってしまったわ。
貴女が好きな彼を、殺してしまいたい。
【トランペットを吹く準備はできました。】
了