op
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
このサッチの続き
ここ数ヶ月、私は全然隊長に会えていない。
理由は簡単だ。隊長がヤミヤミの実の能力を手に入れて、それの訓練と、着実に且つ迅速に慣らすために戦闘にばかり駆り出されるため、中々厨房に顔を出せなくなってしまったのだ。と言っても、隊長本人も戦うことは好きらしい性格なので、それが苦痛だと言うこともないようで、たまに見かける顔はいつも笑顔だ。
それに少しだけ、本当に少しだけチクリと胸が痛むのは無視することにした。
私は隊長の彼女でも何でもない、1コックの一人だから。私が隊長のことを好きなのは、隊長は気付いているけれど、私の心が恋に恋するのを止めるのを待っていてくれてるらしい。
これは脈ありの反応かと思うけど、たまに島に降りると隊長の隣に綺麗な女の人がいるのを見かけたりするから、あの態度は隊長の優しさなのかもしれない。
私の心が大人になるのを見届けるだけの役目で、私の心が大人になって、隊長に告白したら、その時フられてしまうのかも。
隊長に中々逢えなくなってしまってからというもの、こんな風にネガティブな考えばかり浮かぶ。
私は逢えないせいで、恋することが段々と疲れてきてしまった。顔を見るだけで幸せだなんて言っていた時期が懐かしい。
サッチ隊長からの愛が欲しいだなんて、烏滸がましい考えで、私ばかり好きなんじゃなくて、その反応が欲しいとか、でもどうせフられてしまうのならいっそこの恋を自然消滅させてしまって、別の新しい恋を見つけた方が楽になれるんじゃないかとか。
ぐるぐるぐるぐる。
私はカスタードを混ぜながら悶々と考える。
なんでこうも、甘い匂いがするのよ。
私の心とは正反対のカスタードの香りに、無性に目頭が熱くなる。
その時、ガタンドドドド!と大きな轟音がした。
「わっあ!」
轟音に驚いた私は、思わずカスタードのボールをひっくり返してしまった。
黄色いカスタードクリームが飛び散り、私の前髪や顔、首から胸に跳ねた。腰にあるハンドタオルでクリームを拭き取りながら、キッチンの横にある丸窓から外を覗けば、そこには戦場が広がっていた。
「な、に。どこが」
こんな勝ち目のない戦いを仕掛けてきたのだろう、と思わず思う。
この船が親父の、白髭海賊団の船だと知らなかったのだろうか。それならばかなりの無知で浅はかな弱小海賊か、新人海賊か。
でも親父の海賊旗のマークは有名なはずなのに。
相手のマークは見たことがない。
それでも大きなガリオン船で、大砲を撃ってきたり銃を撃ったり、こちらへタラップを渡してタラップ上でカトラスやククリナイフで戦ってる人たちもいる。
大砲の玉は、こちらも大砲で相殺したり、たまに青い光が見えるのはきっとマルコ隊長が玉を弾いているのだろう。あの人はこの船が傷つくことを一番嫌がってるから。
タラップ上では見習いの人や若手組が応戦してる。タラップを外してしまえば、と思うけれど、きっとわざと外さないのだろう。
向こうには悪いが、これは若手の養成兼、最近戦闘がなかった運動不足の消化も兼ねているのだ。
「あ」
さっき、ちらりと黒い雲のような影のようなものが見えた。きっとあれが、隊長の能力。
それだけで、少し反応してしまうということは、私はまだ隊長が好きらしい。
これは中々新しい恋なんて見つけられない気がする。
窓から目を離し、ぶちまけられたカスタードをシンクに流してボールを洗う。
勿体ないけれど、一度分量が変わったものはもう使いようがないから仕方がない。1から作り直しだ。
「…きっと、勝っちゃうだろうしね」
だから別にずっと見ていなくても平気。
でも、私も最近体が鈍っていそうで、厨房に入り込まれたら応戦できるか困るなぁ。
そうやって思っていると、嫌なことほど現実になるもので。隊長に逢いたいと思っても現実にならないくせに。
ガチャンドシャ!との音と共に、扉が破壊されて3人ほどの大柄な男が入ってきた。
思わずシンクの影に屈み、そっと近くにあった刺身包丁を手に取り、自分の護身用銃も腰から抜いた。
「あー?ここ食堂じゃねぇか!お宝なんてねぇぞ!」
「ばっかおまえ、甘い匂いするってこたぁ、飯はある!食材だけでも奪えりゃ万々歳だ!」
「ギャハハハハ!そりゃいい!腹減ってたからなぁ!誰もいねぇのかなぁー?」
足音と笑い声が段々と近付いてくる。
距離を伺い、私も体勢を整え、いつでも飛び出せるようにする。
一歩、二歩。次だ!
立ち上がる瞬間に安全装置をはずして、シンクから相手が見えた瞬間に一人に狙いを定めて一発撃つ。
バァンと大きな音と、反動がきて私の腕と肩が痺れる。
「ぐっ、ぁぁあぁ!!」
「なんだぁ!?女だ!」
「コック服着てるぜ!怯むな!!」
撃たれた一人は右肩を押さえて唸り、座り込む。残り二人が私に向かって大股で近付いてきた。
すかさず刺身包丁を左手で逆手に持ちながら、弾の切り替えをして撃つ体勢に入る。
「…コックさん舐めんな!!」
がちゃ。
「え」
手元の銃は嫌な音をさせて黙った。
チラリと銃を見れば、見事に弾詰まりをおこしている。
「う、嘘!ジャムった…!」
「ええー?コックさんを、なんだってぇ?」
「顔は良いからなぁ!足ぶった切って連れて帰って可愛がってやるよぉ!」
少しだけ怯んでいた奴らが、これ幸いと気持ち悪い声で笑いながら私にカトラス剣を振りかざして迫ってきた。
ガチャガチャと動かして、弾詰まりを直したけど、その距離はもう撃てる距離じゃなかった。
ギュッと思わず目を瞑る。
親父が勝つに決まってるから、連れて帰ることなんて絶対に出来ないもん!
でもそれまでに足の一本本当に覚悟した方がいいかも、と素早く考えてから、反射的に座り込んで頭をガードするような体勢になる。
「誰に、何をするって?」
「!」
久々に聞いた声は、幾分か低く聞こえた。
思わず瞑っていた目を開けて見上げると、男二人が黒い靄のような渦のようなものに巻かれて、下半身は沈んで見えなくなっていた。
凄まじい絶叫が聞こえる中、私はその後ろを見る。
壊された扉の近くに、久し振りに見れた隊長の姿があった。
「たい、っ」
つかつかと歩いてきた隊長に、嬉しくて声をかけようとしたが、隊長の目は凄まじく冷えていた。
そのまま上半身だけの男達に近付いて、その頭を鷲掴み、口元だけ笑みの形を作った。
「なぁ?教えてくれよ。誰に、何をして、どうするって?」
「ひぃいい!!たす、たすけて」
「やめてくれぇえええ!」
にやり、とサッチ隊長の口角が歪み、掌から小さな黒い渦を出し、そのまま男達の頭に押しつけた。
「アンナは、俺のなんだよなァ…」
男達は絶叫と一緒に見る見る吸い込まれてしまい、残ったのはカトラス剣のみだった。
こくり、と唾を飲んでサッチ隊長を見ると、一度息を吐き出してから、私に歩み寄ってきた。
「サッ、チたい、ちょ」
初めて見た、隊長の能力と戦い方。そして久し振りの隊長は、少し違う人のように見える。
そのまま私の目の前にしゃがみ、隊長は私の頬に手を滑らせた。
「…大丈夫か?アンナちゃんピンチだったから、俺がヒーローになってみたけど…前よりもっと惚れてくれた?」
にまり、と笑った隊長は、さっきの冷たい目じゃなくて、能力を手にする前の隊長のようだった。
頷こうとして、隊長をしっかり見ようと思えば、視界に動くものを捉えた。
それはさっき私が肩を撃った男で、カトラス剣を構えたまま私たちに向かって走ってくる。
私は咄嗟に右手の直した銃を構え直して、左手で私の頬にあった隊長の手を思いっきり引いた。
「う、お」
隊長は、体勢を崩して私の左肩に顎を置く形になり、私は左手を離してそのまま隊長に抱きつくような体勢で右手の補助をして照準を合わせて銃を撃った。
「今度こそ本当に、コックさん舐めんな、です」
額に一発。
高い音がして、今度こそ男は声も出さずに倒れた。
「…すいません、撃ち損ねてた人でした」
「いーやいや、俺も庇われちゃった。ありがとうな」
息を付いて銃を下ろし、隊長を支えようと肩に手を添えるが、その手を取られて下ろされた。
「隊長?」
訝しくて声をかけるが、返事は返されず、隊長は何故か私の左首筋に鼻を埋めて、私を優しく抱きしめてきた。
「たっ!!?」
一瞬で熱くなり、少しパニックになる。
なになになんで!
「アンナちゃんさ、すげぇ甘くていい匂いする」
「ささささっきまでカスタードやってましたから!!カスタードです!」
「ふぅん?甘い。…俺、アンナちゃん襲われてんの見て、腸煮えくり返りそうになったんだけどさぁ、なんもされてねぇ?」
低く、甘い声が左の耳の下から聞こえる。
ゾワゾワと背筋を何かが這う。
「な、にも…されてないです。助けてくれて、ありがとうございました…本当に」
「うん。俺も助けてくれてありがとう」
ぐりぐりと首筋を鼻で掘るかのように押しつけられ、またゾワリ。お腹の底もゾワリ。
すると、覚えのない、生暖かい感触が首筋を伝った。
「ひっ、や」
少しだけ水っぽい音がして、それからチクリとした小さな痛み。
思わず肩を震わせると、隊長が低くクックッと笑いながら漸く離れた。そして私の顔を見ると、ぺろりと自分の唇を舐めて私の目を覗き込んだ。
「いつんなったら、本当に、俺のになってくれる?」
最近全然逢えなくて、死にそうだった、とサッチ隊長は言いながら、困った笑顔を浮かべて、そのままゆっくりと私の口へ自身の口を重ねてきた。
【本当に甘いのは誰。】
了
ここ数ヶ月、私は全然隊長に会えていない。
理由は簡単だ。隊長がヤミヤミの実の能力を手に入れて、それの訓練と、着実に且つ迅速に慣らすために戦闘にばかり駆り出されるため、中々厨房に顔を出せなくなってしまったのだ。と言っても、隊長本人も戦うことは好きらしい性格なので、それが苦痛だと言うこともないようで、たまに見かける顔はいつも笑顔だ。
それに少しだけ、本当に少しだけチクリと胸が痛むのは無視することにした。
私は隊長の彼女でも何でもない、1コックの一人だから。私が隊長のことを好きなのは、隊長は気付いているけれど、私の心が恋に恋するのを止めるのを待っていてくれてるらしい。
これは脈ありの反応かと思うけど、たまに島に降りると隊長の隣に綺麗な女の人がいるのを見かけたりするから、あの態度は隊長の優しさなのかもしれない。
私の心が大人になるのを見届けるだけの役目で、私の心が大人になって、隊長に告白したら、その時フられてしまうのかも。
隊長に中々逢えなくなってしまってからというもの、こんな風にネガティブな考えばかり浮かぶ。
私は逢えないせいで、恋することが段々と疲れてきてしまった。顔を見るだけで幸せだなんて言っていた時期が懐かしい。
サッチ隊長からの愛が欲しいだなんて、烏滸がましい考えで、私ばかり好きなんじゃなくて、その反応が欲しいとか、でもどうせフられてしまうのならいっそこの恋を自然消滅させてしまって、別の新しい恋を見つけた方が楽になれるんじゃないかとか。
ぐるぐるぐるぐる。
私はカスタードを混ぜながら悶々と考える。
なんでこうも、甘い匂いがするのよ。
私の心とは正反対のカスタードの香りに、無性に目頭が熱くなる。
その時、ガタンドドドド!と大きな轟音がした。
「わっあ!」
轟音に驚いた私は、思わずカスタードのボールをひっくり返してしまった。
黄色いカスタードクリームが飛び散り、私の前髪や顔、首から胸に跳ねた。腰にあるハンドタオルでクリームを拭き取りながら、キッチンの横にある丸窓から外を覗けば、そこには戦場が広がっていた。
「な、に。どこが」
こんな勝ち目のない戦いを仕掛けてきたのだろう、と思わず思う。
この船が親父の、白髭海賊団の船だと知らなかったのだろうか。それならばかなりの無知で浅はかな弱小海賊か、新人海賊か。
でも親父の海賊旗のマークは有名なはずなのに。
相手のマークは見たことがない。
それでも大きなガリオン船で、大砲を撃ってきたり銃を撃ったり、こちらへタラップを渡してタラップ上でカトラスやククリナイフで戦ってる人たちもいる。
大砲の玉は、こちらも大砲で相殺したり、たまに青い光が見えるのはきっとマルコ隊長が玉を弾いているのだろう。あの人はこの船が傷つくことを一番嫌がってるから。
タラップ上では見習いの人や若手組が応戦してる。タラップを外してしまえば、と思うけれど、きっとわざと外さないのだろう。
向こうには悪いが、これは若手の養成兼、最近戦闘がなかった運動不足の消化も兼ねているのだ。
「あ」
さっき、ちらりと黒い雲のような影のようなものが見えた。きっとあれが、隊長の能力。
それだけで、少し反応してしまうということは、私はまだ隊長が好きらしい。
これは中々新しい恋なんて見つけられない気がする。
窓から目を離し、ぶちまけられたカスタードをシンクに流してボールを洗う。
勿体ないけれど、一度分量が変わったものはもう使いようがないから仕方がない。1から作り直しだ。
「…きっと、勝っちゃうだろうしね」
だから別にずっと見ていなくても平気。
でも、私も最近体が鈍っていそうで、厨房に入り込まれたら応戦できるか困るなぁ。
そうやって思っていると、嫌なことほど現実になるもので。隊長に逢いたいと思っても現実にならないくせに。
ガチャンドシャ!との音と共に、扉が破壊されて3人ほどの大柄な男が入ってきた。
思わずシンクの影に屈み、そっと近くにあった刺身包丁を手に取り、自分の護身用銃も腰から抜いた。
「あー?ここ食堂じゃねぇか!お宝なんてねぇぞ!」
「ばっかおまえ、甘い匂いするってこたぁ、飯はある!食材だけでも奪えりゃ万々歳だ!」
「ギャハハハハ!そりゃいい!腹減ってたからなぁ!誰もいねぇのかなぁー?」
足音と笑い声が段々と近付いてくる。
距離を伺い、私も体勢を整え、いつでも飛び出せるようにする。
一歩、二歩。次だ!
立ち上がる瞬間に安全装置をはずして、シンクから相手が見えた瞬間に一人に狙いを定めて一発撃つ。
バァンと大きな音と、反動がきて私の腕と肩が痺れる。
「ぐっ、ぁぁあぁ!!」
「なんだぁ!?女だ!」
「コック服着てるぜ!怯むな!!」
撃たれた一人は右肩を押さえて唸り、座り込む。残り二人が私に向かって大股で近付いてきた。
すかさず刺身包丁を左手で逆手に持ちながら、弾の切り替えをして撃つ体勢に入る。
「…コックさん舐めんな!!」
がちゃ。
「え」
手元の銃は嫌な音をさせて黙った。
チラリと銃を見れば、見事に弾詰まりをおこしている。
「う、嘘!ジャムった…!」
「ええー?コックさんを、なんだってぇ?」
「顔は良いからなぁ!足ぶった切って連れて帰って可愛がってやるよぉ!」
少しだけ怯んでいた奴らが、これ幸いと気持ち悪い声で笑いながら私にカトラス剣を振りかざして迫ってきた。
ガチャガチャと動かして、弾詰まりを直したけど、その距離はもう撃てる距離じゃなかった。
ギュッと思わず目を瞑る。
親父が勝つに決まってるから、連れて帰ることなんて絶対に出来ないもん!
でもそれまでに足の一本本当に覚悟した方がいいかも、と素早く考えてから、反射的に座り込んで頭をガードするような体勢になる。
「誰に、何をするって?」
「!」
久々に聞いた声は、幾分か低く聞こえた。
思わず瞑っていた目を開けて見上げると、男二人が黒い靄のような渦のようなものに巻かれて、下半身は沈んで見えなくなっていた。
凄まじい絶叫が聞こえる中、私はその後ろを見る。
壊された扉の近くに、久し振りに見れた隊長の姿があった。
「たい、っ」
つかつかと歩いてきた隊長に、嬉しくて声をかけようとしたが、隊長の目は凄まじく冷えていた。
そのまま上半身だけの男達に近付いて、その頭を鷲掴み、口元だけ笑みの形を作った。
「なぁ?教えてくれよ。誰に、何をして、どうするって?」
「ひぃいい!!たす、たすけて」
「やめてくれぇえええ!」
にやり、とサッチ隊長の口角が歪み、掌から小さな黒い渦を出し、そのまま男達の頭に押しつけた。
「アンナは、俺のなんだよなァ…」
男達は絶叫と一緒に見る見る吸い込まれてしまい、残ったのはカトラス剣のみだった。
こくり、と唾を飲んでサッチ隊長を見ると、一度息を吐き出してから、私に歩み寄ってきた。
「サッ、チたい、ちょ」
初めて見た、隊長の能力と戦い方。そして久し振りの隊長は、少し違う人のように見える。
そのまま私の目の前にしゃがみ、隊長は私の頬に手を滑らせた。
「…大丈夫か?アンナちゃんピンチだったから、俺がヒーローになってみたけど…前よりもっと惚れてくれた?」
にまり、と笑った隊長は、さっきの冷たい目じゃなくて、能力を手にする前の隊長のようだった。
頷こうとして、隊長をしっかり見ようと思えば、視界に動くものを捉えた。
それはさっき私が肩を撃った男で、カトラス剣を構えたまま私たちに向かって走ってくる。
私は咄嗟に右手の直した銃を構え直して、左手で私の頬にあった隊長の手を思いっきり引いた。
「う、お」
隊長は、体勢を崩して私の左肩に顎を置く形になり、私は左手を離してそのまま隊長に抱きつくような体勢で右手の補助をして照準を合わせて銃を撃った。
「今度こそ本当に、コックさん舐めんな、です」
額に一発。
高い音がして、今度こそ男は声も出さずに倒れた。
「…すいません、撃ち損ねてた人でした」
「いーやいや、俺も庇われちゃった。ありがとうな」
息を付いて銃を下ろし、隊長を支えようと肩に手を添えるが、その手を取られて下ろされた。
「隊長?」
訝しくて声をかけるが、返事は返されず、隊長は何故か私の左首筋に鼻を埋めて、私を優しく抱きしめてきた。
「たっ!!?」
一瞬で熱くなり、少しパニックになる。
なになになんで!
「アンナちゃんさ、すげぇ甘くていい匂いする」
「ささささっきまでカスタードやってましたから!!カスタードです!」
「ふぅん?甘い。…俺、アンナちゃん襲われてんの見て、腸煮えくり返りそうになったんだけどさぁ、なんもされてねぇ?」
低く、甘い声が左の耳の下から聞こえる。
ゾワゾワと背筋を何かが這う。
「な、にも…されてないです。助けてくれて、ありがとうございました…本当に」
「うん。俺も助けてくれてありがとう」
ぐりぐりと首筋を鼻で掘るかのように押しつけられ、またゾワリ。お腹の底もゾワリ。
すると、覚えのない、生暖かい感触が首筋を伝った。
「ひっ、や」
少しだけ水っぽい音がして、それからチクリとした小さな痛み。
思わず肩を震わせると、隊長が低くクックッと笑いながら漸く離れた。そして私の顔を見ると、ぺろりと自分の唇を舐めて私の目を覗き込んだ。
「いつんなったら、本当に、俺のになってくれる?」
最近全然逢えなくて、死にそうだった、とサッチ隊長は言いながら、困った笑顔を浮かべて、そのままゆっくりと私の口へ自身の口を重ねてきた。
【本当に甘いのは誰。】
了